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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第二章 日常の消滅
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第十九話 決心

2月21日、編集して最後の方に会話を少し追加しました。

 え、何でラギ君が? ここには誰も入れないんじゃなかったっけ?

 ぼくが驚いていると、ラギ君はこの真っ暗な空間に入ってきて、ぼくが驚いているというのに何の事情も聞かずに、驚く事もなく先生に話しかけた。


「先生、もう話は終わったんですか?」

「一通りはね。これから、ラギ君も交えて今後の事を話し合うところだよ」

「そうですか。ソラ、辛い話しだっただろうけど、大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫だけど……何で知ってるの?」

「あれ? 先生、ソラにおれの事話してないんですか?」

「うん。まだ話してないよ」


 ラギ君の事? え、何、ちょっと二人で話してないでぼくに教えてー!

 ぼくが頭の上に疑問符を浮かべていると、ラギ君がぼくを見て頭を掻いた。


「うーん、なんと言ったら信じてもらえるのか……」


 そんなに信じられない話なのかな? でもぼく、さっきから信じられない話をたくさん聞いてるから、多分大丈夫だと思うよ?

 ぼくは困った顔をしているラギ君に笑いかけた。


「いいよ。単刀直入に言っちゃって」

「え、そうか。なら……」


 と、言いかけたものの、やっぱりどういえばわからないのか、ラギ君は再び迷うそぶりを見せた。園長先生は何も口を挟まず、ただラギ君を見つめている。

 ややあって、ラギ君は意を決したように口を開いた。え、そんなに言いづらい事なの?


「おれも、モエカ――いや、水無月と同じく日本からやってきた。本名は如月きさらぎ勇輝ゆうき。蒼空、お前の兄だ」

「……え、ええええぇぇ!? お、お兄ちゃん!?」


 え、え、ほんとに!? ほんとに、勇輝お兄ちゃん!? え、なんでここに!? てか、全然気づかなかった!

 ぼくが驚きすぎて口をぱくぱくさせていると、ラギ君……じゃなかった、お兄ちゃんはぼくの様子を見やって苦笑した。


「あー、やっぱり唐突すぎたよな。じゃあ、順を追って説明するよ」


 お、お願いします……。

 お兄ちゃんが先生の隣に座ると、また説明タイムが始まった。


「おれは、蒼空が自殺しようとした日から一週間後に、大学を休んで蒼空のこの空想の世界に入ってきたんだ。蒼空に目を覚ましてもらうために」

「ぼくに、目を覚ましてもらうため……」

「ああ。この世界では、おれはそのままのユウキという名前で、裕福な家で育てられていた。だけど、そこに蒼空の姿はなかった。だから、家を飛び出して蒼空を探し出す事にしたんだ」


 その先は、前に聞いた通りだった。お母さんを事故に遭わせてしまい、シン君と出会った。そこで、シン君の言う事を聞かなければならなくなった。その際、名前を変えろって言われたらしい。そこでつけた名前がラギだったんだとか。

 そういえばその時、妹を探しているって言ってたっけ。その妹って、ぼくの事だったんだ。


「まさか、ここに蒼空がいるとは思ってなかったよ。しばらくは、おれもお前が妹って気づかなかった」

「ぼくの名前がソラのままだったのに気づかなかったの?」

「ああ。髪型や髪の色、声が違うし、性格もあの時より明るくなっていたからな。同じ名前の、別人かと思ってた。ソラは、おれがユウキという名前だったら気づいたか?」

「あ……気づかない、かも」


 確かに、ぼくもお兄ちゃんも、外見が全然違うからね。現実よりも年齢が下だから、声も幼くなってるし……。それに、性格が明るくなってる、かぁ。それは多分、先生やスターのおかげだね。

 ……そっか。今まで普通に話してきたラギ君は、お兄ちゃんだったんだ。うわあ、不思議な感じ。大人っぽいなぁとか、みんなのお兄さんみたいって思った事があったけど、本当にお兄ちゃんだったとは……。


「おれがソラに気づいたのは、温泉に入った後、二人で話した時だよ。ソラ、兄の名前が勇輝って言っただろ?」


 そうだった! あそこで、お兄ちゃんはは妹の話を、ぼくはお兄ちゃんの話をしたんだ。ぼくが妹だとわかったから、お兄ちゃんはあの場面で泣いたんだ……。ぼく、お兄ちゃんに大事に思われていたんだなぁ。

 そう、嬉しい気持ちが込み上げてくると同時に、なんだか恥ずかしくなってきた。だって、ぼく達、お互いに目の前にいる人の事を話してたんだよ? 知らなかったとはいえ、思い出すと……うわ、お兄ちゃんの顔見れない……。

 ちらっとお兄ちゃんの様子を窺ってみると、お兄ちゃんも旅館での事を思い出しているのか、照れたように目を伏せて顔を逸らしていた。

 そんなぼく達の姿を微笑ましそうに見ている先生……なんか言って!

