第二十五話 囲郭都市ユーノ
作戦会議から一夜明け、私達は、平坦な草原の上を魔物に乗って移動していた。
私は、昨夜のことで二人は、相当すねていると思っていたがそんな様子はなく、二人とも作戦会議でのことを反省している様子であった。
もし、二人に反省している様子がなければ、今日の朝食も抜きにしてあげようと思っていたがそうはならなかった。
それくらい私は、仲間外れにされたことが嫌だったのだ。
三人で朝食を取った後、魔物に乗り私達は、街に向かったのだ。
もちろん、移動中に二人の考えた作戦を聞き出すことは忘れない。
朝から魔物に乗って移動して、丁度頭の上に太陽が来た頃だろうか。
私達は、やっと街道に出ることができた。
「ここからは、作戦通り魔法で姿を消しながら街に向かうよ」
「うん」
「わかったわ」
「『不可視化』」
私は魔物も含めて不可視化の魔法を使った。
「『不可視の新月』じゃないの」
「こっちのが今回はいいの」
「ふーん」
ノアは深く考えず『アリスがそういうなら別にいいや』と言った様子で再び魔物にしがみついた。
確かに。『不可視の新月』の方が隠蔽する能力は格段に上だが、街道に出たとはいえまだ距離があるため、今回は時間制限のない、ただ姿を隠すだけの魔法を使うことにしたのだ。
不可視化の魔法で姿を消しながら移動して少し経ったころ、それは見えた。
囲郭都市ユーノ、人口約二万人ほどが暮らす人間の街だ。
目の前のそれはまさに、巨大な壁と表現するべきだろう、城壁が広がっていた。
均等に切られた石によって作られたであろう城壁は、わずかに傾斜が設けられ城壁の破壊を難しくしている。
城壁に設けられた僅かな隙間からは、弓矢を放つための窓が多数見られる。
上には、おそらくゴーレムであろう物が大量に鎮座している。
極めつけは、城壁の上空を結界で覆い、街への攻撃を防ぐという徹底した防衛能力であった。
「アリス、どう?これでも正面から行ける?」
ルナが馬鹿にしたように私に話しを振ってきた。
私は、城壁に対して『虎目ノ計測』を使って分析をした。
「……無理。結界は常時展開されてるし、城壁には自己修復の魔法までかかってる……」
「なら作戦通りやる——」
私達はまず、街の入り口へ向かった。
街の入り口を見つけるのに苦労はしなかった。
街の入り口は、二つしかないため、街に入るために多くの人間達が列をなしていたからだ。
「……殺す」
私は眼の前にいる人間達を見て収納魔法から二本の刀を抜いた。
そして切りかかろうと一歩踏み出した時……転んだ。
足元を見ると、片足を突き出したルナがいた。
「はぁ……アリスあなたこれから私達は、街に潜入するのよ。それなのに早速殺しに行くって……ちゃんと作戦理解しているのかしら。あなたは、やっぱり馬鹿ね」
「アリス転んだ……ふふ」
ルナは頭を抑えながら呆れ、ノアは転んだ私を笑った。
「ごめん……」
私はおとなしく刀をしまうと、転んでせいでついた土を落とした。
「もう……それじゃ街に入るわよ」
「作戦通り」
「任せて『不可視の新月』」
私達は、完全に姿を隠すと門に向かった。
門には、何人もの兵士が門に入るものたち調べていた。
人間は当然のこと、荷物や馬車の中などを念入りに調べ、街に入る目的や滞在期間など細かいやり取りの末ようやく街に入ることを許可される。
そんなやり取りを横目で見ながら私達は、兵士達を素通りし街の中に侵入に成功した。
街は人間であふれ、道の両端からは店を開く商人たちが、道行く人を呼びこむ声が聞こえてくる。
街は、色とりどりの家や店が並び活気に満ちていた。
私達はそんな街の様子を一瞥すると、すぐに路地の裏に入った。
ここが人間の街でなかったら、もう少し別の感想を抱けたかもしれないが、私達が抱いた感情は怒りや憎しみなどの負の感情であった。
賑やかで、煌びやかで、穏やかな生活を平然と送っている人間が私達は許せなかった。
侵入後私達は、城壁に沿いながら移動をした。
城壁沿いは、街のなかでは、最も危険な場所である。
もし、城壁が破壊されれば、真っ先に犠牲になるためである。
そのため、城壁の中心ほど裕福なもの達が多く暮らし、貧しい者たちほど城壁側に暮らしており、城壁側ではスラムが形成されていた。
「案外ちょろかったわね」
「楽勝」
「私の魔法のお陰でしょ……それよりもういいよね」
「そうね。この辺でいいかしら」
「じゃあ。あの家で」
ノアが指さしたのは、今にも崩れそうな家であった。
「それじゃあ。始めよう」
私達は家の中に正面からドアを開けて入った。
