Fool Mate 2013
都内から数十分電車に乗り、地元寄りのスタジオがあると言う駅に降り立った。
マジで久々に降りたな、この駅。
前にバンドやってた時以来だよな。
・・・って?
「あれ?まさかとは思うけど、今日押さえてるスタジオって?」
俺がたずねると、徹が哀れむような表情で俺を見ながら
「あーっ、言っただろうよ?昔出入りしてたSTUDIO AIRだよ。」
と言う。
聞いたっけ?
・・・いや、聞いてないはずだ。
「聞いてねえよ!ってか、まだ潰れずにやってたんだな?」
「おお、オーナーのおっさんももうだいぶ歳だし、最近はバンドやってる若い連中も減ったからそろそろやめようかと思ってたんだと。で、俺もネットで調べてまだ続けてる知って電話したら、俺らを覚えてたらしくて喜んじゃってな。」
「へー。」
「君達が来てくれるんなら、もうちょっと続けるよって言ってくれてよ。」
「そうなのか。」
「そうなのかって話さなかったか?」
「初耳。」
マジで聞いてねえぞ。
「・・・あ、そうか。その話を信吾にしたから、お前にも言った気になってたわ。わりいわりい。」
ねえ、わりいで済むんだったら、世界から戦争は無くなりますよ。多分。
STUDIO AIRの前では信吾が立って待っていた。
俺達3人はほぼ同時に
「よう!」
と手を挙げて挨拶を交わす。
ちょっと間を置いて、俺と信吾が同時に徹を振り返り
「・・・祥二は?」
と同じ質問を徹にする。
「あー、だからよお、祥二に電話したら、こないだ蕪島が言ってたじゃねえか?近所にスーパーが出来て大変だって。そんでバンドやってる場合じゃねえってよ。」
”だから”の使い方が、徹は言ったけど俺と信吾が聞いてなかったみたいな言い方になってる。
さっきの話もそうだが、こいつはいっつもそうだった。
大人になっても全く変わらないんだよな。
間違いだらけのくせに自分は間違っていないって言う、根拠の無い自信。
俺がちょっとイラッとして
「何でそれを早く言わねえんだよ?」
と、たしなめると、空とぼけて
「早く言おうが、遅く言おうが祥二が来れねえって現実は変わんねえだろ?それにお前、ここへ来るまで、ずうううううっと麗羅の話しかしてなかったじゃねえか。」
「・・・う!」
返す言葉が見つからない、そう言われてみればそうだ。
信吾は苦笑いしてる。
「でもよ、祥二も参加したそうな口ぶりだったから、全く脈無しでも無さそうだぜ?今度3人で押しかけて口説いたら案外ころっと落ちるかもよ。」
その根拠と自信はいずこ?
まあ、このちゃらんぽらんな奴の憎めないところではある。
「まあ、今日は祥二がいなくても練習に支障が無いような秘策もそのバッグに入ってるから安心しろ。さあ中に入ろうぜ。」
「あら、いらっしゃい!」
スタジオのオーナーが笑顔で迎え入れてくれた。風貌はあんまり変わらないが、全体的に白くなった。
歳取ったなー?・・・まあお互い様か。
一応、さっきの徹の話だと俺達を覚えてるって事だったけど。
いきなり馴れ馴れしい態度で挨拶して「誰?」って言われると恥ずかしいので、ちょっと他人行儀に
「こんにちは。どうも、お久しぶりです。・・・俺達の事覚えてくれてます?」
「忘れるわけ無いじゃない!松ヶ谷君と須田君と・・・蓮野君?ちょっと太っちゃったね?・・・で?針須君は?来れないの?あら、残念ねぇ。」
・・・オーナー、やっぱりそっちだったんじゃねえの?
