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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第二章 日常の消滅
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第二十話 大晦日

前回の話、編集をして最後の方に少し会話を追加しました。

 園長先生からこの世界の真実を聞いてから、二日後。大晦日がやってきた。朝から毎年恒例の孤児園内の大掃除が始まっている。

 ぼくは自分の机の中を整理しながら、天井を仰いでため息をついた。

 一昨日、ぼくはみんなに事情を話して別れを告げたい。お礼を言いたいと思った。だけど……まだ実行できてないんだよね……。ラギ君がお兄ちゃんって事もまだ言ってなくて、未だにみんなの前ではラギ君って呼んでるし……。

 きっかけって出来ないもんだね。

 そんなぼくを待ちながらも、みんなに変だと思われないように先生は去年と同じように年越しの準備をしていた。

 ぼくもみんなに気づかれないように普通にしていたつもりだ。スターやルークにも気づかれないように秘密にしようと意識した。って、ぼくなんで秘密にしようとしてんだろう……。事情を話したいって思ってるのに。ま、スターには薄々気づかれているとは思うけど。


「ソラ~。来て来て~」


 そんな声がぼくの思考を遮断した。

 ぼくは引き出しをしまいながら、振り返って声の主を見た。


「スター? どうしたの?」

「今リビングの掃除してたんだけどさ、アルバムが見つかったよ~」

「アルバム?」


 掃除してる時にたまたま見つけて、掃除を中断して魅入っちゃうやつだね。

 そうわかっていながらも、ぼくはスターを追ってリビングに向かってしまった。

 だって気になったんだもん。今は先生いないし、いいよね?

 階段を下り、リビングに行く。机や椅子が隅に運ばれ、なんだかいつもより広く見えた。その真ん中にみんなが集まって、おそらくアルバムだと思われる物を覗き込んでいた。

 ぼくとスターもその輪に加わり、アルバムに目をやった。


「え!? こんな小さい頃の写真もあるの!?」


 ぼくが思わず声を上げると、ピクちゃんがバッと振り返った。その目はキラキラと輝いている。


「あ! この女の子、ソラたんなの!?」

「う、うん、まあ……」

「可愛い!」


 そう言ってもらえるのはありがたいけど、なんだか恥ずかしいな……。

 みんなが見てる写真はぼくが孤児園に入ったばかりの頃の物だった。えっと、ぼくが入ったのは三歳の時だから八年前か……。

 この時はまだ、物心がついたばかり。つまり、この世界が日本とは違うところだと気づいたばかりだから、周りの事を何にも知らなかったっけ。自分の姿や先生の髪色や目の色に驚いて、色んな物を見てこの世界の事を知ろうとした。そして、前世の事を思い出して、生まれ変わったんだと感じて。嬉しさと同時にお母さんやお父さん、お兄ちゃんと別れた寂しさもあって、複雑な気持ちになったのを今でも覚えてる。結局、生まれ変わったわけじゃなかったんだけどね。


「見て見て! ソラたん、せんせーにだっこされて泣いてる!」

「ほんとだ。先生、全然ソラに懐かれてないね~」


 まあね。この世界に来たばっかだから苛められていた記憶が鮮明にあって、人間が怖かったんだよね~。いつもニコニコしてる先生が怖かったってのもあったけど。


「これ、ソラちゃんが何歳の頃の写真?」

「三歳だよ。ぼく、三歳の頃にここに入ってきたんだ」

「じゃあ、あたしが預けられた後にソラちゃんが入ってきたんだね」


 あ、そうだった。ピンクちゃんは元々この孤児園にいたんだよね。

 ピクちゃんがページをめくると、次にぼくとスター、ルークがおやつを食べている写真が出てきた。ぼくとスターは美味しそうに口元を汚しながら食べているけど、ルークは光のない目でお菓子を口に運んでいた。ああ、そっか。この頃のルークは、まだカイ君と会ってないからお母さんを失ったことを引きずってたんだっけ。


「うっわー。ルークひでー顔してんなー」

「……なんだって? カイ?」

「うわ! ごめんて! 悪かったからその拳引っ込めろ!」

「でもみんなかわいーね! あ! 次のページにはカー君がいるよ!」


 あ、ほんとだ。あー、やっぱり来たばかりの頃のだから目つきが悪い。物壊してるし。あ、ぼくの事殴ってる写真もある。いや~、あの時は酷かったな~。ぼくの精神が高校一年生じゃなかったら許せてなかったよ? この行為。


