第二十三話 気持ち
二週間、更新できなくてすいません!
これから先、更新遅れるかもです……。
向こうの世界の夢を見た。内容は覚えていないけど……見てた気がする。
だからかな。目覚めは悪かったけど、今日、みんなに言わなきゃと思った。ここがぼくが作り出した世界だという事。ぼくは向こうの世界……本当の世界に帰らなくちゃいけないという事。だけど……。
ぼくはやっぱり弱虫だ。リビングでみんなを目の前にすると、言葉が詰まってしまう。自然な流れで話し出したいのに、そのやり方がわからない。いや、そんな軽く出来る話ではないんだけど……。
だから、これはぼくのわがままだ。素直に認めるよ。ぼくは弱くて、自分勝手な人間だって。こんな時なのに、勇気が出せない。
こんなぼくに付き合ってくれるスターには、本当に感謝してもしきれない。彼がいてくれて、ほんとうによかった。
「ありがとう、スター」
「え、ソラどうしたの? お礼言うために呼び出したの?」
あはは、そりゃ驚くよね。
なんでもない、と首を振ると、スターは怪訝そうな顔でぼくを見る。
珍しく、スターは呼び出した時から真面目な顔をしていた。いつもなら、ぼくをからかってくるのに。ぼくがこれから話す事がわかっているからかもしれない。なんとなく、そう感じた。
そんなスターだからこそ、ぼくは最初に話したいと思ったんだ。……みんなとは、違う気持ちを抱いたんだ。
二人だけの自室で、ぼくはベッドに座ったまま口を開く。
「スター、もう気づいているかもしれないけど、ぼく、現実の世界に帰るよ」
「……うん」
やっぱり、気づいてた。
でも、すべてを知っているわけではないようで……。
「その前に教えて。この世界の事と、ソラの今の気持ち」
「……わかった。えっと、今スターはぼくの事、どこまで知ってる?」
「ソラと……モエカちゃんが違う世界から来た事と、ソラの過去かな」
そっか。この世界の構成は何にも知らないんだね。まあ、当たり前だよね。この世界や自分がぼくに作られたなんて、想像も出来ないだろうから。
でも、どこから話そうか。
先生から言われた事を頭に巡らせ、悩んでいると、スターが手を前に出す。
「あぁ、やっぱり世界の事はいいや。ソラの心読んだらわかっちゃった」
「えぇ!?」
はやっ! 今の全部読んだの?
「ソラの心は読みやすいからね~」
それは褒められてるの? それとも貶されているの?
どっちにしろ、スターに笑顔が戻った。それが、少しだけ嬉しい。
「じゃあ、ぼくの気持ちだけ話せばいい?」
「うん」
気持ち、かあ……。今の、ぼくの気持ち……。
「スターの事が、好き」
気づけばぼくはそう口にしていた。
案の定、スターはきょとんとした顔で。
「は……?」
何を言われたかわかってない様子だった。
それから、慌てたような声を上げる。
「いやっ、そーゆうのじゃなくて! 現実に対する気持ちだよ!」
「え、そうなの?」
「そうだよ! ソラが現実の世界に戻る事にしたのはなんで?」
「なんでって……」
それは、戻らなきゃいけないからで……現実から目を背けちゃ駄目だと思ったから……。
「何でそう思ったの?」
「先生に、言われたから……」
「自分の意志じゃないってこと?」
「自分の意志だよ!」
ぼくが決めた事だよ! ぼくはずっと現実から逃げてた。だから、それじゃ駄目だと思ったんだ! 逃げたって、何にも解決しない。親にも迷惑かけてるし、何より自分のためにならない。こうやってみんなを傷つけ、辛く悲しい思いをさせてしまった。それがわかったから、ぼくはもっと強くなりたいんだ! 逃げずに、困難に立ち向かって、自分を成長させたいんだ! 他の人を、守れるくらいに!
「なんでそう思えるの?」
「え……」
なんでって……?
