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STAGE  作者: 今野 英樹
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Love song of the Beast 2013 Part2

・・・それからずっと、胸の痛みが取れない。

何だろう?この締め付けられるような痛みは。

・・・まさか、紗恋さんに恋心でも抱いてたんだろうか?

仮にも俺がお世話になっにてた、恩人である先輩の奥さんだぞ?

しかも、俺がその恩人である英二先輩を、死に追いやってしまったようなもんだ。

俺にそんな資格は無いし、そんなよこしまな考えを起こすのもどうかしてる。

「・・・信吾君?信吾君?」

祥二の呼ぶ声でふと我に返った。

「・・・へ?」

「どうしたの?なんか、ドラム叩きながらボーッとしてたみたいだけど?」

・・・そう、今日はThe Namelessの練習でスタジオに入っていたんだった。

徹が笑いながら

「んだよ、ドラム叩きながら気絶出来るなんて、器用な奴だな?」

俺は超が付くほど不器用な人間だ。

・・・生きるのに器用ならこんな思いしないで済むんだよな。

「悪い、もう一回最初から頼む。」

メンバーに謝って、ドラムを叩きだしたが、心と体がバラバラだ。

ダメだ、自分でも体内のリズムがヘロヘロになっているのが手に取るようにわかった。

とりあえず曲を通し終えて、祥二が

「・・・今日は信吾君が調子悪いみたいだからこの辺にしておこうか?そろそろ昔やってた曲だけでなく、新しい曲もやりたいから、昔の曲は各自自主練で仕上げしといてね?」

純がのびをしながら

「腹減ったなー、俺は美空の店寄るけどどうする?」

祥二がはにかみながら

「ごめん、今日は持ち合わせがあんまり無いからパス。・・・また今度ね!」

「そっか、徹は?」

純が振り返ると、徹も

「俺もレイラの初めての現場だから、ちょっと様子見に行くわ。・・・じゃあな!」

二人は楽器ケースを背負って駅の方へ帰って行った。

俺は何となくどうして良いかわからずに、その場に残ってしまった。

純が二人の姿を見送ると、笑顔で俺の顔を見上げ

「じゃあ、行こうぜ信吾。」

「・・・ああ。」

・・・何となく純と同行する事になってしまった。

カランコロン!

「あら、いらっしゃい!・・・今日は二人?寂しいわね。」

ドアを開けるといつものように美空が出迎えてくれた。

・・・いつもと違うのは俺だけのようだ。

「おう、あいつらは用事があるって帰ってったよ。」

ビールとグラスを運んできながら美空が

「あら?須田君、元気無さそうよ?どうしたの?」

「おう、さっきからなんだよ。・・・マジでどうした?顔色悪いぜ?練習中も何となく上の空っぽかったけど。」

俺はグラスのビールをグビッと一気にあおって

「・・・悪い、さっき家出る前に食った饅頭が腐ってたみたいだ。」

まさか、亡くなった先輩の奥さんに惚れてて、田舎に帰ると言われたのがショックだとは言えず、口から出まかせな嘘をついた。

「何だよ、じゃあ酒飲んでる場合じゃ無いな?」

「あ?・・・ああ、そうだな。悪い、やっぱ今日は帰るわ。いくら置いてけば良い?」

「おお、良いよ良いよ。お大事にな。ウンコして寝ろよー。」

美空が頬をふくらませて

「ちょーっとー、飲食店で何下品なこと言ってくれちゃってんのよーっ?・・・あ、須田君お大事に、またねー。」

「ああ、サンキュー、また来るわ。」

俺は純と美空にすまないと思いつつ、”ルビー・チューズデイ”を後にした。

カランコロン!

