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STAGE  作者: 今野 英樹
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Rest in peace 2013

何でも無いド平日に、その訃報は舞い込んだ。

亡くなったのは同業他社の、俺より3歳年上の営業マン。

年は俺より上だが、中途で車のディーラーから転職して来たってんで、年下の俺にも腰の低い物腰の柔らかな人だった。

仕事の話以外では、よく車の話なんかしたりしてたよな。

確か一昨年癌で入院したって話は聞いてその後復帰はしていたが、完治にまでは到らなかったんだろうな。

世間的にはまだまだ死ぬには早い若い世代だよな。

上司から俺に通夜に参列する様に指示を受けた。

まあ、社内で一番彼と交流があったのは俺だし、こう言う言い方もナンだが、格的にも俺が適任だろうな。

次の日の通夜当日、喪服を持って陽子には晩飯がいらないことを告げて出社した。

定時になると

「じゃあ、頼むな。」

と言う上司の言葉を背に受け、喪服に着替え総務課から受け取った香典袋を懐へ忍ばせ、会社を後にする。

ごく当たり前な、事務的な作業だ。


毎日の通勤、家とは逆方向へ向かう電車に乗る。

俺の日常に馴染みの無い、あまり見慣れない景色が窓の外を流れる。

ちょっと新鮮な光景だ。

一時間弱ほど電車に揺られて、全く俺の生活とは縁の薄い某駅へと降り立つ。

広々とした駅のロータリーを見回すと、俺の日常とは恐らく触れ合わないであろう人々が行き交う。

でも、彼はここで日常を過ごしてたんだな。


駅からほど近いセレモニーホールへ歩き、故人の名前が書かれた看板を見つけ中へ入る。

すると、廊下脇にズラッと置かれた台に故人の所有物や、コルクボードに写真等が無数貼られて展示されている。

まず、そのあまり普通の葬祭では見慣れない、幾分ライトな光景を眼にして

「へー?」

ってな感じになった。

写真を見ると、彼と奥さんらしい女性が旅行に行ってる写真であるとか、バイクも好きだったのかな?外国の大型バイクにまたがる写真、また学生時代の写真なんかが並べられていた。

・・・彼らしい優しい良い笑顔だ。

ちょっと早く着いたので、行き会った顔見知り数人と挨拶をし雑談をしていると、ホールの案内の方が

「よろしければ、お線香をあげていただけますよ。」

と声を掛けてくれたので、早々に几帳を済ませて式場に入る。

すると、まず目に飛び込んだのはシンプルな祭壇の脇にさっきの写真に写っていた、大型のバイクと、ライダースーツを着てヘルメットを被ったマネキンが鎮座している。

これまで幾度か葬祭には参列してきたが、こんな通夜の会場は見たことが無かった。

そして祭壇の前には蓋が無い状態でお棺が置かれていて、故人の全身が見える状態になっていた。

恐る恐るお棺をのぞき込むと、穏やかな、しかし当然と言えば当然だが、血の気の無い顔色の彼がそこには横たわっていた。

奥の席には写真に写っていた彼の奥さんらしき女性と、親御さんらしきお年頃のご夫婦が座っており、俺達に向かって会釈をする。

俺達も慌てて会釈をし、また彼の顔に視線を注ぐ。

自分より子供が先に亡くなるってどんな気持ちなんだろうか?

もしだよ、もしも俺より先に樹莉亜が亡くなることがあったら、俺は多分、いや絶対気が狂うだろう。

・・・いやいやいやいや、想像でもそんな事は絶対あっちゃいけない。絶対。

しかしこう言っちゃナンだが、自虐的に彼にはお子さんがいらっしゃらないって話をよくしていた。

それがせめてもの救いだったのかな?

でも、亡くなるには若すぎるよな。

これだけ医学が進歩した世の中でも、若い世代の癌ってのは進行が早くて難しいって聞くよな。

退院した後、俺達には何も無い顔をしていたが、確実に身体を蝕まれていたんだろうな。


・・・やがて、式が始まると喪主である奥さんが挨拶をされて、その口から"自由葬"と言う聞き慣れない単語を耳にする。

つい隣に座った知り合いにボソッと「聞いたことある?」

とたずねると、その知人も首を横に振る。

その後、坊さんが来て読経するでも無く、ヒーリングミュージックをBGMに焼香が始まった。

焼香はまあ通常通りだが、きっと普段宗教的なことを気にしてない俺ら世代だと、こう言う葬祭がふさわしいのかも知れないね。

もう20年ぐらい昔、俺の爺ちゃんとか婆ちゃんが亡くなった時は、普段宗教云々を語らない親父の口から

「うちは◯◯宗なんだよ。」

と聞かされて、驚いたっけな。

俺的に宗教っていうのは、日々迷う人間の心のより所の一端なんだと思う。

そう、それが宗教だったり、俺にとってはロックだったりと、それぞれの精神の置き場の位置だと常々思っているんだ。

まあ、今はそんな事はどうでも良い、彼の冥福を心から祈ろう。

焼香を終え通夜振舞いを軽く口にし、会場を後にした。


すっかり暗くなった街を歩きながらボンヤリと、俺はいつまで生きていられるんだろう?どんな死に方をするんだろう?とか考え出した。

例えば樹莉亜が嫁に行ってからだと、俺と陽子が二人きりになるよな。

それで、陽子が先に死んじまったら、俺が独りぼっちになる。

いや、独りぼっちで生きるのは嫌だから、陽子より先に死にたいなとか。

・・・でも、そうすると陽子が独りぼっちになっちゃうのか?

それも気の毒だよな?

・・・うーん、どうしたら良いんだ?

・・・。

・・・・・。

・・・・・・・うん、とりあえず今は死ぬことなんか考えずに、生きることだけを考えよう。

命が続く限り、愛する家族に目一杯の愛情を注ぎ、心を許せる仲間と、心躍るロックンロールと共に、バカみたいに生きよう。

それがきっと俺らしい生き方なんだ!

・・・きっとね。

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