表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
STAGE  作者: 今野 英樹
10/44

Nameless Idol 2013

さて、とりあえず信吾と徹に、陽子はバンドの再結成には参加出来ないとメールで報告した。

信吾からは

「やっぱりなw」

との内容の返事が返ってきた。

俺達とつきあいの長い信吾には、俺達夫婦のパワーバランスは承知済みだ。

徹からはその日は返事が無かったが、2日ほど経って

「今週末、スタジオ押さえたから練習しようぜ。」

とのメールが返ってきた。

おお!って事は、祥二は参加出来るんだな?

良かった!祥二さえいれば、とりあえずバンドとしての体は保てるな。

基本リーマンの俺と信吾は週末休みだが、祥二は店の定休日が水曜日、徹に至っては休みがあるんだか?無いんだか?

それがいきなり再開そうそう、休みが合わせられるとは思わなかったな。

とりあえず、俺は腹式呼吸を忘れたぽっこりお腹をへこますべく、寝る前に腹筋を50回日課にしようと誓った。

・・・が、日頃の運動不足と老化で鈍った体には10回がせいぜいだった。

・・・焦らないで、少しずつ少しずつ目標に近づけようと再度誓った。


そうだ!

俺は大学時代に買ってちょっとかじったエレアコの存在を思い出して、押し入れから引っ張り出してみた。

うわー、弦がサビサビだ。早速弦を買って来て張り替えて弾いてみる。

うむ、案の定腕もサビサビだ。

いや、まあ元々そんなに上手く弾けてたわけじゃ無いけど。


そして練習日当日、徹からのメールで徹の事務所に呼び出された。

何でも、荷物があるから運ぶのを手伝えと、どうせ休みで時間はあるだろ?との事だ。

まあそう言われてみればそうだ。

考えてみたら徹の事務所に行くのは初めてだな。

・・・芸能事務所ってどんなんだ?

興味津々で教えて貰った都内の住所に向かうと、何て事は無いちょい古めの賃貸マンションだった。

最初から住所だけじゃ無くマンション名まで書いておけっての。

って事は、この最後の三桁の数字が部屋番号か?

マンションの中に入り、その番号の部屋の前まで行くと、ドアにラベルプリンターで”OFFICE MATSUGATANI”と貼ってある。

・・・ずいぶん質素だな?

まあ、ここに間違いなさそうなのでインターホンを鳴らす。

インターホン越しに徹の声がする。

「誰ーっ?」

いたいた。

「俺ーっ。」

「おー、純か。今鍵開けるわー。」

と徹の声。

数秒おいてカション!と鍵の開けられる音。

何となく俺は年甲斐も無く

「オーッス!!」

とちょっとテンション上げてドアを開けると、徹じゃない顔がそこにいる。

・・・誰ーっ?

・・・すげえ恥ずかしいんですけど?

「いらっしゃいませー。中へどうぞー。」

・・・女の子?

よく見ると徹の事務所に所属してる糸篠麗羅、その人だった。

「・・・あ、こんにちわ。」

俺がかなり戸惑っていると、奥から徹の声がして

「ちょっとソファーに座って待っててくれよ。麗羅、冷蔵庫から缶コーヒーでも出してやって。」

「はい、社長!」

素直に返事すると、いそいそと小さな冷蔵庫から缶コーヒーを出して

「はい、どうぞ!」

と手渡してくれた。

オイオイ、麗羅ちゃんすっげえ可愛いな。

写真とかで見るより1.5倍増しで可愛いな。

よくテレビ番組で田舎のおばちゃんが芸能人に出くわすと、

「テレビで見るより男前ねー!」

とか言ってて、そんなシーンを見るたびにそんな事あるかよ!って思ってたけど、今実感した。

ただ、最近はタレントの写真をPCで良い様に加工して、逆の場合もあり得るようだが、麗羅ちゃんに関してはそれは無さそうだ。

まあ、徹がそんな器用なマネ出来るわけないだろうし、昔からストレートな男だから思いつきもしないだろうし。

「あ、ありがとう。」

と、受け取ると、にっこりしながら

「いえ。」

と言うと向かい側のソファーにちょこんと座って本を読み出した。

大人しくて素直そうな良い子だな。

よくゴシップ誌とかネットとかで、アイドルの裏の顔とか暴かれてて、何か意味も無く裏切られた気持ちになったりするがこの娘は違うな。

うん、違うと思いたい。

黙って見とれてるのもおかしいんで

「えっと、麗羅ちゃんいくつだっけ?」

「・・・16です。」

うちの樹莉亜の1つ年上か。

それにしては大人っぽく感じるな。

多分それはうちの娘が、化粧っ気も無くガキっぽいからなんだろうけど?

