「ディメティス起動」
1章「ディメティス起動」
目の前に広がるは虚無の軍勢。
戦艦から射出された俺は、一機また一機と、敵の機体を破壊していく。
「これで最後の一体か。終わりだ」
そう言って引き金を引いた。確かにその銃撃は命中して、眼前に敵の姿は見えなかった。
しかしその直後、後ろから別の機体が俺を切りつけた。
「うわぁー!!!!」
画面には'game over'と出ている。また、俺の負けらしい。
「残念だったなあ、雷二。」
後ろを振り向くと、白衣に身を包んだ初老の男性が立っていた。
俺の父、真荷頼徒。科学者だ。だが、息子の俺でさえなんの研究をしてるかはわからない。
ただ一つ分かっているのは、俺がこの、ロボットを動かして闘うというシミュレーターをやらされているということだけだ。
この人の考えていることは、さっぱりわからない。
「博士、今のはいい研究材料となるんじゃないでしょうか?」
この人の名前は仲江達也。父の助手をしている。この人は優しいから、父より好きだ。たまに、勉強を教えてもらったり、昔はキャッチボールなんかに付き合ってもらったりもした。
「そうだな。雷二、今日は休んでいいぞ」
父はぶっきらぼうに言った。俺のことよりも、研究の方が気になるのだろう。俺としては、それ自体はもうどうでもいいことだった。だが……。
「なぁ父さん。いい加減父さんがなんの研究をしているのか教えてくれよ」
「ダメだ」
「なんでだよ。俺だってもう高二なんだ。そのくらい知っててもいいだろ」
「お前がそんなこと知ってどうする?」
「別にいいだろ! 俺だって研究の手伝いしてんだ。それくらい教えろよ」
父は少しだけ考える素振りを見せたが、答えはやはり、
「まだ、ダメだ」
だった。
『まだ』という言葉に腹がたった。俺は以前にもこの事を聞いたことがありその時も、「まだダメだ」と言われた。
「ふざけんなよ。何も知らずに研究の協力だけしろ?俺は父さんの操り人形じゃない!」
研究所内が静寂に包まれる。
「俺は別にそんなことは……」
「だってそうだろ。なにが違うんだよ」
一度スイッチが入ると、もう自分では止められない。
「あんたは俺や母さんのことなんて、ただの自分の言うことを聞く人形だと思ってんだろ?」
「お前……!」
突然ほおに平手打ちが来た。怒るとすぐこれだ。
「痛ぇーな。悪いのはあんただ。あんたが研究の内容を話すまで、もう俺はあんたの研究に協力しない」
そして部屋に戻った。真っ直ぐベットに入る。
悪いのはあいつだ。あいつなんだ。そう思いながら眠りについた。
この時はまだ予想すらしていなかった。
あんな悲劇が起きるなんて……。
小鳥のさえずりが聞こえる。今日から土日が明けてまた学校だ。
「雷二、起きなさい」
母さんが起こしにきた。母さんは、父さんとは真逆ですごく優しい。怒ると面倒くさいのは、父や俺と同じだが……。
「わかってるよ」
そう言って階段を下りる。途中で父さんとすれ違ったが、声はかけなかった。
「行ってきます」
そう言って家を出た。
紹介が遅れたけど俺の名前は真荷雷二。普通の高校に通っている。
成績は中の上。運動は中の中ぐらいだ。
「おっす雷二。またお前こんなものつけてきたのか」
「ちげえよ。これはマジでとれねーの」
そう俺は、小さな頃からブレスレットが腕から離れない。
キーンコーンカーンコーン。
「やべ。授業が始まる……」
昨日はあんな事があったせいでよく眠れなかった。だからか授業中、ぐっすり眠ってしまった。
「雷二、雷二」
誰だ? 俺の名前を呼ぶ奴は。いや、俺はこいつを知っている。聞きなれた声だ。まさか…
そう思いながら前を向いた。
「!!!」
そこには、血だらけの父が居た。何が、どうなっている?
「雷二、ディメ…ティ」
「は? なんだよ。それより親父血が」
「雷二……ディメティスを……使え」
そのまま、父は倒れた。
「親父、親父ッ!」
「っ……夢か。妙に生々しい、嫌な夢だったぜ」
ふと横を向くと、クラスのみんなが窓際に集まってざわついている。そういえば、授業はどうした?
