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STAGE  作者: 今野 英樹
13/44

Blood of Bread 2013

翌日、閉店時間頃を狙い俺達3人は連れだって、祥二の家、ハリスベーカリーに向かった。

「よう!祥二いるかい?」

店に入り徹が声をかけると奥さんの織美ちゃんが

「あら、松ヶ谷さん!蓮野さんと須田さんも!皆さんお久しぶりですーっ!奥にいますんでちょっと呼んできますね!」

5年前に結婚した祥二と奥さんの織美ちゃん、織美ちゃんは10歳年下で32歳。

織美ちゃんはかわいい女性だし、祥二は童顔なので、見方によると20代後半ぐらいのカップルに見えなくもない。

「やあ!3人揃って珍しいね!あがってってよ!」

奥から祥二がにこやかにはにかむような笑顔で出てきて、招き入れてくれた。

他のお客さんにもその笑顔見せてやりなよ。

「車じゃないよね?せっかく来てくれたんだから飲もうよ。俺、こないだの同窓会も出れなかったし。」

そう言うつもりで来たんじゃないが、せっかくの申し出だ断るのも野暮だ。

「おう、邪魔するぜー。おっと、おじちゃんにも挨拶しなきゃな。」

つきあいが一番長い徹が遠慮もせず、ずかずかと上がり込んでおもむろに祥二の親父さんの仏壇の前に座り込み手を合わせる。

俺と信吾も続いて手を合わせる。

徹にとっては恩人でもあり、ギターの師匠でもあった祥二の親父さん。

いつになく神妙な顔つきだ。

祥二と違ってすらっとした長身の、男っぽさを持ち合わせたかっこいいパン屋のおじさんだった。

「あら、みんな久しぶりねー。いらっしゃーい。」

「あ!おばさん、こんちわーっす!お邪魔してまーっす!」

祥二のお袋さんが顔をのぞかせる。

小っちゃくてかわいいおばさんだ。

祥二はギターの腕以外は、完全にお袋さん似だな。

居間に通されるとおもちゃで遊んでた3歳の息子の大君が

「こにちわー。」

とにんまりしながら挨拶してくれた。

2年前に会った頃は、まだ話せなかったからちょっとした驚きだ。

他人の子供の成長はマジで早く感じる。不思議なもんだ。

道理で俺達も歳を取るわけだよな。

俺達3人が座布団に腰を下ろすと、あぐらをかいた信吾の膝の上に大君がチョコンと座る。

一番安定感のある座椅子を瞬時に見つけたようだ。

奥さんの織美ちゃんが店からあがってきて、テーブルにビールとグラスを並べてくれる。

しまった何か土産を持ってくるべきだったな。

「ごめんね、織美ちゃん。仕事終わりで疲れてる時に3人で押しかけちゃって。」

俺が謝ると

「いえ、良いんですよ。実はうちの人が、近いうちにお三方が来られるよって言ってたんですよっ!ですから、ビールも買い足しておいたんです。」

口に手を当てて笑う。

そこへ、店じまいをしていた祥二がやって来て座る。

祥二は、元々小柄で痩せ型だが、さらに痩せたように見えた。

俺が祥二のグラスにビールを注ぐ。

「・・・ありがとう。4人揃って飲むのも、親父の時以来だからね?楽しみにしてたんだよ!」

「よし、じゃあ乾杯!」

グラスを合わせ、つがれたビールを飲み干す。

2杯目をつぎながら祥二が切り出す。

「ところで、用件は徹君がこないだ電話くれたバンドの件だよね?」

俺達3人がうなずく、徹が慌てて

「いや、まあアレだ。無理矢理勧誘しに来たわけじゃねえぜ?」

祥二がにこやかに頷きながら

「・・・実はさ、近所にスーパーが出来ちゃって、そっちに結構この商店街のお客さんが流れちゃっててね。」

「あー、それは同窓会の時に蕪島に聞いたわ。かなり厳しいみたいだな?やっぱり祥二の店もなのか?」

祥二が頭をかきながら

「うん、・・・だいぶね。やっぱり人間楽な方が良いだろうから、駐車場完備で何でも揃ってるスーパーで、肉も野菜も魚もついでにパンもって、一度に買い物を済ませられる方に足が向くよね?」

