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STAGE  作者: 今野 英樹
24/44

Gear 2013

さて、週末が終わると月曜日がまたやってくる。

余談だけど統計によると、月曜日の朝ってのはリーマンの自殺が多発するらしいですな。

俺は自殺って行為を肯定するわけじゃないし、自殺するほどセンチメンタルな性格じゃないが、月曜日の朝の憂鬱感はとってもよくわかる。

俺だって、つい最近までは月曜の朝がたまらなく嫌だったしね。

しかしこの数週間、厳密に言うとバンドを再開してからは、少し気分的に高揚してるのか、以前ほど憂鬱には感じなくなったかな?

まあ、満員電車に揺られての出勤が億劫なのは、全然変わらないけど。

何千回と通い飽きた、いやいや通い慣れた改札を通り、いつものように会社へと向かう。

デスクに座りパソコンの電源を入れる、年期物だから起動時間が長い。

・・・そろそろ新しいパソコンに買い替えてくれよ。

やっと起動したパソコンでメールをチェックしてると、事務員の野間さんが出社して来た。

見た目はどこにでもいそうな感じの、入社3年目の24歳の明るい女の子だ。

「おはようございます!」

この屈託の無い笑顔の娘にも月曜日の憂いがあるんだろうか?

「よう、おはよう。」

「・・・そう言えば係長、最近痩せました?」

おっ!必死にはやってないけど、ご飯の量をちょっと減らしたり、寝る前の軽い筋トレとかライトなダイエットの成果が出たかな?

公表するほどのもんじゃ無いけど、一応ロックバンドのヴォーカリストだからね、ちょっとでもスリムなボディを取り戻したいもんな。

「えっ?マジで?痩せたかな?」

ちょっと嬉しい。

いや、・・・かなり嬉しい。

「ええ、ほっぺたが若干シュッとなったような。」

もっと言って、俺は褒められて伸びるタイプだから。

そしてその屈託の無い笑顔で

「でも、私の気のせいかも知れませんね。」

・・・おい。

煽てられて木に登った豚を奈落の底に突き落としたな?・・・って、誰が豚やねん。

余談ですが、よく太った人間を悪口で「豚」呼ばわりしますが、豚って食用に丸々太らせたものでも体脂肪率は15%前後と実はマッチョな生き物なんですよ。

だから太った人間を「豚」と呼ぶのは、豚に対して大変失礼なんです。

・・・さて、ベタなノリツッコミと誰も得をしない豆知識をひけらかしたところで、仕事に掛かるか。

PRRRRR・・・PRRRRR

電話が鳴り、野間さんが対応する。

「はい、黒青商事です。・・・はいお世話になっております。・・・少々お待ち下さい。・・・蓮野係長、富井物産の樽鳥さんからお電話です。」

・・・富井物産か。

俺の担当先で先週も機械部品の注文を受けてて、急ぐって話だったからメーカーから直送させたところだった。

今日届くはずだけど、何かトラブルか?

「はい、お電話変わりました蓮野です。」

受話器からちょっと慌てたような早口で

「富井物産の樽鳥です。おはようございます。」

・・・こりゃ何かあったな?

「・・・あ、樽鳥さんおはようございます。どうされました?」

「ええ、先週注文してた部品が今朝メーカーさんから届いたんですけど、注文より一台数が少なかったんですよ。」

あちゃー、やっぱりトラブルかー。

「そうですか、すみません。じゃあメーカーに問い合わせして対応します。」

「ええ、お願いします。今日中に欲しい物で。」

ガチャッ!

さてと、クレームには迅速に対応。それが鉄則ね。

すぐさま、メーカーの紫煙機械の担当者に電話をする。

しかし、出張中とのことで電話を切り、担当者の瓶地氏携帯へ。

「はい、瓶地です。」

「黒青商事の蓮野ですけど。」

「あ!蓮野さん、おはようございます!」

「どうも、実は先週富井物産さんに直送してもらった部品なんだけど、一台足りなかったらしいんですよ。」

「えっ?そうなんですか?・・・工場で検品して出荷したはずなんですけど、申し訳ございません。」

工場に丸投げか?ダメだよ、第二第三の目で見なきゃ。

「それで、先方は今日中に欲しいそうなんだけど、そちらで誰か今日納品に動いていただける方はいませんかね?」

すると電話口でもわかるような、狼狽した様子で

「・・・今日ですかー、私がいれば私がお届け出来るんですが、あいにく今日は大阪にいるもんで。・・・多分社にも女子社員しか残ってないと思うんですよねー。・・・困ったなー。」

