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自己紹介

自宅に到着したときには夜8時を回っていた。


あいつは7時に見たいテレビがあるとかで、急いで帰っていった。


数時間前まで死のうとした奴が言うことじゃないだろう。


玄関のドアを開けて靴を脱ぐ。


すぐさま自室に入り、電気を付けて鞄を床へ無造作に置く。


制服を脱ぎ、部屋着に着替えるとベッドに腰掛けスマホを手に取った。


昨日までだったら、いつものチャットに愚痴を書き込むのだが、あいつからメールの通知が届いていた。


『家着いた?今暇?暇ならメール下さい。』


図々しい奴だ。


あんたのせいでこっちはクタクタなんだよ。


姉からのLINEだったら、既読スルーで間に合うがSMSにはその機能がない。


悩んでいるとノックの音がした。


「んー。」


昨日の二の舞にはなりたくないので一応返事をする。


ガチャリとドアが開くと姉が顔だけ出してきた。


「帰ってるんだったら『ただいま』くらい言いなさいよ。」


「はいはい。ただいま。」


「心のこもっていない『ただいま』だこと。ご飯作ってあるけど食べんの?」


「食べる。風呂は?」


「それくらい自分で用意しなさいよ。ご飯はコンロの鍋にあるから適当にどうぞ。」


面倒だが仕方ない。


姉は沈黙を肯定と捉えたのかため息をつく。


ドアを閉める直前、何かを思い出したかのように再び開けた。


「なんだよ。」


眉間にシワが寄る。


「今日はあのチャット見てないなんてめずらしいこともあるもんね。」


少し驚いたようにつぶやいた。


「だから勝手に見んなって!」


「ネットで愚痴を書き込みたくなる気持ちもわかるけど、現実の友だちを大事にしなさいよ。友だちは一生ものなんだからね。」


「へーへー。わかったよ。」


適当に相槌をうち左手をパタパタさせ『シッシッ』の動作をした。


「全くもう。」


姉はぶつくさ言いながらドアを閉めた。



『友だち』ねぇ……。


あいつが俺に持った興味は、どれくらいのものかはわからない。


だが目の前であんなことをされて、メールを無視するのも気が引ける。


たまに訪れる些細な気まぐれ。


「『飯と風呂済ませたらメールする。』……と。」


小声を出しながらメールを打ち、スマホをベッドに置いて部屋を出た。



夜9時。


俺はひと通りのことを終えて、自室に戻ってきた。


照明をブックライトに変え、スマホを持ちベッドに寝そべった。


またビビりからの通知があった。


俺が部屋から出たあとにすぐに送ったようだ。


『わかった!待ってるね!』


素直過ぎるだろう。


まぁ、いいか。


メールを打つ。


『済ませたけど。』


送信後ものの数秒で返信が来た。


さすがに驚く。


下手したらLINEより早いのではないか。


『おかえり!ねぇねぇ、私アカシ君のことをほとんど知らないから軽くお互い自己紹介しようよ!』


『別に構わねぇけど、寝ちまっても文句言うなよ?』


『え?なんで?普通おやすみって送るまで寝ないものでしょ?』


『あんたのせいだろうが!』


『まあまあ。じゃあ、名前は聞いたし歳は?私は21だよー。飲食店とカラオケのバイトしてます!』


おいおい、女は歳を気にするもんじゃないのか?


仕事は掛け持ちしてるのか。


ん?21?


姉貴より年上かよ。


外に出るときケバくなるあいつとは真逆で、化粧っ気がなかったから同年代かと思った。


年上だとしても18とか。


『高校1年の16』


『若いね!次は誕生日!私は7月7日です。七夕だよー。』


『ふーん。5月9日。 』


めずらしく間が空く。



『え!?ついこの間だったの!?プレゼントあげたいからまた会おうよ!』


なぜそういうことになる。


『結構だ。もうプレゼントって歳でもねぇからな。』


『ダメ!今回のお詫びに何かあげるくらい良いでしょ?』


『条件がある。食べ物は無し。酷い思いしたからな。』


『お安い御用だよ!いつにする?土曜日なら何時でも良いよ!』


こっちの都合は?


まぁ、確かに予定は空いているが。


話がひと区切りつきそうなり、あくびと共に急激な眠気が襲ってきた。


だが寝るわけにいかない。


『了解。じゃ、10時にあの公園で。』


『うん!今日は木曜だからあさってだね!楽しみにしててほしいな。』


別に楽しみではないが。


『はいはい。もう寝るぞ。』


スマホ画面の上部に設置してある時計を見ると、すでに10時を過ぎていた。


ブックライトを消す。


『そうだね!ゴメン。付き合ってもらっちゃって。おやすみ。』


一応人を気遣う心はあるらしい。


『おやすみ。』


そう送信した直後、大きなため息をついた。




今日1日でいろいろありすぎた。


謎の多い女だ。


明日、無事に起きられるだろうか。




そんなことを思いながら、俺はベッドに身を委ね、眠りへと意識を手放していった。

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