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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第二章 日常の消滅
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第十四話 真実

 遅れましたが、あけましておめでとうございます。

 この小説を書き始めて二回目の年越しですね。まさかここまで続けられるとは、ここまで長い期間かかるとは思っていませんでした……。

 なんとしてでも完結はさせたいと思っておりますので、引き続き『異世界の孤児園』をよろしくお願い致します!

 夜中の一時。ぼくはモエカちゃんに呼び出され、食堂に来ていた。

 パーティーの興奮で眠れなかったから眠くはない。けど……二人っきりで何の話をするんだろう?

 モエカちゃんは電気もつけずに中に入ると、パーティで使った椅子に座った。ぼくはモエカちゃんの前まで歩き、首を傾げる。


「電気つけないの?」

「ええ。その方が雰囲気が出るでしょ?」

「雰囲気って……怖い話でもするつもりなの?」

「そうねえ……ソラちゃんにとっては怖い話かもしれないわ」


 ふふっと手を口元にあてて笑うと、モエカちゃんはぼくを見据えた。その目を見て、何故か逃げたい衝動に駆られた。嫌な予感って言うのかな? 聞いてはいけない、そんな気がした。なのに、足は動かない。まるで、蛇に睨まれた蛙のように……モエカちゃんから目が離せなかった。

 モエカちゃんはしばらくぼくを見つめてから、ゆっくりと口を開いた。


「あたしはね、ソラちゃんを助けに来たのよ」

「ぼくを、助けに?」

「ええ。だってソラちゃん、なかなか目を覚まさないんだもの」


 モエカちゃんは何を言ってるの? 目を覚まさない?

 スッと目を細め、モエカちゃんが言葉を続ける。


「あの日自殺してから、もう一年も経っているのよ?」


 自殺……前世の事? でも一年って……てか、何でぼくの前世の事を知ってるの?

 モエカちゃんはぼくの疑問を知ってか知らずか、言葉を続ける。


「まさか自殺するなんて思ってなかったわ。あたしはただ遊んであげていただけなのに」

「遊んで……?」

「でも、あたしまだソラちゃんと遊びたかったの。だからここに来てあげたのよ?」

「ここに……来た?」

「あら、まだわからないの? じゃあ、あたしの本名でも言えばわかるかしらね?」


 モエカちゃんは嫌な笑みを浮かべると、中指を下唇に当てながらこう言った。


水無月萌香みなづきもえか。これがあたしの本名よ、如月蒼空きさらぎそらちゃん」


 その途端、ぼくの鼓動が高鳴った。一瞬で、恐怖という感情が頭を支配し、足が震える。

 なんで君が……だって君は前世の人で……日本人で! ぼくは君から逃げるために……自殺して生まれ変わったのに!

 ぼくが声も出せずに固まっていると、モエカちゃん……いや、水無月さんは嬉しそうな声を上げた。


「いいわね、その表情。それが見たくてここまで来たのよ。何にも知らない蒼空ちゃんにすべて教えてあげるわ。まずは、そうね……この世界の事でも教えてあげようかしら」

「嫌だ……聞きたくないっ!」

「まあそう言わないで。貴方も不思議に思っていたのでしょう? 何でこんな世界があるのか。何で記憶を持ったまま転生できたのか」


 ぼくは顔を上げる。聞きたくないはずなのに、転生できた理由は知りたくて、つい水無月さんの言葉に耳を傾けてしまった。

 水無月さんはぼくと目を合わせ……真実を告げた。


「それはね、ここが貴方が作り上げた空想の世界だからよ?」

「空想の、世界……?」

「そう。妄想とも言うわね。蒼空ちゃん、貴方が前世と言っているのはね、現実の世界。そしてここは、さっき言ったように空想の世界。貴方は今、夢を見ている状態なのよ。自殺した日からずっとね」

「……つまりぼくは、自殺したけど死なずに意識を失っていて、ここは夢の中って事?」

「簡単に言えばそう言う事。頭の回転が速くて助かるわ」


 水無月さんはそう褒めてくれたけど、ぼくはそれどころではなかった。

 何、今の話。信じられるわけが……でも、異世界に転生するなんていうのは漫画や本の中だけ話で。実際はそっちのほうが信じられない話であるから……水無月さんの言っている事は本当……?

 ……ここは、夢の中。ぼくが作り出した世界……。あ……ってことはもしかして……!

