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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第一章 孤児園の子供達
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第七話 雷

「みんな走って!」


 園長先生の言葉に、ぼく達は孤児園の方向に走り出した。

 今は昼の二時。ぼくとスター、ルーク、カイ君は昼ご飯を食べ終え、近くの公園で遊んでいた。その時に、園長先生が雷が近づいているから孤児園に帰るよう呼びに来た。先生が言った通りゴロゴロと雷を音が聞こえ、いきなり大雨が降ってきたため、ぼく達は孤児園に向かって走り出したのだ。

 孤児園に着くのに五分もかからなかったのに、ぼく達はもうびちょびちょだった。雷の時の雨ってすごいな。


「シャワー浴びて着替えておいで。そのままじゃ風邪引いちゃうからね」


 先生からタオルを受け取ったぼくは、スター達よりも先にシャワーを浴び、リビングに行った。リビングには外に行っていない六人がいる。ぼくはそんな六人を見渡し、気になる人物に近づいた。


「ルミちゃん、ロイ君、何作ってるの?」

「雷の音が聞こえない耳栓!」


 ルミちゃんが作っている物から目を離さずにそう言った。雷の音が聞こえない耳栓……? 何でそんな物を? まあ、ロイ君は機械を作るのが得意だから作れなくはないと思うけど。

 そこまで考え、はっと思い出す。ルミちゃんが雷苦手だって事を。ルミちゃんは兎の獣人だから雷の音が大きく聞こえるんだ。ロイ君は大丈夫みたいだけど。

 と、その時、窓の外が一瞬だけ光り、三秒後、轟音が聞こえてきた。


「わあ……!?」


 驚いたルミちゃんは持っていたピンセットを床に落としてしまった。だけど、ルミちゃんはそれを拾わずに、耳を押さえて目を瞑っていた。だ、大丈夫かな?

 それにしても、今の雷は近かったな。

 窓に近寄り、空を見上げる。灰色の空からは大粒の雨が降り注ぎ、時々光っていた。どこかでまた雷が落ちたんだろう。その証拠に、さっきよりも小さなゴロゴロという音が耳に入る。


「雷見えるかっ?」


 ぼくの隣にラギ君がやってきた。ぼくに質問しながら外を見るラギ君の目は、何かを期待するようにキラキラしている。……もしかして。


「ラギ君、雷が好きだったりする?」

「ああ! 一瞬だけ見える稲妻いなずまって、なんかかっこいいだろっ」


 ……えぇ!? かっこいいかな? まあ、確かに見えたら「あ、見えた!」ってなるけど、当たったら死んじゃうんだよ? 怖くないの?

 それを聞くと、ラギ君は「おれには雷は落ちないんだ」と、言い出した。なんでそんな自信満々なの、落ちるかもしれないじゃん!


「あっ!」


 ラギ君が空に視線を向けたまま声を上げた。思わず空を見たとき、轟音が空気を振るわせた。ち、近いっ! なんが、バリバリバリっていう音もしたし!

 ルミちゃんは大丈夫かな? っと視線を移動させると、ルミちゃんはロイ君にしがみついたまま一生懸命耳栓を作っていた。そこに、カイ君がドタドタと走ってくる。シャワーを浴びたばかりのためか、青い髪の毛が濡れていた。


「お、おいっ。今のすげー近かったよな!? ここには落ちてこねーよな!?」

「は? 落ちてくるわけないだろ」


 カイ君の後ろから、ルークが呆れ顔でリビングに入ってくる。続いて、スターもタオルをに肩にかけながら歩いてきた。


「カイ君~、雷怖いのぉ?」

「こ、怖くねーよ!」


 カイ君が雷が怖いって事はもうずっと前からわかっていることなのに、スターはにやにやしながら質問している。意地悪だなぁ。カイ君も、青ざめた顔でそんなこと言ってもあまり意味ないと思うよ……。

 怖くないと意地を張っているカイ君を苛めるかのように、また雷が鳴った。カイ君はびくりと肩を揺らし、机の下に潜ってしまう。

 クスッと、珍しくルークが笑いを零した。


「笑うなっ。雷が落ちたら死んじゃうし、へそ取られるんだぞ!」

「まず家の中に落ちてこないし、臍も取られないぞ」

「えっ、臍取られるって先生言ってたぞ」

「……それ、嘘だぞ」

「そうなのか!?」


 ルークの言葉に驚きを隠せない様子でいるカイ君。えっと、うん。それは先生が子供達を雷の日に外に出さないために作った嘘の話だと思うよ。ぼくも幼い頃は信じてたけど、さすがにもう信じてないよ。


