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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第二章 日常の消滅
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第十八話 現実

 言い忘れてしまったんですけど、前回の話で五十話いきました!

 ここまで読んでくれている方々、ありがとうございます!

 ソラが真実を知って、物語がどんどん動き始めていくので、これからもよろしくお願いします!

 孤児園に戻ったぼくは、すぐに自分の部屋に向かった。扉を開けて中に入ると、園長先生がベッドに座り、俯いた状態でぼくを待っていた。

 扉が閉まる音を聞くと、先生はハッとしたように顔を上げた。その眼鏡の奥の水色の瞳と目が合う。先生はぼくの事をじっと見つめた後、ふっと安心したように微笑んだ。


「吹っ切れたみたいだね」

「はい。スターのおかげです」


 ぼくは笑い返すと、椅子に歩み寄ってゆっくりと腰を下ろした。それからふぅ、と息を吐き、心を落ち着かせる。

 スターの言葉で吹っ切れて、真実を聞こうと思ったものの、正直に言うとまだ怖かった。あんなに悩んでいたけど、嘘であって欲しい。違って欲しいと思う自分がいて……知らない方がいいんじゃないかって思えてくる。

 だけど、それじゃあいけないんだよね。もしこの世界がぼくが作り出したもので、ぼくがみんなの心を傷つけ、こんな状況を引き起こしたのなら、ぼくが解決させないと行けない。責任を持って、けじめをつけなきゃいけない。それが、今のぼくがやるべき事だと思うんだ。

 ぼくは胸の前で拳を握りしめると、視線を上げて先生と向き合った。


「準備は出来たかい?」


 こくりと頷く。すると先生は、右手を少し上に上げ、パチンと指を鳴らした。瞬間、部屋が暗闇に包まれた。


「えっ!?」


 思わず声を上げ、周りを見渡す。さっきまであった机や棚、床、壁、天井がない。見えないんじゃなくて、なくなっていたんだ。一瞬のうちに、ぼくと先生は何もないくらい部屋――いや、空間に移動していたのだった。



「先生って、一体……」

「ん? んー、そうだねぇ。私が何者かは、後で説明するよ」


 先生はいつもの笑みを浮かべたまま、この空間の説明を始めた。

 ここは、今眠っている現実のぼくの心の中。その一番奥底らしい。ここにいればスターやルーク達が入ってこないから、ゆっくり話す事が出来るんだって。

 うーん、ぼくが、現実のぼくの心の中にいる……すごく不思議な気分だ。ぼくってなんなんだろうって、途方もない事を考えてしまいそうになる。あ、これって、自分の心の中を覗いている状態なのかな? ぼくが何か思い出すと、ここに映ったりするのかな!?


「興味津々だね。でも、今は私しか動かす事は出来ないよ」

「そうなんですか……」

「そう落ち込まないで。最終的には、君が動かす事になるんだからね」

「え? どういうことですか?」

「その事も入れて、そろそろ話し始めようか。君にとっての現実を」


 すぅっと笑みを消し、先生が真剣な表情になる。ぼくは姿勢を正し、ごくりと唾を飲みこんだ。耳を先生の声に集中させる。怖い気持ちはあるけど、不思議と頭は冴えていて精神も落ち着いていた。

 開口一番に、先生はこう言った。


「まず、モエカちゃんが言っていた事は、ほとんどが本当の事だ。彼女は、真実を言っていた」


 自分で想像していたよりも、ショックは大きかった。体中が冷え切ったような感覚に陥る。

 頭のどこかで、ぼくは今青ざめているんだろうなぁとか考えていると、先生が「だけど」と言葉を続けた。


「全部が本当の事じゃない。彼女は後半、嘘をついている」

「……!」

「ちょっとは希望が出てきたかな?」


 ぼくの表情を見やってから、先生は本題に入った。水無月さんが言っていた内容を出しながら、それについて説明をし始める。


「最初、モエカちゃんはこの世界が蒼空ちゃんの空想の世界だと言ったね? それは、間違いなく本当の事だ」

「じゃあ、ぼくは自殺したけど死なずに眠っていて、ここが夢の中だって言うのは……」

「本当の事、だよ。自殺した記憶はあるんだろう?」

「はい。だけど、その後の記憶はなくて……」

「そうか。その後、君は病院に運ばれ、一命を取り留めたんだよ。しかし、君の心は目を覚ます事を嫌がった。だから、自分の世界を作り出したんだ」

「それが、この世界……」

「そう。自分の居場所がある、理想の世界を作り上げ、そこにいることで君は心の中に閉じこもったんだ。夢から覚めない状態ってところかな」


 先生の言った事は信じられない事ばかりだった。目を覚ましたくないって思ったのは本当かもしれないけど、理想の世界の作り方なんてわかんないもん。

 でも、次の先生の言葉で納得せざるを得なくなった。


「それにね、この世界は蒼空ちゃんが住んでいた日本にそっくりだろ? 月も十二ヶ月だし、服装も料理も、正月やクリスマスなどの行事も……学校やスーパーの作りも日本と同じはずだよ」