スターが、ぼくを睨むように見つめてくる。
「逃げちゃ駄目なの? 逃げた方が楽だったんでしょ? こっちの世界の方が楽しいし、幸せだと思ったんでしょ? それなのに、なんで辛い道を選べるの?」
「それ、は……」
なんで……?
自分の胸に問いかける。
逃げちゃ駄目? 駄目でしょ。なんで駄目? だって……そう決まってるから。そう、判断したから。こんな世界に閉じこもるなんて、普通じゃない。
「普通じゃないと駄目なの? 辛い思いをするのに?」
「そうだよ……辛い思いするけど、周りに迷惑かけちゃう……」
「周りに迷惑かけちゃ駄目なのはどうして? ソラには関係なくない?」
「関係あるよ……だって、迷惑をかけたら、嫌われちゃう……いらないって思われちゃう」
「別に思われてもいいじゃん。この世界にいれば、いらないって思われてようと関係ない。こっちの世界のボク達が必要とするよ」
「それじゃ駄目でしょ!? だって親だよ!? 親に必要とされなくなったら、ぼく……」
「そしたらこっちで同じ親を作ればいいよ」
「駄目だよ! それは偽物でしょ!?」
「なんで偽物は作っちゃ駄目なの?」
「それは当たり前のことだからだよ!」
「なんで当たり前なの?」
「それは……!」
なん、で……?
答えられない。咄嗟に出た言葉だったから。当たり前だと思ったから。じゃあ、当たり前って何? ぼくは、何を基準に当たり前って言ってる? 誰かから教えられたわけでもないのに。
でも、それでも……だって、駄目じゃん……。逃げるために偽物を作り上げるなんて……そんなの、常識的に考えたら駄目でしょ……。人として、やっちゃいけない事で……。
「常識的って何? どこからどこまでが常識なの? それに、こんなことしててもソラは人間まま。それなのに、何でそう……」
「わかんないよっ!!」
溜まった者を吐き出すように、ぼくは声を上げた。いや、上げていた。
ベッドを叩いて立ち上がり、スターを見下ろす。
「そんなの、ぼくが聞きたいぐらいだよ!」
思いを、まくしたてる。
「ぼくだって、本音を言ったらここから出ていきたくないよ! ここ楽だし、楽しいし、幸せだし、傷つかないし、悩む事もないもん! 辛いところになんか、いきたくない! 行くのは怖いよ! でも! ぼくは真実ってモノを聞いちゃったんだよ!? 逃げてるだけって、こんな都合のいい世界なんて存在しないって、そう言われたんだよ!? 何で逃げちゃ行けないの!? こっちが聞きたいぐらいだよ! 辛い事を我慢して、苦しいまま生きていくんだったら、ぼくは人間じゃなくなってもいい!」
拳に力が入る。頭が痛くなる。それでも、一回出た思いは収まらない。
「でも! でもでもっ! 先生から話を聞いた時、ぼくは思っちゃったんだ! 向こうにも楽しい事、嬉しい事があるって……それに、お兄ちゃんがぼくの目を覚まさせてくれた。お母さんとお父さんが、ぼくの事を待ってくれている。その期待に応えたい! 家族に、会いたい! 今、家族に必要とされてるって、希望を持ったんだ! 生きたいと、少しでも思えたんだ!」
お兄ちゃんを、お母さんを、お父さんを。ぼくを支えてくれた人を思い出す。そのためか、それとも感情が爆発したためか、涙が溢れ出してくる。
「現実から逃げちゃ駄目。人を傷つけたくない。もっと強くなりたい。誰かを守れるようになりたい。全部、綺麗事なのかもしれない。それでも、そう思ったのは事実なんだ! それが、当たり前、常識だと判断したんだ! 理由なんていらない! ぼくがそう思った、それが答えだよ! 逃げたいと思ったのに、矛盾してるけど……悩んで、迷って、この答えを出したんだ!」
顔を上げるとスターの見開かれた目。そこに映り込む、涙を流した自分自身。そのぼくが、口を開く。
だから、ぼくは……!
