Street Fighter 2013
自宅から歩いて約20分、祥二と待ち合わせた駅前広場へ到着。
休日の夜、家路に向かっているのかまだ人通りは結構多い。
無数の人々がそれぞれの家路へと向かってるんだな。
そんな人の往来をぼんやり眺めていると、ほどなくして祥二がやって来た。
「やあ!純ちゃん、待った?」
「いや、俺も今着いたところだよ。」
祥二を見ると背中にギターケースを背負っている。
「祥二、・・・それって?」
「さあ、行こうか。」
祥二が俺の質問を遮るように歩き出し、駅前広場から繋がるアーケード街の方向へ向かう。
俺は首をかしげるが、その後をついて行く。
人間は明るいところへ向かう生き物なんだな。
駅を出た人間の大半は、アーケード街へ吸い込まれて行き、そしてそれぞれの居場所へと向かって散らばって行く。
明るいアーケード街の中を、そんな人波に混ざって歩いて行く俺達。
居酒屋もちらほらあるが、祥二はスルーして歩いて行く。
一体どの店に入るんだ?
そして、アーケード街の中心辺りまで歩いて来た頃、祥二がふと立ち止まって
「よし!ここら辺でやろうか?」
と立ち止まってギターケースを下ろす。
ここ?
キョロキョロ周りを見渡すと、両脇にはシャッターの閉まった店舗、そして行き交う人々。
そんな俺を尻目に祥二が鼻歌を歌いながら、ギターケースを開けてアコースティックギターを取り出す。
そうだよね、ギターケースからギター以外の物が出て来るわけないよね?
「祥二、やるって何を?」
俺が恐る恐るたずねると、祥二がストラップを肩にかけながら
「純ちゃんがあがらなくなるための特訓だよ。」
満面の笑みで答える。
えーっと、・・・全く意味がわかりません。
「・・・歌うの?」
「うん。」
「・・・ここで?」
「そう。」
いつの間にお前は運送屋になったんだ?
いやいや、そうじゃなくて
「ってか、そんなの聞いてないぞ!やろうって言うから飲むのかと思ってた。」
祥二がきょとんとしながら
「そんな事一言も言ってないじゃん。はい、これ歌詞ね。」
ギターケースから10枚程度の紙を取り出し、俺に渡す。
そう言われれば、そうだけどー。
そんなやりとりをしていると、往来の人達が俺達を好奇の目で見ながら通り過ぎる。
中にはクスクス笑いながら通り過ぎる人も。
これは恥ずかしすぎる。
「祥二、やっぱやめようぜー?こんな人前で恥ずかしいよー。」
「何で?ライブだって人前で歌うんだよ?同じじゃない。」
そうか!
って妙に納得しちまったけど、何か違うような気がするんだが。
でも考えてみたら、俺の生活に対するモヤモヤがきっかけでバンドを再開させて、祥二を巻き込んだんだから、祥二のプランニングに従わないっておかしいよな。
腹をくくりかけて歌詞カードをパラパラめくって眺めてると、ある事に気づく。
「ところで、何でいっつも練習してる曲じゃないんだ?」
祥二が俺の顔に顔を近づけてきて、何故か小声で
「だって俺達のレパートリーって、徹君の腕に合わせてなるべく弾きやすい曲を選んでるからね。たまにはちょっと違う曲もやってみたくてね。」
さくっと毒を吐いたな。
まあ、当たってるからしょうが無いか。
「って言っても、俺も純ちゃんもこういうスタイルでやるのは初めてだから、割と簡単な曲選んできたよ。」
そう言われてみれば全部知ってる曲だ。
歌詞まで全部は暗記してないが、カラオケでもよく歌う曲もある。
そのお気遣い痛み入ります。
「じゃあ、そろそろやろうか?とりあえず「Stand By Me」あたりからいこうか。」
えっ!?ちょっちょっちょっちょっと待って!!
途端に緊張が全身に走る。
喉がカラカラに渇き、周りの風景がスゥーッと遠のく。
そして変な耳鳴りが、キーーーンッと聞こえてくる。
「ちょっちょっと待って、・・・何か飲ませて。」
声を振り絞って懇願した。
「ああ、ごめんごめん。まず喉を潤さないとね?」
慌てて近くの自販機に走り、ミネラルウォーターを買い口に含む。
「ふぅーーーっ!」
深呼吸をしてみる、するとちょっと落ち着いたような気がする。
耳に普段の音が、視界に通常の景色が戻る。
自販機に頭をもたれて声を出してみる。
「あーっ!あーっ!」
・・・うん、声も出るな。
振り向くと、祥二がベンチに座って運指練習している。
今度こそちゃんとやるか。やれるか?
