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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第三章 消滅する世界
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第二十三話 気持ち

二週間、更新できなくてすいません!

これから先、更新遅れるかもです……。

 向こうの世界の夢を見た。内容は覚えていないけど……見てた気がする。

 だからかな。目覚めは悪かったけど、今日、みんなに言わなきゃと思った。ここがぼくが作り出した世界だという事。ぼくは向こうの世界……本当の世界に帰らなくちゃいけないという事。だけど……。

 ぼくはやっぱり弱虫だ。リビングでみんなを目の前にすると、言葉が詰まってしまう。自然な流れで話し出したいのに、そのやり方がわからない。いや、そんな軽く出来る話ではないんだけど……。

 だから、これはぼくのわがままだ。素直に認めるよ。ぼくは弱くて、自分勝手な人間だって。こんな時なのに、勇気が出せない。

 こんなぼくに付き合ってくれるスターには、本当に感謝してもしきれない。彼がいてくれて、ほんとうによかった。


「ありがとう、スター」

「え、ソラどうしたの? お礼言うために呼び出したの?」


 あはは、そりゃ驚くよね。

 なんでもない、と首を振ると、スターは怪訝そうな顔でぼくを見る。

 珍しく、スターは呼び出した時から真面目な顔をしていた。いつもなら、ぼくをからかってくるのに。ぼくがこれから話す事がわかっているからかもしれない。なんとなく、そう感じた。

 そんなスターだからこそ、ぼくは最初に話したいと思ったんだ。……みんなとは、違う気持ちを抱いたんだ。

 二人だけの自室で、ぼくはベッドに座ったまま口を開く。


「スター、もう気づいているかもしれないけど、ぼく、現実の世界に帰るよ」

「……うん」


 やっぱり、気づいてた。

 でも、すべてを知っているわけではないようで……。


「その前に教えて。この世界の事と、ソラの今の気持ち」

「……わかった。えっと、今スターはぼくの事、どこまで知ってる?」

「ソラと……モエカちゃんが違う世界から来た事と、ソラの過去かな」


 そっか。この世界の構成は何にも知らないんだね。まあ、当たり前だよね。この世界や自分がぼくに作られたなんて、想像も出来ないだろうから。

 でも、どこから話そうか。

 先生から言われた事を頭に巡らせ、悩んでいると、スターが手を前に出す。


「あぁ、やっぱり世界の事はいいや。ソラの心読んだらわかっちゃった」

「えぇ!?」


 はやっ! 今の全部読んだの?


「ソラの心は読みやすいからね~」


 それは褒められてるの? それとも貶されているの?

 どっちにしろ、スターに笑顔が戻った。それが、少しだけ嬉しい。


「じゃあ、ぼくの気持ちだけ話せばいい?」

「うん」


 気持ち、かあ……。今の、ぼくの気持ち……。


「スターの事が、好き」


 気づけばぼくはそう口にしていた。

 案の定、スターはきょとんとした顔で。


「は……?」


 何を言われたかわかってない様子だった。

 それから、慌てたような声を上げる。


「いやっ、そーゆうのじゃなくて! 現実に対する気持ちだよ!」

「え、そうなの?」

「そうだよ! ソラが現実の世界に戻る事にしたのはなんで?」

「なんでって……」


 それは、戻らなきゃいけないからで……現実から目を背けちゃ駄目だと思ったから……。


「何でそう思ったの?」

「先生に、言われたから……」

「自分の意志じゃないってこと?」

「自分の意志だよ!」


 ぼくが決めた事だよ! ぼくはずっと現実から逃げてた。だから、それじゃ駄目だと思ったんだ! 逃げたって、何にも解決しない。親にも迷惑かけてるし、何より自分のためにならない。こうやってみんなを傷つけ、辛く悲しい思いをさせてしまった。それがわかったから、ぼくはもっと強くなりたいんだ! 逃げずに、困難に立ち向かって、自分を成長させたいんだ! 他の人を、守れるくらいに!


「なんでそう思えるの?」

「え……」


 なんでって……?

