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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第一章 孤児園の子供達
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第八話 別れ

 最近、ハートちゃんの様子がおかしい。

 夏休みに入ってから、ぼくはそう思い始めた。

 声をかけても曖昧に返事されたり、何もせずにソファに座ったままぼーっとすることが多くなった。どうしたのって声をかけても、何でもないって返される。……これはなんかあるよね?

 どうしても気になったぼくは夜、みんなが寝静まった後、園長先生に聞いてみることにした。

 暗い中、そっと園長室の扉をノックする。すると、すぐに先生が出てきた。まだ寝てないんだ。ぼくも人のこと言えないけど。


「園長先生、ちょっといいですか?」

「いいよ。なんだい?」

「あの、ハートちゃんってなんかあったんですか? 最近様子がおかしいと思っていて……」

「……ハートちゃんに誰にも言わないでって言われてるんだけど、知りたい?」


 ハートちゃんが誰にも知られたくないこと、か……。ぼくが知ってもいいのかな? もし、ぼくが知ってハートちゃんが傷ついたりしたら……。


「大丈夫。そんな深刻な事じゃないから」


 ぼくの心を読んだみたいに、園長先生が優しく声をかけてきた。でも……。

 ぼくが黙り込んでいると、先生が囁くように言った。


「急な話だけど、ハートちゃんを引き取ってもらう人が決まったんだ。……ハートちゃんは、その人の養子になるから……明日、孤児園を出て行くんだよ」


 言葉を失った。言ってることはわかったけど、理解するのに時間がかかった。

 ここは孤児園だ。だから、ここに住んでいる子供――預けられている子供であるぼく達はどこかの人の養子にならないといけない。今まで里親なんて現れなかったから、そのことをすっかり忘れていた。

 ここに預けられているこの子を引き取りたいってこの孤児園に訪れた人は、園長先生に子供を安全に、不自由なく育てられるか調べられるらしい。今まで誰も引き取られなかったのは、そう言う人が現れなかったからだ。養子になる子を探している人があまりいないこともあったみたいだけど。

 でも今、ハートちゃんを引き取れる人が現れた。明日出て行っちゃうなんて。


「ハートちゃんの里親になる人は、ハートちゃんを不自由なく育てられるいい人だよ。安心して、笑顔で送り出してあげよう? ……出会いがあれば、別れもある」

「……そう、ですね」


 ぼくは話してくれた先生にお礼を言い、部屋に戻ってベッドに潜った。

 ……そっか。ぼく達とお別れするから、ハートちゃんの様子がおかしかったんだ。もしかしたら、養子になることを不安に思っているのかもしれない。何か、できることはないかな?

 そんなことを考えながら、眠りについた。


 次の日、ぼくはハートちゃんが園長先生と出かけている間に、他のみんなにハートちゃんが養子になることを話した。みんなの反応は二つに分かれた。スターやルークのように特に驚かない人と、カイ君やピンクちゃんのように驚く人。ぼくはもちろん、驚く側だ。

 ぼくはみんなの前ですっと手を挙げる。


「そこで、ハートちゃんの別れ会をやりたいと思ったんだけど、どうかな?」

「いいね!」


 スターがすぐに賛成してくれた。続いて、シン君以外の他のメンバーも頷く。


「シン君も、いいかな?」

「勝手にすれば?」


 素っ気なく返されてしまったけど、ぼくはそれを肯定として受け取った。

 そうと決まれば早速準備をしよう。ぼく達は部屋を飾り付けするため、持っているお小遣いで必要な物を買い集めることにした。

 まず、役割分担をする。シン君を除く八人で相談をして決めた結果、買い物に行って飾る物の材料を買うのがぼくとスター。ケーキやお菓子を買うのがルーク、カイ君。部屋のデザイン、というかレイアウトを決めるのがピンクちゃんとラギ君。飾る物を作るのがロイ君、ルミちゃんになった。シン君は手伝ってくれないらしい。まあ、みんな気にしてないみたいだし、邪魔もしてないからいっか。

 ぼく達は今孤児園にある折り紙や布を集め、ロイ君とルミちゃんに渡した。ソファではピンクちゃんとラギ君が部屋のレイアウトを決めている。ぼくもスターと一緒に近くのスーパーや雑貨屋に行くことにした。

