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夢見がち少女の現実  作者: 赤木かなめ
続編 夢見がち少女の現実
6/6

4.家族




「では、明日の午後には私の屋敷まで来てください。……貴女が私が行って説明するのを嫌がったんです。きちんとご両親に説明をして来てください」


「……はぃ」


説明って……自分探しの旅に出る、と?


この年になって何て恥ずかしいことを言わなければならないのだろうか。

反抗期か? 反抗期扱いになるのか?


偽りとはいえ、私の黒歴史の一頁となることは間違いない。


「それでは私は帰ります。明日の午後、必ず私の屋敷へと来るように。……逃げるなど考えてはいけませんよ」


「ひぃぃっ。わ、わわわ分かり、まし…た!」


「よろしい。まぁ、貴女が逃げたところで、直ぐに捕まり強制的に世間に知られるぐらいなので別にかまいませんがね。むしろそうします?」


「い、いぇ……しませ、へん!」


何て恐ろしいことを言うのだ。おかげで噛んだではないか!

怖い。権力を持っている男怖い。


がくがくと震えているうちに、サー・オーラントは馬車に乗って優雅に帰って行った。


分かり切ったことではあったが、上下関係がすでに出来上がってしまった。

あの方に私が逆らえることができるとは思えない。


悲壮感を漂わせながら、今度こそ家へとの帰り路についた。








~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~








「……ただいま」


「あら、お帰りなさい」


家に帰ると、母が出迎えてくれた。

どうやら食堂の仕事も終わったようだ。


「お父さんは?」


「まだよ。晩御飯前には帰って来るんじゃないかしら」


「……そう。明日もお父さん早いの?」


「そうね~。朝ご飯食べたら仕事に行くんじゃないかしら? あの人仕事人間だから」


明日の朝ではゆっくり話ができそうにないな。

話をするのならば晩御飯後といったところか。


……嫌だな。

最後の晩餐みたいな気になるではないか。


「お父さんに何か用なの?」


「うん……ご飯の後にでも言うね」


首を傾げ怪訝そうにしながらも母はそれ以上の追及はしなかった。


だが今回ばかりはもっと娘へと関心を寄せてほしかった。

今あなたの娘は窮地に立たされているのだぞ。

命の危険もあり得るといえる。


でも実際には言うこともできないので、暗い気持ちで部屋で夕飯まで待つことにした。


ちなみに、最後の晩餐の内容は魚の塩焼きだった。














夕食が終わり、母が用意した飲み物を飲みながら家族でまったりしている時。

ずっと黙ったままだった私は、嫌々ながら切り出すことにした。


「あの~……」


普段より割増しで暗い雰囲気だった私なのに、特に両親は気にした様子はなかった。

というかいつものことだと思っていそうだ。


少しは娘のことも気にしてもらいたい。


「何だ」


「あぁ、そういえばご飯の後何か言うって言ってたわね。それのことかしら?」


「……うん」


遂に言う時が来た。

黒歴史となること間違いなしの言葉を。


本当のことを言うよりは大分ましなことではあるのだが、それでもできれば言いたくない。

世間に出ていく第一歩のような扱いで家を出されるのならば、まだ帰ってこられる可能性が高い。

だが、遅すぎる反抗期扱いをされ、父辺りに勘当でもされたら堪ったものではない。

父は融通が利かない性格なのだ。

意味の分からない態度・反抗をしようものなら問答無用で叩き出される。

勘当ともなれば二度と家には入れてくれないこともありえる。

今回は叩き出されていい事なのだが……二度と帰ってこられなくなるのは勘弁願いたい。


私は式典が終われば何事もなかったかのように帰ってきて、今までの生活に戻るのだ。

できればあまり波風立てて出ていきたくないのが本音だ。

まぁ、母辺りは遅まきながら普通の子供らしい反応がきたと喜ぶかもしれないがな。


「その……実は……」


「何々? 何かあったの?」


「………」


何故か興味津々の母と黙って待つ父。

緊張の一瞬である。


何故こんなことになったのか?

神のせいか、はたまたサー・オーランドのせいか……もしくは私の運のなさのせいかもしれない。

今更考えても仕方がないこととはいえ、あの催しものになど行かなければよかった。

後悔後を絶たずである。


今はとにかくサー・オーランドの御命令を実行しなければ。……後が怖いし。


「……じ……じじじじ………」


「じ、何? 爺くさい? 事実婚?」


「………?」


母よ……私はいきなり爺くさいなど言わない。

それに、ちょっと期待したような目で事実婚とはなんだ。

私がその様なドロドロしそうなことをするとでも思っているのか?

母は妙な話ばかりおば様たちから仕入れすぎだ。

父も母がこれ以上余計なことを言わないよう止めてくれ。


「あの……実は……た、たたた旅。……自分を探しに……旅に……旅に出ます。探さないでください。主に五か月間ほど」


「「………」」


言った。

ついに言ったぞ。

とんでもなく恥ずかしい言葉を。

だがこれでサー・オーラントからの任務は遂行された。

結果がどうなるかはわからんがな。


言ったことに満足している私に対し、両親は押し黙っている。

それはそうか、この様なことを言われても対応に困るだろうと思う。

許せ。これもサー・オーラントの御命令なのだ。


これからどんな返事がくるのだろうか。

冗談だと思って笑われる? バカなことを言っていると思われ怒られる?

