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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第二十八話 秘密の地下室

朝になり私達は朝食を取り終わった後、今日の予定を立てることにした。


「今日は、とりあえず二人が見つけた拠点に行こうか」

「うん。わかった」

「それじゃあ、魔法よろしくね」

「任せて、『不可視の新月(フルインビジブル)』」


私達は姿を消し、拠点となる場所に向かった。


二人の案内のもと向かった先は、路地裏にあった、一軒の酒場であった。

中には、誰もおらず小汚い机や椅子が並べられ、棚には酒瓶が置いてある、普通の酒場であった。


「普通の酒場じゃない」

「ふふ。ついて来なさい」


ルナは得意げに酒場の奥に向かっていった。

私はルナの後を追っていくと、店の二階に向かうための階段があった。


「上に行けばいいの?」

「いいえ違うわ。まぁ見ていなさい」


ルナは、階段の取っ手の下にあった凹みに手をかけると、そこを引っ張った。

すると階段の隣の床が僅かに盛り上がった。

盛り上がった床をルナは無造作に蹴り上げた。


「どうすごいでしょ」

「……すごい」


ルナの蹴り上げた床の下には、地下に続く階段があった。


「別にルナが作ったわけじゃない。たまたま、出てくるとを見つけただけ——」

「そこ、うるさいわよ」

「あはは、それでこの下に何があるの?」

「「秘密基地」」


二人がいうには、ここはもともとこの辺りを取り仕切る裏側の人間達の隠れ家であったらしい。

スラムの中とはいえ、裏側を牛耳っていた人間の隠れ家だけのことはあり、中は綺麗に整頓されていた。

おまけに、羽毛の入ったクッションやソファーなど庶民では手の出ない高級品も多数見受けられた。

地下であるにもかかわらず、魔道具のお陰で辺りは照らされ、息苦しさを感じない。

地下空間は、三つの部屋に分かれていた。

人間の暮らす居住部、おそらく親玉が住んでいたであろう部屋、そして金庫室。

金庫室には金や宝石類があったが、私達に取っては、あまり興味のひくものではなかったため、早々に収納魔法でしまってしまった。


私達は、一通り中を見た後、一番広い居住部に集まり予定を立てることにした。

この街の地図を作っている魔道具に魔力を流し、地図を映し出した。

地図は建物の場所、地形がはっきりと描いてあった。

しかし、未だに完璧には完成しておらず、街の中心地付近は、建物の内部までは描かれてはいなかった。

だが必要最低限の情報はすでに手に入ったも同然であった。

街は、貴族が住む屋敷を中心に広がっており、街全体は貴族の屋敷を頂点とした丘の様な地形になっていた。

貴族の屋敷は、外部からの侵入を拒むように街と同じように城壁と結界に囲まれていた。

しかも結界は街を守るためのものとは異なり、外敵の侵入を許さず、内部の敵を逃さない隔離結界であった。

唯一の侵入経路である屋敷の入り口の門は、十人以上の衛兵が四六時中警備をしており、賊の侵入を許さない。


「やっぱり、結界は侵入者、人間相手の結界だね」

「うん。街の中から攻められるなんて、あいつらは考えてない」

「そうなるとこっちの作戦通りにやればいいのね」

「そうね。この街の大きさなら結構大きいのができそうね」

「うん。……大規模儀式魔法」


儀式魔法とは、普通の魔法とは異なり、魔法の発動に特別な用意を必要とするものである。

例えば魔法陣を地面に描くことや、特別な触媒を用いて発動する。

発動される儀式魔法はどれも、同じ魔力量で使う魔法と比べて効果が段違いに強力になる。

今回は街に大きな魔法陣を描きその中心にいる貴族を戦わずに儀式魔法で、一撃で始末する計画である。

そのために、街の住民をあらかじめ殺し、貴族に悟られる前に準備を行う。


私は地図の上に儀式魔法で使う魔法陣を描いていく。


「ここと、あとここ——」


魔法陣を街に描くといっても実際に地面に描くわけではない。

魔法陣の描く際に基点となるところに触媒をおき、発動の瞬間に魔法陣が描けるようにするのだ。

私は基点となる場所を地図の上に書き込んでいく。

二人はその様子をまじまじと見ていた。


「……かなり多い」

「これ全部でいくつあるのよ……五十以上あるじゃない」

「仕方ないでしょ。貴族の力がどれだけあるのかわからないんだもん。この街全体を使った最大火力で撃つんだよ。このくらい当然でしょ」


私が地図に書き込んだ基点の数は八十七個所であった。


「さてと、基点はこんな感じかな。次は……」


私は、書き込んだ魔法陣の基点を残し消した。

そして、地図上に赤い点と青い点を無数に表示した。


「アリスこれは?」

「青い点が私の魔物達や隷属化した人間で、赤い点が今、私が把握している人間よ」

「地図が急に真っ赤になったわね……」

「あ、赤が青に変わった……」


これはいわば現在のこの街における勢力図である。

色のついた地図は、中心に行くほど人間の数が多いため赤く染まっていた。

しかし、貴族の屋敷は未だに侵入できていないためか建物の外見以外は真っ白であった。

城壁に近い部分は、門の付近は赤く染まっているが、私達がいる近くだけは、真っ青に染まっている。

青い点は、未だに少ないものの、城壁部分から中心部に向けてほんの少しだが確実に侵食していた。


「この調子だとあと何日かかるかわからないわね」

「……少し派手にやるとかは……ダメ?」

「そうだね。これだけいると多少派手にやらないと——。」