 ケーキを買いに行くルーク、カイ君と別れ、スーパーの中に入る。かごを手に折り紙やシールなど、飾れる物や飾りを作る材料を探し始めた。ついでに、ハートちゃんにあげるプレゼントも買うことにしよう。かわいいデザインの箱とあげる物を選び、使える物をかごに入れて会計を済ませた。スターに「何それ?」って聞かれたけど、「内緒」と言っておいた。まあ、スターは心読めるからわかると思うけど。

 孤児園に帰ると、ピンクちゃんとラギ君がレイアウトを決めたのか、ソファや机の場所が移動しており、二人はキッチンで調理をしていた。ぼく達は買った物をロイ君、ルミちゃんに渡し、今飾れる物を飾ることにした。カイ君とルークはまだ帰っていないらしい。多分、カイ君がケーキ選びに迷ってるんだろうな。


「スター、ぼくは机の上とか、床を綺麗にするから、スターは壁の飾り付けをして」

「うん、わかったー」


 スターは早速椅子の上に立ち、窓の上や壁に折り紙で作った物をぶら下げ始めた。

 ぼくも、布巾で机の上を綺麗に拭き、ルミちゃんが作ってくれたテーブルクロスを敷いた。それから床を掃く。途中で帰ってきたルークとカイ君も、飾り付けや掃除を手伝ってくれた。

 飾り付けが一通り終わると、ハートちゃんへの手紙を書くことにする。後は、お別れ会の時に何して遊ぶかを決め、その遊びで使う物を作りながらふざけたりもした。

 夕方までぼく達はそんな作業をしていた。あ、昼ご飯はピンクちゃんとラギ君が作ったチャーハンを食べたんだ。二人は料理上手みたいで、すごく美味しかった。

 すべての準備を終えたぼく達は、席についてハートちゃんと園長先生の帰りを待った。


「みんな、帰ってきたら笑顔で『お帰り』って言うんだよ」


 ぼくがそう言うと、みんなはこくっと頷いた。そのまま、じっとしてたんだけど……なかなか二人は帰ってこないためか、カイ君がめんどくさそうな声を上げた。


「ルークー、いつ園長先生帰ってくるんだー?」

「知るか、オレに聞くな」

「っていうかどこ行ったんだ? あの二人」

「知らん」

「あ、帰って来だぞ」


 窓から外を見ていたラギ君が振り向いた。ぼく達は口を閉じ、玄関の扉が開くのを待つ。

 ガチャッ。そんな音を立てて入ってきたハートちゃんに、ぼく達は声を発した。


「ハートちゃん、お帰り!」

「えっ!? な、なに? どうしたの?」


 部屋の中を見渡し、頭の上に疑問符を浮かべるハートちゃん。そんなハートちゃんを園長先生が後ろから軽く押す。


「まあまあ、とりあえず席に座って」


 何故か、先生はぼく達が何をしようとしているのかわかっているみたいだった。

 不思議そうな顔をしながらも席に着くハートちゃんの前に、ピンクちゃんとラギ君が作った料理を置いた。


「え、すごい! これ二人が作ったの?」

「うん、そうだよ」

「ああ。遠慮しないで食べてくれ」


 同時に頷くピンクちゃんとラギ君の二人。調理しているときに仲良くなったらしい。

 ぼく達も、食事をしながらハートちゃんとたくさん会話をした。ハートちゃんが楽しめるように、養子になることを知っている、ということは伏せたまま。

 料理とケーキが食べ終わった後、いきなり園長先生が黒い帽子と杖を取り出した。そして、その杖に赤い布をかけ、素早く布を取る。その途端、杖の先端に大きな花が咲いた。え、マジック?


「すげー!」


 カイ君が目を輝かせる。ハートちゃんやピンクちゃんも見入っていた。

 先生は今度は帽子の中に何もないところを見せ、杖で三回帽子と叩いた。すると、帽子の中から真っ白な鳩が飛び出してくる。す、すごい!

