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STAGE  作者: 今野 英樹
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Introduction 2013

僕ら40代が10代20代だった青春時代に、一大ムーブメントを起こしていた、"バンドブーム"。

ここ数年その時期に活躍しブームを牽引していたバンド達が、再結成して新作をリリースしたり、ライブを行ったりと、活動している事に非常に喜んでいました。

特に大ファンのTM Networkの30周年ライブを観て、この作品を書こうと思い立った次第です。

タイトルはこれまた大ファンの、David Bowieのライブアルバム「STAGE」から拝借しましたが、まさか今年になって亡くなるとは思いもよりませんでした。

ご冥福をお祈りしまくってます。未だに。

僕自身小説を全く読まないので、文章の表現力等拙いのは生温かい目で見守って下さると嬉しいです。

・・・と、ハードルを下げておくテスト。

・・・何百回、いや何千回この電車の車窓からこの風景を眺めてるんだろう?

暗闇の中、電車の走行する振動と共に、見慣れた光が次々と眼前を流れていく。

大学を卒業し今の会社に就職して約20年間、ほぼ毎日同じ流れる風景を往路復路と眺めて過ごしてきた。

何て言うか、そこには何の発見も感動も無い、ただのマンネリな反復作業。

とりあえず、春になれば街路樹の花が咲いて、夏には緑をまとい、秋になれば紅葉し冬になれば葉を落とす。

それに合わせて人間も薄着になったり厚着になったりってな季節的な変化と、古くなった建物が壊されて違うビルが建てられたりの、そんな俺の生活に全く関係の無い変化だけが何となく目にとまるぐらいのもん。

それと車内を見回すと、ヘッドホンをしてスマホを凝視してる若者達がやたら目に付く。

それはそれで良いんだけど、シャカシャカ耳障りな音を出しているのが気に障る。

俺だって音楽は嫌いじゃない。

むしろ好きで四半世紀前の高校時代、短期間ほんの数ヶ月組んでたバンドでヴォーカルをやらせてもらった事もあるんですよ。

なのに、他人のヘッドホンのシャカシャカ音にイラつくのは、俺がガラケーユーザーだからだろうか?

ホントあの頃は、なんか今と違って輝いてたよなー。

・・・とかって言い出すと、おっさんになった証拠ですかね?・・・はあ。


ふと見ると、座席に座ってるおっさんが読んでるスポーツ新聞の一面には、同年代のスーパーアスリートの引退のニュースが飾る。

当然一億三千万人のうちのほんの数百人の、そのまた一握りの成功者限定の話だが、彼らはその世界に入って約20年間、いや下手したら一年で俺の一生分稼ぐ人間も少なくない。

そして選手生命が終わるとTVキャスターだったり、解説者だったり、指導者だったり次のステージへ進む。

俺は良くも悪くも何かしら間違いが起きなきゃ、あと約20年間ほぼ毎日、このマンネリ感溢れる生活をずっとリピートしなきゃいけないんだ。

そもそも彼らは自分の適性を見極め、そして努力を怠らなかった末に勝ち取った成功だ。

俺はと言えば、己の適性も見つけられず、何一つ努力らしい努力もせずに生きてきた。

当たり前と言えば、当たり前過ぎる立ち位置。

その当たり前を理解した上でも、ふと最近頭をよぎるモヤモヤした思い。


「俺は一生、このままこの生活を続けるだけで良いんだろうか?」


今日はふとそんなとりとめも無いモヤモヤを強く感じる。

何故だろう?

