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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第二十六話 ゴミ掃除 

私は、家を出るとすぐに戦えるようにと、いつもの様に二振りの刀を取り出した。


「この辺だと、二人と鉢合わせになっちゃうから……よし、こっちに行こう……」


作戦では、私が地図を作っている間に二人が、拠点となる場所の周りの駆除を行う手筈になっている。

二人は、私の魔物を連れているので、容易に居場所はわかる。

作戦では、私は地図が完成するまでは、参戦禁止と言われているのだが、魔物を通して伝わる人間の血の匂い、生命の雫が零れる感覚が吸血鬼の本能を揺さぶる。

二人が命を奪う度に、私の身体が本能が高ぶっていく。


「んん……こんなの……こんなの我慢できるわけないじゃん——」


恍惚とした表情で体を震わせている様子は、少女がしていいものでは決してなかった。

もし、この光景を見た者がいるとしたら、少女が路上で発情し、火照る身体を必死に抑えているように見えているだろう。

実際は、流れ込んでくる快楽は快楽でも、殺人に対する快楽であるのだが——。

私は、未だに流れ込んでくる命を奪う感覚に身悶えていた。


「これは……仕方ない……よね。ふふ。我慢できないものは……仕方ないもん」


腰に差した刀を抜き放ち、ゆったりとした動きで夕暮れのスラムを進む。


「さぁて、二人が帰る前に戻ればいいよね」


私は、今二人がいる場所とは、逆の方向に歩きだした。






街のスラムは、中心街と違い瓦礫を継ぎ接ぎしたような、今にも崩れ去りそうな家が所狭しと並んでいる。

辺りには、ゴミが散乱し腐臭が漂っている。

路上では、ボロキレに身を包んだ浮浪者たちがたむろしていた。

私はまるで、雑草でも刈るかの様に無造作に刀を振り回していく。

道の端でうずくまっている人間や、酒に酔いつぶれ寝ている者その悉くを斬り捨てていく。

魔法で姿を消しているため、誰も気づくことができず、振るわれる凶刃に悲鳴をあげることもできず、死体となっていく。

刀を振る度に生まれる死体を私の影から出てきた魔物達が隷属化していく。


「はぁやっぱり自分でやったほうが楽しいわ」


刀に着いた血を舌でペロリと舐める。

緋色に染まった瞳は、年不相応に艶やかで、蠱惑的であった。


「やっぱり人間の血はいいわね。でもやっぱり飲むなら二人の血が一番かな」


私はそんな独り言を言いながら、どんどんスラムの奥へ進んで行く。






スラムとは、基本的には失業者や貧困者によって形成されている。

彼らの多くは職に就いておらず、その日暮らしの生活をしている者がほとんどである。

しかし、スラムに住む人間の全てが失業者や貧困者ではない。

スラムの中には、街に住むことができなくなった者、犯罪に手を染め、身をひそめる者などもいる。

中心街や街の繫華街などには、もちろん衛兵など犯罪に目を光らせる者たちがいる。

だが、衛兵の目はスラムまでは届かない。

ゴミであふれたスラムは、病原や犯罪の温床であった。



スラムで害虫駆除に勤しんでいると、何やら遠くの方で騒ぎが聞こえた。


「うん?なにこの匂い……甘い匂い……」


騒ぎの方に進んで行くと、周囲に甘い匂いが立ち込めてきた。


虎目ノ計測(アザゼル)……麻薬か、どこまでも救いようのない種族だな。まぁ救いなんてないんだけどね」


甘いに匂いの原因を調べると、人間達の吸う麻薬の匂いであった。

匂いの発生源と思われる場所へと進んで行くと、小さな広場の様な場所に出た。

人間達は、キセルの様なものを皆、咥え煙を吸っていた。

辺りは人間達の吸う煙で充満し、スラム特有の腐臭と相俟ってひどい匂いであった。

私は、煙を吸い込まないように鼻を服で覆った。

人間達は、煙を吸うことに夢中になっている者、麻薬を売る者などまっとうな者とは、程遠い者たちの集まりであった。


「この匂いは、きついなぁ。でもこの程度ならやれるかな」


虎目ノ計測(アザゼル)』で周囲の人間のレベルを確認すると一桁の者しかおらず、最高でもレベル7であった。

