Snakewoman show 2013
それから数日後、何事も無くいつものように帰宅する。
「・・・ただいまー。」
キッチンに入ると樹莉亜が一人で夕飯を食べていた。
「パパ、お帰りー。」
「・・・あれ?一人?ママはどうした?」
ふと見回すと、流しにはもう食べ終わった食器が一組
樹莉亜がニンマリしながら
「お部屋にいるよー。」
と、言うので奥の部屋を覗くと、陽子がこちらに背を向けて座ってる
「ただいまー。」
「・・・・・。」
その背中に声をかけても返事が無い。
その様子を見て、樹莉亜が「プッ!」と吹き出した。
何だろ?俺何か怒られるような事したかな?
・・・・・。
・・・胸に手を当ててみたが、全く心当たりが無い。
樹莉亜の方を見ると、俺の困った顔がよっぽどおかしいのか、口を手で押さえて真っ赤な顔で笑いをこらえてる。
もう一度陽子の背中を見ると、陽子も何だか小刻みに体が震えている。
何だよ、人をシカトしたフリして笑ってるのか?
それならくすぐってやれと、足音を忍ばせて背後に近づく。
すると、ヘッドホンをして一心不乱にキーボード?を弾いてるようだ。
あー、こりゃ爆竹鳴らしても聞こえないわ。
しかし、昨日までキーボードなんて我が家に無かったはずだが。
・・・生活がギリギリとか言って俺の小遣いはいつまでもお値段据え置きなのに、キーボードなんか買ったのか?バンドに戻る気も無いくせに。
・・・ちょっと了見の狭い考えだったな。
いかんいかん、これを言ったら喧嘩の元になる。
気を取り直してそっと陽子の肩に手を置くと、陽子が驚いてヘッドホンを外しながら振り返る。
「あっ!お帰りなさい。・・・あー、びっくりした。」
「びっくりしたじゃないよ。声かけても全然振り向かないから、何か怒ってんのかと思ったよ。」
「・・・何?何か私を怒らせるような事でもしたわけ?」
やぶ蛇だったな。
我が家のやぶは突っつくと十中八九蛇が出て来る。気をつけよう。
「・・・してないよ。それよりそのキーボードどうしたんだ?」
「え?・・・ああ、これ?」
言葉を濁す。
何だか、そっちの方が後ろめたい事したんじゃないのか?
すると、樹莉亜が
「徹おじちゃんにもらったんだよねー?」
「徹に?」
何だそれ?
「・・・うん、さっき徹君が突然来てね、レイラちゃんが夕べ収録があったクイズ番組で、賞品としてもらったらしいのよ。」
「へー、凄いな。」
「で、徹君もレイラちゃんもキーボード弾けないから、持っててもしょうがないからやるよって持って来てくれたわけ。」
そう言う事か。
「ふーん。・・・珍しく素直にもらったんだ?」
「珍しくって何よ?私が素直じゃ無いみたいじゃない。」
「・・・いや、そういう意味で言ったんじゃ無いって。」
あぶねえあぶねえ、また蛇が飛び出した。
後ろで樹莉亜が笑いをこらえきれず、吹き出す。
この子は俺が陽子にやり込められるシーンが大好物なのである。
「まあ、はじめは困るって言って、断ったんだけどね。」
・・・やっぱ素直じゃねえな。
「徹君が、じゃあ好きに使って良いから預かっててくれって、そう言って強引に置いていったのよ。」
「ハハハ、徹らしいな。」
「でしょ?・・・で、何か見てたら『弾いてー!』って言ってるように思えて、つい開けて弾いてたら夢中になっちゃって。」
それは君の気持ちの問題だと思うけど?
「へー。」
「でも、ちゃんと樹莉亜のご飯とか家事はやってから、弾いてたんだからね!それにしても今時のキーボードって機能とか音質とか凄いのね?昔のFM音源のとは大違いね!」
少女のように目を輝かせて力説する。
すっかり、アラフォーの少女はこの白黒の鍵盤の虜になってしまったようだ。
昔取った篠塚って言うの?
「そうか。・・・で、俺の飯は?」
「・・・あっ!今すぐ何か作るね?」
すっかり主婦である事を忘れたな、少女よ。
「忘れてたんだな?・・・良いよ良いよ、カップ麺でも食うから。」
「ごめんね?出来たら洗い物も・・・。」
「・・・はいはい。」
徹も陽子にレイラちゃんの一件での恩義を感じたのか?それともマジでバンドに誘ってるのか?
