トマトは異世界に通じる
取り留めのない文章ですが、
どうか、最後までお付き合い下さい。
この物語には、主人公がいます。
少年であれ、少女であれ、人間ではない何かであれ、
誰かがいて、何かをする。
物語に通じることは、みな同じこと。
目的は違っても、基本的なことは同じ。
誰かが登場して、何かを起こす。
その繰り返しだ。
どうして物語を繰り返すのか。
なぜなら、それ以外のものは作りえないからだ。
思い込みに支配された世界。
それを払拭することはできず、
たとえ拭えたとして、見える世界は言葉にならない。
伝えられないものは何にもならない。
何にもならないのだから、仕方がない。
いい加減、目を覚ました方がいい。
新しい試みも、前人未到の地も、
あってないようなものだ。
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本編がようやく始まります。
待ちに待ったサクセスストーリー。
涙あり涙なしどっちだろう。
いずれにしても、何も感じないことは、
ないはずだから、語りに翻弄されずに、
君の思うがままに感じてほしい。
哲学めいたうんちく話は必要ない。
いちいち、深読みや深思いをする奴は、
本当にひまなだけなんだ。
することがなさすぎて、
どうでもよくはないが、
生活する上で何も支障をきたさないこと。
でも、どこかで役に立つだろうと、
保証もない戯言を吐く。
語ったら、いい話っぽくなるけれど、
本当のところ、とてもとてもくだらない。
使う言葉が、難しかったり、
ウダウダ話したのちに、最後の最後で、
偉人が言ってそうな名言でかっこよく締めたり。
人は思い込みが激しい生き物だから、
勝手に「これはとても深い意味が込められているのだろう」
と誤解をしだす。
本人に聞けば「いや、意味なんてないよ。その場で思いついただけだし」
といった、裏切りではないものの、期待外れのような答えをする。
「すごい」という憧れも、所詮は大したことがない。
上記のような事例は少なくない。むしろ、多すぎる。
もしかすると、すべてに当て嵌まることかもしれない。
「どうだ、凄い話だろう」
あえて、言うと僕の話もまた、
同じことの繰り返しで、同じように大したことはない。
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長い長い降りだ。
どこまで歩けば平坦の道になるんだ。
かれこれ、歩き続けて30分。
ぼくはギネス記録に認定されたような、
世界一長い坂道でも歩いているのか。
歩きながら、他愛のない思考を巡らして、
気がつけば坂は終わっているだろうと、
思っていたというのに、見る限り終わりが見えない。
戻ってみようかとも錯綜したが、まだ早いと押しとどまった。
にしてもどうして、
いつもの坂道が、まるで無限回廊のような、
ありもしない空間になってしまったのだろう。
僕が何をしたっていうんだ。
屋上から嫌いなトマトを放り投げたのがいけなかったのか。
これはトマトの呪い。
いや待て。しばし待て。
仮に百歩譲って、この現象がトマトの呪いだとしよう。
高さは15メートル、例えるならマイケル・ジョーダン約14.5人分。
まあ、高さは関係ないとして、弁当に入っていた
罪のないトマトは、放物線を描きながら自由落下によって、
無残にもトマトはグチャグチャになったけれど。
なるっけ、うん、なると思う。
それで、そのトマトが怨念を抱いて、
この僕を苦しめようと無限坂道を創り出したというのか。
これがトマトの力だというのか。
「うわあ~、トマトさんごめんなさい」
あたりは静けさに満ちていた。
「ま、そんな訳ないか」
そもそも、トマトの怨念て何やねん。
不覚にも、自分でボケとツッコミをしてしまった。
割りと恥ずかしい。
誰も見てなくてよかったと、ホッとした。
「トマトのせいでいいんじゃない?」
振り返ると人がいた。
ホッとした束の間、ホットがクールに帰り咲いた。
「え、もしかして今の聞いてた?」
「うん、もちろん。屋上からトマトが軌道を描くところから、
トマトの呪い云々の件まで、そりゃもう全部」
アイタタタタ、身が捩れる思いである。
このまま坂道を転がって、雪が積もって、
雪だるまになってしまいたいと願った。
「ねえ、君はどこから来たの?」
「どこって、ホラ坂の上の、あれ」
坂の上は雲で覆われていた。
もくもくと、普段から目にする、
何の変哲もありはしない雲である。
変哲があるとすれば、
坂の上に雲が密集している点ぐらいだ。
それ以外は何とも、至って健全である。
「空から来たって、あの雲の向こうから?
