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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第二章 日常の消滅
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第二十一話 初詣

 外に出ると、あまりの寒さにぼくはぶるっと身体を震わせた。マフラーに顔をうずめる。

 うわ、空気が冷たい。風が吹いたらほっぺたや耳に痛くなりそうだよ。

 園長先生が鍵を閉めると、ぼく達は神社に向かって歩き始めた。周りにも神社に向かっていたり、もうお参りしてきたのか帰ってくる人がいたりする。

 ぼくは先生の後ろをピンクちゃんと一緒に歩きながら白い息を吐き、空を仰いだ。木々の隙間から見える夜空に浮かんでいる星がキラキラと輝いている。今日は空気も澄んでいるし、天気もいいからはっきりと星の輝きを見る事が出来た。

 あ、オリオン座だ。あれもぼくが作ったんだね。うわあ、ここまで日本と同じだと逆に感心するよ。ぼく、どこまで日本と似せてんだか……。


「ソラちゃん、上向いてるとぶつかるよ?」

「あぁ、ごめんごめん。星が綺麗だったからつい」


 えへへ、と笑みを浮かべる。

 二十分くらい歩き続け、お兄ちゃんが通っている中学校を抜けた時、鳥居が見えてきた。毎年、あそこでお参りしているんだ。おみくじやお守りが売ってるし、正月やお祭りがあると毎回屋台が出ているんだよね。

 軽く礼をしてから鳥居をくぐると、思った通り拝殿までの道のりに屋台が出ていた。チョコバナナや林檎飴、綿飴にポテトにフランクフルト……たくさんの食べ物が売っている。

 ぼく達は様々な食べ物の匂いが漂う中、人混みを分けてまずは手水舎てみずやという所まで来た。ここで手を洗うんだよね。

 清めるにも作法があるみたいで、最初は先生がお手本を見せてくれる。その通りにやらないと怒られるから、ぼく達はその通りに行った。

 えっと、右手で柄杓ひしゃくを持って、左手を清める。その後左手に持ち替えて右手を。次に右手に持ち替えて、左手に水を受けて口に入れてすすぐ。すすいだら左手を清めて、それから柄杓を立てて柄の部分に水を伝わらせるように清めて、元の位置に戻す。これが身を清める時の作法らしい。

 初めてやるお兄ちゃん、ミニちゃん、エミちゃんも戸惑いながら作法通りに行った。

 身を清めた後は拝殿に行き、参拝をする。これも作法通りに行う。

 まずは一揖いちゆう、軽く礼をする。鈴を鳴らして、お賽銭を入れる。二礼して、二拍手。ここで祈念。

 ……この世界のみんなに、ぼくの事を話してお礼を言って、別れを告げる事が出来ますように。

 うん、これが今年のぼくの目標。今年こそ、頑張る!

 ぼくはそう意気込んでから、手を下げて一礼した。

 あ、みんなまだお祈りしてる。

 先生が幼い頃から厳しく教えていたせいか、スターもルークもカイ君も、真面目に参拝していた。その横で、先生は優しく見守っている。

 そういえば、先生が神社での作法に厳しいのは本人が神様だからなのかな? って考えると、ぼく達は今まで先生に向かってお願いしてたって事になるよね……。あ! じゃあ今のぼくのお願いも先生に願っている事になる。で、先生は神様だから絶対願い事聞こえてる……心の中読めるし。ってことは、ぼく達が何願っているかわかってるって事じゃん! え、すっごい恥ずかしい……。今年はそんなおかしなことは願ってないけど、小さい頃は変な事願ってた気がする!

 思わず先生を凝視すると、先生はぼくと目線を合わせ、口元に人差し指をあてた。

 内緒だよ、って! ほんとにそうなんだね!? 嘘って言って欲しかった!