 スターが、ぼくを睨むように見つめてくる。


「逃げちゃ駄目なの? 逃げた方が楽だったんでしょ? こっちの世界の方が楽しいし、幸せだと思ったんでしょ? それなのに、なんで辛い道を選べるの?」

「それ、は……」


 なんで……?

 自分の胸に問いかける。

 逃げちゃ駄目? 駄目でしょ。なんで駄目? だって……そう決まってるから。そう、判断したから。こんな世界に閉じこもるなんて、普通じゃない。


「普通じゃないと駄目なの? 辛い思いをするのに?」

「そうだよ……辛い思いするけど、周りに迷惑かけちゃう……」

「周りに迷惑かけちゃ駄目なのはどうして? ソラには関係なくない?」

「関係あるよ……だって、迷惑をかけたら、嫌われちゃう……いらないって思われちゃう」

「別に思われてもいいじゃん。この世界にいれば、いらないって思われてようと関係ない。こっちの世界のボク達が必要とするよ」

「それじゃ駄目でしょ!? だって親だよ!? 親に必要とされなくなったら、ぼく……」

「そしたらこっちで同じ親を作ればいいよ」

「駄目だよ! それは偽物でしょ!?」

「なんで偽物は作っちゃ駄目なの?」

「それは当たり前のことだからだよ!」

「なんで当たり前なの?」

「それは……!」


 なん、で……?

 答えられない。咄嗟に出た言葉だったから。当たり前だと思ったから。じゃあ、当たり前って何? ぼくは、何を基準に当たり前って言ってる? 誰かから教えられたわけでもないのに。

 でも、それでも……だって、駄目じゃん……。逃げるために偽物を作り上げるなんて……そんなの、常識的に考えたら駄目でしょ……。人として、やっちゃいけない事で……。


「常識的って何? どこからどこまでが常識なの? それに、こんなことしててもソラは人間まま。それなのに、何でそう……」

「わかんないよっ!!」


 溜まった者を吐き出すように、ぼくは声を上げた。いや、上げていた。

 ベッドを叩いて立ち上がり、スターを見下ろす。


「そんなの、ぼくが聞きたいぐらいだよ!」


 思いを、まくしたてる。


「ぼくだって、本音を言ったらここから出ていきたくないよ! ここ楽だし、楽しいし、幸せだし、傷つかないし、悩む事もないもん! 辛いところになんか、いきたくない! 行くのは怖いよ! でも! ぼくは真実ってモノを聞いちゃったんだよ!? 逃げてるだけって、こんな都合のいい世界なんて存在しないって、そう言われたんだよ!? 何で逃げちゃ行けないの!? こっちが聞きたいぐらいだよ! 辛い事を我慢して、苦しいまま生きていくんだったら、ぼくは人間じゃなくなってもいい!」


 拳に力が入る。頭が痛くなる。それでも、一回出た思いは収まらない。


「でも! でもでもっ! 先生から話を聞いた時、ぼくは思っちゃったんだ! 向こうにも楽しい事、嬉しい事があるって……それに、お兄ちゃんがぼくの目を覚まさせてくれた。お母さんとお父さんが、ぼくの事を待ってくれている。その期待に応えたい! 家族に、会いたい! 今、家族に必要とされてるって、希望を持ったんだ! 生きたいと、少しでも思えたんだ!」


 お兄ちゃんを、お母さんを、お父さんを。ぼくを支えてくれた人を思い出す。そのためか、それとも感情が爆発したためか、涙が溢れ出してくる。


「現実から逃げちゃ駄目。人を傷つけたくない。もっと強くなりたい。誰かを守れるようになりたい。全部、綺麗事なのかもしれない。それでも、そう思ったのは事実なんだ! それが、当たり前、常識だと判断したんだ! 理由なんていらない! ぼくがそう思った、それが答えだよ! 逃げたいと思ったのに、矛盾してるけど……悩んで、迷って、この答えを出したんだ!」


 顔を上げるとスターの見開かれた目。そこに映り込む、涙を流した自分自身。そのぼくが、口を開く。


 だから、ぼくは……!


