1.祈りの乙女
そんなに長くない連載にするつもりです。
遡ることひと月前。
我が国は密かに滅亡の危機に瀕していた。
邪気により人々の生活に必要な水が不足し始めていたのだ。
このままでは近い将来、国の滅亡は避けられないであろう。
だが、それを良しとしない国上層部は王家守護神に救いを求めた。
神はその願いを聞き届け、一つの打開策を人へと授けた。
それは……神の秘宝を身にまとった娘の祈りであった。
定めた日付・時間・場所にて、選ばれし娘が秘宝を身にまとい、祈りを捧げれば国を覆う邪気を消すことができるというのだ。
その様なことで本当に邪気が消えるかは謎であったが、救いを授けてくださった神の不況をかうわけにはいかない為、疑問は残るも従うこととなった。
そして、上層部は神の導きに従い、一人の娘を選出した。
娘は、どこにでもいる、ごく普通の少女だという。
果たして市井の少女が、そのような大役を果たせるのだろうか。
……正直なところ、皆不安に思っている。
しかもそれだけでなく、神は少女と我が国の大最高裁判官である男性の婚姻も共に行うことを義務付けたという。
言わずも知れた、彼のサー・オーラントである。
彼は大変女性に人気があり、この悲報を聞いた女性たちの多くは悲しみの声をあげ、泣き崩れたそうだ。
何故この様な義務が生じたのか、その理由は定かになっていない。
神は、その婚姻に一体何を見出したのか……?
本当に国は救われるのだろうのか……?
私たち国民の不安と疑問は続くばかりだ。
我々は、その少女の事を「祈りの乙女」と呼ぶことにした。
本誌はこれからもこの一連の現状を追い続ける。
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バシィィ……!
そこまで読んで、たまらず雑誌を床へと叩きつけた。
皆不安に思っている、だ。
市井の少女に果たせるのか、だ。
不安と疑問は続く、だ。
そんなこと私が一番思っている!
変わっていただきたい!!
是非とも変わっていただきたい!!!
この大役及び婚姻義務を全力で誰かへと擦り付けたい!!
私とて好き好んでこんな立場になったのではないというのに、世間では好き放題言っている。
それに悲報とな?
私と結婚するのはそんなに不幸な事なのか!
失礼にもほどがあるというものだ。
理不尽である。大いに理不尽である。
こき下ろしておいて、何が祈りの乙女と呼ぶだ。
しかも立派な付け狙う発言までされてしまった。
私の慎ましやかな秘密まで暴くつもりではなかろう、な……?
………うん。
駄目だ……誰も私の部屋へと入ってはいけない。
あの少女趣味丸出しの本の数々を見られたならば、ご近所さんの私を見る目は一瞬で生暖かいものへと変化する。
それは嫌だ!
ご近所さんでは物静かな大人しい良い子で通っているのだ!
おかげで誰も私を過剰に干渉してこず、普通の娘さんとして心穏やかに過ごす日々がなくなってしまう。
ただでさえ他人との交流は極度の苦手なのに、これ以上の接近接触は私の命と名誉が大いに傷つくことになる!
それだけは避けたい!
幸い今の所、私が某祈りの乙女(笑)だということは世間に見破られていない。
あの大々的な選抜でも、光のせいで近くにいた者は皆、目が…目がぁぁぁ!! となってしまい、誰が選ばれたのか正確には分からなかったそうだ。
大変ありがたいことである。
五名選ばれて更にその中の誰かなどは、あの時その場にいた人物しか知りえないこととなった。
式典まで祈りの乙女(笑)の安全を考慮して誰が選ばれたのかは箝口令が引かれたのだ。
あのご命令がなければ、今頃私は針のむしろ状態であっただろう。
闇討ちもあったかもしれない……ちなみにその犯人は絶対女だ。
家にも野次馬などが押し寄せ、両親にも迷惑をかけていたと思うと、命令を下してくださった王様には足を向けて眠れない。
私は常に頭を向けて眠ることを誓ったとも。
……王様がどこで眠っているかは知らないがな。
私などが選ばれし娘だとはだれも思うまいが、現在も細心の注意を払っている。
苦労の絶えない、悩み多き年頃の乙女だとしみじみ思うこの頃だ。
とりあえず、全てが落ち着いたら一番にしようと思うことはある。
「……この出版社に不幸の手紙を送ってやる」
復讐するは我にありぃぃぃ!!
続きは多分一週間後です。うん、多分。