転生
本條が露店商から本とペンを買ってから半年の月日が経っていた。そしてついに・・・
「ふぅー、やっと出来たか。何だかんだでかなり時間かかったな。」
本條は椅子にもたれかかりながら一息をいれる。もう冷めてしまった珈琲を口にしながらやっと完成した物に目をむける。その顔に疲労があるが本條は少し笑顔でもある。
「まさか処女作で千ページ越えるとはヤバいな」
一人しかいない部屋でポツリと呟く。
「創ってみてわかったが本を創るのは難しく大変なんだな。今まで何も考えずに早く新しいのでろーなんて考えていたが、やっぱ創ってる人達はすごいな」
そう言いながら椅子に座ったまま伸びをしてため息を吐く。疲れてはいるが心地よい疲れとなっている。
「せっかく創ったんだし誰かに見せるか?でも誰に・・・」
本條は考えた。しかし、誰も見せる人が思い浮かばなかった。両親はすでに他界しており、友人と呼べる人もそんなに多くない。
「・・・大学を卒業してからは本ばかり読んでたからな」
そんな事を考えていると少し悲しくなってきた。
「ああ、そういえば露店はまだあるかな?」
この半年、仕事場と家の往復のみで過ごしてきた。時々買い物にはいっていたが最低限の外出しかしていないのだ。
「よし、とりあえずいってみるか。もしかしたらまだあるかもしれないしな」
そう思いながら本とペンを持ち、それに指輪をセットして車に乗り込み露店へと向かう。
「たしかこの辺だったよな?って、ヤバ!」
露店を探しながら運転していたため注意できていなかった。普通ならもっと早く分かっていたはずなのに道路に飛び出してきた猫に気付けなかった。急にハンドルを切ったせいでまともに運転できずに電信柱に衝突してしまった。
(やっちまったなぁ、足の骨が折れてるのかまったく力が入らない。ボンネットから煙が出てるしこのまま爆発したら死ぬかな?まあ本も書けたし
親、兄弟もいないしあんま未練ないかな。ホントそれなりの人生だったな)
そんな事を思いながら最後の時を待っているも一向にその時が来ない。なぜ?と思っていると上の方から声がかかる。
「やあ、調子はどうだい?ああ、目を開けて周りを見てみて」
その声に従い本條はゆっくりと目を開ける。すると目の前に不思議な格好をした少年?がいる。まるでピエロのような格好をしている。
「君は?」
「僕?僕はそうだね。君達に分かりやすく言うなら神様ってやつかな。」
「はぁ!神様、まじで?なんで俺の前に?」
「それはコレを見たいからかな。」
そういって神様?は本を持ち上げる。創世の本を!
「なんでその本の事を?」
「ふふふ、ある時はピエロの格好をした少年!またある時は露店商の店主、はたしてその実態は・・・」
「いや、神様なんでしょ。さっき聞きましたし」
「いや、確かに神なんだけどこうせっかく名乗りをしているんだからちょっとは空気を読んでくれないか?」
「えっ、あぁごめんなさい」
なぜか謝ってしまった。いや別に自分が悪いわけではないはずなのに・・・
「こほん、ところで体の調子はどうだい。まあ、死んでるから調子もないと思うけど」
「・・・やっぱ死んだのか・・・」
「あれ、おどろかないんだ?予想外だね」
「まぁ、最後に覚えている状態から助かるとは思えないからな」
「なるほどねぇ~、ところで君はこれからどうしたいんだい?」
「どうとは?」
「こほん。君に与えられた選択肢は2つある」
「2つもあるのか!」
「ああ、1つはこのまま死後の世界にいって輪廻転生をするか・・・」
「あと1つは?」
「この本の世界に転生するか」
「創世の本の世界?」
「ああ、君が創造した世界だ。この本を買った時に言ったよね、この本は創世の本だと。あれは比喩ではなく本当に新しい世界を創っているんだ」
「しかし、俺は物語を創っただけだが?」
「その物語を中心に新しい世界が出来ているんだよ」
「・・・俺が創った世界が・・・」
「どうやら決心しているみたいだけど君の口から聞こう。どちらの選択肢を選ぶ?」
本條は迷うことなく1つの答えを述べた。
「この本の世界に転生させてくれ」
「OK、君ならそう答えると思っていたよ。では次の選択肢を選んでくれ。それが君の運命となる。もちろん選び直しは出来ないから慎重に選んでくれよ」
「・・・分かった」
「ではまず1つ目は、今からこの本の世界に転生するのだけど君の考えたシナリオ通りに進むか、それとも新たなシナリオにする?君の考えたシナリオなら起こる事は大体分かった状態でスタートできる。まあ未来の事が分かるから行動がしやすくなるかな?ただし大きな事柄だけだけどね。小さな事は君の行動によって変わっちゃうから。対して新たなシナリオは本当に未知だ。キャラクターなどは変わらないけど日々変化が生じるから未来が予測できないんだ」
「なるほど。・・・なら俺は新たなシナリオにするよ」
「そっちだと本当に未知だよ?またすぐに死んじゃうかもよ?」
「かもな。ただ新しい事が少ない世界があんまり面白そうに思えないんだ。ほら本だって先に結末がわかってると楽しさが半減してしまう。未知ゆえに楽しみがあると思うんだ。それに俺はこの本の世界に誰より詳しい。それだけでも大きなアドバンテージだと思うしな」
「ふむふむ、では次。君は正義と悪どちらにする?」
「・・・せっかく俺が創った世界だ。その世界を守るためなら正義でも悪にでもなる。だからどちらかは決められないな」
「なるほど。それはもっともだ。ではこれは保留っと」
「それでいいのか?」
「まあ、本音をいえばどちらか決めて欲しいけど君の言い分も分かるからね。だから保留。ただいつかはどっちか決めてもらうよ」
「わかった」
その後も神様と細かな設定について話をし、ついに転生する時が来た。
「ではこの設定で転生するよ。転生先はこの本の主人公に、時間帯は物語の初めから。その他もろもろはさっき決めた通りでいいね?」
「ああ」
「ではいくよ。新しい人生悔いのないようにね?ああ、それと僕からのプレゼントを2つ用意しといたよ」
「プレゼント?それはいったい?」
「それは向こうに着いてからのお楽しみ。では、いくよ」
「ああ、っとそうだ。ありがとう神様。こんな楽しい事やってくれて」
本條は神様に笑顔でお礼を述べた。それに対して神様はなんか困ったような笑顔を向けながら呟く。
「お礼はいらないよ。まだ楽しいかどうか分からないしね」
「えっ、どういう事?」
「おっともう時間だね。では良い人生を・・・」
そういうと本條の魂が本の中に吸い込まれ始める
「ちょ、まだ話が・・・」
本條の魂が完全に本の中に吸い込まれ神様一人がこの空間に残った
「新たな世界に一筋の風が送られた。世界はどうかわるか。楽しませてもらうよ本條君」