大人になった今なら色んなそっちがわかります。
「でも、何か私の所から巣立った子達が、大人になってまた私の所に帰って来てくれて、ホント嬉しいよ!」
オーナーは目を潤ませて言うが、何か嫌だなその表現。
ガキの頃にTVで流れてたカムバックサーモンのCMを思い出した。
・・・全然脈絡は無いが。
「あら?そう言えば、お嬢ちゃん、・・・そうそう陽子ちゃんもいないわね?どこか遠くにお嫁にでも行っちゃったの?」
俺が頭をかきながら
「えーっと、ですね。とっても身近な俺のお嫁に行っちゃいましたよ。」
と言うと、嬉しそうな表情で
「あら、やだー!そうだったの?蓮野君やったわね?この色男!」
「はあ。」
やったと言えばやりましたが?と言う下ネタ。
ダメだ、そろそろオーナーの口から放送禁止用語が飛び出さないとも限らない。
とりあえずオーナーとの与太話は何とかこの辺で切り上げて、3人で練習室に入る。
あまり広くない薄暗いスタジオの中に、ドラムセットと数台のアンプが静かに佇む。
これから放出する音のエネルギーを、じっとその身に溜め込んでいるかのよう。
・・・うわあ、すっげえ久しぶりだなー?この雰囲気。
やっぱり、久々に楽器に触れる信吾が一番興奮気味だ。
嬉しそうな顔でドラムセットを撫でている。
そんな中、徹がゴソゴソとボストンバッグの中から何かを取り出した。
・・・ラジカセ?紛れもなくラジカセだ。
「・・・何だよこれ?」
「何だよ純、ラジカセを知らねえのか?」
いやいや、そう言う意味じゃ無くて
「ラジカセは知ってるって!ラジカセの何が秘策だっての?」
徹がしたり顔で
「これだこれ。」
何本かのカセットテープを取り出す。
カセットテープも久しぶりに見たな。
「昔よ、俺の普段の練習のために信吾と祥二と陽子がドラムとベースとキーボードのパートを録音してくれたテープだよ。とりあえずこれがあれば昔やった曲は復習出来るだろ?」
TDKのカセットテープは確かに祥二だ。
ちなみに俺がマクセル派で徹がソニー派、信吾と陽子は全くこだわらない派だった。
なるほど、これがあればとりあえず徹と陽子のいない穴は埋められるかも?
しかし、それを未だに持ってた徹にもちょっとだけ感心した。
「あとそのカセット探してたら、こんな懐かしいもんも出て来たぞ。」
オレンジ色のファミコンのカセット、正式名称はROMカートリッジって言ったよな?
「おー!スーパーマリオじゃん!懐かしいなー?」
よく見ると裏に細いマジックで消えかけてるが"蓮野"と書いてあるのが見える。
「これ俺のスーパーマリオじゃねえか!お前が持ってたのかよ?」
「おう、今返すよ。」
徹が悪びれなく笑いながら言う。
「今更返されても、もう本体無えし。」
「じゃあどうする?捨てるか?」
そう言われると惜しく感じるものである。
「・・・いや、樹莉亜に見せるから返せ。」
信吾がそんな俺達に脇目も振らずドラムをセットする。
感触を思い出すかのようにおもむろにドラムを叩き出す。
・・・相変わらずの力強さ、いやむしろパワーアップしてるかも。
徹がラジカセにカセットを入れて
「じゃあ、まず聞いてみるか。」
ラジカセを再生させる。
懐かしい音が響く。
・・・が、何だか音がモケモケして、リズムが狂ってるように聞こえる。
信吾がボソッと
「・・・徹、それテープ伸びてないか?」
「・・・ああ、そんな感じだな。」
「・・・秘策とはよく言ったもんだな。」
俺が笑うと、徹が慌てて
「バ、バカ!俺にはもう一つとっておきの策があるんだぜ?」
と、バッグから取り出したのはタブレット。
徹がドラえもんのモノマネをしながら俺達の目の前に突き出す。
「タブレットー。」
「今度は何だよ?トオルえもん。」
俺がツッコむと