「現実の世界に戻るっ!」


 スターがどんな表情をしてたのかはわからない。ぼくが、どんな顔で叫んでたのかもわからない。見たいとも思わなかったし、見る気力もなかった。

 ただ、心の中に溜まっていたもやもやした思いをすべて吐き出した。そしたら妙にすっきりして、疲れが襲ってきて、ぼくはベッドに倒れ込む。

 降りる、沈黙。

 流れる涙が目の横を伝い、髪とスーツを濡らす。

 ややあって、スターが声を発した。


「それが、ソラの気持ちなんだね」

「……うん。そうみたい」


 返事をして、起き上がる。

 そこには、穏やかな顔のスターが座っていて。

 彼は、優しい笑みを浮かべた。


「ごめんね、変な事聞いて」

「ううん、いいよ。ぼくも、声をに出したらすっきりしたし、自分と向き合えた気がする」


 微笑みを返すと、スターは一つ頷いて立ち上がった。そのまま、扉の方に歩き出す。


「それじゃ、ぼくはもう行くね~」

「え?」

「だって、もう伝えたい事は伝えたでしょ?」

「……ううん。まだ終わってないよ」

「……? ボクはもう帰る事も聞いたし、気持ちも聞いたし……」

「まだ! 感謝を伝えてないでしょ……それに、スターの答えも、聞いてない」

「え……」


 目を見張り、こっちを視線を送るスターに、ぼくも向き直る。

 まだ涙は止まっていない。さっきの興奮も収まっていない。酷い顔をしてるだろう。だけど、ぼくは今、伝えたい。君に……スターに、この感情を。


「スター、今までありがとう。みんながいる時に伝えようと思ったけど、これは、スターだけに伝えたい言葉だから……」


 スターはこういう雰囲気があんまり好きじゃない。だから、ちょっと居心地悪そうにしていたけど、彷徨った視線はすぐにぼくの方に向いてくれた。

 すぅっと、冷たいけれど心地いい空気を吸う。


「ずっと、一緒にいてくれてありがとう。生まれてきてくれて、ぼくと出会ってくれてありがとう。支えてくれて、慰めてくれて、笑ってくれて、本当にありがとう。嬉しかったし、楽しかった」


 ぼくが作り出したとか、そう言う設定とか、そう言う事は考えずに、素直に受け取って欲しい。どんな裏事情があろうが、ぼくは君に感謝しているんだ。この気持ちは、嘘じゃない。

 それからもう一つ……。


「もう一回言うね。ぼくは、スターが好きです」


 現実の世界に戻るから、これからも一緒にいて欲しいとかは言えない。けれど、この感情は伝えたかったんだ。そして、君の答えを聞きたい。出来る事なら、ぼくがこの世界を去るまで、彼氏になって欲しい。

 スターは少し間をおいた後、ぼくから目を逸らした。俯き、振り絞るような声を出す。


「少し、考えさせて……」

「……わかった」


 出て行くスターの表情は見る事が出来なかった。照れてるのか、困っているのか、わからなかった。だけど、その声はなんだか苦しそうで。

 すっきりしたと思った胸に、不安が押し寄せる。

 この世界は、どうやらもうぼくに安らぎを与えてくれないらしい。

 どうしてこうなってしまったんだろう。水無月さんが来た事が原因なのか、お兄ちゃんが入ってきてから狂ったのか。それとも、ぼくがこの世界を作り出した時からこうなる運命だったのか。何もわからない。今のこの状況がいいものなのか悪いものなのかもわからなくて。

 ただ今は、何も考えずに現実に戻る事を最優先にした方がいいなと思った。この世界で、何も起こらないうちに。

 窓の外には青空が広がっていた。空気が澄んでいるためか、隣の家の屋根に乗っかっている雪が、キラキラと輝いているように見える。

 ふと視線を落とすと、孤児園を出て行く園長先生の姿が目に入った。方向からして、夕ご飯の買い出しにでも行くのだろう。

 そろそろ先生に元の世界に戻してもらわないとね。明日は、みんなに帰る事を話そう。

 そう決め、ぼくは最後の日はみんなで過ごそうと、リビングに足を向けた。


 先生の後ろに、水色の何かが見えた気がした。

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