・・・そう、お得意さんの接待帰りでちょっと酔ってるからだ。

・・・愚痴ぐらい言わせてくれ。

しかしなー、スナックで遠慮してるのに、お得意さんから歌え歌えとしつこく言われて、歌ったは良いが店の女の子が「上手ーい!」とか盛り上がっちゃって、お得意さんが盛り下がるって、そんな事今日が初めてじゃ無いが何のための接待かわからんな。

新しい女の子には俺がお客を連れて行った時は、お客を持ち上げるようにママにちゃんと教育しといてもらわなくちゃなあ。


俺の名前は蓮野純れんのじゅん42歳。

しがない二流商社のサラリーマンで中間管理職、身長178cm、体重・・・80kg。

あんまり認めたくは無いが、最近ちょっとおなかがポッコリ中年太り気味。

昔から何をやっても中の上か上の下ぐらいのいわば凡人。

これまでの人生、たいして苦労も努力もしてこなかった平凡な人生。

だからこそ、新聞を賑わすスーパーアスリートのような一握りの人間にはなれなかったんですよね。

・・・重々わかってます。


・・・と、そんなこんなで電車は自宅の最寄り駅に到着。

電車を降り駅のそんなに広くない通路を歩く。

まだ結構な数の人間が行き交っている。

「ドン!」

何かが俺の胸にぶつかる。

すぐ前を歩いていた女の子達が、何かよっぽどの事があったのか、急にスマホを見せ合って立ち止まった。

そこへすぐ後ろを歩いていた俺がぶつかったのだ。

駅の通路でスマホなんぞ見て急に立ち止まんないでよ!

って、なんで君達がにらんでるの?おかしくね?

ちょっとイラッとしたがここで事を荒立てると、属性若い女の子VS中年のおっさんじゃ圧倒的におっさんが不利だ。

道行く人々が好奇の目でこちらを見ながら通り過ぎる。

このままじゃ良い晒し者だし、下手すると違う意味で新聞を賑わすかも知れない。

そうなったら、逆にマンネリな平凡人生も危うくなるな。

しかたなく

「・・・あ、ごめんね。」

渋々だが謝ると、ふて腐れたような表情で

「あ、どーも。」

って返事をしてプイッと行ってしまった。

「どーも。」って何だよ?

一言で済ませたいんならせめてせめて「こちらこそ。」ぐらい言いましょうよ。

何か携帯とかスマホとか、世の中便利になるのは良いけど、人間が、特に若い子達が薄っぺらくなってるような気がするなあ。

そうだよな、本人直通の電話番号があってかければ間違いなく本人が出るんだし。

間違っても家の電話にかけて、その家のお母さんやらお父さんやらが出て、「夜分遅くすいません。◯◯と申しますが、××君いますか?」って挨拶する必要も無いもんな。

そのスマホで繋がる世界は広くなったと思う、だけど凄く浅い世界に思えるんだよね。

ホント最近の若い奴らは、とか言い出すのも、年を取った証拠ですかね?・・・はあ。


そんなこんなで、駅を後にして自宅マンションまでのんびり歩いて帰る。

ふと空を見上げると、空には尖った三日月が暗闇を切り裂かんばかりに浮かんでる。

満月ってのは優しいまなざしで俺らを見下ろしてるような感じだけど、三日月って尖ったまなざしで届かない高見を睨み付けているような感じに見えるんだよな。

何か、まるで今の俺の心のようだ。

・・・って、これが中二病ってやつか?