本意はわからないけど律儀な奴だな。
しかしまあ、お互い素直じゃないからな。どうなることやら。
そしてその次の週末、The Namelessのスタジオ練習で4人が集まった。
徹に開口一番
「よう徹、なんかありがとうな。」
「あん?何がよ?」
怪訝そうな表情だ。
「陽子にキーボードくれたんだろ?あれから暇を見つけちゃ練習してるよ。」
「ああー、アレのことか。まあお前らにはでっけえ借りが出来ちまったし、あんなもんで穴埋め出来たとは思って無いけどな。」
「そんなの気にすんなよ、ダチじゃねえか。てか、陽子にキーボードくれたってのは、The Namelessに戻って来いよってメッセージなのかと思ったんだけどな。」
「あ、いや、別にそこまでは考えてなかったな。俺もレイラも弾けねえから、持ってても邪魔になるだけだからな。」
徹がケラケラ笑う。
この男、義理高くはあるが、そこまで計算高くは無かったか。
そうだな、徹がもっと計算高かったら、陽子のアドバイス無しにレイラちゃんを売れっ子に出来てたはずだ。
脇で見ていた祥二が
「ところで徹君、その顔の傷どうしたの?」
見ると頬に小さい絆創膏が貼ってある。
「ああ、かすり傷だよ。・・・おっとわりい電話だ。」
徹がスマホを取り出して誰かと話し出す。
「・・・オッケー、ご苦労さん。・・・ああ、じゃあ明日も頼む。レイラにもゆっくり休むように言ってくれ。・・・じゃあな。」
どうやら仕事の話のようだ。
でも、徹は一人で社長兼マネージャーのはずだが?
祥二も同じ疑問だったんだろう。
「誰?」
と、たずねる。
「ああ、うちの新しい社員だよ。」
「とうとう、社員雇ったのか。社長さん。」
からかうと
「最近レイラも忙しくなってきたからレイラのマネージャーに雇ったんだ。この俺様に屁でもねえかすり傷を付けた命知らずだ。」
徹がケラケラ笑う。
「お前に怪我させた奴を雇ったのか?」
何がなにやら意味がわからない。
「何日か前の夜、ラジオの公録現場にレイラを送ってから、ちょっとスタジオから野暮用で出掛けたのよ。」
「うん。」
「そしたらよ、何か後をつけられてる気配がしたんで、出てこいって言ったら、電柱の陰から『よくも!!レイラちゃんにバラドルみたいな事させやがって!!』とか言って若いあんちゃんが出て来たのよ。」
「マジか?それって今流行ってるストーカーって奴か?」
信吾も乗ってきた。
「あんだてめ泣かすぞって怒鳴ってやったら、下げてたバッグをごそごそしやがってよ。」
「ふんふん。」
「やべえ!!ナイフとかで刺されたら、流石の俺様でも死んじゃうかも!!とか思ったら、ペンライト出しやがったのよ!ボヤーンと光ってんの。・・・お前は”スターウォーズ”かっての!」
「・・・何だそりゃ。」
「まあ、結局俺様のフォースの力で軽くのしちまってよ、マッポに突き出そうかとも思ったんだけど、こいつはレイラじゃなくて俺を襲ったんだし、凶器は持って無かったんでちょっと話してみたのよ。」
まあ、ペンライトには基本殺傷能力は無いな。
信吾が持ったら別だろうけど。
「したらまあ売れてなかった頃の、歌で勝負しようとしてた麗羅の大ファンで、路線変更させた俺に憤慨していたらしいわ。だから一応路線変更はしたが、知名度上がったらゆくゆくは歌で勝負させる予定だって話してやったら、すげえ嬉しそうな顔しやがってよ。そんで俺には劣るが、こいつはレイラの事を大切に思ってるってわかったんで、雇うことにした。」
信吾もいぶかしげな表情で
「大丈夫か?危ねえ変態野郎じゃ無えのかよ?」
「色んなイベントで追っかけしてて、俺がレイラのマネだって知ってたみたいなんだよな。その晩も公録を見に行ったらたまたま出て来た俺を見つけて、カッとなって追いかけてきたんだと。言っちゃえば軽くストーカーかもな?でもまあ、根性がひん曲がってるクズじゃ無さそうだ。俺の見立てだと。」
結構こいつの他人を見る目は外れちゃいないはずだ。
ふと、昔の事を思い出して妙に納得した。
「そう言えば、祥二を馬鹿にされたと勘違いして、信吾に殴りかかってきた誰かさんみたいだよな?」
徹が頭をかきながら信吾を見上げた。
「ケッケッケッ!そんなこともあったな?つうか、俺様はライトセイバー無しでも強いけどな?・・・おし、練習しようぜ!」




