Television 2013
祥二をバンドに迎え入れる作戦は失敗に終わった。
作戦つっても、ただ誘いに行ったら飲んで帰って来ただけになったんだけどね?
とりあえず俺達は、バンドのベーシストをどうするか決まるまで、それぞれ自主練してようっぜて徹の提案で一致した。
再結成したと思ったら、いきなりの活動休止か。
こりゃ、このまま自然消滅しかねないな。
・・・いや、大いにあり得るな。
でも、やっぱり俺としては気心が知れてて、25年前も俺達を先導してくれた祥二以外、考えられなかった。
「・・・ふぅーっ。」
考えると、つい溜息が漏れる。
・・・と、
「ちょーっとーっ!何、朝ご飯食べながら溜息ついてるのよーっ?そんなに不味いのっ?」
陽子が腕組みをし眉間にしわを寄せて俺に詰め寄る。
「・・・あ、いや。」
しまった!つい朝飯を食べながら、ボーッとバンドの事に思いを巡らしてしまっていた。
片手には祥二の店のトースターを持っていた。
「そ、そ、そんな事あるわけないじゃないか!陽子の作る朝飯は美味いよ!」
俺が慌てて否定すると
「ほーんとーっ?何かとってつけたようねーっ?・・・まあ良いけど。」
ホッ、あぶねえあぶねえ、何とか事なきを得たか。
でも、目前の困難は回避出来ても、バンドの存続問題は解決しないんだよな。
・・・ふ、あっ!やべえやべえ、また溜息付くところだった。
「・・・で?何をそんな溜息付いたりシケた顔してるのよ?」
陽子が俺の顔をのぞき込む。
シケてて悪かったな。
そもそもお前にも原因の一端が多少なりともあるんだぞ?
まさかバンドを再結成させるのに、俺と信吾と徹の初心者組3人だけが集まって、中核を担う祥二と陽子が参加出来ないなんて、クリープを入れないコーヒー以前に、コーヒーが入ってない白湯みたいなもんだな。
こないだ徹が持って来た、タブレットの自動演奏アプリの使い方でも勉強するか?
それなら3人でも演奏は何とかなりそうだが、やっぱりバンドの舵取りが必要だよなあ。
俺と信吾と徹の3人だと、今までのレパートリーを演奏してるだけなら良いが、新しい事を始めようとするとすぐに分裂しちゃいそうだ。
祥二か陽子、せめてどちらか一人でもいれば、なんとかなるかも知れない。
そのターゲットの一人が俺の目の前で、俺に尻を向けて食器を洗っている。
こうなったら、ダメ元で頼んでみるか。
「・・・あのさー、陽子さー。」
俺が恐る恐る声をかけると、陽子が食器を洗っていた手を止めて振り向く。
「何よ?」
「うん、あのさ、祥二がバンドに参加出来そうもないって話しただろ?」
「私もダメよー。」
そう言うとクルッと背を向ける。
・・・瞬殺いただきましたー。
しかも、何も言ってないのに断られましたー。
わが妻ながら、すげえな。エスパーか?
もう、こりゃ陽子には何を言っても無駄だな。
ふと、陽子が思い出したように
「あっそうだ!祥二君って言えばね。」
「ん?」
「昨日、祥二君とこの商店街でテレビかなんかのロケがあったらしいわよ?」
何の変哲も無い商店街で何のロケだろう?
「へー、珍しいな。何の番組?」
陽子が首をかしげながら
「何かはわからないけど、ドラマとかじゃ無かったみたいよ。」
「ふーん。何だろうな?」
その時はその事について、特に気にも止めなかった。
それから数日経ったある日、徹から某テレビ番組を見ろとメールが来た。
何だろう?麗羅ちゃんでも出演するのかな?