「まあ、それは否定出来んよな。」

信吾が膝の上の大君の頭を撫でながら答えると、祥二が

「そうだよね。それに向こうの方が価格も安く出来るしね。正直、俺達個人商店じゃ太刀打ち出来ないんだよね。」

「それだったら、スーパーのパン屋に出来ないような、目玉商品を考えれば良いんじゃね?」

徹が目を輝かせてドヤ顔で言うと

「そうなんだよね、それを考えてると気分的に余裕が無くて。バンドやってる場合じゃないかな?って思って断らせてもらったんだよ。」

と、祥二がすまなそうに答えると、徹が指をパチンと鳴らし

「よし、じゃあ俺達も何か考えてやるよ!」

と、勢いよく言うと、祥二が苦笑いしながら

「えーっ?良いよー。」

「馬鹿だなー、3人寄れば文殊の知恵って言うだろ?4人になれば文殊より強いだろ?・・・まあ文殊って何だか知らねえけど。」

・・・ダメだこりゃ。

「・・・でもさ、そう考えると意外にパンて、もうネタが出尽くしてるよな?」

プロの祥二が考えて頭を悩ませてるんだ、俺達が即席に出せるわけがない。

文殊が聞いてあきれる。

「でしょ?」

祥二が言うと、徹がまた声を張って

「そうだ!ホテルのバイキングとかで大人気らしい、ローストビーフを挟むってのはどうだ?多分他にゃ無いだろ?」

「うーん、無いかも知れないけど、いったいそれをいくらで売るのさ?」

「あっ?・・・えーっと、1000円ぐらいか?相場がよくわかんねえな。」

祥二が苦笑いしながら、

「そんな高い総菜パンを買ってくれるようなお客は、うちにそうそう来ないだろうね?売れ残ったら大赤字になっちゃうよ。そうそう安くも出来ないだろうし。」

「ダメか?すげえ良いと思ったんだけどな?」

良いよな、その根拠の無い自信。

すると、信吾の膝の上に座っている息子の大君が、卓の上に出されていた枝豆をつまんで

「えじゃまめパン。」

と言う。

「3歳の大君の方が、徹よりまともな案を出してるぞ。」

信吾が笑いながらでかい手で大君の頭を撫でる。

撫でていると言うより、完全に包み込んでしまっているようだ。

と、織美ちゃんが大皿に唐揚げを盛ってきてくれた。

「はい、おまちどおさまです。」

「うわー凄いな!これ織美ちゃんが揚げたの?」

「ええ、お義母さんにも手伝ってもらって。熱いうちに召し上がって下さい。」

揚げたての揚げ物の臭いって良いよなー。

直で食欲に刺さる。

「美味そうだな、いただきまーす。」

みんなで一斉に熱々の唐揚げに箸を延ばし、頬張る。

「うわ!織美ちゃんの唐揚げ美味いね?喰った事ない美味さだ。」

「ホントですか?ありがとうございます!」

徹は一口でほおばろうとして、その熱さで真っ赤な顔をして悶絶している。

それを見て信吾と祥二は苦笑い。

俺は唐揚げを食べて、最近TVで観たあることを思い出した。

「・・・こないださ、何かのTVでやってたんだけど、確か最近、食べ歩き出来るようなお洒落な唐揚げ屋が流行ってるらしいじゃん?」

涙目の徹が答える。

「・・・ああ、最近都内でも、そんな店をたまに見かけるな?若い兄ちゃん姉ちゃんが買ってるらしいな。」

「新しいパンも良いけど、この唐揚げなら商品に出来るんじゃないか?材料は蕪島の肉屋で仕入れは出来るだろ?そうすれば蕪島の店も儲かるから一石二鳥じゃん?」

・・・鶏だけに。

やべえ!凄く良いことを思いついてしまった俺。

・・・駄洒落じゃ無くて。

ちょっと嬉しくなりながら

「まだ店閉まってないだろ?ちょっと俺、蕪島ん家行って交渉してみるわ!」

立ち上がった俺に、祥二がなぜか慌てる。

「あ、純ちゃん!唐揚げはマズいよー!」

「任せろって!美味いから絶対成功するよ!じゃあ、ちょっと行って来る!」

慌てる祥二を尻目に一目散に駆けだした。


祥二のパン屋と同じ商店街、蕪島の肉屋は50mほど先にある。

シャッターが開いていて明かりが点いてる。

まだ閉店はしてないようだ、店先の様子がちょっとおかしい。

あれ?改装したのか?店が以前の普通の肉屋から、ちょっとポップな色合いになっている。

それにお客さんが結構来てるようだ。

同窓会の時聞いた話と違って、ずいぶん繁盛してるみたいだな?