中には、痩せこけた老婆と小さな少年がいた。
痩せこけた老婆は編み物を手に、少年は一人家で遊んでいた。
二人は、突然開いたドアを不思議に思ったことだろう。
そして二人は、何も理解することなく死んでいった。
私達は『不可視の新月』を使ったまま家に押し入り、住んでいた人間をそのまま殺したのだ。
人間を殺したあと私は、影からいつもと同じように魔物を出し隷属化していく。
「ノア~やっぱり私と交代しない?」
「無理。アリスは自分の仕事して。終わったらアリスもヤレばいい」
「そうよ。アリスしかできないんだから我慢してやりなさい。適当に作ったらやり直しさせるから、真面目にやりなさいよ」
「わかったよ……」
「それじゃ、私にキュウちゃん貸して」
「私にはリッスンね」
「なんで二人とも私の魔物に名前つけてるの……まぁいいけど」
私は影からウサギの魔物とリスの魔物を呼び出した。
キュイ。チュィ。
二体ともとても小柄な魔物で、愛玩動物のような見た目に反して、ウサギの魔物もリスの魔物も牙に強力な毒を持つ野生では、危険な魔物である。
二体は、私の影から出ると足元から私の両肩に乗り私に頬擦りをした。
「はいはい、それじゃ『二人の殺した人間を隷属化して』」
私の魔物達は『了解』というように短く鳴くと、ウサギの魔物はノアに、リスの魔物はルナに飛び移った。
二人は私の魔物を優しく受け止めると、ノアは自分の頭の上に、ルナは肩に乗せた。
「それじゃ二人とも、掃除はよろしく」
「うん。アリスもちゃんと仕事してね」
「任せたわよ」
「はいはい。それじゃ作戦開始と行きますか」
二人は共に不可視化の魔法で姿を消し玄関から出ていった。
「私もそろそろ行動するかなぁ……っとその前に」
私は復活が完了した人間達に命令を下した。
「『これまで通りに過ごしなさい。ただしに私達に不利益になる行為・言動の一切を禁じる』」
命令を受けた人間は私達が来る前の様に老婆は再び編み物を、少年は一人で遊び始めた。
私達はこれまでいくつもの村や集落を滅ぼし、潰してきた。
そして何人何十何百と人間を殺してきた。
しかし、今に至るまで私達が人間達にばれずにいるのは、殺した人間を隷属化しこれまでの日常を演じさせているからだ。
まぁ、ただ演じさせているわけではないが、隷属化したものが私に逆らうことは絶対にできない。
そのため、変わることのない日常を永遠に彼らは繰り返している。
「さて、それじゃあ、やりますか——」
私の影から無数の小型の魔物、動物、虫が出てきた。
「『この街を丸裸にしなさい』」
私の命令を聞いた魔物達は一斉に外に出ていった。
翼を持つものは、空に飛び立ち、身体の小さいものは、小さな隙間に入り込んでいった。
私の隷属したものは、喰らったものを隷属化する『感染』を持っている。
喰らったものに例外はなく生き物であれば、動物だろうが、虫だろうが関係なく隷属する。
結果、三か月間森で小型の魔物達や虫など小さい魔物が急激に数を増したのだ。
そして、今回の作戦においてそれは大いに役に立っている。
私の今回の作戦での役割はまず、この街の地図を作ることだ。
街は広く、複雑に入り組んだ路地などがいくつもある。
そのため、この地の人間を全て殺し尽くすには、二人はこの街を知ることが一番だという結論に至ったらしい。
そしてそれが可能なのが、隷属化した魔物と情報を共有できる私である。
私は、家の中にあった椅子を変成魔法で、大きめの水晶玉に変成した。
「そんな簡単なことじゃないんですけど……。ものすごく疲れるし大変なんだけど……。『地図化』」
私は頭の中に流れ込んでくる情報を整理しながら、魔法で地図を作っていく。
空を飛ぶ魔物から大まかな地形や建物を把握し、小型の魔物や虫たちがそれを細かく調べ上げていく。
地図の略図はすぐに完成した。
そして、小さな魔物達はどんどん情報を送ってくる。
「よし、こんなところかな——『上書き(オーバーライド)』」
私は先ほど変成した水晶玉に魔法陣を書き込んでいく。
「あとは魔力を注いで——。よしこれで仕事はおしまいかな」
魔力を注がれた水晶玉は、地図を描く魔法発動し、先ほどまで私が描いていた地図を引き継ぐように、より綿密に地図を描いていく。
地図は、魔法によって立体的に映し出されている。
魔物達は、路地の小さな道から建物の一つ一つの構造まで調べていく。
「完成は時間の問題かな。それじゃあ私もお掃除に参戦かなぁ」
私は、もう一度水晶玉に限界まで魔力を込め、水晶玉と自分に魔法をかけ姿を消し、家を出ていった。




