第十三話 夢
プレゼント交換をした後はトランプやウノなどのカードゲームをしたり、カラオケをしたりとぼく達は大盛り上がりでパーティーを楽しんだ。
気がつくと、夜の十一時を回っていた。そろそろクリスマスとぼくの誕生日が終わる。
ピクちゃんやカイ君がうとうとしているから、そろそろお開きにしようと、ラギ君とピンクちゃんが食器を片付け始めた。ぼくも部屋の飾りや使った道具の片付けを手伝う。ツリーは旅館の人がしまってくれるみたいだから、ツリー以外のところを綺麗にし、ぼく達は寝る事にした。
「あ、そうだ。園長先生起こさないと」
「え~、先生なんか置いてっちゃおうよ~」
スターが不満げな声を上げる。でも……。
「いいからいいから~。どうせいつか起きて部屋戻るよ」
「……そうだね。あんなに気持ちよさそうに寝てるのに起こすのは悪いし」
ぼく達は先生を残して食堂を後にした。うん、毛布掛けといたし、風邪は引かないよね?
男子達と分かれて女子部屋に行くと、今日はもう疲れたからとすぐ寝る事になった。
着替えてから歯を磨き、布団に潜る。
はああ……今日は楽しかった~。朝はみんなに会えなくてちょっと寂しかったけど、ぼくのためにパーティの準備をしてくれていたんだなぁ。すごく嬉しかった。プレゼント交換ではぼくのプレゼントはスターの所に回す事が出来たし。まあ、ぼくがもらったのはスターのプレゼントではなかったんだけど。ちなみにカイ君のプレゼントで、中身はお菓子だった。
布団の中でぬくぬくしながら、ぼくはしばらくの間誕生日パーティの事を振り返っていた。そのままずっとにやにやしていて、ふと時計を見ると一時になろうとしていた。
……え!? もうこんな時間なの!? ぼくどんだけ考え事してんの!
よし寝よう。と、布団に潜ってみたものの……全然眠気が来ない。どうしよう……。
眠ろうと何度も寝返りを打っていると、隣から声を掛けられた。
「あら? ソラちゃん、眠れないの?」
「あ、モエカちゃん。ごめん、起こしちゃった?」
「いえ、大丈夫よ。それより、ソラちゃんがまだ起きててよかったわ。話があったのよ」
「話?」
「ええ。ちょうどいいわ。食堂に行きましょ」
立ち上がり、部屋を出て行くモエカちゃん。話って何だろ? ここじゃ出来ない話なのかな?
ぼくも上着を着ると、モエカちゃんに着いて行った。
食堂の扉を開けると、モエカちゃんは電気をつけずに奥に歩いていき、さっきまでのパーティで使っていた椅子に座った。ぼくはそんなモエカちゃんの前まで歩み寄り、周りを見渡した。
誰もいない。ソファで寝ていた先生の姿もなくなっていた。二人っきりで、何の話をするんだろう?
ぼくはモエカちゃんに視線を戻し、首を傾げた。
「電気つけないの?」
「ええ。その方が雰囲気が出るでしょ?」
「雰囲気って……怖い話でもするつもりなの?」
「そうねえ……ソラちゃんにとっては怖い話かもしれないわ」
ふふっと手を口元にあてて笑うと、モエカちゃんはぼくを見据えた。その目を見て、何故か逃げたい衝動に駆られた。嫌な予感って言うのかな? 聞いてはいけない、そんな気がした。なのに、足は動かない。まるで、蛇に睨まれた蛙のように……モエカちゃんから目が離せなかった。
モエカちゃんはしばらくぼくを見つめてから、ゆっくりと口を開いた。
* * *
十二時過ぎに食堂で目を覚ました私は、食堂の貸し切りを許してくれた旅館の方にお礼を言い、部屋に戻った。子供達はもう眠っているらしく、とても静かだった。
少し寝たから眠気が覚めてしまったな。
私は窓際に椅子を持ってきて座り、今晩はゆっくり過ごす事にした。コーヒーを作り、背もたれに身を預けながら月を眺める。
クリスマスとソラちゃんの誕生日が終わった。明日は孤児園に帰らなくてはならない。その後は正月に向けて孤児園の大掃除だ。大晦日に食べる年越しそばを買って、お年玉も用意してあげないと。
今年も何とか無事に終える事が出来そうだ。そう、一口コーヒーを啜った時、突然鼓動が高鳴った。同時に、胸騒ぎ。ものすごく悪い事が起こる。そう本能が告げていた。
私はカップを机に置くと、目を閉じた。人の気配を確かめる。
……食堂に二人、人がいる。
今度は目を開け、千里眼を使った。
……! モエカちゃんと、ソラちゃん……?