そんなくだらん事をボンヤリ考えてるうちに、自宅マンションに到着。

鍵を開け玄関に入ると、すでに中は真っ暗だ。

ああ、もう我が愛しい家族はみんな寝てしまったか。

なるべく物音を立てないようにスーツを脱ぎ、浴室へ行きシャワーを浴びてから寝室へ忍び込む。

隣のベッドで寝てる妻の寝息がスースーと聞こえる。

起こさないように起こさないように、細心の注意を払い自分のベッドに身を沈める。

真っ黒な天井を見上げると、さっき見上げた尖った三日月がボンヤリと思い浮かんだ。

この目をつぶって、また目を開けると一瞬にしてまた明日の朝になるんだよな。

今までその繰り返しで生きてきた。

・・・ああ、もうそんなのどうでも良いや。

半ば無理矢理目をつぶる。

やっと俺のマンネリな一日が終幕する。


・・・朝、また定時刻に携帯の目覚ましが鳴る。

薄ぼけた眼で明るくなった天井を見つめる。

また今日も俺のマンネリな一日が幕を開けるんだ。

頭がちょっとボーッとするな?そんなに呑んだつもりはないんだけどな。

年々酒も弱くなってきてるのはちょっと前から実感している。

・・・哀しいリアルだなあ。


大あくびをしながら寝室のドアを開けると、キッチンからトーストの焼ける香ばしい匂いがする。

「おはよう。」

キッチンに立つ妻の背中に声をかける。

「あ、おはよう、夕べ遅くなりそうだったから先に寝ちゃった、ごめんね。」


妻の名前は陽子ようこ、俺と同じ42歳。

もともと実家が近所で、幼稚園から小中高と同級生の幼なじみ。

高校時代に何となくつきあい始め、大学生の時に一度別れたんだけど1年ほどで復縁し、そのうち結婚。

一子をもうけ家族3人このマンション暮らし。

性格的には、とっても自分に正直で、言いたい事はかなりズケズケズケッと言うタイプ。

おかげさまで座布団亭主させてもらってます。

良いんですよ、尻に敷かれてたって。

これが、平穏な夫婦生活を送る秘ケツなんですから。

3歳からピアノを習ってて、高校時代組んでたバンドではキーボードを担当していた。

腕前は結構なもんだったんだけど、何でそっちの道に進まなかったのか?

「そう言えば、夜中いびきうるさかったわよー。呑み過ぎたんでしょ?」

・・・しまった。

寝る前はあんなに起こさないように気い使ったのに。寝ちまってからは気を使えないもんだ。


苦笑いしつつテーブルに着くと、トーストとサラダが載った皿が出される。

「コーヒーは自分で注いでね?昨日卵切らしちゃったから、今朝は目玉焼き無しね。」

「まあ、そこまで食欲無いから良いよ。もし欲しかったんなら携帯にメールでもくれれば、帰りコンビニでも寄って、買って帰ったのに。」

「えー、酔って帰って来る人に生卵なんて持たせたら、絶対途中で何個か孵化させちゃうでしょ?もったいない。」

・・・確かに。

夕べも駅で女の子とぶつかったりもしたもんな。

トーストにバターを塗ってかぶりつく。

高校の同級生でありバンド仲間だった、針須祥二はりすしょうじの営むベーカリーのパン。

我が家の朝食は毎日これ。

これもまたマンネリではあるが良いマンネリだ。

最高に美味いんだよな。

陽子が思い出したように、

「そう言えば祥二君とこのパンも値上げするかもって。他所はちょっと前から値上げしてて、祥二君とこは頑張っててくれてたんだけど、いろいろと厳しいみたいね。」

「小麦粉も値上がりしてるしなあ、しゃあないだろうな?・・・祥二が言ってたのか?」

「ううん、奥さんの織美おりみちゃんから聞いたの。いっつも織美ちゃんとお母さんしかお店には出てないから。」

後で詳しく話す事になるだろうが、昔からおとなしくて引っ込み思案の祥二。

客商売には不向きな性格だと思ってたが、案の定厨房に引きこもってるようだ。

「あいつらしいな。」

「そうね。」

陽子が微笑む。

と、キッチンのドアがガチャッと開く。

「パパ、ママおはよー。」

一人娘の樹莉亜じゅりあが起きてきた。

高校1年生、典型的な一人っ子気質でちょっとおっとり気味。

成績は上の下ぐらい?・・・らしい。

俺のDNAだと勉強に関してはどんなに頑張っても中の中止まりのはずだが、陽子が樹莉亜に対して勉強に力を入れさせてるんで、リミッターが外れたようだ。

・・・いや、陽子のDNAを無視した発言だったな。前言撤回。

「おはよう、どう?学校慣れたか?」

「うん、友達もいっぱい出来たよー。今度の日曜日にねー、ボウリング大会しようって。」

そっか、楽しそうで良かった。

多分、振り返ると人生で一番楽しい時期だったのかもな?高校時代って。

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