1話 神官少女
高い石塀で護られた王都には、10万を越える人々が安全に暮らしている。この中に住むには、身分の保証と少なくない税金を毎年収めないといけない。中に入るにも通行税をとられる。金の亡者の国だと勘違いされそうだが、盗賊や間者が入り込まないようにしているのだ。どこの国でも行われているごく普通の対策だ。
王都の周辺には、国が認めた町や村意外の集落がいくつか存在していた。もともと、たいしたお金を持たない者達が寄り集まったいた。初めは数家族の集まりだったが、いつしか人口が増え、小さな町ともいえる規模にまで発達していった。
こうした貧乏な集落は、わずかながらの税を納めることと、多少の無理難題を受け入れることで、国からのお目こぼしをもらっている。
「おばさん、おはようっ」
「元気だねダルシー。神官の修行は終わったのかい?」
「うん。みんなを救う神官になるためには、いろいろと覚えることがあるんだ」
「そう、夢が叶うといいね」
ダルシー・ハートレットは孤児。この集落の神官に育てられた女の子だ。
育て親のような立派な神官になるのが夢で、いつも勉強している。
魔法の素養がなければ、怪我を治せる神官にはなれない。それどころか修行をするための試験さえ受けられない。
ダルシーには魔法の素養がない。それでもいつかは自分も神官になって人助けをするのだと、自己流の勝手な修業を続けている。背中のリュックには自己流修行の道具が満載だ。
美味しそうな匂いがしてくる露天の並ぶ道を歩いていく。簡素な天幕と板で作られた店店もまわりには、朝食代わりの食べ物を求める客が行き来していた。道のホコリを抑えるため、打ち水をしている店番もいる。
いつも手伝っている「ジョルジョの店」は、このもうすこし先だが、なにか人だかりができている。よくみかけるおじさんに声をかけた。
「おじさん、どうしたの?」
「おはようさん、ダルシー。よくある行き倒れだが……変わっている」
またか。
ダルシーは心を傷める。
貧しい人々が暮らす集落だけに、行き倒れは珍しくない。しかし、神官になってみんなを救ってみせると願う彼女にとって、決して見過ごせることではない。
「どいてっ」
人ごみを掻き分けて前へと出る。知り合いや顔なじみが多く、彼女をみるとみんな避けてくれた。またかという顔をしているが。
その行き倒れは、たしかに変わっていた。少ない荷物を枕にして、横に倒れているというより居眠りしている感じだ。歳のころは13歳くらい。ダルシーよりも2~3歳ほど年下にみえた。魔法使いのようなローブを着ているが、体中ホコリっぽく、頭から足まで真っ白けになっている。
なによりも、少年(と思う)の前、地面に書いてある文字がおかしかった。
『めしくれ』『なんでも叶える』
人だかりが多かったのは、その文字が理由だった。堪えきれない様子で、口々にしゃべりだす。
「な、なんでも叶える だとよ」
「てめぇのすきっ腹を叶えろよ」
「め、メシを出して自分で食えばよかっただろう、死ぬ前にな」
ぷ……ふふっ
わっ~はっはっはっは~!
周囲から嘲笑がおこった。見世物でも見るように、一通り面白おかしくののしっては、それぞれの用事へと急ぐ去っていく。その笑いを聞いて別の野次馬が集まってくる。これが、人ごみのの途絶えない理由だった。娯楽のすくない貧民地域だけにしばらく話題になるだろう。
「ん……。」
そのとき、わずかに息を吐いて、行き倒れが身を起した。
死体だと思っていた存在が動いたことに、集まっていた人々が目をぱちくりさせる。
「キミ、生きてるの?」
行き倒れ改め、死にそうな少年は、こっくりとダルシーにうなずいた。
「わたしが、助けてあげる。立ち上がれるかな?」
また、こっくりと首を縦にふる。
少年は、ダルシーがさしだした手を意外としっかり握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。