「あ、ちょっと変な事聞いて良い?」

「・・・はい。」

明らかに変な事聞きますよって宣言しちゃったよ、俺。

「・・・その、麗羅ちゃんはなんでアイドルになりたいって思ったの?」

・・・マジで変な事聞きやがったな、俺。

ベタな質問というかなんちゅうか。

麗羅ちゃんはちょっと考えてから

「私、小さい頃から学校のお勉強が苦手で、・・・あと何をやってもドジで、何も出来なかったんですけど、小さい頃から歌だけはみんなに褒められてたんですよ。・・・その、皆さんに喜んでもらえる仕事がしたいなって思ったんです。」

「ふーん、ご両親には反対されなかったの?」

「その、やりたいことがあるんなら頑張れって言ってくれました。ただやっぱり最初は驚いてはいましたけど。」

この娘のおおらかさって、多分ご両親譲りなんだなー。

俺を含め大抵の親だったら、先入観のフィルターで子供の可能性を狭めがちになるよな。

もし樹莉亜が芸能界に入りたいなんて言いだしたら、俺は十中八九反対すると思うし、それ以上に陽子が猛反対するに決まってる。

ただ、それが正解かどうかなんて結果が出ないとわからない。

人生ってそんなジレンマの塊なんだよな。

「ただ私のCDが売れないんで、社長さんにはご迷惑ばっかりかけちゃってますし、両親にも残念な思いさせちゃってるかなって・・・。」

良い子だなー、この娘。

いつしか娘を見るような目で見ている自分に気づいた。

「あ、頑張ってね!俺応援してるから。」

もう、父親目線なのか、ファン目線なのかわからんくなってきた。

「はい!ありがとうございます!」

と、徹が奥の部屋からギターケースとボストンバッグを持ってやって来た。

「わりわり、純待たせたな。・・・麗羅も今日はもう部屋戻って休みな。」

「はい!」

「明日は9時出発だからな?ちゃんと出れるように支度しとけよ?」

「わかりましたーっ!社長お疲れ様ですーっ!純さんもお疲れ様ですーっ!」

こう言い残し、麗羅ちゃんは部屋を出て行く。

「はいよ、お疲れー。・・・さってそろそろ俺らも行くか。あれ?純、お前ギター持って来たのか?」

「ああ、大学の時買ってちょっとだけやってたんだ。陽子の代わりに少しでも戦力になればと思ってさ。」

「そうか、お前が手ぶらだと思って荷物持ちに呼んだのにな。・・・じゃあ自分で持つか。」

苦笑いしながら徹がギターケースを背負ってボストンバッグを持ち、事務所を後にする。

「徹、そう言えば良いのか?無名とは言えアイドルを徒歩で一人で帰らせちゃって。」

「ああ、麗羅はあのマンションの別の部屋に住まわせてるから、平気だよ。」

「なるほど、それなら平気だな。」

「でも、売れてないから結構バレないもんだぜ?あいつも仕事が無い日はコンビニでバイトしてたりするし。」

「そうなのか?可愛いからすぐバレそうなもんだけどな。」

「残念ながらそこまで有名じゃねえんだよな。本当はバイトなんかしなくても良い様に、俺が売ってやんなくちゃいけねえんだがなー。」

徹が頭をかきながら申し訳なさそうに言う。

「可愛いし、歌も上手いし、多分何かきっかけがあれば売れると思うんだけどな?まあ、でもあの子をスターにしてやりたいってお前の気持ちが今日は実感出来たよ。」

「だろ?」

そのドヤ顔は売ってあげてからにしような?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