「うわ~、カイ君髪の毛ぼさぼさだし、椅子蹴っ飛ばしてるよ。不良だね~」

「こんときは仕方なかったんだ! スター! わかってて言ってるだろ!?」

「あたりまえじゃ~ん」

「はっ、カイの方が酷い顔だな」

「ルークに言われたくねー!」

「な、ん、だ、って?」

「だからその低い声やめろ! こえーよ! うわ! 頭ぐりぐりするなぁ!」

「あれ? でもここからルーク君もカイ君も笑い合ってるよ?」


 エミちゃんがアルバムの右下の写真を指さした。そこには、玩具で遊ぶカイ君を小突いているルークが映っていた。カイ君は歯を見せて笑っていて、ルークはそんなカイ君に目をやり微笑んでいた。

 二人が仲良くなった後の写真だね。こっから二人の漫才みたいなやりとりが生まれたんだよねぇ。いいコンビだと思う!

 今も、ルークはカイ君の言葉を無視して髪の毛をぐしゃぐしゃにしてるけど、二人ともすごく楽しそうだもんね。


「あ、ロイ君とルミルミの写真もある!」

「二人とも、このころから仲良しだったんだね!」


 エミちゃんの言った通り、写真に写っている二人はおやつを交換し合ったり、一緒に何かを工作していたりしてた。二人が作った玩具で遊ぶぼく達の写真もある。

 その後はピンクちゃんとハートちゃんの写真が出てきた。今から二年前だね。二人はぼく達よりも大人っぽかったっけ。ま、ピンクちゃんは元々大人だったんだけど。

 これで人数は七人。先生も入れたら八人。八人で食卓を運んだり、旅行に行っている写真があった。

 そして、次のページには記憶に新しい写真が挟んであった。シン君とお兄ちゃんが入ってきた時の写真。ハートちゃんを送った時の物。海言った時や花火を見に行った時、旅行に行った際の写真も撮ってある。川で遊んで、星を見て、肝試しとかもして……今年の夏は楽しかったなぁ。やっぱ、人数が多いと何をするのも楽しいよね。

 それから、エミちゃんが来た時の物。遊園地、スポーツ大会、温泉旅行、ぼくの誕生日。本当にたくさんの写真がアルバムに挟んであった。

 でも、やっぱりシン君の事件が起きてる時の物はないね。あれは思い出したくもないような悲しい事件だったからね……。

 すべての写真を見終わり、ぼく達が思い出に浸っていると、不意にお兄ちゃんが疑問を口にした。


「なあ、これ、おれ達全員映ってるし、園長先生も映ってたよな?」

「え? うん。映ってたよ」

「見ればわかるじゃん。ラギ君見てなかったの~?」

「いや、見てたから思ったんだけど……これ、誰が撮ったんだ?」

「あ……」


 突如、部屋が沈黙に包まれた。部屋の中央に集まったぼく達全員は、お互いの顔を見合わせる。

 数十秒後、ピンクちゃんがアルバムをぱたんと閉じた。そして、それをしまってあったと思われる場所に戻し、一言。


「考えるのはやめよう」


 ぼく達は無言で頷いた。

 スター達が恐怖を口にしながら掃除に戻っていく中、ぼくはあの写真を撮った人が誰なのか、なんとなくわかっていた。多分、お兄ちゃんも予想してると思う。

 一昨日、あんな話を聞いたら、ねえ?

 でも、言わないでおく。先生が神だという事はみんなに秘密にすると約束したし、おそらくみんなもこんな事が出来るのは先生しかいないと気づいているんじゃないかな。

 だから、先生が帰ってきた時、みんなびくっと肩を揺らしたんだと思う。いやー、ぼくも先生が神だって知らなかったら恐怖を感じているよ。先生って何者? ってね。

 三時間ぐらいかけて孤児園内を隅々まで掃除してから昼食を食べ終えると、ぼく達は夕飯を抜いて夜十一時まで昼寝をする。これも、毎年している事なんだ。大晦日の夜中、年越しそばを食べた後、すぐに近くの神社に行くんだ。だから、その時眠くならないように昼寝をする。

