Love song of the Beast 2013 Part1
・・・・・・・・・・。
あ、始まってる?
えっと、・・・俺は須田信吾。
建設会社勤務、兼アマチュアロックバンドThe Namelessのドラマーだ。
まあ、あとの情報はだいたい前述なので割愛させてくれ。
口べたなんで放送事故ってのにならんように頑張るから、しばしおつきあい願いたい。
さて、今日はある人の命日で、墓参りに来ている。
誰のかって?
・・・5年前、俺が死なせてしまった会社の先輩の墓だ。
俺はガキの頃から図体がでかくて、自分で言うのもなんだがちょっと他人より腕っ節が強かったもんで、他人に可愛がられるなんてタマじゃ無かった。
だが、そんな俺が会社に入社してから、ずっと俺を可愛がってくれた先輩だった。
先輩の名は小倉英二。
2つ年上のいかにもヤンキー上がりの先輩だ。
同じヤンキー風でも徹とはちょっとタイプの違う、骨太な感じの漢だった。
学生の頃はそのデカさから、生意気そうだとか威圧感があるとか、気心知れたダチ以外からは攻撃とか畏怖の的となった俺の事を、英二先輩は面白がって可愛がってくれた。
そんな英二先輩の人間的なデカさに、俺も惚れ込んでいた。
それが、5年前・・・。
俺のせいで、先輩は還らぬ人となってしまったんだ。
殆ど汚れていない、綺麗な墓石に水をかけ線香をあげて手を合わせる。
じゃあ、また来年も来ますと念じ、帰ろうと立ち上がると、
「信吾君!?」
女性の声に呼び止められた。
振り向くと、英二先輩の奥さんの紗恋さんが、一人娘の詩織ちゃんの手を引いて立っていた。
「紗恋さん!・・・どうもご無沙汰してます。」
詩織ちゃんが紗恋さんの手を離して駆けてくる。
「信吾ちゃーんっ!」
俺は出来るだけ詩織ちゃんの目線に近づこうと、身をかがめてみたが如何せん身長差がありすぎる。
そんな屈んだ俺の腕に詩織ちゃんが飛びついてくる。
「やあ、こんにちは詩織ちゃん。元気だったかい?」
「うん!元気よっ!信吾ちゃんも元気?」
おしゃまさんだが、とっても可愛い。
「ああ、元気だよ。」
5歳の詩織ちゃんには、生まれて間もなくに亡くなった英二先輩の記憶があるんだろうか?
もしかしたら、父親って存在を全く知らずにいるのかも。
彼女の眼に俺は何者に映ってるんだろう?
何となくそんな事を考えていたら、紗恋さんがいたずらっぽく微笑みながら
「何だか、私が来たら逃げるように見えたんだけど?」
「・・・いや、そんな。濡れ衣っすよ。」
慌てて否定する俺を見て、いたずらっぽく微笑みながら
「でもいつもありがとうね。助かってます。」
俺は英二先輩の死後、毎月彼女に食料品なんかを差し入れしていた。
それは彼女が俺からの現金を、一切受け取ろうとしなかったからだ。
「・・・そんな、たいしたこと出来ないですから。・・・俺が英二先輩を。」
「またそれを言う。・・・あれは事故なんだから、信吾君は気にしないで。」
そう、英二先輩は事故で亡くなった。
ただ、俺のせいである事実には変わらない。
5年前、俺はある山間の建設現場の監督を任されていた。
しかしその最中、不覚にも俺はインフルエンザにかかってしまい、代打として英二先輩がその現場に行ってくれていた。
ちょうどその時、大型の台風が通過し現場作業は中止していたが、責任感の強い英二先輩だけが宿直で仮設事務所に詰めていた。
その台風による大雨のために現場裏の山が崩れ、本来俺がいるべきだった建設現場の仮設事務所を押しつぶしてしまった。
そして英二先輩は還らぬ人となってしまったんだ。
・・・俺のせいで。