以前は『虎目ノ計測(アザゼル)』を使用してもレベルや職業などは、見えなかったが、ノア達から教えてもらったあとは、なぜかわかるようになった。

原因はわからないが、能力が私の知識に合わせて変化したのだろうと思う。

私は、人間を駆除するために影から熊や狼など、大型の魔物を呼び出した。


「『皆殺しにして』」


私は呼び出した魔物達に命令を出すと、魔法で空に避難した。

命令を受けた魔物達は、すぐに人間達を襲い始めた。

戦闘というか、一方的な虐殺は、すぐに終わった。

人間達は、麻薬にだいぶ体を侵されていたらしく、逃亡すら満足にできず、爪で引き裂かれ、牙で体を食い破られていた。

広場にいた人間達は、全員あっさりと魔物達に惨殺されてしまった。


「お疲れ様。みんな戻って。」


私は呼び出した魔物達を労うと、魔物達も嬉しそうに応え、再び私の影に戻っていった。

隷属化した魔物は、何故か今のところ全てが私に懐いている。

命令を出すと嬉しそうに従うので、ついつい私も魔物達を労ってしまう。

別に悪いことではないのだが、魔物達を労っているとなぜか約二匹いや、二名が魔物達を威嚇し、魔物達もなぜか勝ち誇ったかの様にふるまうので、私は苦笑いすることが頻発している。




「さぁてそろそろ帰ろうかな」


辺りはすでに日が沈みつつあり月が顔を出し始めていた。

私は、刀を鞘に納めると来た道を引き返した。





アリスが帰路に着く少し前、ノアとルナはボロボロの酒場の中にいた。

酒場の中には、すでに息絶えた男たちが数人、どれも体を何度も切り裂かれ死んでいた。


「ふぅ、これでこの辺りは終わりね」

「うん。早く帰ってあげないとアリスが拗ねる」

「ふふ。そうね。アリスには申し訳ないけど、地図は必要なものだしね。まぁ最初のぼろ家よりいい所も見つかったし、成果としては、結構いいんじゃないかしら」

「私達、今日は、いっぱい働いた」

「働いたって、ノア貴方は遊んでいたじゃない。ほら見なさいよ。無駄に斬るから回復が遅いじゃない」

「ルナだって、殺すのに時間かけて遊んでた。私を売ったら道連れにするから——」


そんな二人のやり取りを魔物達は、やれやれと言った様子で見ていた。

魔物達の見たものや感じたものをアリスは、共有することができる。

しかし、全てを常時共有することはできないことを、二人は知っていた。

二人は、二匹の魔物達の方へいきなり振り向き、手を伸ばしてきた。

二匹は、抵抗する間もなくあっさりと捕まってしまった。


「キュウちゃん、チクったら……食べるから」

「リッスンあなたも分かっているわよね」


ノアは無表情に、ルナは笑顔でどちらも拒否を許さないといった雰囲気で迫った。

二匹の魔物達はコクコクと首を勢いよく振って頷いた。

二人は、アリスの魔物達を脅迫し、罪から逃れようとしたのだ。


「これでアリスにはバレない」

「ええ。これ以上アリスに口実を与えるのは危険だもの。次はどんなことをやられるか……」


先日もアリスを仲間外れにしたばっかりに、血を吸われ尻尾や耳をいいように玩ばれたばかりであるのに、遊んでいたことがバレたら次は、本当に何をされるかわかったものではない。


「あの鬼畜吸血鬼バレたら……ルナ協力してね。共犯だからね」

「……あんなことやこんなこと……もしかしたらあんなことまで……」

「ルナ。聞いてる?」


ノアがルナに話しかけるがルナは、何を想像しているのか、頬を赤く染めニヤニヤと笑っていた。


「むっつり変態マゾ猫」

「誰がむっつり変態猫よ。ゴホン。聞こえているわよ。協力して誤魔化せばいいんでしょ」

「……マゾは認めるんだ」

「マゾでもないわよ。ほら早く帰りましょう。アリスが家で待っているわ」

「わかった」


二人は魔法で姿を消すと酒場を後にした。

二人が去った酒場では、二人が訪れる前と同じように男たちが酒を飲んでいた。

これまでと同じように、全く変化のない日々を新たな命令が下るまで、ただひたすらに歩ませられるのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます

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