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STAGE  作者: 今野 英樹
18/44

Idol Master 2013

さてその嬉しい誤算の現代。

徹の事務所で昔話をしながら、俺も徹も結構ほろ酔い、良い気分だ。

徹がおもむろに

「純よお、麗羅をどう思う?」

と、聞いてきた。

「・・・ん?ああ、凄く可愛いし性格もとっても良い娘だと思うけど、俺には陽子もいるし、樹莉亜とあんま年も変わらねえしなあ。」

徹が呆れ顔で

「バーカ、そんな事聞いてねえよ。アイドルとしてどうか?って話だよ。」

・・・酔っているとは言え、恥ずかしい勘違い。

「・・・徹、陽子と樹莉亜には今の話すんなよ!」

徹がニヤッと笑って

「したら面白れえ事になりそうだけど、今日は恩人だからな。しゃあねえから黙っててやるよ。」

「絶対だぞ!」

徹に詰め寄る。

俺の夫としての、そして父としての威厳が掛かっている。

・・・そもそもそんなに無いが。

「わかったよ、わかったってばよ。」

徹がケラケラ笑う。

そして、急に真面目な顔で語り出す。

「俺はよう、麗羅を一目見た時にビビッと来たのよ。」

「おう。」

「わかるか?アイドルになりたいって娘達は、まあちょっとした勘違いの子も多いけど、ダイヤの原石みたいな娘もたまーにいるわけよ。」

「だろうな?」

「そんな娘達の中でも、超良いって思えるダイヤの原石を他人がポイッとしたんだぜ?俺の目の前で。そりゃ俺がもーらったってなるだろ?」

・・・言いたい事はわかったが、貧困なボキャブラリーのせいで全く説得力が無いぞ。

「で?その原石を磨いて輝かす算段は付いてるのか?」

「そこなんだよな。」

徹が珍しくちょっと神妙な顔をする。

「麗羅を昔のような一本立ちしたアイドルで売りたいってのは、俺の野望なんだがな。いかんせん、結果が出てねえんだよな。」

「そうだな。」

可愛いんだけどね。

「曲だって最近のアイドルが歌ってるようなおちゃらけソングじゃなくて、正統派のなかなか良い曲だと思うんだが、全く鳴かず飛ばずだ。俺の売り込み方が悪いのかな?」

珍しく弱音を吐いた徹。

「いや、そんな事無いんじゃないか?まあもしかしたら、現在はグループでバラエティにも出るようなアイドルが流行ってるから、ソロの歌で勝負するアイドルってのがたまたま時代に合ってないのかもな?」

徹がした眉間にしわを寄せ、唇を突き出しながら

「何だよー?そしたら、路線変更しろって事かよ?」

知らんがな!

とは言いたかったが、こらえて

「いや、よくわかんねえけど徹は徹の考えを貫けば良いんじゃねえか?自信を持ってさ。」

徹の表情が一気にパーッと明るくなって

「おうおう!そうだよな!俺様の自信が揺らいだとあっちゃ、売れるもんも売れなくなるな!」

「そうだそうだ!」

もう、どうにでもなれだ。

しかし、徹はよっぽど麗羅ちゃんに入れ込んでるんだな。

昔からちゃらんぽらんで全く計画性の無かったこの男が、真面目に彼女に対する信念を貫こうとしている。

仕事に対する熱を失いがちだった俺には、ちょっと羨ましくも思えた。

そして、ほどよく酔った俺達は、そのままソファーで眠りについた。


次の朝、麗羅ちゃんを迎えに、徹を車に乗せて家に戻ると3人は朝食を食べ終えた後だった。

俺と徹の顔を見るなり、樹莉亜が嬉しそうに目を輝かせて

「ねえねえ、聞いて!昨日ねー、麗羅ちゃんと一緒にクイズ番組観てたんだけど、麗羅ちゃん凄いんだよ!ほとんどの問題の答え知ってるのよ!」

へー、意外な特技なんだな。

麗羅ちゃんが照れながら

「・・・お父さんがクイズ番組好きで、小さい頃からよく一緒に観てたんです。お父さんは私がわからなかったクイズの答えを、必ず説明して教えてくれてたんです。それで学校のお勉強は嫌いで全然出来なかったんですけど、雑学って言うんですか?そっちの方はいろいろ詳しくなっちゃって。」

