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燈(あかし)という男

「ゴメン。今は誰とも付き合うつもりはないんだ。」


俺はそう言って目の前の女子を見た。


同じクラスの……名前は……なんだっけ?


少しの沈黙のあと、彼女が涙目になりながら俯いてつぶやいた。


「大丈夫。ただ気持ちを伝えたかっただけだから。」


「本当にゴメンね。ありがとう。」


「ねぇ。1つだけ聞いてもいい?」


「何?」


「どうして真黒(まくろ)くんはモテるのに誰とも付き合わないの?」


「本当に好きになった人しか付き合いたくないからかな。」


俺は空を見た。オレンジに色づき始めている。


彼女が自嘲気味に笑う。


「そっか……。そうだよね。真黒くんは優しいから誰も傷つけないようにそうしてるんだよね。」


「まぁね。」


「でも真黒くんと付き合う人はどんなに素敵なのかな。学年中…いや、学校中の女子が嫉妬しちゃうかも。」


「そんなことないよ。それより君は早く次の人を見つけなよ。応援してるからさ。」


「うん。ありがとう!じゃあ、またね!」


そう言って彼女は駆け出した。


近くで友人が隠れていたようで、その中の1人に泣きついていた。


大丈夫だよ。頑張ったね。などと聞こえてくる。


俺は彼女…いや、あいつらから目線を外すと背を向けて校門へ向かった。歩いている途中でも俺を呼ぶ女子の黄色い声が耳につく。


適当に笑顔で手を振ればそれは歓声となり悶絶へ変化する。



「……チッ。」


周りに聞こえないよう舌打ちをする。



バカバカしい。





【---とあるチャット】



レッド:それでさぁ、今どき体育館裏で愛の告白だぜ?昭和かよ


ドーマー:わかるわかるwwwww


S:で?その女はかわいいん?


レッド:全然、名前も知らなかったわ


グンジ:うわwwwマジかwwwそりゃ辛かろうwwwww


レッド:風が強くて砂が目に入るわ、周りもジロジロ見るわ、恥さらしも良いとこだっつーの


S:言えてるwww俺も職場でLINE交換とかめんどくせーもん


グンジ:ま、ここだったら気にせず好きなように言えるから楽だよなぁ


レッド:女はマジでしんどいわ。傷の舐め合いするわ、感情で全てが成り立つって思ってそう


ドーマー:てゆうかそうだしwwwモテるやつは辛いねぇwww


レッド:まぁなwww


S:レッドはまだ青春真っ盛りの高校生だよな?あー、俺も戻りてー


グンジ:そんなこと言ってお前らは女子高生とイイコトしたいだけだろwwwww


ドーマー:おまわりさーん、こっちですよーwww


S:でもどうせなら若い方がいいだろ?www


グンジ:言えてるwwwww


ドーマー:あれ?レッド?聞いてるかー?


S:また姉貴か?


グンジ:姉貴だな




---


チャットから見慣れた自室に切り替わったとき、スマホを取り上げられたと気付くのにしばらくの時間を要した。


座っていたベッドから目線を上げると、仁王立ちした姉が目を三角にしてそこにいた。


見せつけるように舌打ちをする。


「……チッ。何だよ……。勝手に入んなよ。」


「ノックしてもいくら呼びかけても反応しないから、こうやってわざわざ来てやったんでしょうが!」


姉の声が頭に響く。


これなら女子高生の黄色い声の方がマシだ。


「つーか、携帯返せよ。」


立ち上がり手を伸ばす。


だが姉は背伸びをしてスマホを持った手を高々と上に挙げた。


身長171cmの俺と174cmの姉ではもう少しのところで手が届かない。


結果はわかりきっていてバカらしくなったのでベッドに腰掛ける。


(デカ女が……。)


口に出すと火に油を注ぐようなものなので、喉まで来た言葉をかろうじて飲み込む。


すると姉はいつの間にかチャットを読んでいた。


怒りに任せてスマホを奪い取る。


「いい加減返せ!」


「あんたねぇ、こういうことは中学で卒業しなさいって言ったでしょ。」


「ほっとけよ。」


姉が呆れた顔で溜め息混じりに言うので適当にあしらう。


確認してみると全員ログアウトしたようだ。


「あんた、中身と身長以外は完璧なんだからそろそろ彼女でも作って性格直したら?」


「男を取っ替え引っ替えする誰かさんのせいで、作る気がしねぇんだよ。」


「ふん。そんなんだとあんたいつまで経ってもど」


「てめぇ、ぶっとばされてぇのか!」


脅したつもりなのに涼しい顔。


それが更にイラ立たせる。


「…で?何の用だよ?」


「あんた宛に宅急便。代引きだからお金持ってきてって。」


「バカ!早く言えよ!」


受け取り日が今日だったことを思い出し、通学バッグから財布を取り出して急いで玄関に向かう。


「お金は貸さないからね!」


そう姉が叫んだ気がしたが構う暇はなかった。



どうしてこんな目に……。

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