 しばらくしてから、ぼくは話を変えてみた。


「え、えーと、あ! お兄ちゃんはどうやってここに入ってきたの?」

「え? あー、どうやってて言われてもなぁ。蒼空の近くで眠れば同じ夢を見れるんじゃないかと思って、手を握って睡眠薬を飲んでみたんだ」

「睡眠薬……!」


 それ、水無月さんが言ってたのと同じ方法!

 その事を伝えると、お兄ちゃんは急に真剣な表情になった。


「じゃあ、水無月が来たのはおれがここに来た後だな。おれが蒼空の所に行った時、水無月は来てなかった。多分、おれがやった方法を真似たんだろう」

「そうなんだ……」

「……水無月はお前を苛めるためにここに来たらしいが、おれは違う。蒼空、さっきも言ったが、おれはお前に目を覚ましてもらうために来た」

「現実に戻ろうって事?」

「ああ。母さんも父さんも心配してる」


 ……お父さんとお母さんが。そうだよね。ぼく、目を覚まさないんだよね……。

 ぼくは顔を上げ、現実世界の事を聞いた。


「水無月さんは、捕まったの?」

「それが……今は自殺の事についてや、水無月が起こしたいじめについての調査中で、まだらしい。だが、いずれ捕まる。母さんと父さんも、もう水無月の親とは話をつけたらしいし」

「そっか……」

「それに、母さんも父さんも蒼空が苛められた事に気づかなかった事を反省してる。クラスメイトも、先生も……お前と話したいと思ってる。それに、生きる気力がないからか、お前の身体はどんどん衰退していってるんだ。このままだと、現実の蒼空は死んでしまうかもしれない」

「死ぬ……」

「ああ。だから蒼空、帰ろう?」

「でも……ぼく怖くてっ……! だって水無月さん、ぼくの空想の世界にまで苛めに来たんだよ!? 捕まる前にぼく、殺されるかもしれない……もっと酷い事されたら……。それに、クラスのみんなも、ぼくを苛めてきた。先生だって、見て見ぬふりをして……あんな所に帰るなんて、怖いよ……無理だよ……」


 ここにいたほうが楽しいし、笑っていられる。仲間がいるし、園長先生が守ってくれる。何か辛い事があっても、スターやルーク、カイ君達が慰めてくれる。話を聞いてくれる。ぼくの気持ちに気づいてくれる。ここにいた方が、幸せなんだよ……!


「それは逃げてるだけだよ、蒼空ちゃん」

「……!」


 先生が、ぼくの肩に手を置いた。驚いて見上げた拍子に、目が合う。ぼくの心の奥底まで見つめてくるようなその瞳から、目が離せなくなる。

 先生はぼくに向かって、低い声でこう告げた。


「自分に都合がいい、こんな世界は存在しない」


 浴びせられた言葉が、少し遅れてぼくの頭に響いてくる。


「辛い事がない世界なんて存在しないんだ。逆に、楽しい事がない世界も存在しない。辛い事を経験して人は成長する。楽しいと感じて生きたいと思える。それが人間なんだ。蒼空ちゃん、君は向こうで辛い事を経験した。それが嫌でここに逃げた。じゃあ、楽しい事はなかったのかい?」

「楽しい、こと……?」

「そう。向こうで、楽しい、嬉しい、他人のために生きたい。将来に夢を見た事はなかったのかい?」


 楽しい……友達と遊んだ時。海行った時。花火行った時。家族で旅行に行った時、楽しかった。また、行きたいと思った。

 嬉しい……先生や家族に褒められた時。テストでいい点数取った時。誕生日祝ってもらった時、嬉しいと感じた。

 友達に、お礼を言われた時。生まれてくれて、ありがとうと言われた時、生きててよかったって思った。

 好きな人が出来た時、大人になったら結婚して子供産んで、幸せな家庭を築きたいなって思った。

 ……そうだよ、何で忘れていたんだろう。嫌な事、すごくいっぱいあったけど、同時に笑った事もいっぱいあった……。ぼくのために笑ってくれた人、ぼくがいたから笑ってくれた人、たくさんいたよ。

 お母さんとお父さんがぼくの事心配してるって……ぼく、必要とされてる? 希望を持っても、いいの?


「いいんだよ。君は生きるべきだ。死んでいい人なんて一人もいない。死ぬという事は、産んでくれた両親の恩を、仇で返す事になるんだよ? 蒼空ちゃんはもう一度、お母さんやお父さんに会いたくないのかい?」


 会いたい……会って話したい! 触りたい、抱きしめられたい……!