「ん? ソラちゃんどうしたの?」

「いや……なんでもない」


 ぼくはなんとかピンクちゃんに笑いかけ、お守りを買いに行くみんなに着いて行った。ピンクちゃんにこの事言ったら……って考えると寒気がしてくる。絶対彼女怒るよ……。

 去年買ったお守りをお焚き上げに出し、新しいお守りを買う。学業成就や交通安全のお守りなど。

 買い終わってからは、ぼくが楽しみにしていたおみくじを引く。百円を払って、おみくじが入っている箱に手を突っ込んだ。

 ぼくは一番最初に指に触れた紙を取る事にしてるんだ。よっ、と。

 取った紙を大事に持ち、人混みから抜けたところで広げる。


「ソラなんだった?」

「あ、スター。ぼくはね……」


 書いてある文字に目を走らせると、そこには赤い文字で『大吉』と書かれていた。


「大吉だ! やったぁ! えっと、なになに……これからの願いが叶う、だって!」

「えー、ボク末吉だよ~」


 わー、スター、残念。

 でもやったねぼく。願いが叶うって。初めての大吉。嬉しい!

 だけど、願いが叶うって事はこの世界とお別れできるって事で、ちょっとした寂しさも襲ってくる。まあ、仕方ないか。

 おみくじをポケットにしまっていると、最後におみくじを引いてきたルークとカイ君が戻ってきた。


「ソラ、スター。何が出た?」

「ボクは末吉。ソラは大吉だって~」

「ちょっとスター。そんな不満げに言わなくても……」

「オレは大吉だ」

「え!? ルーク大吉なのかよ! じゃあおれは……」


 わくわくしながらおみくじを広げたカイ君は、わかりやすいくらい落ち込んだ様子を見せた。

 ちらっと、カイ君の手元を覗いてみる。あ、小吉だ。あ、スターが口尖らせた。


「え~、ボクカイ君に負けたのぉ~」

「え? スターなんだったんだ?」

「末吉」

「へっへーん。今年はおれが上だったな!」

「それでも小吉だけどな」

「うるせーな!」


 スターとカイ君が枝におみくじをくくりつけた後、ぼく達は拝殿の横で集まった。そこで、先生が指示を出す。


「じゃあ、ここから一時間は自由行動にする。屋台で何か買って食べてもいいし、ここには池と公園、広場があるからそこで遊んでもよし。正し、今は夜中だからあんまり人気がないところには行かないように」

「はーい!」

「じゃあ、お年玉もらった人から好きなところに言っていいよ」


 一人ずつ、先生からお年玉を受け取ると、みんな行きたい場所へ散らばった。

 ぼくは歩いてお腹減ってきたから、屋台を回る事にした。

 屋台が並んでいる通りに集まっている人をかき分けながら進む。

 んー、最初は何食べよう。今は甘い物よりもしょっぱいものを食べたいなぁ。

 見て回っていると、ポテトを売っている店が目に入った。ちょうど、並んでいる人はいない。

 よし、最初はポテトにしよう。


「すいませーん。ポテト、塩味下さい」

「はいよ」


 三百円払ってポテトを受け取ると、食べながら場所を移動した。

 どっか、この辺に落ち着いて食べられるところなかったっけ。公園に行くには一回戻らないと行けないし。またこの人混みを分けていくのはちょっとなぁ……。

 通りの端っこ、人混みから抜けたところで悩んでいると、向かい側の屋台に寄っていくお兄ちゃんの姿が見えた。フランクフルトを買っている。

 買い終わってこっちを向いたお兄ちゃんに手を振ると、気づいてくれたらしく、上手く人混みを避けてぼくの所に来てくれた。


「すごいなぁ、人。毎年こんな感じなのか?」

「うん、こんな感じ。お兄ちゃん、どこでそれ食べる?」

「あぁ、どうしようか。座れる場所とかあるのか?」

「あるにはあるんだけど……一回拝殿の方に行かないと行けないんだよね……」


 お兄ちゃんはぼくの言葉に迷ったようなそぶりを見せた後、すぐに視線を戻した。


「ソラ。他に買いたいものあるか?」

「え? えっと、焼きトウモロコシ買いたいかな」

「じゃ、それ買ったら拝殿に行くぞ」

「え、でもこの人集りだよ?」

「ああ。うまく避けていくから、ソラはおれを盾にして着いてこいよ」


 離れないように、とぼくの腕を掴み、人混みに入っていくお兄ちゃん。うぅ……実の兄をかっこいいと思ってしまった。いやまあかっこいいんだけどね? かっこいいんだけどさ、この世界ではぼく達は他人という事になっていて、この状況だと恋人同士に見えちゃうんじゃ……。