困ってるのはお互い様なんだが、大阪じゃしょうがねえな。

ここから紫煙機械まで車で1時間半、そこから客先の富井物産まで1時間か。

・・・しゃあない、俺が動くか。

「・・・じゃあ、私がお宅に伺って、品物ピックアップして先方に届けますよ。」

瓶地氏が安堵したような口調で

「ああ、ご面倒おかけして申し訳ございません、そうしていただけると助かります。それでは、会社に連絡して品物準備させておきますので、本当に申し訳ございません。」

「良いですよ、その分値引きお願いしますね?」

「は、はい!わかりました!それでは失礼します!」

ガチャ!

受話器を置き、上司に報告と了承を得て、顧客に連絡。

ビジネスマンのイロハですな、報告、連絡、相談のホウレンソウ。

・・・まあ今回は相談を省きましたがね。都合上。

事務所を後にし社用車に乗り込み、郊外にある紫煙機械を目指す。

天気は快晴、絶好のドライブ日和。

・・・仕事で、しかもクレーム処理なのが恨めしい。

高速に乗りアクセルを踏み込む。

社用車だから典型的な古い商用車、当然の如く遅い。

我が家の軽の方が、ちょっと加速も良いのかな?

どんどん他の車に抜かれていく。

チェッ!みんな良い車乗ってやがんな。

しかしまあ、ちょっとした偏見だけど、ドイツの車に乗ってる奴らはなんであんなに飛ばすんだろ?

外車に乗ってるからと言って、日本の警察に取り締まられないわけじゃないんだけどね。

しかもここは首都高速で時速60km制限、時速無制限の本国ドイツのアウトバーンじゃないんだよ?

まあ、他人の事はどうでも良いや。

ちょっと嫉みも入ってますね。

俺はアクセルを目一杯踏んでもたかが知れてるドン亀カーで安全運転するのみ。

それでもカーラジオのFM局からたまに流れてくる、ロックンロールが心地よい。


そんなこんなしてるうちに、紫煙機械の最寄りの高速出口へ到着。

高速を下りて、沿岸地域の工場地帯にある紫煙機械を目指す。

・・・あったあった。

車を駐車場に入れて事務所を訪ねる。

「こんにちはー、黒青商事ですけどー。」

ちょっと高齢の女子事務員が、一人ぽつんと座っている。

「あらー、蓮野さんこんにちはー。」

「瓶地さんから聞いてます?」

「ええ、聞いてますよ。そう言えば工場から持って来ないわね?・・・蓮野さんお茶入れますからこっちでちょっと待ってて下さい。今持って来させますから。」

・・・そんなノンビリしてらんねえんだよな。

「ああ、じゃあ私取りに行きますよ。今日はちょっと急ぐから、お茶はまた来た時にゆっくりいただきますよ。」

「あら、すいませんねー。またいらして下さいね。」

事務所を後にして、裏手に隣接する工場へ向かう。

そんなに大きくは無いけど、なかなか小綺麗な工場だ。

入り口を入ると小さな部屋があり、テーブルが並んで数人の工員が梱包作業をしている。その奥の大きな窓から工場内が見渡せ、大きな機械のいくつもの歯車が動いていのが見える。

