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STAGE  作者: 今野 英樹
31/44

Before After 2013

俺達が満場の拍手を背に、あふれる高揚感を必死に抑えながらステージを下りると、控え室にDEATH BOYSが待機していた。

確か俺達の次の次ぐらいの順番だったな。

汗を拭きながら祥二が心配そうにたずねる。

「ベースの菱安君は来たのかい?」

アカレンジャーの雷堂が

「まだ来ないんです。連絡も無いし・・・クソ、あいつ一体どうしちまったんだよ!」

他のメンバーも狼狽する。

普段は生意気な態度だが、そんな悪ガキも今は影を潜めて、絶望に打ちひしがれたただの少年達がいる。髪色はただ事じゃ無いが。

「・・・しょうがない、あいつ抜きじゃどうしようも無い。・・・出場を辞退して来よう。」

DEATH BOYS達が首をうなだれて踵を返そうとした時、ちょっと思案顔だった祥二がにっこりと微笑みながら、雷堂に

「じゃあ俺が代わりにベース弾いてあげようか?スコアはあるよね?」

「えっ?」

そこにいた全員が驚く。

リーダーの雷堂が慌てて

「・・・いや、その・・・俺達の事嫌ってるんじゃないんですか?そんな俺達を助けてくれるんですか?」

祥二が笑いながら

「嫌ってるって誰が?同じスタジオで練習してる仲間じゃない。って、ライブには出たいんだろ?彼の事も心配だろうけど、ここまで来たら代役立てるしか無いだろう?」

嫌ってるのは、多分陽子と徹だ。

雷堂がもじもじしながら悩んでいるようだ

「・・・そうですね、・・・ただ・・・ヴィジュアル的に。」

徹が言葉を遮るように

「何だとてめえら!!祥二のせっかくの申し出をちっせえおっさんだから断るって言うのか!?・・・祥二、こんなガキども助けてやる事ねえよ!行こうぜ!」

・・・徹よ、お前が今一番酷い事を言ったぞ。

「え、いや、そんな・・・。」

雷堂が慌てる。

それを見て祥二が苦笑いしながら

「もし俺の姿が見えるとマズいなら、ドラムの陰で後ろ向きに座って弾いてれば目立たないだろ?俺もスコア見ながら弾かなくちゃいけないから、その方が都合良いよ。」

「・・・はい!よろしくお願いします!」

雷堂以下DEATH BOYS達が、半べそをかきながら殊勝にカラフルな頭を下げる。

「ケッ!祥二はお人好しだな。」

徹が皮肉っぽく笑うと、それまで黙って見てた信吾が

「そんな祥二だから、お前も俺達もずっとツルんでるんだろ?」

「・・・まあな。」

お互い顔を見合わせて笑う。

徹がせせら笑いながら

「しゃあねえ、祥二は貸してやっからよ!ちゃんと恩は倍返ししろよ?てめえら。」

「・・・・・。」

・・・何か言いたそうな表情はしてるが、何も言わない。

どうしてもこの子達は、徹には心を開けないようだ。

これまで接してきて感じたが、この子達は格好や態度こそ悪ぶってるが、実は小心者の普通の子達なんだなと。

そこへ来てゴリゴリのヤンキーだった徹みたいなタイプは、張りぼての悪ガキ君達の最大の天敵なんだろうな?きっと。

「じゃあ、スコア貸してみて。」

祥二はそんなのお構いなしだ。

渡されたスコアを目で追いながら

「ああ、良かった。手伝うとか言ってはみたものの、難しかったらどうしようとか思ってたけど、これなら弾けるよ。・・・ギターの彼、ちょっと出だしの音だけ出してみて。」

「・・・えっ?あ、はい。」

黄色の髪のキレンジャーが、小心者の普通のパン屋のご主人、・・・いや、こと音楽に関してだけは小心者でも普通でも無い・・・ロックマニアのパン屋のご主人の言われるがままに「シャン♪」と弦を弾く。