二人は食堂の中央で、何かを話していた。会話はなぜだか聞き取れない。
モエカちゃんはにやりとした笑みを浮かべ、それを見ているソラちゃんは驚きか、恐怖かで目を見開いていた。
しばらくすると、モエカちゃんがソラちゃんの肩に手を置いてから部屋を出て行った。ソラちゃんが床に膝をつき、顔を覆う。直後、その周りの床に亀裂が入り始めた。
まずい……!
私は食堂の所に走ろうとし、ドアノブに手を掛けた。しかし……。
なっ……! 開かない!?
押しても引いてもドアは開かなかった。肩からぶつかってみてもびくともしない。
仕方ない。……すみません、後で弁償しますので。
私はドアから数歩離れると、ドアに回し蹴りを入れた。
ダン! と大きな音が鳴り、ドアが揺れる。が……。
「そんな……!」
思わず声を上げてしまう。ドアは壊れなかったのだ。
次に魔法を使って燃やそうとしてみたが、火はすぐに消されてしまった。どうやらこのドアには……否、この部屋には魔法のシールドが張られているらしい。
くっ! 先手を打たれたか……!
私の持っている魔法の中で、一番威力の高いものを使えばこのシールドとドアを壊す事が出来るだろう。しかし、それをしてしまえばシールドだけでなく、旅館全体を破壊してしまう。
完全に拘束されてしまった……これも、あの子の仕業なのだろうか。
私は壁に背をつけ、千里眼で再び食堂の様子を見た。
食堂はもう半分崩壊しかけていた。床だけでなく壁や天井にも亀裂が入り、ぱらぱらと木の破片が落ちてきている。そこに、スター君、ルーク君、カイ君が駆けつけてきた。
「ソラ!?」
……! 声が聞こえるようになった! あの子がいなくなったから……?
驚いている間に、スター君がソラちゃんに駆け寄っていった。
「ソ……っ!?」
スター君の手がソラちゃんの背中に触れようとした刹那、ソラちゃんが勢いよく身体を捻らせ、腕を振った。その手にはいつの間にかナイフが握られており、振り向いたソラちゃんの目には光がなかった。
ナイフを紙一重で避けたスター君はソラちゃんから飛び退き、距離を取った。信じられないような表情でナイフを見つめる。その隣でカイ君が叫んだ。
「ソラ! お前何してるんだよ!?」
「おい、カイ! やめろ!」
ルーク君の制止を無視し、膝立ちになったソラちゃんの肩を揺すりながら、カイ君は必死になってソラちゃんに呼びかけた。
「ソラ! ソラッ!」
「やだ……嫌だあぁ!」
「うあっ!?」
ソラちゃんが恐怖に顔を引きつらせて絶叫した。同時にカイ君が吹っ飛ばされる。驚愕するルーク君の横の壁に叩きつけられ、カイ君はうめき声を上げた。
友達を吹っ飛ばした事に気づいていないのか、ソラちゃんが俯いたままふらりと立ち上がった。そのまま振り上げた手に持っているナイフの先端は、カイ君がいる方向を向いていた。
あぶないっ!
