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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第三章 消滅する世界
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第二十四話 消滅

 二階から悲鳴のような叫び声が聞こえてくると、案の定リビングにいた子供達は怪訝そうな顔になって天井を見上げた。

 時計を見ると、ソラちゃんとスター君が二階に上がって行ってから十分が経過している。今頃、ソラちゃんが自分の思いを伝えている頃だろう。それは、千里眼を使わなくてもわかった。何故叫んでいるのかはわからないが……。

 だが、ソラちゃんは覚悟を決めたようだ。早ければ明日にでも、元の世界に帰ることを伝えに来るだろう。そうすれば、この世界は消えてなくなる。後は、ソラちゃんが現実と向き合って生きていくだけだ。

 私の役割ももうすぐ終わりか。

 そう考えると、少しだけ寂しいと思えた。気づかないうちに私も、この世界の神と孤児園の園長をする事を楽しんでいたようだ。理性が人間の姿になって心を持つなど、そうそうあるものではないからね。

 このように様々な事を体験し、たくさんの感情を入手出来たのはソラちゃんのおかげだ。その点は感謝しなくてはね。だが、ソラちゃんの未来を考えるとなると話は別だ。私は彼女の理性として、してはならないと思う事は止めに入り、彼女が道を外さないように努めなければならない。それで彼女を苦しめてしまっても、辛い思いをさせてしまっても。生きやすい道を示してやらなければならないのだ。

 でもまあ、最後ぐらいは楽しませてあげたい。

 ……私もまだまだ甘いな。

 苦笑し、買い出しの準備を済ます。


「エミちゃん、ちょっと出かけてくるから、みんなをよろしく」

「あっ、はい!」

「あと、二階には今は行かないように」


 それだけ伝え、孤児園を後にする。

 あの子供達は賢い。私の言葉と二階から聞こえてくる声だけで、二人の会話に水を差してはいけない事はわかるだろう。

 さて、今日の夕飯は何にしようか。

 雪を踏みしめ、冬にしては温かい日差しを受けながら考える。

 もし、ソラちゃんが明日帰るとしたら、この世界で食べる夕飯は今日で最後になるだろう。なら……ふっ。今日は豪華な夕飯になりそうだ。ソラちゃんだけでなく、みんなの好きな物を並べよう。お別れパーティのように。ただ、お別れパーティだとは言わないでおく。私だけが、そう感じて、みんなの笑顔を眺めていよう。

 顔を上げると、スーパーが目に入る。

 おっと、もう着いてしまったか。どうやら子供達について考え込んでしまったらしい。もうすっかり子供達の親気分だな……。私の格好も、エプロンに買い物袋だからね。母親のようだよ。その辺のお母さん達と話が合うんじゃないかな。

 なんて自分に呆れながら冗談みたいな事を考えて辺りを見渡した私は、ふと違和感を覚えた。

 ……人が、いない?

 いつもならこのスーパーには主婦の方が出入りし、駐車場にも車や自転車が止まっている。雪が積もっているとはいえ、車が一台もないなんて事はない。

 休み……ではなさそうだ。スーパーには明かりがついているし……。少し様子を見に行くか。

 と、左足を前に出す。瞬間、もう一つ、私の物ではない足音――否、雪を踏み込む音が聞こえ……。


「っ……!」


 咄嗟に身を引く。視界に入るのは、水色の髪の毛。

 な……君は……!