 ぼくはハッとして目線を上げた。水無月さんはぼくの視界に入ると、再びにたりと笑った。


「あら、もう気づいちゃった? そうよ。この世界は貴方が作り上げた。同じように、存在する人も貴方が作り出した人なのよ」

「そんな……じゃあ、スターも、ルークも、カイ君も……」

「貴方が作った人物。蒼空ちゃんはね、自分で作った人物と話したり、恋したり、慰めの言葉をもらっていたのよ」

「そんなわけない……だってみんなそれぞれ会話したり、喧嘩もして……」

「だから、それも蒼空ちゃんが無意識に動かしていただけなの」

「じゃあ、水無月さんは!? 君もぼくが作った人なの!?」

「いいえ」


 水無月さんの凛とした声が響いた。

 びくっとしてぼくが黙ると、水無月さんはスッと立ち上がった。


「あたしは現実世界からこの世界にやってきたのよ」

「ど、どうやって……」

「そうねぇ……どういう原理でこの世界に来られたのかはわからないのだけれど、とりあえず、蒼空ちゃんの手を握って大量の睡眠薬を飲んだら、ここに来る事が出来たわ」

「大量の、睡眠薬……」

「ええ。でも、蒼空ちゃんも酷いわよねぇ。ここに来たあたしを心臓病にするんだもの。まあ、すぐに治す事が出来たけれどね」


 水無月さんの心臓病も、ぼくが……。それも、無意識なんだろう。そんなことをした覚えはないから。

 でも、彼女を心臓病にしたのは、ぼくの心の中に怒りがあったからなんだと思う。だって彼女は前世で……否、現実世界でぼくを苛めていた張本人なんだから。

 ぼくは拳をギュッと握りしめた。


「水無月さん、君は何でこの世界に来たの? 大量の睡眠薬を飲んでまで!」

「あら、急にどうしたの? 威勢よくなっちゃって。無理しなくていいのよ? 足が震えているじゃない」

「答えて!」

「ふふっ、決まってるでしょう。貴方で遊ぶためよ」

「やっぱり……酷いよ! なんでぼくをそんなに苛めるの!?」

「楽しいからよ。蒼空ちゃん以外の子で遊んでもつまらないんだもの」

「ぼくは君の玩具おもちゃじゃない! もう酷いことしないで! 追ってこないで!」

「……酷いことしないで、ねぇ……それ、貴方が言える事なの?」

「え?」


 水無月さんは急に笑みを消すと、ぼくに歩み寄った。至近距離で見下ろされる。背丈はそう変わらないはずなのに、なぜだかそれが大きく見えた。


「さっき、この世界は蒼空ちゃんが作り出したって言ったわよね? それ、この世界で起きた事、これから起きる事も蒼空ちゃんが作り出しているって事なのよ?」

「起きた事?」

「そう。単刀直入に言っちゃうとね、孤児園にいる人たちの辛い過去を作ったのも蒼空ちゃんなの」

「え……」

「スター君とルーク君の母親をシンが殺すように動かしたのも蒼空ちゃん。カイ君がお母さんに捨てられるように動かしたのも蒼空ちゃん。無意識って怖いわね?」

「違う……」

「あと、スター君の過去を使ってシン君の事件を起こしたこともあったわねぇ? 爆発でルミちゃんとロイ君の親戚を殺したのも、シンを使ってハートちゃんを殺したのも、カイ君のお母さんを殺したのも、ぜーんぶ蒼空ちゃんなのでしょう?」

「違うっ! ぼくはそんな事しな……」

「本当にそう言えるのかしら?」


 ぐいっと、水無月さんが顔を近づけてきた。その鋭い目つきに、言葉が詰まる。


「ほら何も言えなくなったじゃない。心の底では否定しきれないんでしょう?」

「……!」

「貴方はずっと居場所が欲しかった。だから作ったのよ。自分のように辛い過去を持った同じ年ぐらいの子供を。そして、そんな子供達が集まるこの場所を。だけど、貴方はそれだけじゃ足りなかったのよね? 友達が出来たところで、イベントを起こした。それが、シンが襲ってくるという事件。その事件を通して人を殺し、悲しみにくれる人に寄り添う事で信頼され、一緒に事件を解決して絆を深めようとしたのよ。何か、異論はあるかしら?」

「っ……あるよ! 何でそんな事が言えるの!? ぼくが人を殺すわけない! またぼくで遊んでいるだけでしょ!?」


 そうだよ、そうに決まっている! だってぼく、ハートちゃんが殺された時、悲しかったもん。カイ君の親が殺されて生きる気力をなくしちゃった時、目に光を戻そうとしたし、スターの親がシン君に殺されたって聞いた時も、かたきを取ろうと頑張ったもん! 周りの人が殺されていく中、何でこんなに世界は残酷なんだろうって、もっと平和だったらいいのにって思ったもん! そんなぼくが、自分が信頼されるためにだとか、自分の居場所を作るために人を殺したりするわけない! 人を殺すなんて、やっちゃいけない事だよ!?