「で、でも、当たったら死ぬんだぞ!」

「だから、家の中だったら当たらないって」


 ルークがだめだこいつ、って顔をしながら声を発する。それでも机の下に縮こまったまま出てこないカイ君に、ラギ君が声をかけた。


「外に行かなければ大丈夫だ。だから、一緒に雷見に行こうぜ!」

「嫌だー!」


 二階を指さすラギ君に、カイ君はぶんぶんと首を振る。うーん、カイ君が雷を克服するのはもっと先のことになりそうだね。ほら、ルミちゃんももう平気な顔をして……あ、耳栓してる……。できたんだね、雷の音が聞こえない耳栓。

 そんなことをしていると、いきなりぼくの前におもちゃのマイクを持ったスターが現れた。


「えー、これから、雷の時のみんなの過ごし方を実況したいと思いまーす!」


 え? 突然どうしたの? 実況?

 困惑するぼくに、スターがマイクを向けてくる。


「はい、ではソラさん。何をしているんですか?」

「え、なにもしてないけど……?」

「あ、そうなんだ……」


 いや、そんな残念そうな顔されても……。実際何もやってないし。強いて言うならルークとカイ君とラギ君のやりとりを観察してた、だけど?

 そう言う前に、スターはカイ君の方に行ってしまった。


「カイさん。今何をしてるんですか?」

「カ、カイさん!? ……え、あ、机の下に潜ってる」

「なんでですかぁ?」

「な、なんでもいいだろ! 潜りたくなったからだ!」

「カイ、それただの頭のおかしい奴だぞ」

「なっ!? つ、机の下に潜りたくなった奴はみんな頭がおかしいのかよ!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎ出すカイ君。スターはそれ以上カイ君に質問せず、


「ハートちゃんはスルーして」


 と言いながらルミちゃんのところへ。え、なんでハートちゃんスルーするの?

 ハートちゃんもその声を聞いたらしく、読んでいた本から目線をあげて反論した。


「ちょっと、何でスルー!? わたしにも聞いてよっ」

「だって聞く前から何してるかわかるじゃん」

「それはそうだけどっ」


 腑に落ちない様子でいるハートちゃん。だけど、スターは華麗に……なのかはわからないけど、スルーしてルミちゃんにマイクを向けた。


「ルミちゃんは何してるの?」


 あ、もう敬語なくなっちゃったよ。まあいいけど。

 ルミちゃんは手元から目を離すと、自分の耳を指さした。


「この耳栓をもう一個作ってるの。なくしたり、壊れたときの予備!」

「そんなに雷苦手なんだ」


 スターはそう呟くと、今度はピンクちゃんのところへ。……ぼく今思ったんだけど、なんでルミちゃんスターの声聞こえてるの? 雷が聞こえない耳栓なんだから、ぼくたちの声も聞こえないよね。

 スターに着いて行くついでにロイ君に聞いてみた。ロイ君が言うには、今作った耳栓は雷が出す音だけを防止する特殊な機械らしい。ルミちゃんとロイ君って天才なの? どこでそんな知識を得たの?

 聞いてもわかんないだろうなと思い、スターの隣に並んだ。


「ピンクちゃんは何してんの?」

「え? 雷見てるの」

「なんでっ!?」


 あ、思わず突っ込むように聞いてしまった。ぼくの問いに、ピンクちゃんは微笑みながら答えた。


「空が光る感じが面白いから」


 と。……ラギ君と気が合うんじゃない?

 スターは「へー、そうなんだ……」と、逃げるようにピンクちゃんから離れた。そして、いつの間にか二階に行っていたラギ君の元に行こうとする。あれ? 一人忘れている気が……あっ!


「スター、シン君には聞かないの?」

「え? シン? うん、聞かない」


 なんとなく、その理由を聞いちゃいけないような気がして、ぼくは黙ったままスターに着いて行った。ちらりと振り返ってシン君を見やると、シン君はソファに寄りかかったまま窓の外を見つめていた。また赤い瞳で見られるのが怖くて、ぼくはそそくさと二階に上がる。

 ラギ君は、自分の部屋の窓から空を仰視していた。この部屋は昨日まで空き部屋となっていたけど、今はラギ君とシン君の部屋になっている。


「ラギ君何してんの~?」

「雷見てるんだ。ソラ達も見に来たのかっ? ここはよく見えるぞ!」


 興奮気味のラギ君。ぼくとスターは苦笑いを見せたけど、ラギ君は気にしてないみたいで、すぐに窓の外に視線を戻してしまった。その視線の先がぴかっと光る。


「おっ!」


 ラギ君が窓から身を乗り出して声を上げた。って、危ないよ! ここ二階! 落ちたら怪我するし頭濡れるよ!

