Session 2013
・・・さて、とりあえず同窓会で再会した徹と信吾と、高校時代にやってたバンドを再開する事になった。
当時のメンバーでバンドの中心的存在だった祥二は徹が誘う事に、そしてもう一人バンドの紅一点、現在の俺の妻である陽子は当然俺が誘う事になった。
確か高校時代も俺が陽子を誘う役だったな?
・・・何?このデジャヴ。
それは良いが、今回はあの時以上に勝算が全く無い。
二人には悪いが断言しよう、きっと断られるに決まってる。
断られる台詞もだいたい予想出来る。
「主婦は24時間、年中無休なんですけど?バンドなんてやって遊んでる暇無いわよ!」
多分こんな感じだ。
・・・考えると胃が軽くキリッと痛くなってきた。
多分、呑みすぎのせいではない。
「ただいまー。」
自宅マンションに着き、玄関を開ける。
「お帰りー。あら?顔色悪いわよ?」
陽子がキッチンから出て来て出迎えてくれた。
「同窓会はどうだった?」
やっぱり気にはなるんだな。
「あー、楽しかったよ。みんなも元気そうだった。先生も。もう引退して、生徒の代わりにお孫さんのお守りに情熱燃やしてるって。」
「へー、そっかー。みんなに会いたかったなー。」
何だよ?行きたかったのか?
「あー、みんなもお前に会いたかったって言ってたぞ。」
「美空も来てた?」
「ああ、一番お前に会いたがってたぞ。」
「じゃあ、次回はあなたがお留守番ね?決定!」
次回やる頃にはいい加減、樹莉亜も大人になってるだろうから、二人で参加出来るだろうが。
「て言うか、楽しんできた割に何か浮かない顔なのは何でよ?」
えーっと、俺のタイミングで言わせてくれないのか?
頭の中で何て言ったら良いか、まだ整理出来てないんですけど?
「えーっと、だねえ・・・。」
「うん。」
「まあ、その何だ・・・。」
「何よ?歯切れ悪いわね!」
・・・怒られた。
・・・本題言う前に怒られた。
「・・・実はさ、・・・信吾と徹が来ててさ。」
「あら、やだ。あなたも合わせて三馬鹿トリオね!」
「・・・まあ、その三馬鹿と蕪島でさー、最近どうよ?みたいな話をしてたのよ。」
「ふんふん。」
「で、俺が最近ちょっとつまんねえなーって言ったら、」
「えーっ!つまらないの?美しい妻と可愛い娘に囲まれる生活が?つまらないの?」
「いや、それは超楽しいんだけどね。」
「嘘ーっ、心がこもってないー!」
・・・本題に入れない。
「仕事とか生活のサイクルが単純すぎてって話だよ。まあ、そんな事言ってたら、徹が久しぶりにバンドやってみないか?って。」
「要は毎日同じ味の食事を出されて、飽きたからちょっと味を変えられそうな調味料を振りかけたいってことね?で、その調味料がバンドなわけね?」
さすが、主婦。美味い、じゃなくて上手い例えだ。
「そうそうそうそう、まさしくそれ!いきなり料理を全取っ替えは出来ないじゃん?」
「・・・まあ、話の趣旨はわかったわ。良いんじゃない?やれば。いちいちその許可を私に取りたかったの?」
「いや、そう言うわけじゃないんだけど。その、陽子もメンバーだったろ?だからどうかな?って。」
「アハハハ、私が?バンド?」
笑い出した。こりゃ脈ありか?
「・・・うん。」
陽子が腕組みをし、笑い顔から一変、神妙な表情になって
「主婦は24時間、年中無休なんですけど?バンドなんてやって遊んでる暇無いわよ!」
ほーらね?大正解。
しかも一字一句違わず、完璧な回答じゃないか。
「えーっと、やっぱり?・・・やらない?」
「やっぱりって何よ?そりゃそうでしょ。・・・まあでも、あなたはやっても良いんじゃないの?それにキーボードの私がいなくてもバンドは成り立つでしょ?祥二君さえいれば」
「いや、実はまだ祥二もわかんないんだ。徹が誘う事になってるんだけど。」
陽子が驚いたような表情で
「祥二君もやれるかどうかわからないの?そっちの方が私より重要じゃないのよ。」
「・・・そうだな。」
「アハハハ、三馬鹿だけじゃコミックバンドね。でも始めてもまたすぐバンマスが飽きてやめちゃうんじゃないの?あの時みたいに。」
うっ!ありえないとは言い切れないなあ。
・・・あの時ねえ。