俺が徹を振り返り

「知ってたか?」

とたずねると、頭をかきながら答える。

「・・・いや、全然。」

陽子が勝ち誇ったように

「徹君、麗羅ちゃんの売り出し方が決まったわよ!クイズよ!クイズ!クイズ番組に出させなさいよ!絶ーーーっ対に人気出るわよ!」

徹が頭をかきながら

「だからよー、麗羅は正統派アイドルで」

それを遮るように

「あんたねー、あんただけのエゴで麗羅ちゃんの人生を潰そうとしてるのよ?親御さんからお預かりしてる大事な娘さんでしょ!」

陽子が詰め寄ると、徹が助けを求めるような顔で俺を見る。

俺は目をそらす。

夕べの徹の語ったアイドル論から、麗羅ちゃんに対する真摯な心構え。

当然応援するつもりではいるが、この局面では俺は無力。

言い出したら陽子が絶対折れないのは俺が一番よくわかってるからだ。

「そうだ!芸名も漢字が難しいからカタカナで”レイラ”ちゃんに改名しちゃったら?うん、そうしちゃいなさいよ!」

徹がすっかり観念したように

「何かどっかのハーフタレントみたいになっちまうな。・・・麗羅、お前どうする?それで良いのか?」

麗羅ちゃん改め、レイラちゃんになるのか?が微笑みながら

「私はみなさんが喜んでくれるんでしたら、どちらでもかまいません。」

「じゃあ、前向きに検討してみっか。・・・お!やっべえ!新幹線の時間が!純頼むわ!陽子も樹莉亜ちゃんもありがとうな!」

「うん!徹おじちゃん!またレイラちゃんと遊びに来てね!」

「樹莉亜ちゃんまたね!陽子さんお邪魔しました!」

車に乗り込もうとする徹が思い出したように

「あ、そうだ。陽子、バンドに戻って来ねえか?」

それを聞いて樹莉亜が目を輝かせて

「ママ、やれば良いじゃん!素敵よ!」

陽子が呆れたように

「だから、主婦は忙しいんだってば!・・・まあ考えてはみるけど。」

俺や信吾や祥二と違って、元々お互いそりの合わない徹からの誘いは意外で、まんざらでも無いようだ。

「おう!前向きに検討してくれよ?じゃあな!」

俺は徹とレイラちゃんを乗せて、新幹線の停車駅へ向かった。


そして数日後、徹から某クイズ番組にレイラちゃんが出演するから観てくれとのメールが来た。

なんでも以前勤めていた芸能事務所の社長に頭を下げて、その事務所のタレントとバーターで良いから、テレビ局に口を利いてくれないかと頼んだそうだ。

徹も事務所を辞めた時、後ろ足で泥をぶっかけて辞めたわけじゃ無いので、社長も快諾してくれて、出演が決まったのだと。

その日は家族3人、まるでもう一人の家族が出るような気分でテレビを見守った。

結果は、並みいる高学歴芸能人、出たがり識者達を抑えて準優勝。

可愛いルックス、あっけらかんとしたおとぼけ発言、しかしクイズとなると博識な面を見せる。

そのギャップが受け、ネットの掲示板やSNSで瞬く間に”レイラ”と改名した一人の少女の名前は拡散され、この情報社会、あっという間に話題の人に押し上げた。

その後瞬く間に徹の事務所、って言っても徹の携帯にだが、複数のクイズ番組やバラエティ番組からの出演オファーが来だしたそうだ。

・・・人間、何が転機になるかわからないもんだ。

たらればの話になるが、あの時徹が忘れ物をしなかったら、レイラちゃんが俺の家に来なかったら、そこでクイズ番組を見てなかったら、そして徹が陽子の提言を素直に受け入れなければ、彼女の運命はまた違っていたんだろうな。

そして、高校時代の「あん時」、俺と徹が殴り合ってなけりゃ、この今日も無かったんだろうな?

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