おし!覚悟決めた!やろう!
「祥二悪かったな。・・・いけるぞ。」
祥二がニッコリして
「じゃあ、いくよ?ワン、ツー、スリー!」
純がギターをかき鳴らす。
それまで見て見ぬ振りか、好奇の目でチラ見していた往来の人達が、驚嘆の視線を俺達に投げかける。
いや、俺達って言うより祥二のギターの音色にだな。
そして、祥二が俺にアイコンタクトを送る。
覚悟は決めた、
「When the night has come・・・
あれ?思うように声が伸びない。
いや、とりあえず変に考えちゃいかん。歌う事に集中しよう。
と、気を取り直しかけた所俺の視線には、祥二のギターを聴いて立ち止まったらしき人達がスッと次々と立ち去る姿だった。
ガーンッ!ショックすぎるっ!
そんなに俺の歌はそんなにイケてないのか?
何とか軌道修正を図るも、どんどん深みにはまっていくような感じ。
そして歌い終わる頃には、誰も聴いていてくれてはいなかった。
天を仰ぐ、現実は厳しいなー。
「・・・純ちゃん。」
祥二が近づいてくる、慰めてくれるのか?
「勘違いしちゃ駄目だって。」
・・・あら?優しい言葉をちょっと期待してたのに、死人に鞭を打つような、結構なお言葉。
困惑して祥二の顔を見つめると
「だから最初に言ったじゃない?特訓だよって。」
「えっ?」
「今日ここで俺達が演奏してるのは、ストリートミュージシャンの子達みたいに練習してきて出来上がったパフォーマンスを披露するためじゃなくて、練習する過程を見てもらうのが目的なんだよ。」
「・・・何のために?」
全く意味がわからない。
「人の目に慣れるためだよ。どうやら、純ちゃんは人の目が気になり出すと、喉が開かなくなる感じだね?」
「それならそうと、何でいつもやってる曲じゃ無いんだ?練習だったらそっちの方が良いだろ?」
「うん、いっつもやってる曲だったら、純ちゃんももっと自信が持てるだろ?それじゃ、あんまり意味が無いんじゃないかって思ってね。」
「って言うと?」
「そう、敢えて純ちゃんの気持ちを極限まで緊張した状態にしてもらって、それを乗り越えて欲しかったんだ。そうすればどんなステージでだって緊張しなくなると思うよ。」
「じゃあ、さっきの徹がいないから選曲を変えたって話は?」
「うーんとね、半分はホント。半分は純ちゃんの特訓のため。・・・さすがにやる前にネタばらしは出来ないだろ?」
祥二がいたずらっ子っぽく微笑む。
あんまり祥二が見せた事のない、サディスティックな一面だな。
「純ちゃんはねー、昔から何でもそつなくこなせてたよね。俺と違ってさ。勉強でもスポーツでも何でも。」
「そんな事無いよ。」
急に褒められてちょっとこそばい。
「いやいや、そんな純ちゃんだから、多分自分じゃ意識してなくても、出来て当然って心理が心の片隅にあるんだと思うよ?それが、逆にプレッシャーを生んでるんじゃないかなって思うんだ。」
お前は本当にただのパン屋の店主か?
よくTVに出てる心理学者って肩書きの胡散臭い奴らより、やけに信憑性があるな。
「なるほどね、思い当たる節が無いわけでもないな。」
「俗に言う本番に力が発揮出来ないタイプだよね。ほら、サッカー部の試合の時も・・・。」
「あーあー、それは言わないでくれ。思い出したくも無い。」
人間、一つや二つ、そういう思い出ってあるよね。
まあ簡単に説明しますと、高校時代俺と祥二は同じサッカー部に所属してたんですよ。
俺は祥二が言う様にとりあえずそつなくこなすタイプだったんで、サッカーもそこそこやれてて、2年生の頃からレギュラーのMFとして試合に出さしてもらって、それなりの活躍はしてたんですよ。
ただし大一番になるとポカをやらかすって事があって、特に3年生の時の県大会の決勝、同点で決着が付かず迎えたPK戦、ガッチガチに緊張した俺がPKを外して敗れ、結局それが俺達の最後の試合になっちまったと言う、俺史上最凶レベルの黒歴史を残しちまった。
「あ、ごめんごめん。でもさ万年ベンチウォーマーだった俺からしてみたら、試合に出れる純ちゃんが羨ましかったんだからね。・・・さあ、おしゃべり終わり!もう一丁行くよ!」
急にギターをかき鳴らし始める。
ゲッ!強引だな。
こと音楽の事となると、祥二は人が変わったようになるんだよな。




