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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第三十五話 深紅人形

丁度、私とドレファスの中間地点辺りに彼女は降り立った。

禍々しいどす黒い魔力を身に纏い、腰ほどまでに伸びる炎髪、傷一つない透き通るほど白い肌、額からは漆黒に染まった角が二本生え、彼女が人ならざる者であることを示す。

ボロボロの衣服を身に纏った彼女は、その容姿とも相俟って酷く扇情的であたった。


彼女は、ゆっくりと瞼を開き私を見つめる。

彼女は、まるで感情の抜け落ちたかの様な、それこそ人形の様の様に眉一つ動かさず、私を視界に捉える。

彼女の人形の様な振る舞いにも驚いたが、それ以上に彼女の瞳の色に驚いた。


動揺は、ほんの一瞬の硬直を招いた。

だが、戦闘において、この硬直は致命的であった。

予知し、避けられたであろう、彼女の横なぎの蹴りを見事にくらってしまったのだ。


彼女の蹴りは、細い足で放ったとは思えないほど強く、私は地下空間の壁まで吹き飛ばされた。

身に纏ったローブは、蹴りの勢いで吹き飛び、刀も手放してしまった。


私は、壁を伝いながら立ち上がり、つぶやいた。


「……なんで……吸血鬼がここにいる」


彼女の瞳は、吸血鬼特有の緋色に染まっていたのだ。


「ほぉ、意外に博識だな。吸血鬼を知っているとは。冥土の土産だ、教えてやる。こいつは、厳密に言えば、吸血鬼ではない。吸血鬼の持つ高い再生能力と魔力を他の種族に移植した『吸血鬼擬き』だ。」


ドレファスは、魔法薬でも飲んだのだろうか、先ほどつけたばかりの傷は綺麗にふさがり、体力、魔力ともに回復しているようすで、吹き飛んだ私に余裕の笑みを浮かべながら喜々として語った。


「吸血鬼擬きだと……」


私は怒りに震えた。

私達、吸血鬼は、不死の存在である。

だが、命は尊いものであると考えるし、命を奪う行為は等しく罪であるとも考える。

自らの能力の一つでさえ命への冒涜とし、禁忌として使用を強く制限している。


だが、人間はどうだ?

奴はどうだ?

私達を身勝手に滅ぼし、命を無差別に奪うだけでは飽き足らず。

『吸血鬼擬き』私達の贋作をつくり、それを喜々として吸血鬼オリジナルの前で語る。

どこまで私達を侮辱すればいいのだろうか。

そんな私の震えを恐怖と受け取ったのか、ドレファスはさらに語り続けた。


「『心臓移植』という言葉を知っているか。その言葉通り心臓を取り出し、他者の心臓を移植することでね。勇者様方の世界では、医療行為とされていたらしい。まぁそんなことは、どうでもいいんだ。重要なのは、こいつの心臓の持ち主だ」

「き……貴様——」


『吸血鬼擬き』は吸血鬼の持つ高い再生力と魔力を他種族に移植したのならば、その心臓の持ち主は自明であった。


「こいつの心臓は絶滅した『吸血鬼』の心臓だ。だが、こいつを完成させるには、それだけじゃ足りない」

「……やめろ」


ドレファスは、私の呟きを無視し、懐から紅に染まった石を取り出した。


「私達はこれを『深紅晶』と呼んでいる。これには、珍しい特性があってね。感情や記憶を魔力に変換することができる。そしてそれは、愛や恋愛感情といった、強い記憶や感情ほど強い。しかし、愛や幸福よりも強いものが貴様にはわかるか。それは——」

「やめろやめろやめろ」

「絶望だよ。体を無数の針で貫かれる痛み、業火に包まれ身を焼かれる苦痛、身を引き裂かれ喰われる恐怖。そういった死にいたる記憶は、何よりも強く重い。まぁ実験の過程でショックに耐え切れず、何体も潰してしまったが、やはり女は痛みに耐性があるのだろうか。男は、みな痛みに耐えきれず死んでしまったよ」


ドレファスは、やれやれと言った様子で語る。


「もう黙れ」

「何?」

「黙れって言ってんだよ!」


私はドレファス目掛け突進していく。

しかし、鬼人の彼女がそれを防ぐように間に入る。

彼女の手には、私が落とした刀が握られていた。


「邪魔をするな!」


私は、虚空から別の刀を抜き身の状態で取り出した。


「無駄なことを」


ドレファスは、私の突進を下策と言わんばかりに鼻で笑った。

私の刀という武器は、通常の剣よりも斬るということに重点を置いた剣である。

その鋭利さは、振るえば容易く皮の鎧を斬り捨て、突けば一撃で鎧を貫く。

一対一では、通常の剣よりも圧倒的に有利であった。


しかし、私と彼女との間に武器のアドバンテージはない。

魔力量も体力も彼女より劣っている。

だが、刀を扱う技量で私は負けるはずがない。

武器の有利さを悟ったからと言って不慣れの武器を扱うのは、下策である。

予想通り、力任せの横なぎを彼女は繰り出して来た。

私は、刀の刃の部分で攻撃をそのまま受け流し、流れるような動きで放った突きが刀が胸を貫くと思われた。


「言ったろ。無駄だと」


彼女を貫くと思われた突きは、彼女の皮膚の手前で、魔力でできた鎧で防がれていた。


ならばと、私は先ほどと同じ様に連撃を放つ。

しかし、彼女は防ぐことすらせずに、ただひたすら刀で攻撃してくる。

攻撃を防ぎながら、連撃を放つも全く通じない。

魔力の量が圧倒的に違うのだ。


「はぁはぁ……なんで……こんなに」

「こいつは私の最高傑作でね。感覚を共有させて人より多くの絶望を何十、何百と経験させているんだよ。そのおかげこいつの魔力量は、それこそ戦略兵器並みまで膨れ上がった。そして調教師の私と組むことでさらなる高見に至る『攻撃強化パワーライズ』『防御強化プロテクト』『速度上昇スピード』……」


ドレファスは、次々と支援魔法を彼女に放ち、強化していく。

次々と繰り出される攻撃は、魔法がかかる度に強く、重く、鋭くなってくる。


「ならば、『雷の槍(サンダー・ランス)』」


私は、速く貫通力の高い魔法をドレファスに放つが、彼女が体を盾にして守る。

彼女を倒すよりドレファスを倒す方が容易と考えたのだが、ドレファスを攻撃しようとすると、必ず彼女が邪魔をして攻撃が届かず、ドレファスを倒すことができない。


私の未来予知は、あくまで未来の動きを予知し、先に動き出すことで攻撃を避けたりしている。

しかし、その動きまでを上回る速さの攻撃には、当然対処はできない。

限界はほどなくして訪れた。

私の攻撃を受け流すタイミングがずれ、勢いを殺しきれず、吹き飛ばされてしまった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

ブクマ、評価していただければ幸いです。

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