 鳩が部屋中を飛び回ると、その羽からひらひらと花びらが落ちてきた。その間に、先生は机に大きな布を被せ、片手で三秒数えた後、布をさっと上に飛ばした。刹那、ぼく達は驚きの声を上げることとなった。だって、机の上には料理がのっていたお皿やコップが置いてあったはずなのに、綺麗になくなっているんだもん。かわりに、ぼく達が用意して部屋の隅に置いていたすごろくのセットがあった。

 この世界には魔法が存在するから、最初は魔法? って思ったんだけど、物を出したり消したりする魔法は存在していない。攻撃する魔法や回復させる魔法はあるんだけどね。だから、これは魔法ではなくて手品なんだ……先生って、何者?


「これは、すごろく? でも、すごろくなんて持ってた?」


 机の上を見て、ハートちゃんが訊いてくる。そんなハートちゃんに、何故がカイ君が誇らしげな顔をした。


「これはな、おれ達が作ったオリジナルすごろくなんだ! 勝った奴はな、誰かに命令できるんだぜ!」

「なんでお前が誇らしげに言ってんだよ」


 呆れて突っ込むルーク。だが、カイ君は今回は何も言い返さなかった。サイコロとぼく達の顔が描いてあるこまを用意し、全員に配った後にっと笑う。


「よし、早速始めようぜ! 最初はハートだ」

「えっ、最初でいいの?」

「ああ、あみだくじで決めたんだ」

「そっか。じゃあ……」


 サイコロを手にし、ころころと机の上に転がす。出た目は三。ハートちゃんが自分の持ち駒を動かすと、そこには……。


「ゴールまで髪型をツインテールにする……えっ!? こんな指示あるの!?」


 驚くハートちゃんにスターが笑いを込めた声で言う。


「ツインテールにしないのぉ? そうしないとルール違反だよ~」

「す、するよっ」


 ハートちゃんはぼく達が買ってきたゴムを手に取ると、髪型をポニーテールからツインテールに変えた。おお、なんか新鮮。


「これでいい?」

「うん。じゃあ次は園長先生だね」


 ぼくはサイコロを園長先生の方に転がした。先生はサイコロを手の中で転がしながらぽん、と上に投げた。出た目は四。ハートちゃんの次のマスだね。えっと……『自分の秘密暴露』。

 ちらっと先生の様子を窺うと、しまった! という顔をしていた。これはこれで珍しい。

 先生は少し考えたのち、こう言った。


「みんなが知りたがっていた私の弱点は……ないっ!」

「はああ!? いやでもそれはそれで秘密暴露だけどっ! ずるくない?」

「でもスター君、これを言うまでは私に弱点があるかないかわかってなかっただろ?」


 確かに。なんか腑に落ちないけど、ぼく達が知らなかったことを教えたんだからしょうがない。

 そう思い、次に行くことにした。えっと、次はシン君だね。

 シン君がめんどくさそうにサイコロを投げると、二が出た。『次の週まで向かい側の人を肩車する』という文字と、前の先のラギ君を見たシン君は、「うっ」と嫌そうな顔をする。だけど、ちゃんとルールは守ってくれるらしい。仕方なくといった感じに、申し訳なさそうにしているラギ君を肩車した。

 次にサイコロを転がしたカイ君は二を出した。


「か、肩車か!? ……あれ? 文字が変わってるぞ!」


 文字が、変わってる?

 二番目のマスを見てみると、さっきは『向かい側の人を肩車する』って書いてあったのに、今は『次の週まで逆立ち』と書いてあった。

 ぼくはスターと共に園長先生を見てみる。先生はわかりやすいぐらいわざとらしくぼく達から目を逸らした。あ、先生がやったんだね……。もう先生がやるすごいことには慣れちゃったよ。どうせ、どうやってやったのかは教えてくれないんだし。


「逆立ちか……。まあ、肩車よりはいーか」


 カイ君は机から少し離れると、壁を使わずに逆立ちした。さすが、カイ君! カイ君は運動だけは得意なんだ。空手習ってるし。頭に血が上らないか少し心配だけど。

 カイ君の次のスターはぽーんと高くサイコロを飛ばした。出た目は六。


「えっと、『次の週まで右隣の人に膝枕ひざまくらしてもらう』」

「えっ!?」


 右隣って、ぼくだよね?

 スターの様子を窺おうと視線を向けた途端、スターはぼくの膝に頭を乗せてきた。え!? 躊躇ちゅうちょしないの!? なんか、ぼくの方が恥ずかしいんだけど!

