プロローグ
かつて、魔王を倒すために使われ、退治の成功とともに封印された魔法があった。
呪文や方法はその一切が残っていないが、魔法を使ったとされる魔導師の言葉だけは伝わっている。
曰く――
この魔法は劇薬である。
多様するは世界に災いをもたらす。
使われることなき様永久に封印する。
その魔法の名前は「勇者召喚魔法」
三百年の時が流れた。
とある小国では、古に廃れた魔法を復活させる研究がなされていた。成功の見込みはない。周辺国はそう楽観していたが、事態は急変する。
勇者召喚魔法が復活したという報告がもたらされたのだ。
隣接する国は青ざめるが、報せはそれだけではなかった。その小国は崩壊してしまったという。
「国が消え去るなと、ありえぬ。どういうことなのだ!」
オトキヤレの国王も、大臣に情報を集めさせる。
「わかりませぬ。人も建物も跡形もなく吹き飛びました。その中には我が方の間者も…」
「誰でもよい、知っておるものをさがしだせ!」
すぐさま、四方に使いが放たれるが、詳しい情報は入ってこない。しかし、国の内外を手分けして、方々探し周ったおかげで、どうにか一人の商人をみつけることができた。亡国から辛くも脱出できた旅商人は、その王家にも出入りしていたと言った。
王は、旅商人を直に問い詰める。
「そちの知っておることを話せ。ほうびはとらすぞ」
「ははっ、これは聞いた話でございますが、彼の国は勇者召喚に成功したのでごさいます。しかもその勇者は、人間を魔法使い変える力をもっていたのでごさいます」
「な、なんと!!」
魔法使いは、生まれながらに魔法使いである。誰の中にも魔力は宿るとい割れているが、魔法として行使できる者は限られる。まれに、修行で獲得する者もいるが、それがこの世界の常識だ。魔法使いは、希少な存在なのだ。
「かの王は魔法使いになりたがっておっからの。さぞかし喜んだであろう。して、国を滅ぼしたのはその勇者とやらか」
「おそらくは……」
眉を寄せた大臣が、重々しく口を開いた。
「国王さま、これは由々しき事態でござる。この話が市井に広がるのは危険と進言いたします」
「そうさな。商人よ、その召還された勇者とやら特徴は聞いておるか?」
「はい。黒髪の少年。とだけ聞き及んでおります」
「ほう。黒い色の髪とはめずらしい。みつけるのは容易いよな。あいわかった。もうよい」
国王の言葉をうけ大臣は、後ろに並び従っていた衛兵へ指示をだす。
「この男をひっとらえよ。誰とも話をさせるなよ」
「は、話が違うではありませんかっ!」
衛兵たちに掴まれて、商人は地下牢へ連行されていった。
静かになったところで、王と大臣が話しを続ける。
「人間を魔法使いにする力か。上手く手なづけて使えれば、戦力を底上げできるよな」
「されど、国が滅ぶ危険もあります」
「勇者召喚魔法は諸刃の剣とか? 先人の魔導師が封印したのは正き行いだったわけだ」
「いかがなされます?」
「今が平和な世であるとはいえ、他国に渡るのは面白くない。我が国に置いておきたいものだな。見つけて連れてまいれ。宮廷魔法使いを此処へ、話しを聞きたくなった」
「直ちに」
大臣は顔を下げてニヤリと笑う。
国王の命を受け、黒髪の勇者の捜索が開始された。