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禁眼の吸血姫  作者: 榛名 怜
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第十話 空腹

人間の集落を滅ぼした翌日の朝。

私達は森の中で普通に朝食を食べていた。

いつも通り収納魔法から取り出すだけの超簡単朝食である。


私がパンや果物を出すと、ノアはそれを、次々と食べ始めた。


「ノ、ノアそんなに急いで食べなくてもごはんは逃げないよ」

「はて、ほんはにほいいひのはひめてはから」


ノアは口いっぱいに朝食を詰め込み幸せそうに言った。


体中にあった傷は全て魔法で治し、服も新しいものに着替え少し前とは明らかに変わっていた。

当然、私も昨夜の戦闘で血まみれになってしまった服は着替えている。


「何言ってんのか全然わかんないんだけど」

「うぅん。アリス大好き……」

「はいはい、おかわりするの」


ノアの皿にはパンくず一つ残っていない皿を見て聞いてみた。

感謝されるのはいいが、この魔法一つで作れてしまう朝食に涙を浮かべながら食べるノアに申し訳ない気持ちになってきた。


「お腹いっぱい食べていいからね。おかわりはいっぱいあるから」

「うん」


うわぁ。しっぽすんごい振ってる。

ノアはおかわり自由がよっぽどうれしかったのか、しっぽが切れて飛んで行ってしまうんじゃないかというほど振っていた。

余談だがこの後、三回おかわりをしてやっとノアは満足した。

私と背丈も変わらない上に私よりやせ細ったあの体に一体どこに入っているのか不思議なほどであった。




「お腹いっぱい、幸せ~」

「はいはい、口についてるわよ」


私はノアの口元を収納魔法から取り出したハンカチで拭いた。


「うぅん。アリスそれ収納魔法?」

「そうだよ。ノアは使えないの?」

「そんな高等魔法使えない。私が使えるのは水晶魔法だけ」


ノアは手の平の上に小さい水晶を出した。


「高等魔法?何言ってんの?こんなの練習すれば使えるよ」

「無理。魔力が足りないの」

「え?ノアも結構魔力あるじゃない」

「「うん??」」


なぜか意見が合わない。

しかし今回に関しては私が正しい。

なぜなら【虎目ノ計測(アザゼル)】でノアのこと見た時、彼女のスペックはある程度把握していた。

ノアはおそらく栄養が足りていないためか、体力は低くかった。

しかし魔力は、それなりに高かった。


「本当。魔法使えないもん……」

「そんなのおかしい……あぁなるほどそういうことか」

「どういうこと?」


ノアは訳がわからないという顔をした。


「多分ノアは魔力の回路が未発達なんだよ」

「魔力の回路って何?」

「えっとね、簡単に言うと自分の魔力を上手く魔法に変換できてないんだよ。『縛鎖バインドチェーン』」

「きゃぁぁ」


私が魔法で作り出した鎖は、勢いよく茂みに飛んで行った。

鎖は女性らしい悲鳴を上げる者を縛り上げ、目の前に連れてきた。


「アリス……何してんの?」

「そのジト目やめて、なんかいたから」


鎖で縛られて出てきたのは、一人の少女であった。

背丈も年も私とそこまで変わらない見た目で、長い黒髪に猫の様な耳がちょこんと生えていた。

お尻からは尻尾も生えており、少女が獣人であろうことは一目瞭然であった。


「は、放しなさい人間」


鎖で縛られているが、少女は私達を殺意に満ちた視線を向ける。

私から表情がスッと抜け落ちた。


「あ、私知らない」


ノアは私の雰囲気が変わったのを察したのか私から若干距離を取った。


「殺すか」


鎖で縛られた少女を中心に、冷気を纏った氷の剣が次々と現れた。

全ての剣の刀身は白く、柄には薔薇が添えられている。


「寒い」

「えっな、なにこれちょやめ」


剣の生み出した冷気が辺りの温度を奪う。


「死ね」


振り下ろされた手と同時に、氷の剣は少女を突き刺そうと殺到した。


「ひっ」


氷の剣は少女に当たると砕け、当たった場所を中心に凍り出した。

少女の身体を白い薔薇が凍結させていく。


「『霜の薔薇(フロストローズ)』」


「助けて」


少女はノアに助けを求めた。


「アリス、凍死しちゃうよ」

「凍死させるから大丈夫」


氷漬けの少女を見てノアが心配そうに言ってきた。


「ねぇ……ねぇってば、アリス許してあげて絶対勘違いしてるだけ」


ノアは私の服の裾を強く引っ張った。


「わかったから伸びる、伸びちゃうからやめ」

「ねぇぼんど、ざむぐでじんじゃう」


氷漬けの少女は寒さで震えているか、恐怖で震えているのかわからないが、懸命に訴えてくる。


「あ、ごめん『解除ディスペル』」


凍死寸前であった少女の魔法を解除した。

すると氷のみが一瞬で消えた。


「鎖も解いて……」

「ねぇ……なんでいきなり魔法使ったの」

「さぁ?なんか、ご飯食べてるときからじっと見てたから、捕まえてみたの」

「気づかれてたの!」

「その、なんで鎖なの?好きなの?」

「べ、別にそんなんじゃないわよ。一番使い易くて簡単なの」

「アリスエッチ」

「ちょっやめて」

「ねぇ!私を放置しないで!いい加減、この鎖解いてくれない」

「鎖解いて欲しいって」

「なんでのぞき見していたやつの鎖ほどかないといけないの」

「のぞき見なんかしてないわよ、ただその……」

「なに?」


私が彼女に問い詰めるとなぜか俯いてしまった。

私は手元に剣を取り出し、問いただそうとすると。