楽しげなドアベルの音が、いつになくむなしく響く。

俺が去った後、美空が純に囁いた。

「あれは食中りしてる顔じゃないわね、多分だけど。」

女の勘は鋭い。

「そうか?他に何かあるんだったら言ってくれりゃ良いのに。マブダチなのに、水臭えなアイツ。」

男の勘は鈍い。

「いくら親友だって、入り込まれたくない部分もあるわよ。」

「そういうもんか?」

美空が意地悪そうに微笑みながら

「まあ、私だって誰かさんと付き合ってた時は、陽子に何も言えなかったしね?」

「・・・・・・・・・・。」

これは純が悪い。


トボトボと駅へ一人で歩き、電車に乗り帰宅した。

帰りすがら、このままで良いのか?いや、このままで良いんだ。

・・・と二人の俺が頭の中で言い争っていた。

なんかこのままじゃ俺がどうにかなっちまいそうだ。

俺って恋愛関係になると、こんなにヘボだったんだな。

まあ、そもそも得意だったら、40過ぎてまで独身じゃいないよな?

結論として、伝えないで後悔するより、伝えて玉砕した方が後悔も少なかろうと思えた。

その晩、紗恋さんの携帯に電話をかけた。

「もしもし。」

「はーい、信吾君こんばんは。」

「・・・あ、遅くにすいません。寝てました?」

「ううん、起きてたわよ。荷物をまとめてたの。」

「えっ?じゃあ。」

「・・・うん、やっぱり田舎に帰る事にしたわ。」

思った以上に早かった。

「・・・いつですか?」

「荷物は明日送り込んで、体はいろいろ手続きもあるから、明後日行こうかと思ってるわ。」

「・・・荷造り大変でしょ?明日手伝いに行きましょうか?明日は日曜ですし。」

「ううん、もうだいたい済んでるから。英ちゃんがね、・・・信吾君も知ってると思うけどさ、・・・シンプルな人だったからね。荷物もすっごく少ないのよ。」

「そう言えば、そうでしたね。」

「でしょー?服は形見分けで実家にほとんどあげちゃったし、バイクはどうして良いかわからなくて、信吾君に引き取ってもらったじゃない?その他の彼の持ち物って、オールディーズのCDぐらいよ。」

そう、英二先輩が亡くなって無用の長物となった、愛車の”SUZUKIカタナ1100S”。

処分に困っていた紗恋さんと、見舞金を受け取ってもらえずに困っていた俺の折衷案として、相場の販売価格で俺が買い取って今では俺の大切な愛車だ。

しかし普段現場に行くのは、もう一つの愛車の軽ワンボックスの方が何かと便利なので、休日専用の愛車になってしまってるが。

「それじゃあ、明後日の電車の出発時間教えて下さい。見送りに行きます。」

「えっ?・・・だって仕事でしょ?」

「ええ、でもまあ今そんなに忙しくないんで。」

「ホント?・・・じゃあ来てもらっちゃおうかな。きっと詩織も喜ぶだろうし。」


2日後、紗恋さん達を見送りに新幹線のホームに来ていた。

実を言うと、仕事はそんなに暇じゃなかったんだが、ちょっと抜けさせてもらって。

「あーっ!信吾ちゃんだー!」

背中から詩織ちゃんの声がする。

そして、手を引く紗恋さん。

「信吾君、・・・ホントに来てくれたんだ?」

「そりゃ、約束しましたしね。」

詩織ちゃんがもうしゃくり上げながら

「ねぇー、信吾ちゃーん!・・・もう、バイバイなのー?」

・・・どう、答えてあげれば良いんだろう?

とりあえず、屈んで頭を撫でながら

「そうだな、・・・詩織ちゃんに会いに行くよ。」

「ホントー?絶対よっ!」

「・・ああ、絶対だ。」

そして、立ち上がり紗恋さんに

「・・・紗恋さん、・・・俺。」

・・・駄目だ、やっぱり言えない。

「今日は見送りに来てくれてありがとうね。嬉しかった。」

見送るだけで良いのか?

俺はそのためにここに来たのか?

違うだろ?後悔しないためだ。

「いいえ。・・・紗恋さん、・・・俺、紗恋さんに惚れてました。」

紗恋さんは驚いた表情で俺を見てる。

・・・だよな。

「そうだったの?・・・それなら、もっと早く言ってくれれば良かったのに。」

紗恋さんの目が心なしか、うっすら潤んでるように見えた。

「・・・すんません、俺はこんな事言っちゃいけないんだって思ってました。」

紗恋さんの頬を涙が伝う。

やっぱり俺は言っちゃいかん事を言ってしまったんだろうか?