「現実の世界に戻るっ!」
スターがどんな表情をしてたのかはわからない。ぼくが、どんな顔で叫んでたのかもわからない。見たいとも思わなかったし、見る気力もなかった。
ただ、心の中に溜まっていたもやもやした思いをすべて吐き出した。そしたら妙にすっきりして、疲れが襲ってきて、ぼくはベッドに倒れ込む。
降りる、沈黙。
流れる涙が目の横を伝い、髪とスーツを濡らす。
ややあって、スターが声を発した。
「それが、ソラの気持ちなんだね」
「……うん。そうみたい」
返事をして、起き上がる。
そこには、穏やかな顔のスターが座っていて。
彼は、優しい笑みを浮かべた。
「ごめんね、変な事聞いて」
「ううん、いいよ。ぼくも、声をに出したらすっきりしたし、自分と向き合えた気がする」
微笑みを返すと、スターは一つ頷いて立ち上がった。そのまま、扉の方に歩き出す。
「それじゃ、ぼくはもう行くね~」
「え?」
「だって、もう伝えたい事は伝えたでしょ?」
「……ううん。まだ終わってないよ」
「……? ボクはもう帰る事も聞いたし、気持ちも聞いたし……」
「まだ! 感謝を伝えてないでしょ……それに、スターの答えも、聞いてない」
「え……」
目を見張り、こっちを視線を送るスターに、ぼくも向き直る。
まだ涙は止まっていない。さっきの興奮も収まっていない。酷い顔をしてるだろう。だけど、ぼくは今、伝えたい。君に……スターに、この感情を。
「スター、今までありがとう。みんながいる時に伝えようと思ったけど、これは、スターだけに伝えたい言葉だから……」
スターはこういう雰囲気があんまり好きじゃない。だから、ちょっと居心地悪そうにしていたけど、彷徨った視線はすぐにぼくの方に向いてくれた。
すぅっと、冷たいけれど心地いい空気を吸う。
「ずっと、一緒にいてくれてありがとう。生まれてきてくれて、ぼくと出会ってくれてありがとう。支えてくれて、慰めてくれて、笑ってくれて、本当にありがとう。嬉しかったし、楽しかった」
ぼくが作り出したとか、そう言う設定とか、そう言う事は考えずに、素直に受け取って欲しい。どんな裏事情があろうが、ぼくは君に感謝しているんだ。この気持ちは、嘘じゃない。
それからもう一つ……。
「もう一回言うね。ぼくは、スターが好きです」
現実の世界に戻るから、これからも一緒にいて欲しいとかは言えない。けれど、この感情は伝えたかったんだ。そして、君の答えを聞きたい。出来る事なら、ぼくがこの世界を去るまで、彼氏になって欲しい。
スターは少し間をおいた後、ぼくから目を逸らした。俯き、振り絞るような声を出す。
「少し、考えさせて……」
「……わかった」
出て行くスターの表情は見る事が出来なかった。照れてるのか、困っているのか、わからなかった。だけど、その声はなんだか苦しそうで。
すっきりしたと思った胸に、不安が押し寄せる。
この世界は、どうやらもうぼくに安らぎを与えてくれないらしい。
どうしてこうなってしまったんだろう。水無月さんが来た事が原因なのか、お兄ちゃんが入ってきてから狂ったのか。それとも、ぼくがこの世界を作り出した時からこうなる運命だったのか。何もわからない。今のこの状況がいいものなのか悪いものなのかもわからなくて。
ただ今は、何も考えずに現実に戻る事を最優先にした方がいいなと思った。この世界で、何も起こらないうちに。
窓の外には青空が広がっていた。空気が澄んでいるためか、隣の家の屋根に乗っかっている雪が、キラキラと輝いているように見える。
ふと視線を落とすと、孤児園を出て行く園長先生の姿が目に入った。方向からして、夕ご飯の買い出しにでも行くのだろう。
そろそろ先生に元の世界に戻してもらわないとね。明日は、みんなに帰る事を話そう。
そう決め、ぼくは最後の日はみんなで過ごそうと、リビングに足を向けた。
先生の後ろに、水色の何かが見えた気がした。