新聞のテレビ欄で確認すると、よくある芸能人が食べ歩きをする番組のようだ。
その日は早く帰れたので、陽子と樹莉亜を誘ってテレビを点ける。
番組が始まる。
そこに映っていたのは何の変哲も無い商店街、そして見覚えのある町並み。
これが数日前ロケがあったって番組だったか。
ふと、タレントが一軒の店に入る。
陽子がふと気づく
「あら?これ、祥二君のお店じゃ無い?」
「・・・ホントだ。」
そこで大君を抱いた織美ちゃんと祥二のお袋さんが、タレントのインタビューを受けていた。
樹莉亜が不思議そうに
「祥二おじちゃんいないのね?」
陽子が笑いながら
「どうせどこかに隠れてるんでしょ?ママが行っても照れて出て来ないんだから。」
・・・正解だな。
あの引っ込み思案の祥二が、テレビのロケに顔を出すはずは万に一つも無い。
テレビの中では織美ちゃんが店の目玉商品を聞かれ、新製品だという枝豆パンを紹介していた。
ああ、あの時大君が言った
「えじゃまめパン。」
を商品化してたのか。
結構しっかりしてんな。
「うちの主人の親友の方々が、ヒントを下さったんですよ!」
・・・織美ちゃん、それ違うだろ。
陽子が俺の顔をのぞき込んでテレビを指さす。
俺は無言で首を振る。
結局、パン屋のご主人が画面に現れる事は無かったが、蕪島の店のテイクアウトの唐揚げも紹介されて放送は終わった。
こりゃ、徹が何かしかけたな?・・・多分。
次の日、陽子がいつものようにハリスベーカリーに買い物行くと、テレビのロケが功を奏してか、今までに無い繁盛ぶりだったそうだ。
しかも、その客の中にパンをケース買いしてる信吾を見つけたそうだ。
陽子が話しかけると、数日前から近所の建築現場の作業員の昼食用に、店頭に並べる商品とは別にパンを仕立てて貰い、買い込んでるんだそうだ。
ちなみに蕪島の店の唐揚げも、また大繁盛してたようだ。
すげえなテレビって、良い事も悪い事もあっという間に広がるんだな。
翌日徹から、今週末スタジオに入ろうぜとの誘いのメールが来た。
待ち合わせの時間にSTUDIO AIRに行くと、徹と信吾、そしてベースを背負った祥二の姿があった。
「よう!祥二!」
声をかけると祥二も微笑む
「やあ!純ちゃん!」
「よく来てくれたな!店の方は大丈夫か?」
とたずねると、はにかんだような笑顔で
「徹君と信吾君のおかげで売り上げが倍増しちゃったんで、織美が恩返しに行って来いって言ってくれてさ。」
「そうだったのか。・・・徹、あのテレビ番組はどうしたんだ?」
徹が空とぼけながら
「あー、あれか?ありゃ、あの番組のプロデューサーと知り合いでよ。たまたま、あの近所でロケやるって言うから、めちゃくちゃ美味くて奥さんが可愛いパン屋を知ってるぜって紹介しただけだわ。」
「へー。やっぱりお前の差し金だったか。」
徹は首を振りながら
「差し金って何か人聞き悪いな。テレビで取り上げられたからって、何でもかんでも流行るわけじゃねえ。その後売れるかどうかはその店の味だろ。俺はそのきっかけをちょびっと作っただけだ。」
何だか格好いい事言いやがって。
「・・・ごめん祥二、俺は徹達と違って何もしてやれなかったな。」
何も手助けしてやれなかった自分が不甲斐なかった。
そんな俺に祥二が微笑みながら
「何言ってるんだよ?純ちゃんの家は、陽子ちゃんが毎週買いに来てくれてるお得意さんだよ。スーパーが出来てからも欠かさずうちに来てくれてるじゃない。そういうお客さんが一番ありがたいんだよ。」
そして3人を見回して
「改めて、俺も参加させてもらっても良いかい?」
「当たり前だろ、お前がいなきゃギター漫談なるところだったんだぜ?」
俺が答えると、祥二が不思議そうに
「ギター漫談ってなんだい?」
「良いから、良いから!さて練習しようぜ!」
こうして中年となった俺達のバンド、The Namelessが一人欠けながらも、再始動することとなった。
この直後、祥二はSTUDIO AIRのオーナーの手厚い歓迎を受ける事になるが、それはまあ割愛。




