Jumble Jungle 2013
さて、祥二の自宅兼店舗がある商店街と、その隣町の商店街との合同フェスが半年後開催される事になった。
まあ、そこまでの話なら俺なんかは全く関わりにならない別世界の話だったんだが、その場でバンドのライブを開催しようって案を祥二がつい口走り、俺達The Namelessが演奏するハメになった。
ただ、俺達だけじゃ全くもって心許ないので、顔見知りになったバンドとかSTUDIO AIRのオーナーの知り合いのバンドで協力してくれるバンドを募ることにした。
その1回目の会合って言うか、まあ顔合わせがSTUDIO AIRで行われる。
とりあえず今日は発起人の祥二と、都合が付いた俺が顔を出すことになった。
「こんにちはー。」
待ち合わせの約束時間のちょっと前に、STUDIO AIRの待合室に入ると、オーナーと見たところ同年代の60代ぐらいの初老の男性二人が座って談笑していた。
「あら、針須君、蓮野君いらっっしゃい!・・・まあ、こっち座って。」
「あ、はい、失礼しまーす。」
俺達が促されるまま、会釈をしながらソファーに座ると
「井柳村さん、こちらが今回のお話をくれた、The Namelessの針須君と蓮野君よ。・・・こちらの渋いロマンスグレーの方々が真っ先に手をあげて下さった、The Adventuresの井柳村さんと江戸和さんよ。」
と、相互に紹介してくれた。
すると祥二が緊張した面持ちで
「初めまして、えっとThe Namelessのベースやってます針須です。・・・こちらはボーカルの蓮野です。この度はご協力いただけるそうで、ありがとうございます。」
すると、紹介された井柳村さんが江戸和さんと顔を見合わせ笑いながら
「いえいえ、・・・逆に良いんですかね?こんな爺さんのバンドで。」
祥二が恐縮したように苦笑いしながら
「・・・町内会の催しなもんですから、幅広い年代の方に参加していただけると助かります。・・・どんなジャンルの曲をやられてるんですか?」
すると井柳村さんも照れたような笑顔で
「もう我々はバンド名もそのまんまなんですけどね、The Venturesのコピーをやってるんですよ。」
・・・確かに、そのまんまですね。
でもね、俺達のバンド名The Namelessの由来は「名無し」なんですよ。
何だかんだ言って古今東西バンド名って、中二病の最たる物なんじゃないんかな?
すると、それまでいつものように若干もじもじしていた祥二が目を輝かせて
「The Venturesですか!格好いいですよね!」
と、急にスイッチが入ったかのように、俺なんかそっちのけで井柳村さんと江戸和さんとThe Ventures談義で盛り上がる。
相変わらず音楽のことになると、人が変わるんだよな。
それにしても、こないだのライブでは俺達が最年長で、何となく肩身が狭かったが、俺達より年上がいるなんて根拠は無いが心強い。
すると俺達の背後で待合室のドアがソーッと開き、誰か数人が恐る恐る顔を覗かせた気配がした。
フッとその気配がする方を振り返ると、ドアから顔を覗かせてる20代前半ぐらいの女の子3人と目が合った。
何となく俺が
「こんにちは。」
と、挨拶をすると向こうもオドオドしながら
「・・・あ、こ、こんにちは。」
と、挨拶を返してくれつつも3人で顔を見合わせている。
するとオーナーが
「あら、そんな所で突っ立ってないで入ってらっしゃいよ!」
と、呼び込むと、女の子達はオーナーに駆け寄り抱きついている。
その不思議な光景に、オーナー以外の男性陣は目を丸くして凝視していた。
オーナーはその女の子達の頭を撫でながら
「ほらほら、ご挨拶なさい。・・・この娘達はMissますからずって女の子ちゃんのバンドのメンバーなのよ、よろしくねーっ!」
「・・・ミル・マスカラス?」
俺がふとつぶやくと、オーナーが手を組んで嬉しそうに
「そう!流石に蓮野君世代は知ってるわよねぇーっ?・・・この娘達がバンド名が決められないって悩んでて私に相談してきた時、化粧品の名前が入ったバンド名にしたいって言うから、私がふと思い付いた駄洒落を冗談半分で提案したの!」
「・・・はあ。」
普通に駄洒落ですよね?親父ギャグ?
「そしたら、この娘達が予想外に気に入っちゃってね。・・・誤解があるといけないから、ちゃんと説明したのよ?昭和の時代のカリスマ的な覆面プロレスラーの名前の駄洒落よって。・・・そしたら尚更感動しちゃってね。それまではちょっと人見知りだったこの娘達も、それからはこんな風に私にはなつくようになってね。」
「へぇー。」
俺達おじさん世代は羨望も入りつつ感心しきりだ。
それから彼女たちは俺達には軽く引き気味ではあったが、お互いに挨拶と自己紹介を交わす。
昔ながら奇妙には感じていたが、オーナーは性別を超えてるんだなあ。
本当につかみ所の全く無い、不思議な人物だ。
・・・と、
「ちわーっす!」
今度は遠慮が無く派手に待合室のドアが開かれる。
全員の視線がそちらに注がれると、見た記憶がある赤と青の髪の派手な格好の少年2人。
DEATH BOYSのボーカルの雷堂とベースの菱安だ。
しかし、何でこの少年達はただの打ち合わせの場に、フルメイクに派手な衣装で現れたんだろう?