どの様な返事が来ても私は喜べないがな。


「「「………」」」


押し黙る家族。

私はドキドキしながら両親の反応を待つしかない。


本当はサー・オーラントが言っていたような嘘がつけたならよかったのだが、如何せん私だ。無理だ。

下手な嘘を付けばそこから怪しまれて真実がばれる。


これが……これが一番いい嘘なのだ。

そう信じなければやってられない……



















「もうそんな年頃になったか……」


「そうね、そんなことを言う年頃ね」


「……へ?」


旅に出る宣言に対しての両親の反応は、妙に納得した顔で頷くことだった。


何故だ? 何故年頃ということで解決しているのだ?

自分探しの旅に出る年頃ってなんだ。


「俺は十七歳で旅に出た」


「あら、私は十六歳よ。あなたもまだまだ甘いわね」


「……何? ならば俺は約三年間旅を続けたぞ」


「っむ! 私は二年だけど……それでも私の方が早かったわ!」


「っふ、たった二年で何を言う」


「まぁ! たかだか一年多いだけでよく偉そうに言えるわね!」


「…っお前こそ、一年早く旅に出ただけだろうが……」


何だこれは……?

何だこの不毛な争い及び内容は。


言いだした私をそっちのけで両親は言い争っている。

しかも争いの内容が実にくだらない。どっちもどっちである。


それにしても両親どちらとも若かりし頃旅に出ていたのか……知らなかった。

お馬鹿だったのだろうか?


いや、そんなことより、とりあえず私のことだ。

喧嘩を止めて話を聞いてもらわなければ。


「……あの」


「あ、あら! ごめんね、ミーシャ! ちょっと白熱しちゃってたわ」


「……む、悪い」


白熱していたのは分かる。

いつも無口な父までもよく喋って反論していたぐらいだしな。


「今まで黙っていたけど……私たちも若いころ旅に出たことがあるのよ~。自分は何か、どうしたいのか。色々考えてたら、自分がわからなくなってね。それで自分探しの旅をしたのよ」


「……あの時は若かった」


「へぇ……」


意外すぎる事実を知ってしまった。

自分の両親がそんな行動力があったとは。

聞いていて恥ずかしいのだが。


「ミーシャまで旅に出るだなんて……血は争えないということね」


「まさしく俺たちの子だ」


いや、嬉しくない。


旅に出る血筋ってなんだ?

それはもはや血が呪われているとしか思えないが?


「でも消極的なミーシャが旅に出たいと言うだなんて……ビックリしたわ。お母さん、心配していたのよ? あなたのその性格で世の中渡っていけるのかって」


「……もう少し自己主張をした方がいい」


「そうそう! でもそうと決まれば早い方がいいわね! 旅に出る準備はお母さんに任せなさい! 早速準備してくるわ!」


「……俺の部屋に方位磁石がある。持って来よう」


両親は一斉に家じゅうをバタバタしだした。


おい、まて。

何でそんなに乗り気なんだ。

ちょっとは引き留めてほしい。

心配ではないのか? 寂しくはないのか?


自分で言いだしておいてなんだが、こちらがついていけない状態になってしまった。

なんだこの展開。予想外すぎるのだが。


「さぁ出来たわ! これでバッチリ!」


「……地図も入れておいた」


私が二人の様子をオロオロして見ていると早くも準備ができてしまったようだ。

……早すぎないか?


「こんなこともあろうかと、多少の準備をしておいて正解だったわね」


「……ああ」


何だと。


「……準備してたの?」


「えぇ!」「ああ」


何ということだ。

両親は私を追い出す準備をすでにしていたということか。


私はこんなことがない限り普通に今まで通りの生活を続けるつもりだったぞ。

旅に出るなど言うことは絶対になかった。


だが両親は私がいつか旅に出ると思っていたのか……何故だ?

そんな(へん)りんを見せたことなどないぞ。


「さぁさぁ! 善は急げと言うでしょ! これを持ってどこへなりと行きなさい!」


「自分の思うとおりに行きなさい」


丈夫な上着を着させられ、重たい鞄をかけられた。

そして二人がかり外まで押される。




っちょ、ちょっと待て!




まさか、このまま旅に出す気ではないだろうな!

旅に出るとは言ったが、私は明日の昼までに出る予定なのだ!

こんな時間から外へと出されてどうすればいい!?


「強く生きるのよ!」


「怪我や病気には十分気をつけろ。後、強盗などにもな」


母は涙ぐみながら手を振る。

父は旅の心得を説いてくる。


待て、展開が早すぎて困ってしまう!


「ま……待って! 私まだっ!」




っバタン!!




無情にも、私の目の前で家の扉は閉まってしまった……




っがっこん!




鍵もかけられた……




その扉からは絶対に開けないという意思がひしひしと伝わってくる。

これはどんなに扉の目で訴えても開けてくれそうにない。

それどころか、そんなことをしようものならご近所様の噂の的になる。

明日から話題の情報として、私の家庭事情が面白おかしく話されてしまうことだろう。

そんなことにはなりたくない。




よって、今現在私ができることは……そう。











……今夜の寝床確保である。






来週も……皆様に会えたらいいなぁ。

が、頑張ります!!

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