「あれ?チューニング合ってないじゃん。・・・ちょっと貸してみて。」

「は、はい。」

祥二がギターを受け取って音合わせを始める。

「徹、今の音ずれてたのわかったか?」

「いや、全然。」

俺がたずねるとアッケラカンと答える。

まあ、俺もわからんかったから心配すんな、徹。

と、間もなく祥二がギターを外して

「・・・はい、出来たよ。これでバッチリだ。じゃあちょっと出だし弾いてみて。」

・・・早いな。

ギターを受け取りながらキレンジャーが恥ずかしそうに下を向きながら

「あ、ありがとうございます。」

そしてイントロの音を「シャン♪」と鳴らす。

「・・・あ、ホントだ、さっきと音が全然違う!」

「うわ!マジですげえ!」

DEATH BOYSの面々が目を丸くして祥二を見つめる。

そのまなざしは明らかにさっきまでの、目障りなおっさん達を卑下するようなまなざしじゃ無く、尊敬のまなざしに変わってる。

ってか、チューニングはちゃんとしようね。

・・・まあ、俺らもチューニングがずれてるなんて気づかなかったけど。

そんな中、クロレンジャーの祥二とギターのキレンジャー君が真剣な顔で音あわせをしてる。

しばらくすると

「・・・それじゃあ、次のDEATH BOYSさん!準備お願いします!」

スタッフさんから声が掛かる。

「は、はい。」

ちょっと不安げな表情のDEATH BOYSさん達が舞台裏から移動して行く。

「よし!じゃあちょっと行って来るよ。」

祥二がにこやかにベースを抱えて颯爽と彼らに付いていく。

普段の引っ込み思案なパン屋のご主人とは大違いの、はつらつとした姿。

「おう!頑張れよ!」

俺達4人は舞台袖まで連れ添って、舞台に上がる祥二の背中を見送った。

見ていると、祥二はドラムの後方に譜面台と椅子をセットしちょこんと座り込む。

そして袖で見守る俺達を見つけると、にこやかにサムズアップして見せる。

・・・わかった、わかった。

そしてドラムのカウントと共に曲が始まる。

ガチャガチャした感じのドラムとノイジーなギターが鳴り響く。

その裏で単調ながら安定した祥二のベースがビートを刻む。

そして、ヘッドバンキングしていた赤い髪のボーカルが歌い出す。

・・・歌って言うか、絶叫?

初めて彼らの演奏を聴いたが、これが流行のロックなのか?

陽子が俺の肩をトントンと叩くので振り向くと、耳にひとさし指を突っ込む仕草をしながらしかめっ面で

「何て言うか、けたたましいわね。」

俺は苦笑いして頷く。

さっき、・・・前話で音楽は世代を越えると言ったが前言取り消し、これは越えられない壁がある。

そのけたたましい音楽を、祥二の堅実なベースプレイが支える。

そしてけたたましいままの3曲が終わり、祥二とDEATH BOYSが舞台袖に帰って来た。

「おう、お疲れ。」

信吾が声をかけると、祥二がにこやかにタオルで汗を拭きながら

「あー、楽しかったー。若い子達のバンドはパワフルで良いねー。」

・・・パワフルねえ?

俺にはけたたましかっただけにしか聞こえなかったけど。

DEATH BOYS達がもじもじしながら祥二に後ろから声をかける。

「・・・あの、その。・・・ありがとうございました。」

祥二が振り返って

「いや、こちらこそ交ぜてくれてありがとう。楽しかったよ!・・・あ、でも菱安君だっけ?彼が心配だね。」

雷堂がハッとした顔つきで

「・・・あっ!そうだ!すっかり忘れてました!・・・あいつ、どうしたんだろ?」

・・・忘れてたのかよ。

とその時、その行方不明だった菱安本人が、片腕に包帯を巻いてバツの悪そうな顔で控え室に恐る恐る入って来た。

「よ、よう。」

DEATH BOYSの面々がそれを見て駆け寄る。

「獅堂!お前今までどうしてたんだよ?・・・怪我したのか?」

菱安が包帯を巻いていない方の腕で頭を掻きながら

「・・・その、チャリンコでこっちに時間通り向かってたんだけどよ、途中の坂道を下ってたらガキが飛び出して来て、必死にブレーキ掛けたらブレーキが壊れててよ。」

「マジか。で?どうなった?」

「ああ、ぶつかりそうだったから、わざとコケて避けたんだ。そしたらガキのお母さんが慌てて来て、擦り傷だから大丈夫だって言ってんのに、無理矢理病院に連れて行かれてよ。」

「じゃあ、骨が折れたりはしてないんだな?」

「ああ、大げさに包帯巻かれちまったけど、打ち身と擦り傷で全治10日ぐらいの怪我だそうだ。」

「そうか、なら良かった。けど、連絡ぐらいよこせよな!心配したんだからな!」

雷堂がそうなじると、菱安が懐から傷だらけのスマホを出して

「俺は軽傷で済んだけど、スマホが逝っちゃったんだよ。」

携帯があるから必ず繋がるという妙な先入観。

20世紀生まれの俺達も、徐々にこの便利さに慣れつつあるんだよな。

便利であるが故に、相手から応答が無いと妙に不安を煽る結果にもなりかねない。

「それよりみんなわりい!俺のせいでライブ棄権するハメになっちまって。」

「・・・いや、それがその。」

雷堂が菱安に、祥二が菱安の代わりを買って出て、ライブは無事終わったいきさつを話した。

それを聞いた菱安は、神妙な面持ちで祥二に頭を下げ

「マジでこの度はありがとうございました!」

祥二は苦笑いしながら

「いやいや、良いんだよ。それよりも飛び出して来たお子さんに怪我させないで、君の怪我も大したことなくて良かったじゃない。」

照れながら

「俺もロックンローラーの端くれっすから、ラブアンドピースっす。」

君は何を言っちゃってるの?

