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8/12

梅雨

あれから1ヶ月が経ち、季節は梅雨になった。


あいつとは変わらず『ビビり』だ『悪魔』だと呼び合い、メールや電話をする日々を続けている。


どうして俺に話してくれたのかと聞くと、


「んー?なんとなく?」


またそれかよ。答えになってねぇよ。


「強いて言うなら『同じ匂いするから』かな?」


なんだよそれ。


家族にはまだカミングアウトしていないらしく、これを機においおい話すらしい。


俺は実験台かよ。


親に嫌われたくないから、気持ちはわからんでもない。


ちなみにあいつにはあれ以来会っていない。


お互い忙しいのもあるが、会う理由もないからだ。


スマホを見る頻度は変わらないが、あのチャットに行く回数は格段に減っていった。


愚痴を言いたければあいつに言うし、わざわざネットに書き込むほどのことでもない。


最近は個人特定も怖いからな。


指先で発言するよりも、心のどこかで感じる背徳感や罪悪感は全くないしスッキリする。


これが本当の友だちをもつということだろう。



……もう行かなくてもいいか。


そう思い、チャットへ久しぶりにアクセスし、あのスレッドへ入室した。


迷いはなかった。




【---とあるチャット】


レッド さんが 入室 しました


S:レッド!久しぶり!


グンジ:どうしたんだ?最近顔見せないじゃないか。


レッド:悪い。今日でもうやめるわ。


ドーマー:マジ?


レッド:ここの管理はお前らに任せる。今までありがとう。


レッド さんが 退出 しました


ドーマー:まぁ、そういうこともあるだろうな。


S:でも俺らは俺らで楽しもうぜ。


グンジ:じゃあ、気をとりなおして聞いてくれるか?


S:どうした?


ドーマー:グンジのことだからなぁ…。


グンジ:俺のことだからってなんだよwww昨日なんだけど…



……


………




---


6月の蒸し暑い平日の早朝。


頭を掻きながらリビングに行くと、母親からのメモと1000円札が置いてあった。


夜遅く帰り、朝早く出勤するのでこういうことはよくある。


『今日話し合いたいことがあるので、2人とも夜8時には帰ってきて下さい。ご飯はいつも通り用意をお願いします。 母』


あまり良い予感はしないが。


姉はまだ起きていないようなので、手紙はそのままにして朝食の準備に取り掛かった。




今日は日直のため早めに登校し、職員室まで向かう。


担任から日誌を預かり、出ようとすると何やら一角が騒がしい。


目をその方向へ動かしてみる。


すると、学校一のイケメン教師と噂される十六夜(いざよい)が女子に囲まれていた。


キザで自分に酔っているので、男子と一部の女子からは『キザヨイ』と呼ばれている。


「先生~、先生は彼女いないんですかぁ?」


「今はいないよ。紹介してくれよ。」


「え~、じゃあ、私がなってあげますよぉ。」


「いいけど、卒業したらな。」


「キャー!」


自分も経験しているが側から見ると痛いにもほどがある。


あまりにもうるさいから他の教師も注意しに行っている。


「何よ、あのハゲ。」


「不衛生極まりないって感じ~。」


「まぁまぁ、話はまたあとで。今は教室に戻れ。な?」


「先生、今度LINE教えて下さいね~。」


「またね~。」


職員室を出る途中、俺と目が合う。


「あ、1年の真黒くんがこっち見てたんだけど!」


「マジ?ラッキーじゃん!」


「でもやっぱり年上が1番だよねー。」


「言えてる~。」


こそこそ言い合っていたようだが聞こえてるぞ。


さっさと退散しよう。



女はイケメンが好きなのか?



『私?私はイケメン好きでも嫌いでもないなー。』


放課後ビビりにメールで聞いてみると、こう返ってきた。


『私がアカシくんといるのは中身が気に入っているからであって、別に太っていようがチビだろうが、ハゲ散らかしているオッサンだろうが関係ないよ。』


それは言い過ぎじゃないか。


まだ成長期だと信じさせくれ。


こいつをそこらの女だと思っていたのが間違いだった。


そのあとビビりは、カラオケの仕事があるというのでメールに区切りをつけた。




夜6時。自宅。


母親との約束まで時間があるので、軽くシャワーを浴びた。


この季節になると汗がベタつくから嫌になる。


キッチンで経口補水液を飲み、リビングでテレビを付ける。


すると姉の帰宅。


「ただいまー。」


「んー。」


一応の返事。


「何よ、その返事。いつものことだけどさ。」


いつものことなら突っ込むなよ。


スマホをダラダラと眺めてみる。


「ふーん、イケメンだからって全部許される訳じゃないのねー。」


姉がつぶやいていたので何かと思いテレビを見ると、イケメン俳優の万引き疑惑を特集していた。


「そりゃあ、そうだろ。顔が良くても人間は平等だからな。」


「あんたも気をつけなさいよー?」


「どういう意味だよ。」


「別にー?」


この含みのある言い方が、あいつに似ていてムカつく。


「ところでさ。」


「ん?」


「最近あんた変わったよね。」


「どこが?」


「どこがって言われても困るんだけど、私に対する態度が前ほど攻撃的じゃないっていうか。最近あのチャットも見てない気がして。」


「まぁ、確かになぁ。」


「好きな人でもできた?というか恋人できた?」


「なんでそうなる?」


「なんとなく?」


あいつが出てくるからやめろ。


「友だちだよ、友だち。」


「ふーん。ま、いつでも紹介して。この優しいお姉さんが歓迎するからさ。」


紹介も何もそういう関係じゃねぇし、あんたより年上だし。


友だち、という位置が1番しっくりくる気がする。


俺が反応しなくなったのでつまらなくなったのか、姉は夕食の準備を始めた。



たまには手伝ってやるか。

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