「実はよ、知り合いのミュージシャンに相談したらよ、今タブレットのアプリで簡単に自動演奏出来るアプリがあるって聞いたんだよ。で、そのアプリをダウンロードしといた。」
「なるほど、祥二のベースのパートをタブレットの自動演奏で補うって事か。」
徹が指をパチンと鳴らして
「ザッツライト!・・・と、言うわけで頼むわ。」
と言い、俺にタブレットを渡そうとする。
「あっ?頼むって何を?」
「そのアプリに音符か何かを入力するんだろ?それを。」
「はあ?何だよ、そういう操作をしてあるんじゃないのかよ?」
俺が呆れると、徹が当たり前のような顔で
「俺がそういうの苦手なの知ってんだろ?」
「そりゃそうだけど、俺だってタブレットなんて使った事無いぞ。携帯だってガラケーだし。」
すると徹が目を輝かせて
「何?純まだガラケーかよ?だっせえ!・・・信吾は?」
信吾が急に振られて答える。
「俺?・・・まあ、スマホ。」
「純だけガラケーか。やーい!仲間はずれー!」
・・・小学生か。お前は。
「つったってお前らそのスマホだって、ちゃんと使いこなせてるんかよ?どうせメールと写真撮るぐらいだろ?」
俺が突っ込む。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
・・・反論しろよお前ら、図星か。
信吾が苦笑いしながら
「徹、もう秘策は打ち止めか?」
「・・・ザッツライト。・・・とりあえず、3人でやってみるか。・・・じゃあ「I Want to Hold Your Hand」だな。」
とりあえず、バラバラと持ち場へ散る。
「いくぞ!ワン・ツー・スリー!」
信吾の力強いカウントと共に徹のギターが鳴り、俺もコードストロークで合わせる。
・・・何だろう?この中途半端な感じ。
あの時のグルーブ感に全く足りてない。
イントロが終わろうかってところで、徹が手をあげて演奏を止める。
「どうした?」
「・・・わりい、弾きゃ思い出すかと思ったが、イントロしか思い出せなかったわ。」
俺が笑いながら
「25年経って、ほぼ振り出しに戻っちまったってわけだな。」
「まあ、でもあの頃と違って0じゃねえ。埋もれちまったモノを掘り出す作業をするまでだな。」
「埋もれすぎて地球の反対側まで行ってる可能性は無いか?」
俺が茶化すと
「そしたら、ブラジルの人に掘り出してもらうか。」
徹がいたずらっぽく笑いながら、どっかで聞いたようなフレーズで返してきやがった。
信吾も首をかしげながら
「いやー、徹だけじゃなくて俺も全然鈍っちまってるな。俺はハワイぐらいだな。」
それを聞いて、徹が笑いながら
「馬鹿だなーお前!ハワイは地球の中には無えだろ。」
ツッコミだけは冴えてますね?
しかしまあ、イントロだけ聞いてふと思った本音がポロリと
「それにしても、祥二のベースが入らないと全然違うんだな。びっくりするくらい音が薄っぺらに感じるな。」
信吾もしみじみとうなずきながら
「祥二が昔言ってたもんな。ドラムとベース、どっちが欠けても成り立たないって。」
徹が髪をかき上げて
「あーーーっ!!!参ったな。やっぱり祥二がいねえと。・・・こうなったら三人で音楽漫談でもすっか?」
・・・それはお前一人でやってくれ。
「よし!今度祥二に直接会って口説こうぜ!それまで俺もちっと頑張って、昔の勘を思い出すように練習しとくわ。」
信吾が笑いながら
「じゃあ今日は切り上げて、飯でも食いに行こうぜ。どっかここらで良い店無えか?」
「そうだなー?ここいら来るのも超久々だしな?・・・あっ?」
俺は同窓会で美空からもらった名刺を思い出した。
財布の中にあった美空の店の名刺を見るとやっぱりだ、ここからそう遠くない。
「美空の店がここから近いみたいだから行ってみるか?」
「そうなのか?おっし、じゃあ行くか。」
3人は楽器を撤収して、オーナーとの挨拶もそこそこにSTUDIO AIRを後にした。