生前にもよく英二先輩宅に招かれていて、紗恋さんとは面識があった。
俺より一つ年上の美人だ。
英二先輩と紗恋さんは、端から見て本当に羨ましい夫婦だった。
誰もが羨む美男美女、そしてお互いを信頼しきっている。
・・・実は当時俺にも遅ればせながら、結婚を考えている彼女がいた。
誰も羨まないブ男に普通の女性だったが、英二先輩夫婦の様な関係になりたいと常々思っていた。
しかしあの事故が起き、英二先輩を死なせてしまって、俺だけがノホホンと幸せな家庭を築きますなんて、そんなマネは出来なかった。
そして、俺は彼女に申し訳ないと思いつつ別れを告げた。
その時、不思議と彼女は泣くでも怒るでも無く、何かそんな気がしていたと俺に言い、すんなりと承諾してくれ俺の元を去って行った。
俺をこんなに理解していてくれた彼女との別れは辛かったが、男が一度決めた事だ。
英次先輩の事故が起きなければ、普通に良い夫婦になれたんじゃないかと思う。
紗恋さんと詩織ちゃんが墓参りを終えるのを待って、一緒に食事をしに行く事になった。
3人で墓地からほど近いファミレスへ入る。
食事を終えコーヒーを飲んでいると、紗恋さんが俺に
「信吾君、最近どう?」
とたずねてきた。
「どう?ってのは?」
「ううん、特に何をって話じゃ無いんだけど、何か変わった事とかあった?」
「そうっすねー?ああ、高校の時のダチとバンドを始めましたよ。昔ちょっとやってたんですけど。」
「へー、そうなんだ?パートは?」
「ドラムっす。」
「似合うわね。」
紗恋さんが微笑む。
「紗恋さんはどうっすか?」
と俺がたずねると、ちょっと伏し目がちに
「私?・・・私は特に何も無いわよ。」
「そう言えば詩織ちゃん、もうすぐ小学校入学でしたよね?」
「そうよ。」
何だろう、全然嬉しそうじゃ無い。
それどころか、何だか切なそうな表情を見せる。
「どうかしたんすか?」
「・・・実家の両親がね、詩織の小学校入学に合わせて田舎に帰ってこないか?って言ってくれてるの。英ちゃんが亡くなって5年経つでしょ?都会で一人で詩織を育てるより、田舎の両親と詩織を育てる選択肢もあるんじゃないか?って。」
胸の辺りがズキッとした。
「・・・そうなんすか。で?どうするんすか?」
「・・・うん、実は迷ってるの。英ちゃんのお義母さんにも相談したら、もう英ちゃんに義理立てしなくて良いから、好きに生きなさいって言ってくれたんだけど。」
「・・・・・。」
胸のズキズキが大きくなり、言葉が出ない。
「私がここからいなくなった方が、信吾君にも迷惑かけなくて済むもんね?」
「・・・迷惑だなんてそんな!」
何とか声を振り絞って否定する。
すると、紗恋さんは
「でも、英ちゃんが亡くなったせいで、あの後、彼女と別れちゃったでしょ?その後も何か私に気を使ってくれて、一人でいるような気がするのよね?」
「・・・・・。」
ドキッ!見透かされていた。
俺がまた言葉に詰まると、
「ほら、やっぱり私がいなくなった方が良いでしょ?・・・信吾君にはこれまで色々とお世話になっちゃってたから、もうあなたの人生の負担になりたくないのよ。」
「・・・・・。」
やっぱり俺が返事に困っていると、隣でジュースを飲んでいた詩織ちゃんが
「えーっ、信吾ちゃんに会えなくなるのーっ?詩織嫌だーっ。」
紗恋さんが詩織ちゃんの顔をのぞき込んで
「でも、お爺ちゃんとお婆ちゃんと暮らせるんだよ?」
「・・・うーん。」
困った顔で天井を見上げて考え込んでたかと思ったら、急に明るい笑顔で。
「・・・お爺ちゃん達と信吾ちゃん、どっちもが良いっ!」
紗恋さんがそれを聞いて微笑む。
「まあ、詩織ったら。」




