表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
STAGE  作者: 今野 英樹
30/44

2nd GIGS 2013

そして、いよいよ再結成した俺達The Namelessの初ライブ当日の朝がやって来た。

ライブは午後からだから、なんとなしにいつもの休日のように8時頃に起床。

初ライブと言うか、バンドにとっては2回目のライブなんだけどね。

しかし、1stライブから2ndライブまで25年も間が空くとか、ギネスに申請したら認証されるかな?

・・・ねえか。

そんなくだらん事をボンヤリ考えつつ、テーブルに着く。

すると陽子が隣の部屋から化粧途中と思われる顔を覗かせて

「あら、おはよう。ずいぶん余裕じゃないの?今日はもっと早く起きてくるかと思ったのに。・・・私は片付けもしなくちゃいけないんだから、急いで食べてね。」

と、何だかそわそわと気ぜわしそう。

なんだかんだ言って陽子も人の子、ちょっと緊張してるのかも知れんね。

こんな時、男に生まれたことを感謝する。

煩わしい化粧なんて行為をしなくて済むからだ。

飯を食い、歯を磨き、顔を洗い、髭を剃り、後は服を着れば家から出られる。

所要時間は急いで30分ぐらいかな?

あっ、いちおうウンコもしておこう。これでプラス10分。

朝食を終えとりあえず自分の食器は自分で洗い、一通りの儀式+ウンコを済ませる。

・・・それでも陽子の化粧はまだ終わらないようだ。

出発までまだかかりそうだから、歌詞カードで今日歌う曲の歌詞をおさらいしておく。

歌詞飛ばさないようにしなきゃな。

練習通りに出来れば大丈夫だ。

・・・きっと。

と、そんな事を考えると、何だか幾分緊張しだしてきた。

大丈夫!祥二と路上で演奏して、大衆の好奇な視線に晒され辱められる、マゾヒスティックな特訓をしたろう?

・・・違うか。

そんなこんなしてる間に、やっと陽子が化粧をキッチンに出てくる。

・・・ちょっと化粧が濃いようだが、それは口が裂けても言っちゃいけない。

「あら?食器片付けてくれたの?ありがとう。」

いいえ、どういたしまして。

・・・と、携帯に信吾からそろそろ迎えに行くとのメールが入る。

今日は楽器だの衣装だのと、いつもより荷物があるから信吾の軽ワンボックスの出番だ。

しばらくして、化粧を完璧に決めた陽子と一緒に玄関で靴を履く。

「じゃあ、行ってくるね。」

玄関先まで見送りに出て来た樹莉亜に声をかける。

「うん!パパ、ママ行ってらっしゃーい!後でねーっ!」

樹莉亜には友達と観に行きたいと言うので、チケットを3枚入手し渡しておいた。

エレベーターを降り、路駐してる小さい車と脇に立つでかい男の元へと向かう。

「おっす!」

手を上げて俺達を迎えてくれた信吾も幾分緊張してるのか、ぎこちない笑顔で見るからにこわばった表情をしてる。

やっぱりみんな緊張するんだな。

緊張した3人を乗せたワンボックスはその後隣町で、全く緊張感の無いニコニコ顔の祥二をピックアップし、ライブハウスへと向かう。

本来こいつが一番緊張しいのはずなんだが、こと音楽のこととなると別人のように人が変わる。

それだけ、自信があるんだろうな?

