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STAGE  作者: 今野 英樹
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Rude Boys Rhapsody 1987

高校1年の3学期頃、徹が言う「あん時」、俺達にとある事件が起こった。

その頃すでに俺達4人でツルんではいたが、俺と徹の関係は微妙なものだった。

俺と信吾、そして徹と祥二は高校以前からの友人。

そして俺と祥二は同じサッカー部って事でツルみだしていて、徹と信吾は入学早々拳を交えた仲。

・・・俺と徹は?

何となく俺にとって徹は祥二と信吾の友達、徹にとっても俺は信吾と祥二の友達みたいな、間接的な微妙な存在であった。

まあそんな背景の中、普通なら高1の冬頃なんて、特にさしたるイベントも無く、何事も無く通り過ぎるはずだった。

そんな折、何故か徹が学校に来ない日が多くなっていた。

祥二が朝、家に迎えに行っても、後から行くから先に行ってくれと言われ、そのまま登校しない日々が続いたりしていた。

担任以外の教師は、問題児が一人減って良かったとほくそ笑んでるような空気だった。

教師なんてそんなもんだ、自分達が勤続している間に出来るだけ問題は起こされたくない。災いの芽になるような生徒は一人でも少ない方が良い、そう思ってるんだ。

問題と言えば、その頃俺達の住んでる街の周辺で、少年達の集団によるバイクの窃盗が頻発しているようだった。

まあ、別に盗まれるバイクも持ってないし、俺達には全く関係無い事件だと思っていた。


ある日の夜、俺は陽子と数人の同級生達と学習塾からの帰宅の途についていた。

陽子とは幼稚園から家族ぐるみのつきあいで、塾も同じ塾に通わされていた。

途中の繁華街を通り抜けようと言う時、陽子が

「純ちゃん、あれ、同じクラスの松ヶ谷じゃない?」

と指さす方を見ると、徹らしき背中がいかにもガラの悪そうな連中と立ち去る姿が見えた。

徹はその中の一人に肩を組まれていた。

またその中の一人はバイクを押していて、その集団は繁華街から暗闇へ消え去ろうとしていた。

ちょっと嫌な予感がした俺は

「陽子はみんなと先に帰っててくれよ。」

「え?行くの?ヤバいかもよ?」

陽子が心配そうに俺を見つめる。

「大丈夫だよ、ちょっと様子見てすぐ戻ってくるよ。」

と、言いその集団の消えて行った方角へ歩を進めた。

その背中に陽子が言葉を投げかける。

「・・・うん、わかった。気をつけてね?・・・じゃあね。」

俺は一端立ち止まり、手を振ると、闇の中へかけだした。


徹を交えた集団はどんどん人気の無い方へ歩いて行く。

すると連中が立ち止まり何か話をしているようだ。

電柱の陰からそっとその様子をうかがっていると、徹だけをそこへ残し連中が立ち去る。

徹はそこから立ち去るでも無く、立ち止まりキョロキョロとまるで辺りをうかがうようにしている。

そして退屈そうにあくびをしながらガードレールに腰掛ける。

そこへ近づき

「よう、徹。・・・何してんだよ?」

と、声をかける。

すると、徹が驚いたように

「純!?てめえこそ何でここにいんだよ!?」

「お前こそここで何してんだよ?最近学校にも来てねえじゃねえか?」

「るせえな、てめえにゃ関係ねえだろ?・・・それによお、俺はもう学校辞めんだよ。」

・・・は?

寝耳に水だった。

「どうして?何で学校辞めるんだよ?」

徹が口を滑らせて、しまったと言うような表情で

「あ?俺の勝手だろ?・・・まあ俺ん家にはお袋しかいねえからよ。貧乏だから、俺は学校辞めてよお、金稼いで、妹弟達はちゃんと学校行かせようと思ってよ。」

「お袋さんもそれを望んでるのかよ?」

俺が問い詰めると、徹が困惑しながら

「・・・いや、まだお袋には話してねえ。」

「それに金稼ぐって何する気だよ?まさか、さっきの連中と悪い事して稼ぐってわけじゃねえだろうな?」

心当たりがあるのか、徹が言葉に詰まる。

「そうなのか?」

「・・・あいつら中学の先輩で、確かに誘われてて迷ってるけどよ。・・・今日はちょっと偶然そこで会って、付き合ってるだけだ。」

「お前さ、それって窃盗の共犯だろう?やめろよ!祥二には何て言うつもりだよ?」

祥二の名前を聞いて、明らかに動揺する。

「・・・祥二は関係ねえだろ?」

「関係ねえって事無いだろ?祥二が一番お前を心配してんだぞ?」

徹が明らかにイライラしだしてる。

「って、さっきからてめえは何なんだよ?お節介ばっか焼きやがってよ。」

俺もそこまで言われると、カチンと来ないわけじゃない。

「何だと、この野郎。」

「何だ?やんのかよ?てめえに喧嘩なんか出来んのかよ?」

「あ?」

「てめえは信吾の陰に隠れてる、いっつも俺の陰に隠れてる祥二みてえなもんだろ?信吾の陰に隠れてりゃ恐いもん無しだもんな?」

プチッ!