その単語を知っててThe Beatlesを知らなかったのかよ?

すると雷堂が首をかしげながら祥二に問いかける

「針須さん、あのスコア通りに弾いてくれたんすよね?」

祥二がいぶかしげに

「そうだよ、どうかした?」

「いえ、その・・・いっつも獅童が弾いてるベースラインと違うなって思ったんですよ。な?」

そう言って振り返ると、同意を求められたキレンジャーとミドレンジャーも、うんうんと頷く。

すると菱安が青い髪をかき上げ、気まずそうな表情で

「・・・いや、そのぶっちゃけ、俺結構テキトーに弾いてたんだよ。ぶっちゃけスコアも読めねえし。」

「そうなのかよ獅堂?全然気付かなかった!」

そのやりとりを見て俺達が笑うと、菱安以外のDEATH BOYSも笑う。

祥二が笑いながら

「それで、今まで曲が成り立ってたんなら、君って天才なのかもね。」

笑われてバツの悪そうな表情をしていた菱安も、天才と言われてまんざらでも無いようだ。


・・・と、その時

「パパー!ママー!」

控え室の入り口の方から樹莉亜の声がする。

振り返ると手を振っている樹莉亜と、友達らしき女の子が4人控え室に入ってくる。

一人は風邪を引いてるのかマスクをしている。

その後ろからスーツ姿の男子が一人着いてくる。

ボーイフレンドか?いや、そもそも樹莉亜にチケットは3枚しか渡してないよな?

よく見るとその男子はレイラちゃんのストー・・・マネージャーの倉太のようだ。

・・・って事は?

「パパ、ママ、すっごくかっこよかったわよ。」

樹莉亜が嬉しそうに褒めてくれた。

陽子が満足げに、樹莉亜の頭を撫でながら

「でしょー?パパも意外にかっこよかったでしょ?」

・・・意外で悪かったな。

すると樹莉亜と一緒にいたマスクの女の子が、徹に

「社長もすっごくかっこよかったですよ!」

TVで聞き覚えのある声。

「だろ?実力だ実力。」

徹がドヤ顔で答えると、その女の子がマスクを外そうとする。

後ろにいたストージャーの倉太が慌てるが、お構いなしにその女の子がマスクを外すと、最近はTVで見ない日は無いレイラちゃんが姿を現す。

すると帰り支度をしていたDEATH BOYS達が色めきだって

「レ、レイラちゃんっすか!?マジで!?・・・すげえ!!ファ、ファンなんす!!サ、サインして下さい!!」

と駆け寄ってくる。

すると後ろにいた倉太がレイラちゃんの前にスッと割って入って

「本日はプライベートですので、ご勘弁下さい。」

と、生真面目に鉄壁のガードをする。

なかなか、有能だな。

ガードされたDEATH BOYS達が一斉に、これまで俺達に見せた事の無いすがるような瞳で徹の顔を見る。

「あっ?何だよお前ら、急にそんな甘ったれた顔しやがって。・・・レイラはどうしたいんだ?」

すると、レイラちゃんはアッケラカンと

「私は良いですよ!ファンの方あっての私ですから。」

と、答えると、徹が倉太に

「・・・だってよ、サインさせてやんな。」

「はい、わかりました社長。・・・じゃあ並んで、押さないで。」

倉太がそう注意して身を引くと、DEATH BOYS達がこれまた俺達に見せた事の無い歓喜の表情で

「松ヶ谷さん!ありがとうございます!」

そしてレイラちゃんの前に喜び勇んで列をなす。

徹が呆れ顔で苦笑いして

「チェッ!今までおっさん呼ばわりしてやがったのに、急に松ヶ谷さんとか現金な奴らだな?・・・まあ良いか。」

そして、レイラちゃんのプチサイン会&握手会が行われ、DEATH BOYS達は満足そうに帰って行った。

「さて、俺達も行こうか。ルビーチューズデイで打ち上げしようよ!」

「おう!良いな!」

祥二の呼び掛けにうなずくと、俺達も満足してライブハウスを後にしたんだ。

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