Cherchez l'idole 2013
とりあえず、俺達のバンドThe Namelessは、キーボードの陽子抜きだが25年ぶりに再始動した。
そんな翌る日、俺は仕事を定時で切り上げ、いそいそと帰宅していた。
別にバンド云々は関係無く、その日は陽子との結婚記念日で外食をする約束をしていた。
えーっと、何周年だっけ?17か?それとも18だっけ?
・・・ん?どっちだ?
やべえな、俺に取っちゃどっちでも良いんだが、女ってこう言う記念日的な事をハッキリ覚えてて、パートナーがそれを忘れてたりすると怒ったりするもんな。
指折り数えたが何年目と何周年の違いがわからず頭を悩ます。
・・・マジでどうでも良いんだがな。
そんなくだらん事を考えてたら、自宅マンションへ到着。
なるべく、そう言う話題に触れないようにしよう。うん。
「ただいまー。」
「あっ!パパお帰りーっ!」
玄関を開けると、よそ行きの服を着た樹莉亜がパタパタと小走りに玄関へ出て俺を迎えてくれた。
その後ろから
「あら、お帰りなさい。」
陽子が顔を覗かせる。
陽子もよそ行きの服を着て、もう二人とも出かける準備は完了しているようだ。
まあ俺はスーツだし、わざわざ着替える必要は無い。
「ゴメン待った?」
陽子がニンマリして
「うん!あなた待ちよ。」
普段だと嫌味に聞こえそうな言葉も、今日は陽子にとっても嬉しい日なのか、珍しく無邪気に聞こえる。
いや、まあいつも邪気があるってわけじゃないんだけど。
まあ24時間365日休みの無い主婦様にとっては、結婚記念日どうこうより、家事をしなくても良いこの一日がHappyなのだ。
「ハハハ、よし!じゃあ出掛けようか。」
・・・と、タイミングを計ったかのように携帯が鳴る。
着信を見ると、徹からの電話だ。
・・・なんちゅうタイミングだ。
「ゴメン、ちょっと待ってて。・・・もしもし?」
特段悪い事はしていないんだが、陽子達に謝って電話に出る。
「純か?すまねえ、助けてくれー!」
電話越しの徹の声は、かなり狼狽していてただ事じゃ無さそうだ。
俺は陽子と樹莉亜を見て、片手でゴメンして話を続ける。
「どうしたんだよ?」
「実はよ、今日麗羅連れて営業で回ってたら、どっかにセカンドバッグ忘れちまってさ。財布とかだけなら何とか出来るんだけど、明日の早朝の大阪行きの新幹線のチケも入ってるのよ。麗羅のと二人分。」
「ふんふん。」
「で、そいつを探しに行くのに麗羅連れ回すわけにいかないんで、お前んとこで麗羅を預かって欲しいのと、車を出して欲しいんだけど。・・・図々しいとは思うんだが頼む!!」
・・・オイオイ、マジかよ。
このタイミングで、そんな断りにくいアクシデントをぶち込んでくれるなよ。
「・・・これから家族で出掛ける予定だったんだけど、ちょっと待ってくれるか?」
と、恐る恐る陽子に事の次第を簡単に説明する。
陽子が怒ったふりの表情で
「しょうがないわねー。断れって言ったら私が悪人にされそうだから、良いわよ。手伝ってあげなさいよ!でも、これからご飯作ってる時間も無いし、麗羅ちゃんが来るんでしょ?・・・ピザでも取って女子会しちゃおうか?」
と樹莉亜に言う。
樹莉亜も
「うんうん、女子会賛成!」
と無邪気に喜ぶ。
ほっと胸をなで下ろし、俺は徹との待ち合わせ場所に愛車を走らせ、数十分後にマンションに徹と麗羅ちゃんを連れてきた。
「あの、今日はすいません。・・・樹莉亜ちゃん?こんにちは。」
「うわー!麗羅ちゃんだー!凄ーい!かわいいー!」
樹莉亜が興奮気味だ。
そりゃ無名と言えどアイドルだしな。
それに、一人っ子だからお姉ちゃんが出来たみたいなんだろ。
徹が頭をかきながら
「陽子、悪いなー。純借りるぜー。」
陽子が悪そうな笑みを浮かべて
「徹君久しぶりね?うちの旦那は高いわよ?」
「マジで悪い。この埋め合わせは必ずするからよ?」
「ごめん、じゃあ行ってくる。」
陽子と樹莉亜、それと麗羅ちゃんに手を振る。
「はいはい、行ってらっしゃい!」
マンションを後にし、まずは徹と麗羅ちゃんが今日営業で回った店舗へ車を走らせる。
全店舗を回ったが、どこにも徹のバッグは置き忘れられてはいなかったようだった。
「ちっくしょう、どこいっちまったんだよ?」
徹がガラにも無く落ち込み気味のようだ。
ちゃらんぽらんな性格だが、仕事に関してだけは必死なんだな。
特に、麗羅ちゃんを売り出す事に関しては。
「あとは、・・・そうだな、移動に使った交通手段は?」
「ああ、電車とタクシーを使ったな。」
「じゃあ、それしかねえだろうな。あとは歩きながら、道ばたにポロッと落としてなけりゃな。」
からかうと、ちょっと眉を歪ませて
「俺を痴呆扱いすんなよ?・・・まあ、電車は無えな。電車を降りて、タクシーに乗って降りる時金払ってんだから。」
「ほぼ決まりだな。」
タクシー会社を徹がスマホで調べて、近隣の何社かに連絡すると、案の定タクシーの中に置き忘れられていたそうだ。
しかし、徹のバッグを乗せたタクシーは営業所に戻れず、次から次へと客を乗せて移動中で、運悪くちょっと遠くまで走ってしまってるらしい。
結局、そのタクシーが客を降ろして営業所に戻るまで、タクシー会社で待たされるハメになり、無事バッグを受け取ったのは夜11時過ぎだった。
徹がすまなそうに言う。
「はー、やれやれ助かったぜ。悪かったな、純。遅くなっちまったけどどうする?」
「そうだな・・・。これから家帰っても、もうみんな寝てんだろうな。」
「じゃあ、俺の事務所に行こうぜ。コンビニでも寄って酒でも買って帰ろうぜ。」
「お、良いな。じゃあそうしようか。」
俺と徹はコンビニでビールと酎ハイとつまみを買い込んで、徹の事務所で呑む事になった。
ソファに腰掛けビールの缶を開けて、お互い缶を合わせる。
グラスのようにチンッ♪と軽快な音は鳴らないが、まあ気分だけでもね。
「いや、しかしマジで今日は助かったぜ。こういう事頼めるのはお前だけだからな。」
「お前のやっかいごとに巻き込まれるのは俺の宿命か。損な役回りだな。」
苦笑しか出ない。
「まあ、でもよ、感謝してるんだぜ?俺が今まっとうな仕事して、まっとうに生きていられんのは、あん時のお前のおかげだからな。」
「あん時?・・・ああ、あれか。そう言えば、芸能事務所ってのはまっとうな仕事なのか?」
笑いながら茶化してみる。
「悪い事はしてねえから、十分まっとうだろ?」
徹もゲラゲラ笑う。