 突然の出来事に、頭の回転と身体の動きが鈍る。シュッという風の音と共に迫ってくる、彼女。

 隙が出来てしまった、そう感じる前に……。


 ドスッ。


 鈍い音がし、私の身体に衝撃が走る。

 視線を落とすと、目に入るのは胸に深々と刺さるナイフ。

 刺された。そう理解した途端、胸の辺りが焼けるような熱を持つ。激痛が、刺された部分から全身に広がる。

 久々の痛みに思わず膝をつくと、ぬるっとした液体が肌を伝い、服と雪の上に赤い染みを作った。


「ふ……く……」


 痺れるような痛みを少しでも和らげようと、乱れそうになる息を落ち着かせ、なるべく肺を動かさないように空気を吸う。

 そうして混乱しかけた頭を冷静にさせると、さっきまで見えていなかったものが認識された。

 誰かが――ではない、彼女がまだナイフを握っている。

 柄を握る手から腕、肩と視線をあげ、平然を立っている彼女を見上げる。

 彼女は、冷たい目をしていた。そして、口元を歪ませていた。満足げに。心底楽しそうに。

 その笑みが深まり、私の頭が警報をならす。だが、こんな状態の私に何かできるはずもなく……。


「ふふっ」

「ッ……!」


 小さな笑い声と共に、私の胸と腹が――



――引き裂かれた。



「がっ……ぁ……!」


 刺さった状態のままのナイフを振り下ろすようにして身体を引き裂いた後、一気に引き抜く彼女。

 赤い血が、宙を舞う。白い地面に、斑点を作る。

 鋭い痛みに身体をのけぞらせた私は、そのまま雪の上に倒れ伏した。


「っ……く、う……」


 口から言葉にならない声が漏れる。焦点が合わなくなってきた視界に入るのは、じんわりと広がっていく赤い染み。

 急激に体温が奪われていくのがわかった。それが、この雪のせいではない事も。

 早くしないと死ぬぞ。このままでは彼女の思うつぼだ。魔法を使わなければ。今なら回復魔法も間に合うはず。彼女に何されようと、この状況から脱しなければならない。

 頭が警告する。だが、それとは裏腹に、私の身体からは力が抜けていく。魔法を使う余裕も、この状況から抜け出すことを考える余裕も、ない。

 ふと、雪を踏みしめる音が聞こえてきた。彼女よりも、重い足音。その足が、目の前に現れる。見た事がある靴に、自然と顔が上を向く。

 いきなり顔の前に立った者を見上げた私は、驚いて目を見張った。口から、乾いた声が漏れる。


「ユ、テイル……」

「悪いなエン。お前は、少し休んだ方がいい」

「なに、を……」


 しゃがんだ古い友は、私の身体に腕を回す。腕に力が入ったかと思うと、私の身体が地面から離れた。そのまま勢いよく肩に乗せられる。


「ぐぅっ……!」


 再び激痛が襲い、息を吐く。揺れる身体。血が、地面にしたたり落ちる。

 その時、ジンジンとした痛みが少しずつ薄れていくのを感じた。

 まずい。そう感じると同時に、周りの音が聞こえなくなっていく。

 ユテイルが、彼女と何かを話していた。重要な話だとわかった。少なくとも、今の私には。聞かなければ。孤児園の子供達が危ない。そう思っているのに……。

 痛みと共に薄れゆく意識に逆らう事が出来ず、私の視界は闇に閉ざされてしまった。


 ✳︎  ✳︎  ✳︎


「遅ーい!えんちょーせんせーまだあ〜?」

「おれ腹減ったあ。なあルーク、夜ご飯作ってくれよ」

「は?オレが作れるわけないだろ」

「いやそれ自慢することじゃねえだろ」


 夜の八時過ぎ。

 さすがに空腹に耐えられなくなったのか年下組が騒ぎ始めた。

 もう外は真っ暗。いつもだったら夕ご飯なんかとっくに食べ終えてお風呂に入ってる時間帯なのに、一向に園長先生が帰ってくる様子はない。

 先生、普段何考えてるかわからないけどちゃんと家には帰ってくるのにな……。


「何かあったのかな……」


 ぽつりと呟かれたその声は、一層ぼくの不安を掻き立てる。周りを見渡しても、みんな時計を見上げたり窓に視線を送ったりと落ち着かない。


「えー、あの園長先生だよ〜?何かあるわけないじゃーん」


 スターが明るめの声を出す。

 確かに、あの園長先生だ。何かあっても一人で解決出来ちゃう、すごい先生だ。でも、だからこそ、どうしてこんな時間まで帰ってこないのかと、その理由を考えてしまう。そして、思い浮かんでしまうのはあまりよいとは言えない想像ばかりで……。

 今すぐいつもの笑顔を浮かべて「ただいま〜」って返ってきてほしかった。カイ君やピクちゃんに文句を言われ、ピンクちゃんに説教をされながらも飄々としているあの顔が見たかった。なのに……。

 扉はいつまで経っても開かない。連絡もない。部屋が沈黙に包まれる。

 最初にこの空気を破ったのはピンクちゃんだった。


「はぁ……仕方ないから、先に夕ご飯食べちゃいましょう」

「え、でも材料あるの?」

「冷蔵庫に少しならあると思う。普段よりは少なくなっちゃうけど、それでもいい?」

「それでもいい!早く作ってくれ!」


 カイ君、そんなにお腹空いてたんだね……。

 かく言うぼくも、もう空腹を感じなくなるほどお腹減っちゃってるけど。


「おれも手伝うよ」

「アタシも!」


 お兄ちゃんとエミちゃんもキッチンに向かう。ぼくも、机でも拭いていようかと立ち上がった。その時だった。


 ガシャーン!


