第二十二話 経験値side勇者
これで勇者側の話は最後です。
午後の訓練は、経験値を稼ぐというものであった。
経験値を稼ぐ、つまり生物の命を奪う訓練とばかり思っていたのだが、違った。
昼食を取り終わったあと、再び私達は訓練場に集められた。
「今から君達には、この人形を使ってレベルを上げてもらう」
バーナードは部下たちに持ってこさせた大きな人型の人形の様なものを指さし言った。
「これは我が国が発明した魔道具で、無限に経験値吐き出し続けることができる。だが生憎数がそこまで多くないんだ。悪いがこちらで魔道具の使用する者は、決めさせてもらった。今から名前を呼ぶので呼ばれた者は、こちらに来てくれ。呼ばれなかったものは、私の部下と共にすまないが森で魔物を倒しレベルを上げてもらう」
バーナードは、次々に名前を呼んでいった。
結城や北条、神崎は当然のこと私も同じく名前を呼ばれ40人いるクラスの内、先生も含めて30人が呼ばれた。
私は名前を呼ばれたので、結城達と共に歩いていった。
バーナードは、名前を呼ばれた者たちの人数を確認すると魔道具の使い方を説明しだした。
要約すると、目の前にある人形を剣や斧で壊せばいいらしい。
人形を壊せば経験値が手に入り、壊した人形はすぐに再生し再び使用できるらしい。
「【雪銀ノ知恵】あれはなに?」
私は眼前に並べられた陶器のように滑らかな肌をした人形についてバーナードの説明も半ば聞かずに問うた。
『回答 吸血鬼です』
「吸血鬼?」
『肯定 不老にして不死の種族『吸血鬼』です。ですが、彼らは精神魔法によって精神のみ破壊され、人間によって肉体を改造されています』
「つまりどういうこと」
『説明 あれは魔道具であって魔道具ではありません。人間が吸血鬼の持つ不死性を利用して意思を奪い、自由を奪い、道具に加工したものです。彼らを壊すつまり、殺すことで経験値を得ることができ、時間経過で再び息を吹き返します。つまり半永久的に人間に経験値を供給することができます』
「ひ、ひどい……」
私は目の前の人形、いや元吸血鬼を再び目を向けた。
元吸血鬼はよく見ると、全て同じではなくピエロの様な仮面をつけたものや、手足が欠けているものがあった。
だがどれも共通しているのは、十字架の様なものに磔にされ案山子のように立たされていることだろう。
クラスの皆も怪しいと思ったのか、バーナードの話を疑っていたが彼自身が磔にされた吸血鬼の首を私達の目の前で落とし、実践して見せた。
首からは一滴の血も零れず、落ちたはずの首は時間が戻るかの様に宙に浮き、元の位置に戻り綺麗にくっつきそしてついには、切断のあとすら消えた。
クラスのみんなは驚愕や興奮した様子であったが、私は強い恐怖を抱いた。
「な……なんで血が出ないの」
『回答 彼らに施された改造の結果です。他にも——』
【雪銀ノ知恵】は元吸血鬼に施された改造について説明しだしたが、どれもあまりにも残酷な処置がされていて聞くだけで吐き気を催した。
『警告 絶対に傷つけてはいけません。彼らは精神こそ死亡していますが、肉体は依然生きています。彼らを傷つければ、ご主人の今後に響くと思います』
「わ、わかったわ」
私は吐き気を堪えながらバーナードではなく、彼の部下に話しかけた。
「あの、すみません」
「はい。なんでしょうか?」
「私のステータスだと魔法特化になっているんですが……まだ魔法が使えなくて……」
「なるほど……わかりました。団長に少し相談してみますね」
私は、明確にこうして欲しいとは、言っていないのだが王国の騎士たちは察しが良いのかすぐにバーナードのところに向かい事情を説明してくれた。
そして、部下との会話を終えたバーナードは、私の元に駆け寄ってきた。
「事情は理解した。確かに君のステータスだとこの人形を壊すのも辛いだろう。セルシスに頼んで君にはまず魔法について学んでもらえるように手配しよう」
別に私は狙ってこの展開にしようとしたわけではない。
私は、ステータスが弱く魔法もまだ使えないから殺せないと言いたかっただけなのだがまぁいいだろう。
本当は、魔物狩りの方へ回りたかったのだが仕方のないことだろう。
あとから聞いたことなのだが、この人形吸血鬼は、一定以上のステータスを持たない殺せないらしく、それを知っていた騎士は、私の言動をありがたいことに勝手に解釈してくれたらしい。
そして私はクラスのみんなとは別にセルシスからの魔法講義を受けることになった。
正直いって退屈極まりないものであった。
魔法についての知識は、すでに神智事録から得ており彼女よりも正確かつ深い理解があり知っていることを永遠と聞かされ、魔法の基礎の基礎から教えられた。
その後も、私だけ訓練ではなく、魔法の講義を受け、クラスのみんなはレベルをどんどん上げっていった。
私は一応魔法の講義のおかげ(本当は神智事録のおかげだが)で魔法を扱えるようになった。
そして、様々な理由をつけては、人形を避け魔物を殺し続けた。
生き物の命を奪うのは、最初はとても抵抗があった。