手を伸ばしたかった。ソラちゃんの腕を掴みたかった。カイ君の前に立ちはだかりたかった。しかし、そんな願いは虚しく……ナイフはカイ君に向かって飛んでいってしまった。
「ぐぅ……!」
カイ君の胸に深々と突き刺さるナイフ。鮮血が飛び散り、床や壁に赤い染みを作る。カイ君は、中を見つめたまま、動かなくなった。
「カイッ! う……」
ルーク君がカイ君に駆け寄ろうとし、膝をついた。けれど、膝をつきながらもカイ君に手を伸ばし、血の色に染まったカイ君の胸に触れて身体をがたがたと震わせた。
そして、スターはソラちゃんの邪悪な感情を感じ取りってしまったのかふらついていた。それでも、何かの大きなショックにより我を忘れてしまっているソラちゃんの心を取り戻そうと行動した。
「ソ、ラ!」
顔を歪ませながら、スター君がソラちゃん両腕を掴み、正面から声を掛ける。一瞬だけ、ソラちゃんが顔を上げてスター君と目を合わせた。
「ソラ! 目を覚まして!」
しかし……ソラちゃんの焦点は合わなかった。虚ろな目で、どこか遠くを見つめている。そのまま天井を仰ぎ、今度は悲鳴を上げた。
「あああああ!!」
「ソラ!? あ……!」
バキッという音が聞こえると共に、壊れた天井が振ってきた。その天井が呆然としているスター君を……潰す。
「なっ……!」
ルーク君が瞠目した。四つん這いになり、震えながらもスター君の元に行こうとする。その直後、壁、天井全体が崩れ落ち……食堂が崩壊した。
ソラちゃんが生み出した衝撃は瞬く間に旅館全体に広がったのか、私がいる部屋も一気に崩れ落ち始めた。
あちこちから悲鳴が聞こえた。助けを呼ぶ声も聞こえた。だが……私は動く事が出来なかった。
何故、こうなってしまったのだろう。こうなる前に何かできなかったのだろうか。私は園長なのに。子供達を守らなければならなかったのに……。
「あなたって、その程度だったのね」
「……!」
突然、私の前に彼女が現れた。彼女はものすごい速さで近づいて来ると私に向かって腕を突き出す。その手にはカイ君に刺さったはずのナイフが握られていて……。
「死になさい」
「はっ……!」
肺の中の空気を一気に吐き出し、私は目を見開いた。視界に入ったのは、木の天井。
ここは……食堂?
乱れた息を整えながら部屋の中を見渡す。
部屋の中は綺麗に片付けられていた。食器や飾りはなく、子供達も食堂から出ようとしている。私は時計に視線を動かした。
十二時前……時間が、戻った……?
「あ、先生起きたんですね。もう片付けたんで、部屋に戻ります。先生も部屋でゆっくり休んで下さいね!」
手を振って食堂を出て行くソラちゃん。他のみんなも部屋に戻っていった。
私はゆっくりと立ち上がり、頭に手を当てた。
……あれは、夢だったのか……。なんという不吉な夢だ……あれが本当に起こったら……。
そこまで考え、私はハッとした。
違う……! あれはただの夢じゃない! あれは、予知夢だ!
「スキあり~!」
そんな声が聞こえ、私は慌てて振り返った。そこにはスター君がいて……私は心の中が読まれたのを感じた。同時に、しまった! と思った。あんな夢を見たせいで、心を封じるのを忘れてしまっていたのだ。つまり、スター君は今考えていた私の夢を見てしまったということで……。
スター君の表情が凍る。
「……先生、どういう事?」
「……」
「答えてよ! 今のは何なの!?」
「……予知夢だよ。さっき寝ている時に見た……」
「予知夢……じゃあ、これからそれが起こるって事?」
「……うん」
「……どうするの?」
意外と、スター君は冷静だった。だから私は、はぐらかすのはやめた。
「夢のような事が起こらないよう、対処はするつもりだよ。もう、誰が仕掛けてくるかはわかっているからね」
「……ボクも、手伝う」
私は頷いた。動く人数は多い方が助かる。けど……。
「他のみんなには言わない方が良い。標的にされるかもしれない」
「うん……なんか、シンの時みたい」
呟いてから食堂を後にするスター君。彼には辛いものを見せてしまった。
私は食堂に残り、ソファの後ろに隠れて気配を消した。
この状況を解決する方法は前からわかっていた。けれど、ずっと避けてきた。いや、逃げてきたのかもしれない。彼女を庇って……しかし、こうなってしまっては実行に移すしかない。状況が悪化する前にあの子に本当の事を話して、現実を見てもらわなければ。私自身が支配される前に……。
私はこの状態のまま、時間が来るのを待った。
この時の私はまだ、彼女の事を甘く見てしまっていたのだった。