 慌ててそのことを言うと、ラギ君は窓を閉めて照れ笑いを浮かべた。


「ごめん。気をつけるよ」


 反省してくれたようで、ラギ君はベットに座りながら外を眺め始めた。雷が見えると思わず立ち上がるけど、窓から身を乗り出したりはしなくなった。よかった~。

 ラギ君を部屋に残し、ぼく達はリビングに戻ることにした。その途中、園長室から出てきた園長先生に出会う。


「お、園長先生! 園長先生は何してるの?」

「ん? なんだろうね~」

「何してんのぉ?」

「なんだろうねぇ」

「何してたの?」

「なんだろうね」


 ……何この会話。

 こんなよくわからない会話をしながらリビングに行く二人の後ろを歩く。そして、リビングに入った途端、窓の外が青白く光り、今までで一番大きな轟音が耳をつんざいた。次いで、バチッと音を立てて電気が切れる。同時に、カイ君が悲鳴を上げる。


「ぎゃああああっ!!」


 耳と尻尾をぴんと立て、猫のように毛を逆立てて、思わず飛び跳ねて机の裏に頭を打ったカイ君……の事は置いといて、今の近くない!? さっきよりも!

 暗闇の中でキョロキョロしてると、ぼくの隣にいた園長先生が呟いた。


「……屋上に落ちたか」


 その後、大雨の中外に飛び出していく……え? 屋上っ? ここの屋上に落ちたの!?

 そう叫びそうになり、ぐっとこらえる。だって、それを言ったらカイ君が気絶しちゃいそうなんだもん。

 あ、それよりも懐中電灯探さないと。このままじゃ危ないよね。

 壁に手をつけて歩き、雷の光を頼りにしながら懐中電灯を探す。えっと、確かここら辺に……あったあった。……あ、そうだ。

 ぼくは懐中電灯を片手に持ち、腹ばいになってカイ君に近づいていった。「お前、女みたいだな」って言ったルークに反論しているカイ君。そんなカイ君の目の前に行き、「カーイ君っ」と声をかけてから懐中電灯でぼくの顔を下から照らした。


「何……うぎゃああああ!!」


 目を見開いて真っ青になったカイ君はさっきとは別の悲鳴を上げた。……そんなに驚くとは思わなかったな。っていうか、カイ君っていちいちリアクションが大きい気がする。意識してないみたいだけど。

 ガクガク震えているカイ君に懐中電灯をあて、笑いかける。多分、困り笑いみたいになってるだろうな。


「ご、ごめんねカイ君。そんな驚くとは思わなくて……」

「な、な、何すんだよソラっ!」

「痛っ」


 叩かれてしまった。カイ君は二回連続で驚いたためか、息切れしている。その顔はまだ青ざめており、耳と尻尾はへにゃりと力が抜けてしまっていた。まあ、雷が鳴るたびにぴんと立つんだけど。


「……ダサイな」


 ルークがカイ君に向かってそう言い放つ。だけど、カイ君はもう言い返さなかった。言い返す気力がなくなっちゃったんだ。悪いことしたかな……? ちょっとやってみたかっただけなんだ。驚くのって、カイ君かハートちゃんかピンクちゃんぐらいしかいないんだもん。スターとルークは当然驚かないし、ルミちゃんとロイ君は驚かせにくいし、ラギ君は二階にいて、シン君はなんか怖いから。

 ぼくが机の下から出ると、電気が復活した。ほっと胸をなで下ろす。直後、びちょびちょになった園長先生が帰ってきた。眼鏡を外し、濡れた銀髪をかき上げている。おお、なんかかっこいい。

 先生は玄関の鍵を閉めると、ふぅ、と一息つき、お風呂場に向かっていった。雨の中、電気がつながるように、もしくは雷で壊れた物を修復していたんだろうな。……先生、ぼくが幼い頃から何でもやっていたっけ。すごいなぁ……何か、手伝える事はないかな?

 考えた結果、ぼくができることには限りがあるとわかった。それでも何かしたいと考え、昨日買ってきたぼくのヨーグルトをあげることに決める。


『お疲れ様です。いつもありがとう』


 お風呂前の洗濯機の上に、そう書いた置き手紙と一緒にヨーグルトを置いた。先生、喜んでくれるといいな。


 次の日の朝、ぼくの机に、園長先生の字で『ありがとう』と書いてある手紙が置いてあったのだった。

 この前花火見に行きました。お祭りもあったし、夏って話にできる事が多いですね。第六話からは七月に入ったので、これからも結構夏ネタでほのぼのしそうです。ネタに困らなくて助かります。

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