 その通りだった。日本に住んでいるみたいだ。そう思った記憶がある。

 ぼくが納得すると、先生は話を続けた。


「次に、ここに存在する人も蒼空ちゃんが作り上げたって話だけど、これも本当の事だ。スター君もルーク君もカイ君も……蒼空ちゃんが作り上げた、理想の人物なんだよ」

「先生も、ですか?」

「……うん。私も、蒼空ちゃんから作り出された」


 うわー、ぼく、自分が作り上げた人物に真実を教えてもらってるよー……。自分よりもぼくが作り上げた人物の方がこの状況に詳しいなんて、笑っちゃうね……。


「だけどね、私は他の者とは少し違う、特別な存在なんだ」

「特別な存在……?」

「うん。これは、私が何者なのか、に繋がるから後で説明するね」


 むー、先生って、自分の事後回しにするよね。


「それも、蒼空ちゃんが作り上げた設定なんだけどね」

「えー!? そうなんですか!? じゃあ、ぼくが先生の設定を変えれば……!」

「はいはい、じゃあ次いくよ」


 うわ、流されちゃったよ。まあ、設定の変え方なんてわかんないんだけどね。

 先生は次に、作り上げた人物の動きについて話してくれた。


「モエカちゃんが言っていたように、スター君達を動かしているのも蒼空ちゃんだ。しゃべり方、性格、自分との関係などを作り上げて、動かしている。無意識だから、実感はないだろうけどね」


 へえ、性格までぼくが決めたんだ。先生が言ったように無意識だから、自分ではわかんなかったし、気づかなかったんだね。

 あれ? でも、さっきスターから慰めてもらった時、ぼく優しい言葉掛けられたかったのに酷い事言われたよね? あれは何でだろう?


「それも蒼空ちゃんが設定したんだよ。スター君は、こうやって慰めるって」

「え!? でもぼく、あの言葉聞いてスターは自分の意志で動いているって思って……」

「スター君は蒼空ちゃんに作られたと知らないから、自分の意志だって言ったみたいだけど……裏を返せばそれは、蒼空ちゃんが作った設定通りに話している事になるんだよ」

「えぇー……」


 結局はぼく、自分に慰められてるって事じゃん。うわー、寂しい人間だな、ぼく。呆れるよ……呆れを通り越して感心しちゃうよ。

 項垂れるぼくの顔を、先生が心配そうに覗き込んできた。


「続けて大丈夫かな?」

「あ、はい。大丈夫です。なんだか、完全に吹っ切れちゃいました」


 やり方はどうあれ、ぼくはこうやって自分を見つめ直して先生の話を聞く気になったんだから、結果オーライだよね。

 ぼくはそう思い、先生に話しの続きを促した。


「この後は、蒼空ちゃんにとって少し辛い話しになるから、覚悟して聞いてね」

「はい」

「この世界で起こった事、それを作り出したのも蒼空ちゃんって話しだけど、これも真実だ」

「水無月さんが言っていた、スター達の辛い過去を作ったのもぼく。ってことですね?」


 先生は目を見張った。それから、小さく頷く。


「うん。その目的が、蒼空ちゃんのように辛い過去を持った子供達を集めて、自分の居場所を作る事っていうのもね」


 そっか。それも、本当の話なんだね。

 ぼくが、みんなをあんな寂しそうな、悲しそうな顔にさせちゃったんだね。一生癒えない傷を、つけちゃったんだ。


「でもね、蒼空ちゃん。みんな、あの過去がなかったら孤児園に入って、こんなに絆の固い友達は作れなかったかもしれないよ? スター君とルーク君は、心が読めてしまう事で悩みながら、王子として国のためにつくさないといけなかったかもしれないし、カイ君も、お母さんと別れる事はなかったかもしれないけど、貧しい村だから、飢えて死んでしまったかもしれない」