『グーーーーー』


大きな音が少女のお腹から響いた。

バッと少女は真っ赤に染まった顔を勢いよく見上げた。


「い、今のは違うの。別にお腹が減ってとか、匂いにつられてとかじゃなくて」

「語るに落ちるとはこのことね」

「ち、違うから」

「ふーん。まぁいいわ、それじゃ行きましょう。ノア」

「く、鎖ほどきなさいよ」


少女は涙目になってきていた。


「アリス、いじわるしないで解いてあげれば」

「仕方ないなぁ」


私は指をパチンと鳴らすと魔法の鎖が消え去った。


「さぁ行きましょう」

「アリス……」


潤んだ瞳でノアが私を見てくる。

まるでこの少女を助けてあげてと言っているかのように。

まぁ実際、ノア自身私に寄生しているのがわかっている現状は理解しているのだろう。

口には出せないが、同じ獣人の少女を助けたいと思ったのだろう。


ノアの考えを、ここまでわかっていながら何もしないほど、私は鬼畜ではない。

決してノアの潤んだ瞳に負けたわけでない。

これは、そう。

新しく仲間になったノアとの間に余計な亀裂が入るのを未然に防ぐためである。

私は自分にそう言い聞かせ、先ほどまで鎖で縛られていた少女の方に目を向けた。


「ねぇあなた、お腹減ってるの?」

「べ、別に減ってないし」

「だってよ」


彼女の返答にノアが戸惑いながら話しかけた。


「ねぇお腹減ったままだと死んじゃうよ」

「う……」

「お腹へってる?」

「……減ってる」

「うん」


少女の反応に満足したのかノアは嬉しそうな表情をした。

対して少女は羞恥からか、赤くなった顔を必死に隠そうと、下を向き続けている。


「アリスお願い」

「はぁでもタダじゃあげられないよ。あなたどこのだれでこんな所でなにしてるの?」

「そ、そんなの貴方には関係ないじゃない」

「自分の立場わかってるの?答えたくないなら別にいいわ、さようなら」


私は彼女に背を向け立ち去ろうとするが、ノアがちゃっかり私の服を掴んでそれを妨げる。


「ノア」

「ねぇ話して」


私のことをそっちのけにして、ノアは少女に話しかける。


「ルナ。黒猫族のルナ」

「うん。なにしていたの?」

「友達と家族を探しているのよ」

「だって。アリス、ルナは話したよ」

「なんか納得いかないんだけど。なんで私には関係ないっていって、ノアが聞くと普通に答えるのよ」

「同じ獣人だから?」


ノアはキョトンと首を傾げながら答えた。


「い、いきなり鎖で縛って氷漬けにするような人にそんなこと言えるわけないじゃない」

「私を人間扱いするのがわるい」

「アリスそれは、理不尽。見た目で判断できないもん」


かつてノアも私のことを、人間と勘違いして鎖で強く縛り上げられた過去がある。

そのことをノアは根に持っているらしく、非難の目をむけてくる。


「私は吸血鬼よ」

「嘘よ!吸血鬼は人間に滅ぼされてしまったってババ様が言ってたわ」

「ううん。ほんと。アリスは吸血鬼それも貴族級以上」

「あれ?ノアに私話ったけ?」


ノアには私の名前以外のことはまだ教えていなかった。

さすがに吸血をされたら吸血鬼であることくらいは誰でも察しはつくだろうと思っていたが、まさか階級までの知識を持っているとは思わなかった。



吸血鬼のその強さは、吸血鬼として血の濃さに起因する。

下から下級、男爵、子爵、伯爵、真祖、始祖とあり。

ほとんどの吸血鬼は、下級や下級より少し強いだけの男爵だが貴族とよばれる。

子爵以上の強さは、圧倒的差が存在した。


「だってアリス強いし、魔法も上手に使えるしそれに……」


ノアは自分の首に手を当て、なぜか顔を赤く染めながら言った。

なぜか最後の方は聞き取れなかったが、別にたいしことではないだろう。


「まぁ一応始祖級よ。だから太陽の光とか全然平気なの」

私は目を緋色に染め若干伸びた牙をルナに見せた。


「ほんとなのね……」

「えぇ私はアリス。アリス・ブラッドバーン」

「ノア」


私はルナに収納魔法から取り出した数個のパンと果物などを渡した。


「あ、ありがとう」

「それじゃあね」


少女は食べ物を受け取るや先ほどのノアの様に、勢いよく食べ始めた。

今度こそ立ちさそうとすると、またしてもノアがそれを引き止めた。


「もう、なに?ちゃんとご飯分けて上げたじゃん」


「アリス。ルナの家族、多分人間に攫われたと思う。多分集落ごと攫われて、多分みんな奴隷にされてる」

「ずいぶんと多分が多いね。けど、うーん」

「私の時もそうだった。人間は獣人の集落を襲って集落ごと奴隷にする」


私はノアの話を聞きながら思考を巡らせた。


「わかったよ。奴らはどっちにしろ、殺らないといけないからねぇ。けどあの子のこともう少し考えるよ」

「うん。ありがとう」

「さて、それじゃまずは、情報収集からだ」


私は自分の影から無数の魔物達を出した。


「『人間を探しなさい』」

「アリス、ソレナニ?」


ノアは突如出てきた魔物たちに驚き、腰に持ったナイフを抜いていて構えていた。


「これ?あぁこれも初めてか。これは私の僕達だよ」


細い説明などは省いたがノアは私の説明を聞くとナイフをもとの位置にしまった。


「さてさて、次の獲物はどこにいるのかな」


あふれ出る鮮血を想像し、私は瞳を緋色に染め、僅かに八重歯が伸びた。

私の吸血鬼としての本能が奴らの鮮血を欲している。

血を浴びろ。早く殺せ。渇きを潤せと。


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