第十九話 転移side勇者
眩い光に私は、つい目をつぶってしまった。
そして再び目を開けると、そこは見飽きた教室の風景ではなかった。
これは『大聖堂』というのだろうか?外観はわからないが、内部はサンピエトロ大聖堂の様なつくりになっていた。
天井には、美しい女性、女神もしくは聖女と思しき人物が描かれ、背景には小鳥などの小動物が寄り添うように描かれていた。
慈愛に満ちた表情で万人が称賛するであろう見事な壁画ならぬ天井がであるのだろうけど、私の感性がずれているのだろうか、どこか見下したまるで人間が動物を愛でるようななんとも言えない威圧感を感じ堪らず目をそらしてしまった。
床に手をつくとヒヤっと冷たくこれは大理石だろうか、詳しいことは専門家ではないため断言することはできないが、真っ白な石で作られた床は滑らかで光沢を放っている。
また、私達を円状に取り囲むように天井を支えている柱には、見事な彫刻が刻まれている。
しだいにガヤガヤと騒ぎ出す周囲を見渡すと先生含めたクラス全員と修道服の様なものを着た者たちがいた。
「ここは一体どこなの?」
『回答 人間の国ソルアイオーン王国のビーオス大聖堂の内部です』
えっ、今誰がしゃべったの?
頭の中から無機質な女性の声が聞こえてきた。
声はどこか機械的で一瞬自分のスマホの音かと疑問に思い端末を確認するもその様子はなかった。
『回答 贈り物名【咎眼】の能力【雪銀ノ知恵】です』
頭に直接流れるこの声は、どうやら私にしか聞こえておらず、周りは未だに混乱している様子であった。
『提案 現状の把握と打破のため神智事録の一部を脳に転写することを進言』
「はい?何それ?」
『了承を確認 神智事録の転写を実行……』
「了承してない……えっなにこれ」
私の返答を聞かずに【雪銀ノ知恵】は神智事録の転写を実行した。
見たことのない風景、聞いたことのない単語、知るはずのないこの世界の知識がなだれ込んで来る。
『神智事録の転写に伴い、記憶領域への書き込みを開始。記憶の混乱を避けるため意識レベルを低下させます。しばしお休みください——。』
その言葉を最後に私の意識は途切れてしまった。
目が覚めると、私はベッドの上に居た。
ゆっくりと体を起こし辺りを見渡した。
ここは個室なのだろうか?
白く肌触りの良いシーツが引かれたベッドが二つに同じく小さな机と椅子が二つあった。
この部屋は二人部屋なのだろか?
出来れば一人部屋がいいなぁと思ったのだが残念ながらその期待は裏切られた。
「あぁ!やっと気が付いた大丈夫ヒジリン?身体に異常はない?」
横になっていた神崎は起き上がると、向かいのベッドになぜかいた神崎が私に詰め寄ってきた。
「ちょっ、神崎さんやめ」
「うん。今日もいい感触だよ~」
神崎は触診とばかりに私の身体をべたべたと触ってきた。
現状の確認を早くしたい気持ちと神崎のウザさも相まっていつも以上に強引に神崎を引き剥がそうとした。
しかし、普段なら簡単に引き剥がせるはずなのにそれができない。
「なんで、引き剥がせないの?」
「残念でした。もう非力な私ではないのだよ。ヒジリン」
「うそ……」
私が困惑していると、ドアをコンコンとノックする音が聞こえた。
「はい」
『聖?私、凛だけど入っていいかしら?』
「ど、どうぞ」
北条は、私の返事を聞くなり部屋の中に入ってきた。
あぁうるさいのが増えた……。
私は、神崎に抱き着かれながら憂鬱な気分になった。
北条は神崎に抱き着かれているのを見るなり、神崎の首根っこを片手で掴み軽やかに神崎を私とは反対のベッドに投げ飛ばした。
「な……」
私は、目の前で急に起きた、コメディのような様子に言葉を失った。
いくら北条が身体能力に秀でていて、神崎が小柄であっても片手で女子高生が人間を投げ飛ばせるわけがない。
だが、投げ飛ばされた神崎は驚きこそすれ、不思議に思った様子はなかった。
「北条さんってそんなに力持ちだったの?」
「ははは、何言ってんのよ。聖、流石に私も地球にいた時は、ここまでの力はなかったわよ」
「地球にいたときは?それってどういう——」
私が北条に問おうとしたとき、頭を後ろから殴られたかのような衝撃が来た。
「ちょっと、大丈夫?」
「ええ。気にしないでなんでもないから……それより——」
私は、二人から私が気絶している間にないがあったのかを聞いた。
二人から大まかに聞いた話では、私達は俗にいう異世界クラス転移をしてしまったらしい。
この世界はルワーンと呼ばれ、多種多様な知性を持ち、文化を持つ種族がいる。
人間は、世界の凡そ北半分を支配しており、人間以外の亜人と呼ばれる種族は南半分を支配しているらしい。
人間と亜人は数千年にわたって戦争を続けそれは現在も続いているらしい。
人間は亜人達の様に種族的に優れた点を持たず、魔法ではエルフ、筋力では獣人に及ばない。
しかし、人間には女神様から与えられたレベルという力がある。
レベルは経験値を稼ぐことで上げることができ、レベルを上げることでエルフや獣人を凌駕する力を得ることができる。
これは人間が女神様に選ばれた故に与えられた特権とされており亜人族を圧倒していたのだが、魔王と呼ばれる存在が他の亜人族を統率しはじめ、数の力で対抗をしてきた。
だが高レベルの人間は、多くはなく徐々に亜人族に押し込まれていったという。
そんなとき、女神様が人間に異世界から勇者を召喚するすべを与えた。
召喚された勇者の力は凄まじくあっという間に、戦線を押し返すことができた。
だが、勇者の力をもってしても魔王の力には及ばず、今は辛うじて戦線を維持している状態らしいのだがこのままではジリ貧になると判断した人間の国の王様が再び勇者を複数人召喚することにしたという。
その王国によって召喚された勇者が私達だという。
勇者の力は、一人で数千人の戦力となるほどらしいのだが……。
「つまり、私達は戦争の道具ってわけですか?」
私はやや低い声で言うと二人苦笑いをした。
私がまるでこの考えに至ると知っていたかのように思えた。
「まぁそうなっちゃうよね」
「聖と同じで里中先生もブチ切れたわよ」
「『生徒を戦争の道具にするな!』って我らの担任は王様に怒鳴ったんだよ」
「まぁでも、あっちの王様も私達に頭を下げて頼みこんできてね……」
「結局、勇也が王国を救うって言って私達は勇者になりました。あははは」
「正気なの?ここはゲームなんかじゃないのよ。本気で死ぬことだって……」
「落ちつきなさい聖。別にみんなが戦争に行くわけじゃないわ。戦いたくない子は、戦わなくてもいいって王様から言質だって取ったのよ。それに今のところ地球に戻る方法がないのよ」
「そんな……」
私は、ベッドの上に視線を落とした。
「ごめん……一人にして」
「ヒジリン……」
「わかったわ。あと一時間もしないうちに夕食らしいからその時にまた来るわね」
北条は私の様子を察したのか神崎を連れ部屋を出ていった。
私は北条たちが出ていくのを確認すると顔をあげ、仰向けにベッドに横たわった。