「どうしたんだ? みんな」
そう言って窓の方へ行くと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。
街が次々と破壊されていく。ミサイルや銃で。
辺りは一面の焼け野原。地獄というに申し分ない光景だった。
「なんだよ、あれ……ロボットなのかか?」
その時、その物体からミサイルが放たれた。
「おい、嘘だろ……?」
ミサイルが直撃したのは、家がある方向だ。父さんと母さんが居る、俺の家……。
「う、うわぁー!!!」
夢中で教室を飛び出した。
「どこ行くんだよ雷二! 死ぬだけだぜ!」
「もう遅いかもしれない! 何もできないけど! けど今行かないと……」
夢中で、街を駆けた。途中どの道を通ったのか覚えていないが、家につく頃には傷だらけになっていた。
先とは別の意味で衝撃的な光景が俺を襲った。確かにミサイルが直撃したはずなのに、家は傷一つついてない。
「勘違いだったのか?」
家は無事なのに、嫌な予感がした。実際、ロボットはまだ暴れているのだ。ここが襲われない保証はない。
「父さん、母さんいるのか?」
返答は無かった。だが、恐らく居るはずなのだ。両親は普段、昼間から研究所へ通っている。
その時、研究室の方から大きな音が聞こえた。また父母を呼んだが、返答は相変わらず無かった。埒が明かないので、暗雲立ち込める地下室へ俺は向かった。
「ディメティスはどこにある?」
「知らんな」
父と母が縄で縛られている。そして父に質問している男は、銃を構えていた。
まさか、と脳裏に悪い考えが走る。
「まぁいい。妻を消せば気も変わるだろう」
「妻に手を出すな!」
母はどうやら眠らされているらしく、動かない。男が母に拳銃を突きつけた。
「死ね」
行くなら今しかない!
「やめろおおおおおおおおっ!!」
部屋一帯に声が響いた。両親の前に走って出る。
「誰だお前は?」
「俺か? 俺の名は真荷雷二。そこにいる真荷頼徒の息子だ!」
「馬鹿野郎!雷二、お前なんでここにいるんだ」
「父さん。親を見殺しにできるほど俺は精神的に強くない」
「そうか、息子か。また新しい人質が増えたぞ、真荷頼徒」
そう言って俺は、後ろに居た別の誰かに薬を嗅がされ、眠らされた。
「ここは……?」
目を覚ますと、先とは違う場所に居た。恐らく、研究所に移動したのだろう。
「さっさとディメティスの在処を言え」
また、さっきのやつと父さんがいた。母さんと俺は、その横で倒れているらしい。先に俺を眠らせた輩の姿は見えない。
「……わかった。そのかわりに妻と息子だけは助けてくれ」
「ふん、いいだろう」
「ディメティスの在処は、この研究所の地下だ」
「地下だ。今すぐ探せ」
「そういうわけには行かない。起きているんだろう? 雷二」
そう言うと、親父を拘束していた縄は簡単に外れ、俺の縄もほどかれた。
「どういうつもりだ! 俺たちがディメティスを回収するまでは大人しくしていろ」
「雷二、目を閉じろ!」
反射的に、言われるままの事をした。直後光の明滅が起き、父が俺の身体を起こした。
目を開けると、黒服の男たちは目を抑え、倒れてこんでいた。
「所詮目くらましだ。母さんはお前が背負え。早く逃げるぞ」
と言って走り出した。
「ああ」
急いで階段を駆ける。
「なぁ父さん! ディメティスってなんなんだよ!」
黙って走っていた父が、俺の質問に答えた。
「ディメティスとは……世界を破壊できるほどの力を持つロボットのことだ」
「な、そんなもんあるわけないだろ!?」
「そしてその操縦者がお前だ。雷二」
「何こんな時にくだらねえ冗談言ってんだよ!」
「冗談などではない。今この状況を救えるのはお前だけだ」
「そんな……そんなこといきなり言われたって無理だ」
「そのための訓練だっただろう」
これまでやらされていた事が、世界を破壊できるようなロボットの操縦? 気でも狂ってやがるのか。
「真荷頼徒! どこだ。殺してやる!」
どこからか奴の声が聞こえた。どこかはわからないがすぐ近くにいる。
「まずい、もう近くまで奴らが来ている。早く行け雷二」
「父さんはどうするんだよ」
「俺はここで、足止めする」
「それって、………」
「雷二、いい加減にしろ! 今この状況を救えるのはお前だけなんだ。時間だってないんだぞ。」
今まで見たことのない表情だった。真剣。父さんは本気なんだ。
「……不器用で悪かった。お前を、巻き込みたくなかったんだ」
「な……っ」
今度も俺が見たことのない、普段の父からは想像がつかない程の優しい顔だった。
普段から、そんな顔で俺と接してくれていれば。
「……わかったよ父さん。絶対生きてまた会ってくれよ」
「ああ」
後ろを見ずに走った。ただディメティスを動かすことだけ考えた。
「くだらん真似をしてくれたな。息子と妻を逃がしたか」
「……何とでも言うがいい。ここは、通さんぞ」
「そうか。ならば死んでもらおう」
「このっ……!」
銃声。そしてまた、階段を降りてくる足音。
「父さん……っ」
必死で地下へと続く階段を駆けた。途中で足を踏み外し、頭から部屋に入り込んだ。母さんも同じように倒れた。
「痛ててて……!?」
顔を上げると、目の前に大きなロボットがあった。これが、ディメティスか。
「真荷雷二。妙な真似をするなよ。黙ってディメティスを渡せ」
しまった、奴に追いつかれた! 成す術がなく、絶体絶命だ。なんとかして、ディメティスに乗り込まなければならない。が、動けばそこで俺の命は潰える。
「くそっ……ディメティスは、世界を破壊するほどの力があるんだろ……!」
「その力は、貴様の為にあるのではない」
「そんなのどうだっていいんだよ! でも、そんな力があるのならっ!」
「こんなクソみたいな状況をぶっ壊してくれよ!!!!」
その時空気が震えて、地が揺れた。
第1章終了 執筆:助手