・・・本業にももっと自信を持ちなさいよ、内気なパン屋さん。

そんな4人を載せたワンボックスは一路、ライブハウスへ。

一人都内から来る徹とは、現地で待ち合わせていた。

会場前に立っていた徹も、案の定緊張しているらしく、自販機で買った炭酸飲料の缶を思いっきり振って開けてしまい、危うくびしょ濡れになる所だった。

まあ、そのおかげで俺も含め、みんな緊張がほぐれたようだ。

たまには徹も他人の役に立つもんだな。


主催者への挨拶と受付を済ませ、案内された控え室にはもう数組のバンドが入っていた。

見たところ、みんな10代から20代ぐらいの子達が主のようで、俺達はどう見ても最年長のようだ。

確か25年前の初ライブの時は、俺達が最年少だったよな。

そう考えると年を取ったって事にゾッとするな。

しかし、ゾッとしたのは俺達だけじゃなく、俺達を見た彼らもどうやらゾッとしたらしく、妙にその場の空気がざわつきだした。

そんな空気を気にもとめない祥二が辺りを見回すと、控え室の隅にひときわカラフルなDEATH BOYSを見つけ近寄って行った。

「やあ、こんにちは!今日はお互い頑張ろうね!」

赤い髪をした雷堂が、伏し目がちに

「・・・はあ、どうも。」

と、緊張しているそれとはまた違う、憔悴したような面持ちで答える。

よく見ると、赤、緑、黄、・・・一色足りないな。

青い髪の菱安って言ったっけ?彼がいないようだ。

すると、それに徹も気づいて

「おい、青レンジャーがいねえじゃねえか?ビビってションベンか?」

すると、赤レンジャーの雷堂がムキになって

「るさいっすねー!そんなんじゃないっすよ!・・・獅童の奴、・・・まだ来てないんすよ!」

それを聞いて、BBA呼ばわりされてから憎々しく思っていたであろう陽子が、

「もうあんまり時間が無いわよ?連絡は取ったの?」

何か母性が働いたのか、掌を返したように優しく聞くと、雷堂が泣きそうな声で言う。

「さっきから何回も携帯鳴らしてんですけど、全然出ないんすよ。」

祥二も気の毒そうに

「きっとちょっと遅れてるだけだよ。心配しててもしょうが無いから準備しておきなよ。・・・さって、俺達も準備をしようか。」

俺達は頷くと、控え室に隣接した更衣室で徹が用意してくれたスーツに着替える。

何となく気が引き締まるような気がする。

めいめい着替え終わると控え室へ戻り、徹と祥二はそれぞれギターとベースを抱えチューニングをし、それが終わると二人でシャカシャカと音合わせをする。

信吾はどかっとベンチに座り、目をつぶると膝を平手でリズミカルに叩き出した。

俺も信吾の隣に座り、歌詞カードを引っ張り出し、ひたすら歌詞を読む。

すると少し遅れて控え室に戻ってきた陽子が、壁際で太極拳のような変なストレッチを始める。

それを見てさっき以上に控え室内がざわつく。

・・・ここは、他人のふりをしよう。


さて時間となりライブが始まる。

ざわついていた控え室にも、ピシッとした堅い空気に支配される。

司会者のコールを受けた一番手のバンド達が円陣を組みかけ声を掛けステージに上がっていく。

そして約15分の持ち時間で演奏を終え、また次のバンドがステージへ向かう。

みんななかなか上手いなー、しかも最近の子達の曲ってテンポの速い曲が多いんだよね。

若い世代に通じるのかな?俺達の8ビートって。

祥二がにこやかに、

「よし、俺達も円陣組もうか。」

全員無言で頷く。

良い中年が、普段だったらこっ恥ずかしくて出来ないような円陣を組むなんて行為も、この場の空気だとそれをさせる。

片手をそれぞれ差し出し、輪になると祥二が

「はい、バンマスお願いね。」

出たーっ!!祥二のキラーパスーッ!!

徹がたじろぎながら

「お前が仕切るんじゃねえのかよ?・・・まあいいや。んーと・・・。」

ちょっと考えてから

「よっしゃ!まあおめえら、俺様の足は引っ張んなよ。」

そこにいる誰もが思った。

「お前が言うな。」

陽子が徹の言葉をスルーし

「やっぱり祥二君お願い。」

徹が間髪入れず

「やっぱりって何だよ?やっぱりって。」

祥二がクスクス笑いながら

「じゃあ、練習通りに楽しんでやろうね!」

みんな声を揃えて

「おう!」


そしてコールを受け、ステージに向かう。

ステージに上がると各自楽器のセッティングに向かう。

見上げるとまぶしいライトが俺を照らす。

観客を見やると、暗くて正確な数はわからないが40人ぐらいかな?満員のようだ。

さっき控え室に入った時と同様に、俺達中年バンドの登場に観客もざわついてるようだ。

昔のように頭が真っ白になったりはしない、心地よいちょっとの緊張感がある。

祥二との特訓の賜かな?

俺はマイクを取り、一呼吸置いてから

「皆さんこんにちは!The Namelessです!」

深々と頭を下げる。

よし、声も出てるな。緊張すると縮まる声帯も、良い感じに開いている証拠だ。

家を出る前、ウンコをしながら考えた言葉を続ける。

「・・・俺達は、25年前の高校時代に結成したベテランバンドです!」

観客の一部から「おーっ!」と驚嘆の声が上がる。

「でも、活動期間は実質1年足らずのグリーンボーイです。・・・見ての通り中年ですけどね。」

観客から笑い声が起こる。

スベったら昔の自分に逆戻りしそうで恐かったが、良かった。ややウケ。

後ろを振り返ると、4人がそれぞれセッティングを終え待ち構えている。

みんなにこやかな良い表情だ。

俺が頷いてもう一度観客の方を見回し、言葉を締める。

「ですんで、優しい気持ちと瞳で見守ってやって下さい!All right?」

そして信吾に指で合図すると、信吾のスティックがカウントを刻む。

「・・・ワン・ツー・スリー!」

俺達のバンドには欠かせない曲、The Beatles「I Want to Hold Your Hand」。

練習の時より大きな音圧が、一味も二味も違う熱いグルーブを生み出す。

信吾と祥二のリズム隊は相変わらず息ぴったりだし、陽子の演奏に関しては言わずもがな。

そして祥二との特訓の成果か、足を引っ張る側だった徹と俺も実力以上のパフォーマンスをしていると感じた。

自画自賛だが間違いないはず。

そして観客を見やると、恐らくThe Beatlesなんて全く知らない世代だろうが、逆にそれが新しく感じるのかみんなノッてくれている。

パフォーマーとオーディエンスが一体になって紡がれるこのグルーブ感。

25年前には全然余裕なんか無くて、感じることの出来なかったこの熱い感じ。

これが俺が求めてた、平凡な日常に欠けてる刺激なのかも。

・・・サイコーだ!!!


・・・3曲、あっという間の持ち時間15分だった。

2曲目、3曲目は俺達のオリジナル曲を初披露。

現在の若者達が慣れ親しんでるサウンドは出せないけれど、80年代、90年代に青春時代を過ごしてきた俺達のサウンド。

そしてそのサウンドにノッてくれてる今時の若者達。

音楽に古いも新しいも関係無い、かっこよければ誰だって年がいくつだってノれるんだ。

・・・そして、・・・演奏が終わり汗だくで無我夢中で歌った俺とメンバーに、観客が拍手と歓声を俺達に浴びせてくれている。

振り返ると4人とも汗だくだが、晴れ晴れした表情だ。

俺が一歩下がり4人が一歩出てくる。

並んだ5人が顔を見合わせ、観客に礼をするとまた一段と大きな拍手が沸き起こった。

こうして、俺達The Namelessの再集結後、初のライブは大盛況のうちに幕を閉じたのだった。

めでたしめでたし。


・・・のはずだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