「ダメよ。なんのための隠密行動なのよ。ノアもあまりアリスを唆さないですぐに本気にするから」

「はーい」

「でも、このままじゃ時間が——」

「わかっているわ。だから今日の夜から狩りをするわ。昼間よりは、見つかる危険性は低いわ。だから夜になるまでは、この部屋で大人しくしていなさい」

「「はーい」」




囲郭都市ユーノを治めているドレファス・フィーア・ユーノは、子爵の爵位を持つ貴族である。

中肉中背で身なりの良い服装と銀縁の眼鏡からは、知的なイメージを彷彿させる。

年齢こそ二十台と若いものの、妻や子供もすでにおり屋敷の使用人ともよい関係を築いている。

また、見た目通り彼は、頭の回転が速く都市の人間達からも敬われる立派な貴族であった。

彼は、普段は外出することなく、物静かに屋敷の中で書類の整理などの仕事を行っている。

今日もいつもと同じように部屋で一人、ドレファスは、手元にある書類に判を押し、自身の仕事を行っていた。


「そういえば、じぃはいるか」


ドレファスは、部屋の外にいるであろう自身の使用人を呼び寄せた。


「ここにおります。旦那様、一体どうなされたのですか」


ドア越しに老人と思しき声が、すぐに返ってきた。


「じぃよ。実は今日キンリー・ドライ・バッカス伯爵様の使いの者が来るんだ」

「伯爵様ですか……なるほど。それでは準備してまいります」


老執事は少し間を置くと、全てを理解したと言ったように立ち去った。


「こちらも私も行くとするかな……」


信頼するあの老執事に準備を任せ、ドレファスは一度深く深呼吸をすると書斎の椅子から腰を上げた。

丁度その時、使用人の一人がドアをノックした。


「どうした?」

「キンリー伯爵様がお見えになりました。いかがなさいますか?」

「私が出迎える。お前たちは、出迎えの用意をしろ」

「かしこまりました」


使用人たちは、主に頭を下げると各々の準備に取り掛かった。


ドレファスが屋敷の玄関に行くとそこには、自分より年の若い十代後半の青年がいた。


「これは、ドレファス・フィーア・ユーノ子爵様、お会いできて光栄です。私はキンリー伯爵様の使いで参りました。使用人のアンドレイでございます」

「よく来てくれたアンドレイ君、歓迎するよ。さぁ中に入ってくれ」


ドレファスは自分の書斎にアンドレイを案内すると、屋敷の使用人たちが紅茶とお菓子を持ってきた。

二人は、向かいあうように座った。

普通、貴族と爵位の持たないものが同じ席に座ることはない、しかし、ドレファスはアンドレイと向かいあって座りアンドレイ自身もそれを疑問に思わない。

なぜなら、アンドレイはキンリー伯爵の使用人なのだ。

使用人と言えど、自分より上位の爵位持ちである。

キンリー伯爵の代理で来ている使用人を無下に扱うことはできないのだ。


「ドレファス子爵様、私は未だ若輩の身なので、腹の探りなどはできないので、早速本題に移らせて位だ抱きます。私の主人キンリー伯爵様は、貴方様の研究に高く評価しております——」

「それで研究成果を寄越せと言うことなのでしょう」

「もちろんただで寄越せとは言いません。主人はそれ相応の報酬を与えると申しております——」

「いや、元々伯爵様に援助してもらっていた研究だ。報酬などはいらないと伝えてください」


ドレファスは、書斎のカギのかかった引き出しから書類を取り出し、アンドレイに手渡した。

アンドレイは、渡された書類の中身を確認すると書類を懐にしまった。


「確かに頂戴しました。素晴らしい研究成果ですが、実物を確認してもよろしいでしょうか」

「もちろんだ。そのために、わざわざ君がこんな辺境まで来ているのだろ。ついてきてくれ」


ドレファスは、アンドレイを連れ、屋敷の地下に案内した。

地下への階段は魔道具によって照らされているが、不気味な雰囲気があった。 

階段を下りきるとそこには、鋼鉄できた大きな扉があった。


「この中に私の最高傑作がある。これをつけた方がいいですよ。慣れていない人にとっては、この先の匂いはきついので」

「あ、ありがとうございます」


ドレファスは、アンドレイにマスクを渡し、彼がつけたことを確認すると鋼鉄の扉を開いた——。






夕暮れ時、屋敷の地下を見たアンドレイは玄関でドレファス達に見送られていた。


「いやぁ想像以上に素晴らしいものでしたドレファス子爵様。主人も必ずや満足していただけるでしょう」

「そうか、満足していただけて私は嬉しいよ」


馬車にアンドレイが乗り込もうとし、思い出したかのようにドレファスに告げた。


「そういえば、王国の召喚した勇者様達ですが、近々外に行くそうですよ」

「ようやく、レベリングが終わったのですね。これで少しは私達貴族も楽ができますね」

「ええ彼らの働きに期待ですね。それでは、私達はこれで失礼いたします」


アンドレイは馬車に乗り屋敷の門から街にそして外へ馬車を走らせて行った。


馬車の中で、アンドレイは一人で水晶に向かって話していた。

水晶の中には黒い人影が写っていた。


「失礼します。アンドレイです。目的の書類と実物を確認しました」

『ご苦労。それで貴様はアレを見てどう感じた』

「はい。勇者様達ほど万能では、ありませんが戦力としては申し分ないと感じました。ただ……」

『量産が難しいか……。まぁよい、そこはこれからの研究次第で解決していくとしよう』

「はい」


そこで水晶は元の透明な色に戻った。

アンドレイは外の見事な夕焼け模様などには見向きもせず、子爵からもらった資料を読み込んでいった。



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