普段着ってものを持ってないの?
そして彼らは俺と祥二の顔を見つけると
「針須さん!蓮野さん!お久しぶりっす!今日は松ヶ谷さんと、・・・そのレイラちゃんはいらっしゃってないんですか?」
・・・徹はついでだろ?
って言うか、こないだのライブ前とは180°態度が違うな。
こないだのライブ前までは、俺達をうざいおっさん達と思っていたんだろう、敵意を持った眼で俺達を見ていた。
それが、アクシデントでライブに来れなかったベースの菱安の代役を祥二がつとめ、空いた穴を埋めてありあまるプレイで助けたんだ。
唯一ビビって心を開けなかった徹にも、ライブを見に来てたレイラちゃんがきっかけで態度を急変したんだよな。
でもさ多分よ、多分だけど、レイラちゃん8割、祥二1.5割、その他0.5割のリスペク度じゃないのかな?多分だけど。
「よう!こんちわ!・・・レイラちゃんと俺達がいつも一緒にいるわけじゃ無いよ。来てるわけないじゃん。」
俺が笑って突っ込むと、雷堂が赤い頭を掻きながら
「・・・ですよねーっ?いや、もしかしたらまた逢えるんじゃないかと。」
全員がどっと笑う。
・・・いや、全員じゃ無い。
いつの間に入って来ていたのか、痩せた黒ずくめの一人の青年が静かに座っていた。
俺と同時に庄司もその存在に気づき声を掛ける。
「やあ、君も参加してくれるメンバーかな?」
すると青年はこちらも見ずにボソッと
「・・・ええ、誘っていただいたんで。」
と、蚊の鳴くような小さな声でつぶやく。
すると、オーナーが
「私もよく知らない子なんだけど、隣町のライブハウスのご主人から紹介されたのよーっ!何か面白い音楽やってる子がいるって。・・・そうよね?」
とたずねると、やっとこちらに視線を向けたと思ったら、すぐ下を向き
「僕は・・・ネタニマジレスカッコワルイって名前で活動しています。・・・よろしくお願いします。」
祥二が苦笑いしながら
「そう、変わったバンド名だね?・・・君のバンドメンバーは何人なの?」
「・・・えっ?いえ、僕一人です。・・・ああ、メンバーとはちょっと違いますけど、相棒はここにいますよ。」
と言うと、バッグからゴソゴソとノート大の物体を取り出した。
・・・タブレットPCってヤツか?
って一人なのにネタに何とかってそんな名前でやってるんだ?
・・・確かに面白い子かも。
と、取り出したPCを開いて慣れた手つきで操作すると、PCからダンスミュージックっぽい音楽と、機械的な女の子の声が流れ出す。
祥二が興味津々な顔で
「これはDTMってヤツだね?その声は・・・ボーカロイドって言ったっけ?」
「・・・ええ、そうです。」
The Adventuresの井柳村さんが物珍しそうに
「へぇーっ!最近の若い子は凄いねー。一人でこんな事も出来ちゃうんだね?でも、バンドで仲間と一緒に演奏するのも楽しいもんだよ。」
と優しく言うと、ネタに何とかくんはちょっとムッとしたように
「でも、人間は失敗をするじゃないですか?その点機械でしたら打ち込みさえ間違ってなければ、絶対失敗しませんからね。それに人間は限界がありますよね?機械なら人間の限界を超えた演奏も出来るんですよ。」
そう冷たい口調で言われて、井柳村さんはたじたじと黙ってしまった。
すると、青い髪の菱安が
「んなもん、失敗したって良いじゃねえか?それも味ってもんだろうよ?」
うん、君はスコアを無視して味で演奏するタイプだったよね?
「君達はそれでも良いかもしれませんが、僕は嫌なんですよ。完璧に音楽を表現したいんですよ。・・・チャラチャラと格好だけで音楽やってそうな君達にはわからないでしょうけど?」
雷堂と菱安が血相を変えて立ち上がる。
「な、何だとっ!?」
そこへ祥二が穏やかに割って入る。
「まあまあ、落ち着いて落ち着いて。みんなそれぞれ好きな音楽を、自由にやれば良いんじゃない?ねっ?せっかくだから仲良くやろうよ。・・・じゃあ、簡単に説明させてもらいます。」
祥二にそう言われ、雷堂と菱安渋々と腰を下ろす。
・・・徹がこの場にいなくて良かったなあ。
きっともっと場が荒れたに違いない。
しかしなあ、初回の顔合わせでこんなトラブルになるなんて、先が思いやられるなあ。