・・・その言葉にぶち切れた。

俺を馬鹿にするだけならともかく、徹を本気で心配している祥二まで馬鹿にしやがって。

「・・・お前よう、祥二をそんな目で見てたんかよ?お前の事を一番のダチだと思ってる祥二を?」

「あ、いや、そんなわけじゃ。」

たじろぐ徹、多分言い過ぎたと思ったんだろう。

俺はうろたえる徹に無意識のうちに殴りかかっていた。

・・・と、俺の拳が空を切って、徹のカウンターを顔面に喰らう。

切られたような痛みが俺の顔に走る。

・・・こいつ、喧嘩のセンスが洒落にならねえ。

しかし、俺は無我夢中で殴りかかっていった。

「いでっ!!んだよ、てめえ!まだやんのかよっ!?」

俺が何発か拳を命中させると、その倍ぐらい返ってくる。

倍返しだ。いや、返されてるんだが。

瞼が腫れたのか、視界が悪くなってきた。

でも、あんな気の良い祥二を侮辱した徹の言葉が許せなくて、何度も何度も殴りかかった。

「謝れよーっ!!てめえ!!祥二に謝れよーっ!!」

徹も肩で息をしながら

「・・・しつけえんだよ、・・てめえよぉ。謝れつったって祥二がいねえだろうがよ?」

・・・ですよね。

その時、さっき徹と一緒にいた連中がガヤガヤと戻ってきた。

そのうちの一人が俺達に気づいて声をかける。

「・・・松ヶ谷、どうした?何だよそのガキ?」

徹が連中を振り返り

「あーっ?何でもねえよ。」

そしてこそっと俺の耳元で

「・・・純、やべえからもう行け!」

しかし、いち早く5人の男達が俺達を取り囲む。

次の瞬間、その男達の足が次々と俺の体に向かって飛んでくる。

徹が俺をかばいながら

「ばっ!てめえらやめろって!こいつは関係ねえ!」

そのうちの一人がニヤニヤしながら

「どうしたんだよ?松ヶ谷?一人だけで楽しんでねえで、俺達にも楽しませろよ?」

言いながら、容赦なく蹴りを飛ばしてくる。

「やめろっつってんだろうがっ!?やめろっ!!」

俺をかばいながら徹が叫ぶ。

・・・何発蹴られただろう?

痛む全身に気が遠くなりそうな、その時

「・・・純っ!!」

猛スピードでママチャリに乗った大男が、叫びながら現れた。

信吾だ。

ガッシャーンッ!!!

信吾はチャリを投げ捨て、俺と徹を囲む不良グループの輪をはねのけて、俺の元へ駆け寄る。

「おい!!大丈夫か!?・・・誰だ純の顔をこんなにボコりやがったのは!?」

地面を振るわすような野太い怒声とともに、振り向き不良グループをにらみつける。

・・・もうキレてる。多分もう誰も止められない。

信吾の体躯と怒声に完全にビビった不良グループの一人が

「それは、俺達じゃなくて松ヶ谷・・・ぐげっ!!」

と、言いかけると、その言葉を遮るように徹がそいつを殴りつけて叫ぶ。

「てめえらーっ!!よくも純をこんなにしやがって!!・・・信吾やるぞ!!」

虚を突かれた不良グループがたじろぐ。

「バッ!おまっ!何をっ!」

信吾が俺ほどでは無いが、顔が腫れている徹に気付き

「てめえら、徹にまで手ぇ出しやがったのかっ!?」

完全に制御不能な鉄人28号が豪腕を振るい、不良グループをなぎ倒す。

そこに手負いながらも赤い彗星、シャア専用の何か的な、スピーディな喧嘩屋の徹も加勢する。

あっという間に不良グループは戦意を喪失して、散り散りに逃げ去って行った。

それまでの喧噪が嘘のように静けさが辺りを包み、信吾と徹の息づかいだけが暗闇に響く。

フッと我に返った信吾が

「純!大丈夫か?」

俺に駆け寄って、俺の腕を担ぎ上げる。

「ああ、ありがとう。助かったよ。・・・でも、どうしてここに?」

「おお、家にいたら陽子から電話があってな。純が徹とやばそうな連中を追いかけて行ったって言うから、急いで探しに来た。」

・・・そうか、陽子が。

いつもはお節介焼きに思えるが、今回ばかりは助けられたな。

徹がバツの悪そうな顔で

「純、信吾悪かったな。俺が・・・。」

俺がその言葉を遮って

「徹があいつらに絡まれてたんだよ。・・・な?」

俺が徹の顔を見ると、徹が驚いた表情で言葉を飲み込む。

信吾が俺の肩をさすりながら

「そうか。純が弱いとは思っちゃいないけど、人数差があるんだから俺を待ってろよ。」

「ハハハ、まさか信吾が来てくれるとは思ってなかったしな。」

そう、この時はまだ携帯電話なんて文明の利器が開発されるとは、思ってなかったしな。

・・・いや何でもない。

徹が頭をかきながら

「ああ、・・・純がこんなに強い奴だとは思わなかったぜ。」

・・・さんざんボコってくれたくせに嫌味か?