肉が焼ける匂いには吐き気がし、肉を裂く感覚、血潮の生暖かさが脳から離れず、光を失った瞳が毎晩のように私の夢を侵食してきた。
しかし、人間とは恐ろしいもので良くも悪くも環境に適応する。
何時からだろうか。夢に殺した魔物が出てこなくなったのは……。
何時からだろうか。魔物を殺しても罪悪感を抱かなくなったのは……。
何時からだろうか。命を奪うことに何も感じなくなってしまったのは……。
私は、いつからこんなに変わってしまったのだろうか……。
だが、私の心情を嘲笑うかの如く、クラスの連中は日々強くなっていく自分の肉体に充実感を見出していた。
私がこんな気持ちになるのは、おそらく【雪銀ノ知恵】のせいだろう。
彼女?は私に毎日助言や進言をしてきたり、私の独り言に返答してくれた。
彼女のおかげで私は、自分の変化に気が付くことができたのかもしれない。
非日常が日常になり、変わっていく自分が怖かったけれど、それを感じていたのは私だけではなかった。
ある日の深夜、夜中に目が覚め私は城のテラスで夜空を見上げていた。
「ラグ、私達がここに来てからどのくらい経ったたけ?」
『九日目ですよ。ご主人』
ラグとは、私が【雪銀ノ知恵】につけた愛称である。
彼女と会話を繰り返すうち彼女は、機械の様な口調からより人間らしい口調に変化してきた。
彼女曰く、より私が使いやすいように変化したらしいのだが、私としては今の人間口調の方が接しやすくてつい無駄話をするようになってきた。
今日でこの世界に来て九日経っていた、いや九日しか経っていなかった。
たった九日で私達の非日常は日常に変わったのだ。
「私は……正しいの?」
『何について?とは無粋ですね。そうですね……命を奪う行為その全てが等しく罪です』
「そっか、私は罪人なんだね……」
『はい……如何なる理由があろうと命を奪う行為は罪です。しかし、この世界で他者の命を奪わずに生きること不可能です。ですので罪人でないものなどいません。だからせめてご主人は、命は尊いものであること忘れないでください』
「わかったわ。ありがとうラグ」
『どういたしましてです』
命を奪うことに抵抗をなくし、感慨すら抱かなくなった私にラグはこう言いたかったのだろう。
命を奪う行為は、等しく罪であり、軽はずみな感情でしてはいけない、無感動など尚更いけないと。
ラグから受けた言葉を胸にしまい、私は自分の部屋に戻ろうと振り返ると丁度入り口に人影があった。
「天野さん、泣いているの?」
「えっ?越前君」
入り口から現れたのは、越前瑛太であった。
越前の一言に私は自分の瞳に手を当てると私の瞳からは雫が零れていた。
「どうして泣いているの?」
「わからない……」
おそらくはラグとの会話のせいであるのだが、涙の理由ははっきりとはわからない。
「そう。てっきり僕と同じで不安なのかなって——」
「不安?」
「うん。最近みんなレベルをどんどん上げていって信じられないくらい強くなっていって。僕は僕たちが化け物になってしまうんじゃないかって——」
「私達が化け物になってしまうか。いやもう、とっくに私達は化け物かもね」
越前の「化け物」という言葉がなぜかすんなりと頭に入ってきた。
命を奪っても何も感じない私達は、化け物なのだろうと——。
「そんな、天野さんは化け物なんかじゃ……」
「ありがとう」
私は越前に短く礼を言うと越前の横をすり抜け入り口のドアに手をかけた。
「待って天野さん。あ、あの時かばってくれてありがとう」
「いいえ、ごめんなさい。私はまた、君を傷つけるだけだった……」
あの時というのは、おそらく来たばかりのときに行われたステータスの件であろう。
私は、越前の方には振り向かずに謝った。
「私は君を傷つけるだけだね……」
「そんなことない!僕は天野さんのおかげで……救われたんだ。天野さんのおかげで僕はここにいれる。だからもし天野さんが危ない目にあったら今度は、僕が天野さんを助けるから」
急な越前のカミングアウトに私はドアの前で止まってしまった。
そして、長い沈黙が支配した。
だがその沈黙に越前は耐え切れず、頬をかきながら申し訳なさそうに言った。
「あの、さっきの別に他意はなくて……つまり、僕が言いたいのは——」
「ふふふ。越前君が私を守る?そう、なら頑張って強くなってね。私より強くないと私は守れないよ」
「最弱の僕にそれは、冗談きついよ」
越前が重い空気を壊してくれたおかげで私には冗談を言うくらいの余裕ができた。
本当に越前に守ってもらうなんて考えはない。
だが、おかげで場の空気はなごみ、私はもう少しだけ彼との会話を楽しんだ。
『【日輪ノ希望】が解放されました』
会話の最中にラグが何か言っていたが私は彼との会話を優先した。
そして、私達の会話を盗み聞くように物陰に一人の影があった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
次でやっとアリス達の話に戻ります。
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