 でも、みんなは気にしてないみたいで、ロイ君はとっくにサイコロを転がしていた。サイコロの目は四。

 さっきでわかった通り、ハートちゃんのときのツインテールの文字は消えていて、『右隣の人の頬にキスをする』って書いてあった。うん。ロイ君、予想通りルミちゃんの頬にしたよ、キス。

 はい、次に行こう! ピンクちゃんは六を出した。書いてある文字は『一回休み』。あ、普通だ。まあ、いちいちなんかあったら嫌だもんね。

 次に肩車されながらサイコロ振ったラギ君はピンクちゃんと同じく六を出し、『スタートに戻る』を出してしまった。あー、残念。


「次はアタシだね! えーい!」


 気合いを入れた投げたサイコロは、一を示した。だけどそこには『十マス先へワープ!』とかかれており、一番進んでいるのがルミちゃんとなった。ルミちゃんは嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 続いて、ぼくがサイコロを振ると、また六を示した。さっきからあまりいい文字を出していない六マスだけど、大丈夫かな……? えっと『次の週まで空気椅子』……え!? スターを膝に乗せた状態で空気椅子!?

 仕方なく、椅子を後ろにずらして空気椅子をやったんだけど……辛い。机に手を置いてないと崩れる。それに、スターが気を遣うことなく体重かけてきてるし!

 もう早くして……そう願いながらルークが持ち駒を五のマスに動かすのを見た。書いてある文字は……あれ? 何も書いてない。少ないけど、何もしなくていいマスもあるんだね。いいなぁ。あ、逆さまカイ君を見ながらにやにやしてる。

 そんな風に、時に楽しみながら時にショックを受けながらすごろくをやっていき、最初にゴールしたのはなんと園長先生だった。けれど、先生は命令するのは後にして、ハートちゃんの肩に手を置いた。


「ハートちゃん」

「あ、はい……」


 先生に促されたハートちゃんは、ずっと膝の上に置いていたバッグから封筒を七枚取り出した。そして、思い切ったように言う。


「あの、みんな、今まで隠しててごめん。急になんだけど……わたし、孤児園を出てある人に養子になることになったの。それで、これはみんなへの手紙」


 ラギ君、シン君以外の七人に手紙を渡したハートちゃんは、さっきの楽しんでいた表情が嘘のように、不安そうな顔をしていた。

 ぼく達は顔を見合わせると、準備している途中に書いた全員の手紙をハートちゃんに差し出した。


「ハートちゃん、これはぼく達からの手紙」

「え……? 知ってたの?」

「うん……園長先生から聞いて。それで、このお別れ会を開いたんだ」

「……! そうだったんだ。ありがとう……!」


 ハートちゃんは驚いたような目を見開いた後、涙を浮かべながら微笑んだ。そんなハートちゃんに次々と言葉をかけていく八人。やっぱりシン君は声かけないみたい。

 ぼくもお別れの言葉を言って、ハートちゃんのために買ったプレザントを渡した。中身はかわいらしい写真立て。これに、ぼく達との思い出の写真を飾ってくれたらなーっと思って。

 そんなぼく達の後ろでは、園長先生が優しげな目でみんなを見守っていた。


 朝八時頃、孤児園の前に一台の車が走ってきた。きっと、ハートちゃんの里親さんの車だろう。予想通り、ハートちゃんと園長先生が車から出てきた女性と話をしている。

 頭を下げ、車に乗り込んだハートちゃんに、ぼくは二階の窓から手を振った。気づいてくれたらしく、手を振り返してくれた。


『――この孤児園でみんなに出会えて、とっても幸せだったよ。また会いに来るね。ハートより』


 そう書いてある、ハートちゃんからもらった手紙を手にし、遠ざかっていく車を見守りながら、ハートちゃんが幸せに暮らせるように願った。大事な、友達だから。


 結局、園長先生からの命令は、お別れ会の飾りやお皿の片付けだった。

 すごろくの順番のあみだくじと、サイコロの目は実際にやって決めました。

 最初は人生ゲームにしようと思ったんですけど、わたし人生はゲームやったことがないので、すごろくとなりました。

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