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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第三話 真実

「殺された?」


なんで?

真っ先に浮かんだ疑問は、それだった。


『なぜ殺されたのって顔をしているね。それもそうだね、君達には殺される理由なんてなかった』


「それじゃなんで?」


『君たちにとってあれは、不幸な事故だったのさ。』


理由はない?事故?先程から絶望王の言っていることが私には理解できないでいた。

そもそも本当に私は死んだのか?

長い悪夢を見ているのではないかとさえ思えてきた。


『アリスもう一度聞くよ。何も知らずにここで暮らさないか?全て忘れてここで……』


絶望王の真剣な眼差しが、この上なくこれは現実だと私に思わせる。

私は未だに頬を伝う涙をぬぐい、真っ直ぐに絶望王を見つめた。

知らなきゃいけない。

辛い現実から逃げちゃいけない。

私は覚悟決め立ち上がった。


「……私は全部知りたい全部」


『そっか……決めちゃったのか』


絶望王は、ひどく悲しそうな表情をした。


「あなたの知っていることを全て教えて」


『私が教えられることは教えてあげる』


パチンと絶望王が指を鳴らすと、私と絶望王の間に、大きめの水たまりのようなものができた。

水たまりの中には、小さなクレーターと瓦礫の山が映っていた。


「これは……もしかして私達の家?」


『ご名答。』


「うそ……」


私は、あまりのひどい有様に、言葉を失ってしまった。

畑は嵐が来たかのように荒れ、家は完全に原型を失ってしまっていた。


『君たちは人間たちの遊びに巻き込まれたのさ』


「遊び?」


『彼らは、エルフの子供に隷属の首輪をつけて奴隷にして、爆弾を巻き付けて魔物どもに特攻させていたんだよ』


「隷属の首輪?爆弾?」


魔物は何のことかは知っている。

魔力を持った獣で色々な種類がおり、森ではオークなどありふれ存在であった。

だけど隷属の首輪や爆弾は初めて聞くものであった。


『隷属の首輪は、つけた相手を奴隷にできる魔道具でね。奴隷となった者は持ち主の命令に逆らうことはできない。そして君たちを殺したのはこの爆弾さ。全く、人間は恐ろしいね、こんな物を生み出すなんて。たったこれだけの塊で、全てを瓦礫の山に変えてしまうんだから』


絶望王は大人の拳ほどの大きさの黒い塊を、私の目の前に映し出した。


「……」


足元の水たまりに映る景色を作り出した物の正体を知り、茫然とした。

それと同時に恐怖した。

自分達に向けられた破滅が小さな塊によるものであったことに。


『本来は魔物に特攻するはずだったんだけどね、彼らは君たちを見つけてしまった。』


「そ、それでもなんで私達が殺されたのか、わからないじゃない」


『そこが事故なのさ。彼らは本来なら森の深いところにいる君達とは出会わないはずだった。

 けれど、あの周りは君達が魔物を狩っていたから数が少なくてね、彼らは森の奥に来てしまった。』


「見つけたから殺したってこと?」


『そうさ。理由なんてないのさ』


理由がない?

見つけたから殺した?

ふざけるな!