と、店に近づくと、一角にポップな色使いの「からあげ」の看板が・・・。

「よう、蓮野じゃん?らっしゃい!どうした?」

店の中から俺の姿に気づいた蕪島が声をかける。

「・・・唐揚げ?」

「そうそう、最近テイクアウトして食べ歩きするスタイルの唐揚げ屋が流行ってるらしいじゃん?スーパーには出来ない物をって模索してたんだけどよ?これだ!って思ってな。ほら、俺肉屋だろ?」

最上級のドヤ顔を見せる。

「スーパーだと無難な味の唐揚げを透明なパックに詰めてるだけだしな。味も研究してよ、思い切って店もちょっと今風に改築して、そしたらうちも繁盛しだしたんだよ。で、何人前買ってってくれる?」

放心状態だった俺。ふと我に返る。

「・・・あ?・・・えーっと1人前?」

「お前ん家3人家族だったよな?2人分サービスするから是非味見してみてくれよ。」

「あ・・・ああ。・・・サンキュ。」

「ほい、1人前で350円、毎度ありー!小野によろしくなー!」

・・・どうしてこうなったのか?

よくわからないが、何故か余所の唐揚げをぶら下げて祥二宅へ戻るハメに。

徹がそんな俺を見て

「おっ?戻って来たか?どうだったんだよ?・・・ってお前何で唐揚げ持ってんだよ?」

祥二が苦笑いしながら

「だから、唐揚げはまずいって言ったじゃない。」

こくっ、無言で頷く。

ぶっちゃけ、超恥ずかしいです。

徹と信吾が俺が差し出した、恥ずかしい唐揚げに手を伸ばす。

「折角だからこっちも食ってみるか。・・・あ、蕪島ん店の唐揚げもなかなか美味えな。織美ちゃんのほどじゃねえけどな。」

祥二が微笑みながら口を開く

「蕪島君は凄いよ。色んなスパイスとか研究してたみたいだよ。思い切ってお店も今風に改装しちゃってさ。織美の唐揚げも美味いけど、一般家庭の味だもんね。肉のプロにはかなわないよ。あ、純ちゃんありがとうね。」

「すまなかったな祥二、・・・何の役にも立たなくて。」

ガチで凹んでる俺が謝ると、祥二がにこやかに

「みんなホントにありがとうね。今日みんなと会えて、俺には収穫があったよ。」

「何?」

信吾が不思議そうにたずねると

「今日みんな集まってくれたってのは、臭い言い方だけど俺達の"絆"が繋がってるからだよね?俺はお客さんとも"絆"ってあるって思うんだ。新しい事も大事だろうけど、今までやって来たことをさらに真心込めて仕事するって事が大事なのかな?って思ったよ。"絆"を信じてね。」

そして、信吾の膝の上に座ってる大君に顔を近づけて

「大も大きくなったらこういう良い友達をたくさん作るんだぞ。」

大君はわかってるんだかわかってないんだか、満面の笑みを浮かべる。

笑った表情が祥二そっくりだ。

「祥二のくせに良いこと言うな?」

徹がからかう。

「俺の店のためにみんなで色々考えてくれて感謝してるよ、ほんとにありがとね。みんな俺をバンドに勧誘する話で来てくれたはずなのにね。」

・・・そんな事、もうすっかり忘れていた。

結局その日は、4人ともバンドの話はもうどうでも良くなってしまい、飲んであれやこれやと談笑し、お開きとなった。

我が家に持ち帰った蕪島の店の唐揚げ二人前は、陽子と樹莉亜になかなか好評だった。

ホントは祥二ん家の唐揚げの方が美味いんだけどな。

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