 と心配したけど……この人集りの中じゃ誰もぼく達の事なんか見ていないか。

 ぼくは顔をお兄ちゃんの背中に向けて、少しでもお兄ちゃんの足手まといにならないようにぴったりと着いて行った。

 焼きトウモロコシが売っている屋台を見つけると、二つ買ってから、また拝殿に向かって歩き出す。

 やっとのことで拝殿まで行くと、今度はぼくが先頭に立って公園に向かって歩き出した。その途中、ぼくが人にぶつかりそうになるとお兄ちゃんが腕を引いてくれた。

 うわうわうわうわ……なんか恥ずかしい……。


「そういえば、小さいころもこうやって神社歩いた事あったよな」

「え?」


 お兄ちゃんの言葉に、過去、神社に行った事を思い出す。

 あぁ、そうだ。まだこの世界に来る前のぼくが小学三年生くらいだった時、ぼくが迷子にならないようにお兄ちゃんが手を引いてくれた事があったっけ。確かに、あの時と状況が似ている。


「またこうやってソラと歩けるとは思ってなかったよ。なんかあれ以来、お前おれと歩くの嫌がったしな」

「嫌がったわけじゃないよ。友達と一緒に行くようになっただけ。お兄ちゃんも、ぼくといるより友達といた方が楽しいでしょ?」

「そうか? おれはちょっと寂しかったな」

「えー、なんかお父さんみたい」


 あの頃のぼくは、まだお兄ちゃんと手を繋いでるなんて恥ずかしいとか思っちゃって……大人になろうとしてたんだよね。でもたまに、お兄ちゃんと歩きたいなぁとか思っちゃったりもして。

 お兄ちゃんは違うんだ。寂しいって、思ってくれたんだ。あ、だからぼくを現実世界に戻しに来てくれたのかな?

 気になったけど、なんだか聞くのは恥ずかしくて。でもこの空間は大事にしていたくて。ぼくはお兄ちゃんに腕を掴まれたまま公園へと足を進めた。

 だけど……なんと公園のベンチはすべて埋まっていた。


「うわ……ここまで来たのに」

「先生が広場もあるって言ってたよな? そっちはどうだ?」

「行ってみよっか」


 行ってみたところ、広場のベンチには少し空きがあり、ぼく達はそこに座って買ったものを食べる事にした。

 ポテトを二、三個お兄ちゃんにあげ、フランクフルトを一口もらう。食べ終わったら、二人で買った焼きトウモロコシを食べる。

 そんなやりとりをしていると、前方からエミちゃんが走って来た。


「やっほー! 二人は何買ってきたの?」

「ぼくはポテト。おに……ラギ君はフランクフルト。後、焼きトウモロコシを一つずつ買ったよ。エミちゃんは?」

「アタシは綿飴! 向こうで遊んでいるピクちゃんは林檎飴買ってたよ。もう食べちゃったけどね! 今はピクちゃんとミニちゃんと鬼ごっこ中」

「ミニちゃんも来てたの?」

「うん! あ、やばっ! 気づかれた!」


 逃げている最中なのか、エミちゃんは走っていってしまった。

 トウモロコシを食べながら、三人の鬼ごっこを眺める。

 そうしながら、ぼくはお兄ちゃんの方を見ずに声を発した。


「お兄ちゃん、ぼく、今年中にみんなに話すよ。本当の事。そして、ちゃんとお母さんの所に帰るから」

「……ああ」


 一時間後、集合したぼく達は孤児園に帰りだした。

 食べたり飲んだりしながら歩いている列の一番後ろを歩きながら、ぼくはみんなを眺める。

 年が過ぎて、今年も同じような日常が始まる。だけど、ぼくはこの日常に甘えているわけにはいかないんだ。

 水無月さんは、今もこの世界のどこかにいる。里親が見つかったとか行って孤児園から出て行ったらしいけど、絶対に何か企んでる。ぼくをいじめにやってくる。それに、みんなを巻き込むわけにはいかない。お兄ちゃんもいるんだもん。水無月さんが何かしてくる前に、帰る!


「ソラ~? 迷子になるよ~?」


 いつの間にか足が止まっていたのか、ハッと我に返ると道の先でスターが手を振っていた。ぼくも手を振り返し、走り出す。


「待ってよ~!」


 ぼくを支えてくれたこの世界に感謝してから――。

第二章『日常の消滅』終

第三章『消滅する世界』へ続く

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