すると信吾が、後世にドヤ顔と呼ばれる自慢げな顔で

「だろ?ただ単に腕力だけなら俺の方がちょっとだけ上だけど、根性は俺以上なんだよな、純は。」

いや、褒めてもらって悪い気はしないが、腕力はちょっとどころか雲泥の差があるぜ?

徹がそれを聞いて

「ハハハ、・・・だな。」

と、意外に素直な笑顔で笑う。

「とりあえず、怪我を治療しなきゃいけねえから帰ろうぜ。純、後に乗れよ。」

信吾が乗り捨ててあった自分のママチャリを押して来た。

「・・・ああ、頼むよ。・・・徹も気をつけて帰れよ?」

徹がすっかりしおらしくなって

「純、ありがとな。」

「良いって、それより明日から学校来いよ。」

徹が一瞬はっとした表情を見せたが、すぐ下を向いて

「まあ、それはわかんねえけど。」

と、答える。

信吾も

「そうだぜ、何があったか知らねえけど、俺もつまんねえし祥二も心配してるぞ。・・・それに先公どもも退屈そうだしよ、ちゃんと出て来いよ。」

徹が返事をせずクルッと背を向けて、片手を上げて夜の街に去って行く。

その背中を見送って、信吾が

「おし、じゃあ行くか。」

俺はでかい信吾の背中につかまって、チャリに揺られて帰る。

チャリが揺れるたびに顔やら体が痛む。

「・・・信吾、何かこのチャリ揺れ酷くね?」

俺がたずねると、信吾が申し訳なさそうに

「さっき、チャリ投げ捨てた時に、車輪が歪んだみてえだな。」

・・・ハハハ。

それより何より、徹の事が気がかりだった。

あいつ、明日から学校来るのかな?

と、他人の心配をしてるうちに家に着くと、これまた陽子が連絡をしてたらしく、心配して待ち構えてたお袋にしこたま怒られた。

親父はそれを見てヘラヘラ笑ってやがった。


そして次の日、いつものように信吾と連れ添って登校する。

いつもと違うのは顔が昨日よりパンパンに腫れて視界が悪いのと、体のあちこちが痛い事。

「はよーっす!」

信吾の背中に隠れるように教室に入ると、陽子と美空が女子数人のグループに混じっていた。

「あら、おはよう。」

美空が微笑みながら挨拶を返してくれると、陽子が俺の顔をのぞき込み

「おはよう。・・・キャッ!何、その顔?ひっどーい顔ね!」

「・・・るせえな、余計なお世話だよ。」

それを聞いて陽子が片唇をひくつかせながら

「何?その態度。・・・信吾君ちょっと純ちゃんの事抑えてて、顔突っついてやるんだから!」

信吾が苦笑いしながら、俺の肩を抑えようとする。

「・・・すいませんでした。お許し下さい。」

俺が慌てて平謝りすると、陽子が笑いながら

「よろしい、許して進ぜよう。」

その様子を見て、陽子の隣にいた美空と信吾が笑う。

「アハハ、陽子ったら。根は優しいのに、純君にだけは厳しいわね?」

陽子がアッケラカンと

「そりゃ、純ちゃんと信吾君とは物心ついた時から顔合わせてるから、友達って言うより家族みたいなもんよね。・・・信吾君がお兄ちゃんで、純ちゃんが弟みたいな。」

その弟と将来リアル家族になるんだぜ?・・・そんな気がしないでもない。

そこへ祥二が教室に入って来た。

「おはよー!」

ここんとこ珍しく、何気に嬉しそうだ。

すると、その後ろからうつむき加減に徹が入って来る。

「・・・うす。」

「よう!来たか。」

徹が俺の顔を見てニヤッと微笑む。

この一件から、俺と徹にも親友と呼べる絆が生まれたんだ。

・・・後日、夕べの連中がバイクを窃盗して現行犯で逮捕されたそうだ。

そいつらの口から共犯者として徹の名前は出なかったようだ。

徹がマジで拒んでいたんだろうか?それとも連中が徹と信吾とはもう関わりたくなかったのか?

いずれにせよ、この時は全然気づかなかったけど、後々の俺達それぞれの人生を好転させた出来事と言っても過言じゃ無い事件だったような。

まず、徹が自主退学してたら、そもそもバンド結成なんて無かっただろう。

それに、この件で俺と徹の仲が親密になって無かったら?

もし後日にしろ窃盗団の巻き沿いを徹が食ってたら、陽子は絶対に嫌がってバンドに加入してなかっただろうしね。

良くも悪くも、嬉しい誤算だったって現在だから言えるね。

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