 先生が、ぼくを元気づけようとしてくれた。でも珍しく、その姿は少し慌てているように見えた。

 頑張ってフォローしようとしてくれている先生には申し訳ないんだけど、ぼくは冷静になってしまっていた。


「……ぼくが、スターとルークを王族設定にしなかったら、カイ君を貧しい村じゃなくて裕福な町で生まれる設定にすれば、幸せに暮らせていたかもしれない。そうですよね?」

「……」


 しばらく黙り込んだのち、先生は今度は困った顔をして「そうだね」と肯定した。


「確かに、辛い過去を作る設定にしてしまったのは蒼空ちゃんだ」

「はい……無意識だとしても、仕方ないで片付けられないとわかってます」

「うん。でも、蒼空ちゃんはそうやって自分の行いを振り返り、理解して、反省できる子だ。それはとてもいい事だよ。それに、君はここが本物の世界じゃないとわかっていても、傷つけてしまった子が自分の作った人物でも、自分の行いを悪いと感じることができる、優しい子だ」


 大きな手が、ぼくの頭を撫でてくれる。

 先生の方が、優しい人だよっ……! ぼくなんか、自分の世界に閉じこもっちゃって、自分のために人を傷つけちゃう、弱い人間なのに……。


「蒼空ちゃん、そこまで自分を責めなくてもいいんだよ。モエカちゃんが言っていた事は、ここまでが本当の事なんだからね」

「え……?」

「つまりね、この後に彼女が言っていた事は全部嘘なんだよ」


 先生は元の体勢に戻り、ぼくが視線を上げたのを見ると、声を発した。


「モエカちゃんは、シン君の事件を起こしたのも蒼空ちゃんだと言っていただろう? あれは嘘だ。シン君は、裏でモエカちゃんが操っていたんだ」

「どういうことですか? 何で水無月さんが、シン君を……?」

「モエカちゃんはこの世界に来たとき、世界の構成を理解し、操れるようになったんだ。そこで、スター君とルーク君の親を殺したシン君を見つけ出し、操った」


 じゃあ、ロイ君とルミちゃんの親戚を殺したのも、ハートちゃんを殺したのも、カイ君のお母さんを殺したのも、全部水無月さん……? ぼくが殺したんじゃ、なかった……?


「モエカちゃんは、君の絶望する顔を見るのが好きだったんだろう? だから、シン君を使って周りの人から殺していったんだ」

「そっか……そうなんだ……」

「うん。そして、自分が行った事を、まるで蒼空ちゃんが行ったかのように言い、君を追い詰めたんだ。そこで蒼空ちゃんが怒ってきたのを見計らい、ナイフを自分に向かって飛ばした」

「自分に向かって……?」

「そう。旅館の食堂で言い合った時、ナイフが飛んできただろう? あれを蒼空ちゃんは、自分がやったものと思いこんだ。あの状況だったから、そう思ってしまったんだ。でもね、実際は違うよ。モエカちゃんがわざと、自分に向かってナイフを飛ばし、蒼空ちゃんが無意識に飛ばしたかのように見せかけたんだ」

「そうだったんだ……それでぼくは、自分はこの世界を操れる者だと思いこんで……」

「混乱してしまった」


 あの時のことは、よく覚えていない。ナイフを見て、ぼくが水無月さんを殺そうとしたって思った記憶はある。そこで、水無月さんに「酷い子なのは、蒼空ちゃんなんじゃない?」って言われた事も覚えている。けど、水無月さんが部屋を出て行ってから、ぼくがどうなったのかは全然記憶になかった。

 先生の話によると、ぼくはそこで水無月さんの言葉に振り回され、正気を失ってしまったらしい。しまいには、スターを殺そうとしたとか……。


「それも、モエカちゃんがやった事だ。蒼空ちゃんは悪くないよ」

「ありがとうございます……」


 知らない間にそんな事をしていたなんて……。衝撃は大きかった。先生がぼくを止めてくれたみたいだけど……先生がいなかったらどうなっていたのか。考えただけで怖くなる。

 ここまで話し終えると、先生はふぅと息をついた。


「ひとまず、これで終わりかな。何が真実で、何が嘘なのかはわかってくれた?」

「はい。少しもやもやがなくなりました」


 先生のおかげで、現在のぼくの状況が確認できた。もう、水無月さんには振り回されない。

 ぼくが先生に感謝の言葉を述べると、先生は首を横に振った。


「いや、まだ話は終わってないよ」

「え?」

「次は、今後どうするかを話そう。その前に、もう一人聞いて欲しい人がいるんだ」


 聞いて欲しい人? 誰か呼ぶのかな?

 ぼくが首を傾げると、先生は右に目をやり、パチンと指を鳴らした。

 そっちに目を向けると、真っ暗な空間に扉が現れた。その扉がゆっくりと開かれる。


 入ってきたのは、なんとラギ君だった。

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