「殺すなんて、してはいけない事。それを、貴方はしたのよ。ここが空想の世界だという事を利用してね」

「……!?」

「貴方は本当はわかっていたのよ。ここが空想の世界、何でも出来る世界って。どういう気分なのかしら? 自分に、親を殺された事に気づかないで頼ってきた友達を支える気分って。楽しかった? 優越感に浸れた? 自分の居場所作れて、満足したかしらぁ?」


 挑発するような笑みを見せつけ、楽しそうにしゃべる水無月さん。

 ぼくは全身を震わせていた。心臓がものすごい速いスピードで脈を打っていた。どうしてだかわからない。怒り? 恐怖? 悲しみ? それとも、図星だったから? もう、何もかもわからなかった。何が本当で、何が嘘なのか。ぼくの気持ちさえも……。

 そのせいなのか、ぼくは気づけば水無月さんの胸ぐらを掴んでいた。


「図星なのね?」

「っ……!」


 胸ぐらを掴む手に力を入れた、瞬間。シュッと水無月さんの顔の横を何かが通り過ぎた。何かはそのまま飛んでいき、奥の壁に突き刺さる。ぼくはそれを見て、目を疑った。壁に刺さったのは、ナイフだったのだ。

 水無月さんはナイフを一瞥すると、ぼくに目を戻した。口角をあげたまま、首を傾げる。


「何よ今の。脅しのつもりかしら?」

「ち、違……ぼくじゃ……」

「貴方じゃなかったら誰なのよ? 貴方が無意識に、あたしを殺そうとしたのでしょう?」

「そん……な……」

「ほら、これでわかったでしょう? 貴方はこの世界を、この世界にあるモノを自由に動かす事が出来るのよ。今のように、ね?」


 水無月さんはそう言うと、ぼくの肩をぽんの叩いた。


「酷い子なのは、蒼空ちゃんなんじゃない?」


 そのまま通り過ぎていき……扉が閉まる音が部屋中に響いた。

 ぼくは水無月さんがいなくなった途端、足の力が抜け、床に膝をついた。

 全部、本当なんだ……ここはぼくの空想の世界で、ぼくがこの環境を作り上げていたんだ……。スターの親を殺したのも、カイ君のお母さんを殺したのも、ロイ君の親戚やハートちゃんを殺したのも、すべてぼくだったんだ。ぼくの自分勝手で……人を……。

 ……いや、違う。違うよ。ぼくは人を殺してなんかいない。だってここは、ぼくの空想の世界じゃないか。作った人もぼくの空想のキャラクター。本当に生きてる人じゃない。空想のキャラを殺したって、人殺しにはならない!

 誰かが食堂に入ってきた気がした。もう一人、誰かがぼくに声を掛けてきたのを感じた。でもそんなの、もうどうでもいい!

 そうだよ! ぼくは何でも出来るんだ! 人を殺したって、生き返す事が出来る! この環境が壊れたって、また作り直す事が出来る! また最初からやり直せばいいよ!

 誰かが、ぼくの身体を大きく揺らした。


「ソラ! しっかりして!」

「うるさい!」


 ぼくはそのキャラを吹っ飛ばした。あれ、誰だっけこのキャラ。ぼくが大切に思ってた気がするけど……まあいいや。

 そのキャラに、もう一人、大人で眼鏡を掛けたキャラが駆け寄ったけど、こいつもどうでもいい。

 片手を上に上げて、試しに念じてみた。すると、壁に刺さったナイフがぼくの手に戻ってきた。やった、ほんとに何でもできるんだなぁ。

 じゃあ、もう全部壊しちゃおっか。この世界で色んな人殺しまくっちゃったし。ぼくの居場所、なくなっちゃいそうだもん。今度は、誰も悲しまない世界を作ろう。そこで、のんびり暮らそう。みんなで、ね?

 ぼくはぼくの作り上げたキャラに向かってナイフを振り下ろした。

 刹那。ぼくの鳩尾に勢いよく誰かの拳が叩き込まれた。視界が反転し、身体が宙を浮く。何が起こったのかわからないまま、ぼくの意識は闇に閉ざされた。


 意識を失う寸前、「ごめんね」と誰かの……ぼくが先生と呼んでいたキャラの声が聞こえた気がした。

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