 ぼくは手を洗ってから自分の部屋に行くと、取り込んだばかりのふかふかの布団に潜り、眠りについた。


 夜の十一時過ぎ、先生に起こされてぼくはリビングに向かった。机には鍋が用意されていて、みんなが自分の席に座りそばが出来るのを待っていた。

 大きな鍋に野菜とそばを煮込む。夕食を抜いたから、ぼくのお腹はぎゅるぎゅると食べ物を求めていた。


「はい、出来上がったよ。お皿出して」

「はーい! ボクいっちばーん!」


 スターがさっとお皿を先生の手に置いた。


「あっ! ずりー! じゃあ次は……」

「オレで」


 カイ君の言葉を遮って、今度はルークが先生に皿を差し出す。カイ君は「あっ」と声を上げた。


「おれが今もらおうとしてたんだぞ!」

「ほら。早く皿出せないともらえないぞ」

「次ピクー!」

「あー! おれがっ」

「まあまあ、まだたくさんあるからそんなに急がなくてもなくならないよ。おかわりも自由だからね」

「あ! じゃあおれおかわりするー!」


 そんなふうにわいわい騒ぎながら食べ始める一同。

 ぼくも先生によそってもらうと、野菜を一口食べた。うんっ! 甘い! そばも……おいしい! 汁と合ってるね!

 と、最初はしゃべりながら食べていたけど、途中からはあまりのおいしさにみんな黙々と食べ始めた。初めて食べたお兄ちゃん、ピクちゃん、エミちゃんは食べるのも早いしもうおかわりをしている。

 そうして食べていると、気づけば年が明けようとしていた。

 最初に気づいたのはカイ君だった。


「あ! 来年になる! カウントダウンしようぜ!」

「はあ? お前子供か?」

「どうせ子供だよ! な、いいだろ?」

「じゃあほら、十秒前から一緒に数えてやるから、今からカウントダウン始めろよ」

「えぇ!? 今から!?」

「ほらカイ君始めなよ~。今は五分前だから、三百~、二百九十九~」


 うわー、めんどくさそう。

 お腹が満たされてきたから、食べる手を休めながら三人を観察する。


「えーっと、二百五十六……二百五十五……」

「うわー、五分前からカウントダウン始めるとか、どんだけ楽しみにしてんの。ひくわ~」

「いやお前が始めろって言ったんだろ!?」

「あれぇ? カイ君今何秒前だっけ?」

「あ! お前のせいで忘れちまったじゃねーか!」

「カイ……スターの言葉真に受けすぎだろ。普通に十秒前から始めればいいじゃないか」

「ラギ君、もっと空気読んでよ~。せっかく楽しんでるのに~」

「楽しんで……!? スター、おれで遊ぶなよ!」

「えー、いーじゃ~ん。いつもの事だし~。最近遊べてなかったし~」


 あはは、スターもカイ君も、最後までいつものままだね。今年は色んな事があったから、なんだかこのいつもの日常が少し嬉しい。

 と、そこで、お皿によそられた分を食べきったピクちゃんが、時計を見て声を上げた。


「あ、五秒前! ……さん、にい、いち、ハッピーニューイヤー!」

「あけましておめでとうっ!」


 続いてエミちゃんがそう言うと、興奮して椅子の上に立っていたカイ君が再び大きな声を出した。


「あー! それおれが言おうとしてたのに!」

「あーあ、ピクちゃんにとられちゃったね~」

「お前のせいだかんな!」

「カイ、行儀が悪い。座れ」

「むー!」


 あーあ、ほっぺ膨らませちゃったよ。

 カイ君が椅子に座ると、先生が鍋を持って立ち上がった。


「みんな食べ終わったかい? じゃあ、すぐに初詣行くから支度して」

「はーい! やったぁ、初詣!」

「ちょっとピク。張り切りすぎ」

「ピクちゃん、アタシとどっちが早く支度出来るか競争しよっか?」

「よーし! エミりんには負けないからね!」

「二人とも!」


 制止するピンクちゃんの声が聞こえていないのか、ピクちゃんとエミちゃんの二人は二階に駆け上がってしまった。はあ、とため息をつくピクちゃん。あはは、大変そう。でも、普段はこんな夜中まで起きている事はないから、テンション上がってるんだろうなぁ。


「ピンクちゃん、楽しそうだし、今日くらいはほっといていいんじゃない?」

「ソラちゃん……そうだね。あたし達も準備しようか」

「うん」


 言い合いながら、ダダダダッと駆けていくカイ君とスターを無視して、ぼく達も準備しに部屋に向かった。


 さあ、この世界で最後かもしれない初詣に行こう!

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