嘘でしょ。ありえないよ。だってあの先は私の家だもの」
僕はどうやら、異世界に迷いこんだらしい。
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かくかくしかじか。
読者の諸君、わかっていただけただろうか。
僕がどのような経緯で、このような状況にあるのか。
すべてが一瞬にして繋がったことだろう。
「かくかくしかじか」
文学の偉大な発明である。
なぜなら、1文にして全てを網羅できてしまうのだから。
これほど、都合の良い文章はない。
今後も、こういった便利な文章が開発されていくだろう。
まったく意図が伝わらない、とは言わせない。
仮に問題があるとすれば、それは聞き手にある。
説明不足、いやいや、以上の通りじゃないか。
付け足すことも、何もできやしない。
あれが全貌なんだ。全貌だと言っているのだ。
否定しようものなら、それは詭弁だ。
僕に逆らって見ろ。
お前も坂の上から蹴り転がしてやる。
ケガでは済まないぞ。
いいか、これは忠告だ。
異世界なんて夢は見るもんじゃない。
ときより、いるんだよ。
「ビバ異世界、転生とかしちゃいたい」っていう馬鹿が。
まあ、馬鹿は何を言っても馬鹿なんだけれど。
馬鹿は本当に馬鹿な目に会ってみないとわからない。
だからと言って、僕が馬鹿だった訳ではない。
聞いていただろう。あの素晴らしい哲学論を。
あれが馬鹿の考えることだろうか。
ルソーさんを表に出されると、僕も言い返すことはできないが。
とにかくだ。君たちにしてみれば、おもしろ百文で聞いているだろうが、
本人にとっては大真面目だということだ。
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「いえ、お断りします」
「まだ私、何も言ってないんだけど」
間髪入れずにはいられない。
おお、盛り上がってきたぞ、と。
そうなる前に止める。
最高潮になった後は、
下がることがわかっているからだ。
だから僕は彼女の誘いを断った。
正確には、誘われる前に断った。
「チュートリアルはいらないと言っているんだ」
「はあ? チューだか鳥だから知らないけれど、
アンタ、行く宛もないんでしょ?
よかったら、私が案内してあげるけど」
ぐぬぬ、この女、どうしても僕と馴れ初めたいようだな。
この物語のヒロインになろうっていうのか。
確かに、背は低くてロングの金髪で、幼い雰囲気で、
僕の好みドストライクではあるけれど。
ほいそれと、甘えてもよいのか。
よく考えるんだ僕。甘い話には裏があると、言うではないか。
冷静になれ、感情で動いてはいけない。
「いや、結構だ。僕は一人で何とかする」
僕は歩き出した。一歩、また一歩と異世界脱出に向けて。
僕の居場所はここじゃない。戻るんだ元の世界へ。
「あ、そっちは危ない」
「え?」
がくん。ふわ。気がついた頃には遅かった。
足元に踏場はなく、体が傾く。
体制を立て直すひまもなく、僕は真っ逆さまに落ちていった。
「うわあああ!!」
「あれ、どうして自分で浮かないんだろう。
あ、そっかできないのか。もう、仕方ないなあ」
トマトの二の舞いになるのは嫌だ。
おう、まいごっど、我を助けたもう。
手を組んで、天の神様に祈った。
祈りが通じたのか、空から人が降りてきた。
くるくると旋回しながら、僕に近づいてくる。
「ああ、天使が舞い降りてきた。
ようやく僕も天国へ行けるんだね。
パトラッシュ、君のことは忘れない」
「寝言は寝てから言いなさい。
ほら、私の手につかまって」
僕は何も言わず、藁にもすがる思いで、
彼女の手のひらをにぎった。
にぎにぎ、これが天使の触感。
僕の意識は、そこでプツンと消えた。
その先のことはよく覚えていない。
何度も、長編小説に挑戦してきましたが、
いつもいつも挫折していました。
今度こそ、書ききりたい一心です。