生きるためでも、何かを守るためでもなくただ意味もなく殺されただと。


『ほら見てみな、彼らが君達を殺したのさ』


絶望王が水たまりに映る人影を指さした。

そこには三人の人間がいた。

彼らは笑いながら何かを話していた。

水たまりからは、音は出ないため、何を言っているからは、わからない。

しかし、命を奪った後とは思えない様子に、私は憤りを隠せなかった。


「あんな奴らに……」


私は奴らをここから睨むことしかできなかった。

私の心は、憎しみや殺意といったものに染まりつつあった。

けれど、あるものを見つけて、それどころではなくなった。


「う、嘘……」


私が見つけたのはお義母さんの頭であった。

私が見つけたのとほぼ同時に、彼らもその存在に気が付いた。

そして彼らは……。


「ナニスルノ?ヤメテ!ヤメテ!」


私は目の前に映る光景を信じられなかった。

彼らはあろうことか、お義母さんの頭を蹴り玉のように蹴りだした。

それも喜々として行っている。

私は水たまりを必死に叩いた。

ゴンゴンと硬いものを叩く音が響いた。

皮膚が破けたのか、こぶしからは、血が流れていた。


『無駄さ、ここからでは彼らには届かないさ』


「殺す、あいつら殺す」


『無理さ、ただの人間なら君の敵ではないよ。けれど、あいつらはアレでも一流の冒険者だ。今の君ではあいつらを殺すどころか、本当に殺されるよ』


「……」


『不老不死の吸血鬼でも殺す方法はある。吸血鬼も死ぬのは知っているだろ』


「それでも……」


『それにまだあっちには行けない』


再び絶望王が指を鳴らすと、水たまりが消えた。

絶望王は、私に背を向け問いかけた。


『少し落ち着きなさい。記憶は整理できたのかい?』


私は何度か深呼吸をして、コクリと頷いた。


『君の名前は?』


「アリス。アリス=ブラッドバーン」


『思い出せたみたいだね』


「全部思い出せたわ、全部ね」


私は全てを思い出した。

なぜ記憶を封印されていたのか。

なぜエルフであるお義母さんと暮らしていたのか。

そして誰が私から大切なものを奪ったのか。


『君の知らない事実をもう一つ、教えてあげるよ』


「何?」


『君達、吸血鬼が人間に滅ぼされた訳さ』


「不老不死の私達が怖かったから私達の国を滅ぼしたんでしょ」


『いや違うさ。』


「え?」


『ねぇもし採掘しないと手に入らない魔石が、生き物から作れたらどうする』


「魔石って魔道具の動力源とかの?便利だと思うけど……それがどうしたっていうの?」


『そしていくら魔力を命を奪っても死なない生き物とかいたら?』


「まさか……」


結論を悟ったとたんに、血の気が急に引いていった。

あまりにも非人道的な考えに……。


『君の思っている通りさ。人間は君達吸血鬼を原料に今なお、魔石を作っているんだよ』


「どこまでもふざけたことを!」


『残念だけど君の家族や友人も……』


「生きてはいるんでしょ?」


生きていればみんなを助けることができる。


『生きてはいるよ。だけど……』


「だけど?」


『彼らは精神魔法で心を壊されてしまっている』


「でも生きているなら私達、吸血鬼なら――」


生き返ればいいじゃない。

私達は不老にして不死の存在なのだから。

たとえ四肢を捥がれ、身を焼かれて灰になっても蘇る。

吸血鬼とはそういう存在なのだから。

しかし返ってきた返答は全く予期していないものだった。


『吸血鬼は不死身だけどね、殺され続け、死に近づき続ければ死ぬ。君達だって生きるのをやめるために心

臓に杭を打ち死を定着させるだろ?』


「それがなに?」


『彼らは魔法によって精神のみを死に近づけ精神だけを殺したのさ』


「精神のみを殺す?」


『道具に心は不要ってことだよ。彼らはすでに吸血鬼ではなく、物になってしまったのさ』


私の大切な家族や友、国は全て失った。

義母の骸は辱められ、父や母の骸は今も奴らの道具にされている。

そんなことを私は見てしまった、知ってしまった。

復讐は何も生まない。

そんなことはわかっている。

彼らを殺したところで何も変わらない、失ったものは戻らない。

頭では理解しているけれど、胸の奥から膨れ上がる禍々しい激情が私を突き動かす。

奴らに復讐を、苦しみを、裁きを、絶望を、死を与えろと。


『君はこれからどうするんだい?』


「わかっているんでしょ?」


絶望王は、悲しい顔をしながら私に微笑んだ。


『君の行く道は酷く辛い道になる。それにその先は深い闇だよ。得るものなんてない。それでも行くのかい?』


「もう決めたから。なによりもう自分を抑えられないの」


『君はもう十分すぎるほどの絶望をした。家族を国を平穏を奪われてきた』


絶望王は私の頬に手をあて、そっと額にキスをした。

すると私の身体の奥の方がじっと熱をもったような気がした。


『最後に教えてあげる君の持つ【贈り物(ギフト)】神様からもらった力は【魔眼】ではないよ』


「え?」


『【禁眼ディアボロス】それと【死冠の王(モーグスローン)】』


「え?二つ?」


『君が辛い道を決めたなら私はせめて君に力をあげよう』


「力をあげる?」


『【禁眼】の使い方は自分の眼に聞きなさい。【死冠の王】は積み上げた屍の分だけ君を強くする』


「なにを言っているの?」


『気にしなくていいさ。ただの贖罪さ』


絶望王は優しく私に微笑んだ。


『そろそろ時間のようだね』


「待ってまだ聞きたいことがあるの」


『残念だけどそれはできないみたいだ』


「あなたは本当は……」


『君なら自力でここまで来れることを信じているよ』


「待って…まだ……」



私の意識はここで途切れた。



『ねぇ。なんでわざわざ人間に憎悪を抱くようなことを教えたの?』


『私は事実しか教えてないわ』


責めるような声に絶望王は静かに応える。


『教えなければ、見せなければ彼女はまだ平和な道を歩けたんじゃないか』


『そうかもしれないね』


絶望王は自嘲気味笑った。

声達は口々に責め立てる。


『彼女をなぜ苦しめる?』


『彼女の平和を幸せをなぜ奪うの?』


『彼女は我々の道具でもなければ玩具でもないのだぞ』


『君たちの言いたいことはもっともだよ』


『ではなぜ?』


『君たちこそ本気で何も知らずにいた方がいいと思うかい?』


『……』


怒気を含んだ強い口調に、声達は口を閉ざす。


『我々が招いた絶望だ、ならば彼女に与えるのは希望だろう』


『……』


『どちらにしても我らにできることはもうない。今は待つのだ』


『彼女が頂きに至るまで……』


今日はここまでです。不定期の更新ですが、よろしくお願いいたします。

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