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彼女が居るのに婚約者?

旭高校。


地元では中の上くらいの学力で、通っていればまぁまぁ勉強ができるのだろうと思われる程度の公立高校である。


その高校に通う生徒の1人が三波太郎である。


今時では逆に珍しい平凡な名前と同じく彼の教室での立ち位置は平凡なものである。


だが、決して悪いわけではない。むしろ居心地のいい立場にいる。


クラスでは目立つ存在ではないが、無視されるような存在ではない。何かあったら頼られるわけではないが、いないと違和感を持たれる程度の存在感はある。


友人はクラスに2~3人程度。だがそれは一緒に昼食を食べたり、遊んだりする友人のことで、大体のクラスメイトとは話す。体育の授業や班分けでも特に困ることは無い。


要はスクールカーストにおいて、トップを誇る「上」、それについで目立つ「中」、おとなしい「下」のどこにも属さないで、中と下の間くらいが彼の立場である。


「上」とはあまり関わらないが、「中」には多少知り合いがいるため、無視やいじめをされることはない。


直接カーストに属さないため、マイペースで日々を過ごし、下手に気を使わなくてもいいので気の合う友人とだけ過ごすある意味充実した毎日を過ごしていた。


「太郎、今大丈夫か?」


とある週末、太郎がのんびりと休日の午後を過ごしていると、父親が話しかけてきた。


「何だ父さん?」


「急で悪いんだが、明日予定を開けられるか?」


「別に俺は何もないけど、何の用事だ?」


「ああ、実は会ってほしい人がいるんだ」


「新しい使用人でも雇うのか?」


太郎が生まれた三波家は、彼の祖父が1代で築いたいわゆる資産家である。


祖父の三波四郎は、その功績を称えられて、地元に記念館があるほどの有名人で、ビジネスマンの中では割と有名である。


三波家はそのおかげで裕福であり、豪邸と言われる家に住んでいるため、使用人も少なからず居るのである。


「いや、お前に婚約の話があるから、会ってほしいんだ」


「は?」


ところが、太郎の予定に全く無いことを悠斗は言ってきた。


「喜多家のお嬢さんだ。年齢もお前と同じで、才色兼備なお嬢様だぞ」


悠斗は写真を太郎に見せた。


顔は可愛らしさが押し出される童顔だが、目鼻立ちは整いすぎるという表現が言い過ぎではないほど気品がある。

髪は日本人の黒髪ではなく、金髪というほどは明るくないが、つやつやと輝いている。


「な? こんな可愛い子が婚約者だぞ。明日頼めるか?」


「断る」


「ああ、じゃあ明日……、何断るだと!」


いい大人である悠斗が乗り突っ込みをするが、それも無理は無い。


太郎は基本的にイエスマンで、よほど太郎本人にとって面倒なことが無い限りは断ることはないし、婚約者こそ初めてだが、父親の頼みでどこかについていったりすることも拒否されたことは無かったためである。


「ああ、俺は婚約者と会うつもりはない。どうしてもというんなら兄貴を連れてけよ」


「あいつは駄目だ。あんな引きこもりはお嬢様に会わせられない」


「いいじゃんか。引きこもりだけど収入あるし」


太郎の兄の俊太は5歳年上の22歳だが、ずっと部屋に引きこもっている。しかしニートではなく、ネットを駆使して、自分の生活費くらいはきちんと稼いでおり、家にも入金をきちんとしている。引きこもりであること以外は何の問題もないのである。急に追い出されても生きてはいける。


「太郎だって、思うだろう。清楚で可憐なお嬢様が、いくら収入はあろうが、一見引きこもりニートの太った男なんて見たら、その場で帰ってしまうじゃないか。それに、今回はお嬢様がじきじきにお前を指名しているんだ」


「? 三波家じゃなくて、俺を指名してんのか?」


太郎は首をかしげた。


「ああ、だから頼めるか?」


「いや、断っておいてくれ」


「なぜだ! ここに来て反抗期なのか!」


「だって俺、彼女いるし。だから婚約は無理だって」


「は?」


今度は悠斗がぽかんとした。


「だからこの話はこれで終わりな。お嬢様に無駄足を踏ませるのも悪いし、ちゃんと断っておいてくれよ」


「いやちょっと待て! いつも受身で、イエスマンで、友人もそこまで多くないお前に彼女がどうしてできるんだ!」


「自分の息子に彼女がいて、その言い草はどうなんだよ……。まぁ、そういう空気になったから、告白したんだよ。それでOKもらったんだ、もう付き合って3ヶ月くらいになる」


「太郎! 頼むから明日お嬢様と会ってくれ!」


太郎が話を終えて立とうとすると、悠斗が太郎の腕をつかんで懇願してきた。


「なんでだ? この話はこれで終わりだろう」


「まずいんだよ。お嬢様にもう了承してしまっているから、断ることはできないんだ!」


「事情を話せば分かってくれるんじゃないのか?」


「喜多家のトップと、父さんは友人同士で、その関係で今回の婚約話が進んだんだ。父さんが既になくなっている今、喜多家の機嫌を損ねるようなことがあったら、関係を断絶されるかもしれない。頼む、俺には父さんほどの才能も人徳も無いんだ」


喜多家も三波家も十分な資産家だが、喜多家は代々続く資産家に対し、三波家はまだまだ新しい。特に、1代限りで築いた地位は、2代、3代と続けて初めて磐石になる。悠斗はがんばってはいたが、偉大な父親には及ばず、資金繰りなどに苦労していた。


今回の婚約話がまとまれば、喜多家と三波家の関係は深くなり、資金援助などの協力もしてもらいやすくなるということで、悠斗はこの話を受けたのである。


もし、太郎に彼女がいることを理由に1度了承したものを断れば、失礼なのはもちろん、自分の子供の序今日も理解していないということで、悠斗の評価が大きく落ちる可能性も高かった。


「別に無理なら無理でいいじゃん。できないことを無理にやらなくても。俺は公立高校にいってるし、貯金も多少あるからさ」


太郎は資産家の家の子供とは思えないほど倹約家で、あまり散在をしない。服装もこだわりが低く、公立高校を選んだのも学費はもちろん、家から自転車で通える距離だったからである。


「頼む、最悪婚約話は断ってもいい。別にお前に彼女がいるいないは別にしても、断る理由はあるだろうしな。だが、初めから無かったことにするのはちょっと体裁が悪い。だから、このとおりだ!」


「分かった分かった。会うだけな!」


父親に土下座までされそうになっては、基本的に善人の太郎が断ることはできない。


「いいのか。助かる、さすがイエスマン太郎だ」


「イエス=キリストみたいに言うな」


「ジョン万次郎のつもりだったんだが」


「どっちでもいいわ」


「じゃあ明日頼めるか」


「じゃあの意味が分からんが、仕方ないな。だけど、どうしても向こうが強引に来たら、俺は彼女がいることをばらすからな。今の俺にはお金よりもずっと大事な人ができたんだ。貧乏になろうが、俺は知らないからな」


「そこはちゃんと俺も横にいてフォローする。お前はとりあえず会ってくれればいいから」


こうして、彼女がいるのに、太郎はお見合いをせねばならなくなった。資産家って大変だ。






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