 部屋に響いたのは、皿の割れる音。同時にドシンという、何かが落ちた音も聞こえてきた。


「ピンクちゃん大丈夫!?」

「え、お姉ちゃん何かあったの!?」


 え、何、ピンクちゃん倒れたの!?

 ピクちゃんに続いてキッチンを覗いたぼくは声を失った。そこにいたのは……。


「え、ピンクちゃん……?な、なんで大人になって……?」


 いつもの彼女ではなく、大人姿のピンクちゃんだった。

 座り込んでるけど、身長が高くなってることはすぐにわかるし、何より顔つきが大人だ。それに、その……胸とか?身体のライン?スタイルっていうのかな?そういうのも大人のあれだ。てか、今まで子供の服を着ていて急に大人になったから、服が伸びたり破れたりしていてすごいことになっている。ぼくは女だし平気だけど、こんなのお兄ちゃんとかスターが見たら……。


「な……あ……わああああ!?」


 慌ててお兄ちゃんが顔を逸らす、どころじゃなかった。顔を真っ赤にして走り去ってしまう。

 ああ、やっぱり……というか取り乱しすぎ。

 あと、スターは思った通りにやにやしている。


「わーお、ピンクちゃんって意外と胸おっきかったんだね」


 バシッ!

 あ、お兄ちゃんがスター殴った。


「痛っ!ちょっと何すんのさラギ君!」

「え!?なんだ!?おれなんかしたか!?」


 ちょ、お兄ちゃん混乱しすぎ!


「ラギ!?どしたの!?」

「おいラギ!そっちは壁だぞ!?」


 ガンッ!

 あー……。お兄ちゃん、壁に頭ぶつけたまま動かなくなっちゃったよ。

 ぼく的には、ピンクちゃんは大人だから、中学生以外のぼくたちが裸を見たところで特に問題ないと思うんだけど。

 あ、でもお兄ちゃんの方がだめなのか。

 ぼくの想像の世界とはいえ、大学生のお兄ちゃんが女の子の裸見たらそうなっちゃうのかな……?


「ところで、ピンクちゃんは大丈夫なの?急に……ええっと、大人の身体に戻ったってことだよね?」

「うん、そうみたいだけど……特に身体には異常なさそうだよ。それより……ピク、服持ってきてくれないかな?」

「服?」

「うん。あたしの部屋のクローゼットの中に大人用の服があったでしょ?」

「あっ!あれお姉ちゃんのだったんだ!うん、持ってくるね!」


 すぐさまタタタッと二階に上がっていき、衣服を持ってくるピクちゃん。受け取ったピンクちゃんは破れた服を脱ぎ、新しい服に着替える。ちなみに、男子達は一応キッチンの外に追い出しておいた。


「でも、何で急に戻ったんだろうね?」


 破れた服を拾いながら、何気なく疑問を口にする。と、少し間をおいて、ピンクちゃんの掠れたような声が聞こえてきた。


「園長先生に何かあったのかも」

「……!」


 それは、予想というより確信したような言い方だった。思わずピンクちゃんを見ると、その真剣な眼差しと目が合う。

 ピンクちゃんは一番先生との付き合いが長い。そのせいか、彼女が見せた表情、言葉はより一層僕の不安を掻き立てる。

 聞きたくない。どういう事なのか。今の言葉が何を意味しているのか。聞きたくない。これ以上、何か起こって欲しくない。ぼくは平和なまま、いつもの日常を過ごしてから、お別れをするつもりなのに。明日には、現実に帰ろうと思ってたのに。

 それでも、聞かないわけにはいかなかった。だって、このままだと何もわからないままだもん。何も行動できないもん。もしも先生に何かあったのなら、助けにいかなきゃ。子供のぼく達に、何が出来るかはわからないけど。

 立ち上がり、キッチンから出たピンクちゃんに、ぼくは一呼吸置いてから問いかけた。


「ピンクちゃん。さっきの言葉、どういう事? どうしてそう思ったの?」

「……私が小さくなった原因。それが、園長先生なの。今まで、そんな気はしてたけど確証はなかった。だけど今、わかった」


 彼女は握られている手を前に出し、広げる。


「私は、園長先生に魔法をかけられていたんだって」


 そこには、綺麗な色をしたミサンガが乗せられていた。

季葉です。

非常に更新が遅れました!申し訳ないです!

でも、この先もいつ更新できるかわかりません、すみません!

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