 肩に置かれた先生の腕を握りしめ、ぼくは嗚咽を漏らした。枯れたと思っていた涙が溢れだしてくる。自分でもわからなかった、自分の本当の気持ちを知った瞬間だった。

 ぼくはほんとは、生きたいと思ってたんだ。現実の世界に帰りたいと思ってたんだ。でも、帰ったところでぼくの居場所があるのか、みんながぼくを必要としてくれるのかが怖くて、自分は帰りたくないんだと思いこんでしまったんだ。

 ここにいたほうが、ぼくは幸せかもしれない。だけどそれは同時に、ぼくの事を大切に思ってくれている人を不幸にしちゃってるんだ。


「先生、ありがとうございます。ぼくはもう、逃げません。前を向いて、生き続けます」

「蒼空……!」

「その言葉を待っていたよ」


 先生は満足そうに頷くと、ぼくの頭を撫でた。ふわりと、温かな気持ちになる。


「それじゃあ、蒼空ちゃんに生きる気力が出てきたから、現実世界に帰る事を考えようか」

「あ、は、はい……!」


 背筋をぴんと伸ばす。

 ぼくってこういうパターンが多いんだけど、お母さんに会いたい、話したいって思ったものの、いざ帰るとなると怖くなっちゃうんだよね……。ほら、緊張してきた……!

 ぼくが心を落ち着かせようとしてると、お兄ちゃんが首を傾げた。


「ところで、どうやって俺達を現実世界に帰らせるんですか?」

「ああ。二人が強く帰りたいと願った時、私が力を使えば帰る事が出来るよ」

「力って、魔法ですか?」

「うん。そんな感じかな」


 ぼくの質問に微笑みながらそう答える先生。うーん、魔法でぼくたちを帰す事が出来るって……先生って、本当に一体――。


「何者なんですか?」


 思わずそう聞く。お兄ちゃんも同じ事を考えていたのか、ぶんぶんと首を縦に振っていた。

 そろそろ、答えてもらってもいいよね!

 じっと先生を見つめると、先生はあまりにも自然に自分の正体を告白した。


「ああ。私はね、神なんだよ」

「……は?」


 唖然と先生を仰ぐ。

 え? ……え? 今なんて言った? 神? え、どゆこと?

 お兄ちゃんと顔を見合わせてから先生を見つめ、また顔を見合わせるという謎の行動を三回繰り返した後、やっと頭が言われた事を理解し、二人して驚きの声を上げた。


「ええええぇぇぇ!?」


 神って、神!? 世界を作ったあの神!? え!? 存在したの!? あぁ、いや、ぼくが作り出したのか……?

 でも、それなら、先生が本当に神だったならぼくの事情を知っていた事も、不思議な事が出来るのも納得がいく。


「それともう一つ、蒼空ちゃんの理性でもある」

「理性?」

「うん。そのままの意味だよ。物事を判断する心の働きって所かな」


 先生は理性だから、ぼくが間違った方向に行かないようにしてくれていたって事?

 その疑問には答えてくれなかった。自分で解釈しろって事なのかな? じゃあ、そう言う事にしておこう。理性が先生の姿をしていて、孤児のみんなを育てて、シン君と戦って……なんて考えたら訳わかんなくなりそうだからね。


「話を戻すよ。私はもう、君たちを現実に送る準備は出来てる」

「おれも出来てます。蒼空は?」

「ぼくは……」


 帰らなきゃ行けないんだろう。でも正直言うと、まだ準備は出来ていない。頭では理解できてるけど、そんなすぐに心はついていけないでしょ?

 それにね……。


「ぼく、まだこの世界でやりたいことがあるんです」

「この世界に長くいればいるほど、向こうには戻りづらくなるかもしれないよ」

「戻るって約束します。だから、もうちょっとだけいさせて下さい」

「……わかった」

「ありがとうございます!」


 まだ、この世界にお礼を伝えてないんだ。ぼくが作った世界だけど、ぼくが作ったみんなだけど、お世話になったんだし、ちゃんとお礼を言いたい。ぼくの事を話して、別れを告げたいんだ。

 嬉しい事に、二人はぼくの意図を汲み取ってくれたのだった。

 ぼくはもう一度お礼を言った後、元の部屋に戻る前にもう一つ質問にしてみた。


「先生、話してて思ったんですけど、先生って人の心読めるんですか?」

「ああ、うん。読めるよ。これも神の力かな」


 声に出してないのに質問に答えてくれるなぁとは思ってたけど、どうやらぼくの思っていた事は間違っていなかったみたいです……。

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