その動きは全く狂いも無く、一定のリズムを刻んで回り続けている。

見てて何となく心地良い。

すると、梱包作業をしていた若い工員が俺に気づき、帽子を取りながら近づいて来た。

そしてバツの悪そうな顔をしながら

「・・・あの、黒青商事の方ですか?」

「ええ、部品をもらいに来たんですけど。」

するとその若い工員は深々と頭を下げ

「すいませんでした。僕が検品をしたんですけど、その・・・ミスったみたいで。」

俺は別に犯人捜しをしに来たわけじゃないし、誰かを責めるつもりも全く無かったので

「ああ、いや気にしないでよ。次からはミスしないようにしてもらえれば。」

すると工場のドアを開けて年配の工員が入って来て

「おお、蓮野さんじゃない!久しぶり!」

「ああ、工場長!どうもご無沙汰してます。」

その方はこの工場の工場長で、俺がぺーぺーの頃からここを訪れると、製品の事とか工場の設備の事とか教えてくれた方だった。

工場長もまた深々と頭を下げて

「いや、この度は本当に申し訳無かったですね。ご迷惑をおかけしちゃって。」

そして、うろたえてる若い工員を振り返って

「ほら、作業に戻って良いぞ。」

若い工員は俺の目の前のテーブルに製品の入っているであろう小さな段ボールを置いて

「本当にすいませんでした!失礼します!」

と言い、持ち場に戻って行った。

「・・・私は今日はただの運び屋として来たつもりだったんですけど、なかなか気持ちの良い青年ですね?」

それまで、終始神妙な表情だった工場長がニコッとして

「でしょ?私も奴には期待してるんですよ。」

と言い、

「最近の若い連中ってなかなか付き合い方が難しいって言うか、例えばちょっと怒ると辞めちゃったりとか。」

「ええ、ありますね。」

「飲みに誘っても嫌々だったり、見たいTVがあるんですんませんとか断られますしね。」

「プッ!・・・ああ、すいません。うちのはそこまでじゃないですけど、誘っても嫌々みたいな顔はしますよ。」

「我々が若い頃は軍隊式って言うか、上司の言うことは絶対服従だったんですよね。それが良いのか悪いかはわかりませんけど。」

ああ、俺達世代もギリギリわかりますよ。

俺が入社した頃はそんな感じでしたからね。

「でも今の若い連中の大半にはそれが通じないんですよね。我々古い人間の慣習が絶対正しいとは思わないけど、ただ日本人の日本人らしい気質が薄くなっちゃってるんじゃないのかな?って思うんですよ。」

そうなんだよな、俺達昭和気質の最後の世代としては、現在のスマホ世代の奴らが薄っぺらに感じてしまうんだよね。

・・・別に俺達の価値観が絶対正しいってわけじゃないんだけど。

「そうですね。僕らの当たり前が最近の若い奴らにはナンセンスに思えることも多いでしょうね。」

「でもね、あいつは古風と言うか、何か昔ながらの気質があるように思えるんですよね。我々同じ会社で動いてる歯車みたいなもんですし、やっぱり歯車同士が上手く噛み合った方が円滑に回ると言うか。会社だけじゃなく何でもそうですよね。」

そうだな、会社でも家庭でもバンドでもそれは言えると思う。

「まあ、まだ未熟なんで蓮野さんにはご迷惑お掛けしちゃったね。本当に申し訳ない。」

と、言いまた深々と頭を下げた。

「ハハハ、もう良いですってば。じゃあこちらは頂いて行きますんで。また来ます!」

部品の入った段ボールを抱え工場長に会釈をして、紫煙機械を後にする。


車を運転しながら、工場長の言ってた歯車と言う単語が、頭の中で回っていた。

単語と言うよりは、歯車の画が頭の中で回っている感じだな。

その歯車の側面には俺の顔が映っていて、それがゆっくり回ってるんだ。

そしてその隣には陽子の顔が映った同じぐらいの大きさの歯車が、同じ速度で回ってる。

その間には小さい樹莉亜の歯車が、ちょっと早めに回っている。

周りを見回すと無数の歯車が回っていて、俺の両親や陽子の両親だったり、会社の同僚、信吾、徹、祥二と言ったThe Namelessのメンバー、その他の人々の歯車がそれぞれの大きさや速度でかみ合いながら回り続けている。

きっと、世の中ってそうやって回っているんだ。

例え、その歯車の中の一つが欠けても他の歯車は回ることを止めないし、また新しい歯車が誕生して一緒に回り出す。

ふむ、何か歌詞のネタに出来るかな?

・・・まあ、まずはこの仕事を片付けてしまおう。

車のハンドルを握り直す。

そう言えばこの車も、今俺を抜いてった車も歯車の塊だよな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


俺達は社会に組み込まれたギア

俺達は歴史に組み込まれたギア


一つ砕けてこぼれ落ちても歴史は回り続ける

大きな力で道が逸れても新しい明日へ進み続ける


この世界を動かしているのは神様でも王様でもない

この世界を動かしているのは俺達スモールギア

この世界を動かしているのは神様でも王様でもない

この世界を動かしているのは俺達スモールギア


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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