「・・・バカ。」

「・・・すんません。」

そこへ、ゆっくりと新幹線がホームへ入って来て人が乗り降りする。

そして、俺達二人を引き裂くかのように、発車のベルが鳴り響く。

「・・・あ。」

「・・・じゃあ行くね。信吾君元気で。・・・私なんか忘れて良い彼女見つけてよ?・・・さ、詩織行こっか。」

恐らく二人の会話を理解してなかったであろう、詩織ちゃんが泣きながら

「・・・信吾ちゃん、・・・絶対、会いに来てね!」

「ああ、約束するよ。」

そして二人の乗った新幹線を見送った。

感情の起伏が少ない性格で、ガキの頃からあまり泣いた事は無かった。

最後に泣いたのは・・・、英二先輩が亡くなったあの日以来か。

あの時と違って、不思議と声は出なかった。

ただ、目頭が熱くなって涙だけが頬を伝った。

でも、伝えたい事だけは伝えられた。それは満足だった。

複雑な気持ちで駅を後にする、もう仕事に戻るのは気分的に無理だな。

会社に戻れなくなったと電話を入れる。

・・・普段、真面目に勤務してるつもりだから、たまには良いだろ。

でも、このまま家に帰る気にもならない、誰か俺と飲んでくれる奴はいないか?

そうだ、純を誘おうか。

こないだドタキャンしちまったしな。

純にメールをすると、すぐさま快諾の返事が返って来た。

・・・待ち構えてたんじゃねえよな?

数時間後、俺は純とお互いの家からほど近い居酒屋の席に座っていた。

美空の店とも考えたが、何となくマブダチの純と、男同士サシで話したい気分だった。

そこへ純がやって来て

「おっす!わりい、待ったか?」

「おう!いや、ついさっき来たばっかりだ。」

純がガキの頃から変わらない優しい笑顔で

「もう腹痛は良いのかよ?」

「ん?ああ、特大のをきばって出して水に流したらスッキリしたぜ。」

「・・・これから飯食うのに、何か汚えな。まあもやもや貯まったもんは出しちまうに限るな。」

そうだな、もやもやしたもんは吐き出してスッキリするのが一番だ。

そして俺には最高の仲間と、ロックがある。

俺は純に紗恋さんとのこれまでのいきさつを話し、純はこの他愛も無いよもやま話を嫌な顔一つせず聞いて、慰め励ましてくれた。

まあ、もっと早くに相談してくれればと軽くたしなめられたりもしたけどね。

・・・40過ぎた中年野郎の恋愛相談も、なかなかに痛いと思うが。

でも持つべき者はマブダチだ、心からそう思ったよ。

そして2時間ほど飲んで、店を出て俺達は別れて家路についた。


ちょっと晴れ晴れとしたほろ酔い気分で家の近くに着くと、庭先の街灯の下に2つの小さな人影が見える。

近づくと紗恋さんと詩織ちゃんが、ちょこんとキャリーバッグに腰掛けていた。

詩織ちゃんは疲れたのか、紗恋さんにもたれて眠っている。

「紗恋さん?何でここに?・・・田舎に帰ったんじゃ?」

俺が驚いて聞くと、紗恋さんもちょっと疲れたような表情で

「・・・ごめんなさい。戻って来ちゃったんだけど、アパートも引き払っちゃったから行くあてなくて。」

「携帯に電話くれれば、もっと早く帰って来たのに。」

「勝手に押しかけた上に早く帰って来いとは、流石に私が図々しくても。流石にね。」

俺は詩織ちゃんをおぶりキャリーバッグを持ち、紗恋さんを家に招き入れた。

・・・英次先輩すんません、俺に二人の人生を預けて下さい。

数日後、俺は紗恋さんと詩織ちゃんの手を引いて、英二先輩の墓前への報告を済ませ、彼女の実家のご両親の元へ挨拶へ向かった。

俺の両親と、純達へはとりあえず電話で報告。

みんな自分の事のように喜んでくれ、祝福してくれた。

俺のステージにまた一人、・・・いや二人だな?メインキャストが増えた瞬間だった。

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