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異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第二章 日常の消滅
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第十二話 誕生日

時間に余裕が出てきたので、更新を開始しました。

出来れば、今日から日曜更新を続けていきたいと思っています。

 チュンチュンという小鳥と思われる声が聞こえ、ぼくはゆっくりと目を開けた。視界に入ったのは、木造の天井。

 ……あ、そっか。ぼく、旅行に来てたんだっけ。

 起き上がり、伸びをして身体をほぐす。その時、壁に掛けてあるカレンダーが目に入った。

 今日は、十二月二十五日。クリスマスである。そしてもう一つ、ぼくの誕生日でもあるんだ!

 ぼくはちょっとうきうきしながらリュックから着替えを出し、気づいた。部屋に、誰もいないことに。布団は敷いてあるのに、誰も寝ていない。

 あれ? みんなもう起きているのかな? あ、今何時だろ?

 時計を見ると、十時を示していた……って、えぇ!? もしかしてぼく、寝坊した!?

 急いで洋服に着替え、部屋を出る。でも、みんなどこにいるんだろう? 食堂? だけどこの時間じゃあ、もう朝食は済ませてあるだろうなぁ。


「なんでみんな起こしてくれなかったんだろう……」


 ちょっと寂しいような気持ちになりながら食堂の扉を開こうとすると、まだドアノブを握る前に扉が外側に開いた。そのまま、ぼくの頭に直撃。


「痛っ!」

「あら、ごめんなさい」

「あ、モエカちゃん……」


 中から出てきたのはモエカちゃんだったみたい。

 モエカちゃんは背中で扉を閉めると、可愛らしく小首を傾げた。


「ソラちゃん、今起きたの?」

「うん、そうなんだ。寝坊しちゃったみたいで……。みんなはもう朝ご飯は食べたの?」

「ええ。今は買い物に行っているわ」

「買い物?」

「今日はクリスマスでしょう? だから、朝から準備をするらしいわ」

「そうなんだ。ぼくも何か手伝おうか?」

「そうね……じゃあ、あたしと一緒に来てもらってもいいかしら?」

「うん、いいよ」


 モエカちゃんもこれから買い出しに行くみたいで、ぼくはそれに着いて行く事になった。

 モエカちゃんが買う物は飾り付けの材料みたい。食堂を貸し切りにしてクリスマスパーティーを行うらしい。さすが園長先生だよね。旅館の食堂を貸し切りにしちゃうんだもん。

 厚着を着てから旅館を出た。少し溶けて固まっている雪の上を気をつけながら歩く。うぅ、つるつる滑って歩きにくい……。


「うわっ!」


 つるっと足が滑り、ぼくは勢いよくモエカちゃんの肩に手を置いてしまった。そのままモエカちゃんも倒れてしまう、と思いきや、モエカちゃんはぼくを支えてくれた。


「ソラちゃん大丈夫?」

「う、うん。モエカちゃんすごいね。転ばないなんて」

「そうね。あたしはソラちゃんみたいにドジではないから」


 ふふっと笑うモエカちゃん。うぅ……その通りだけどぐさっと来たよ……。

 時々モエカちゃんの手を借りながら、ぼくは何とか目的の店に到着する事が出来た。

 店の中はとても暖かかった。そして、色とりどりな小物が並んでいた。入ったところには、クリスマスシーズンだからかツリーの飾り付けの道具が置いてあり、奥には裁縫道具や文房具などもあった。

 ぼく達はツリーに飾る星や大きい鈴などを買った後、パーティーを盛り上げるためのクラッカーやゲームボードも買う事にした。

 それから、ぼくはモエカちゃんからクリスマスパーティーでプレゼント交換をするということを聞き、何かプレゼントを買うことにした。

 うーん、何がいいかな? 誰に渡るかわかんないから、みんな使えるものがいいよね。

 考えた結果、ぼくはグレーのニット棒を買うことにした。最近、一層寒くなってきたし、これだったら誰でも使えるよね?

 目当ての買い物が終わると、モエカちゃんは隣の飲食店に入っていった。何か食べるのかな? と、不思議に思いながらぼくも店内に入る。

 朝だからかあまり混んでいなく、ぼく達は好きな席に座るよう促された。

 入口から近い席に座ると、モエカちゃんがぼくにメニューを渡してきた。受け取ってから、ここに来た意味とか、モエカちゃんが何したいのかわからなくて首を傾げる。


「え、なに?」

「何って、ソラちゃん、朝ご飯食べてないでしょう? お腹、減ってないの?」

「あ、そう言えば……」


 すっかり忘れてたけど、思い出した途端急にお腹が減ってきた。ぼくはモエカちゃんにお礼を言い、早速メニューを開いた。

 運ばれてきたパンケーキを食べながら、モエカちゃんに視線を移動させる。モエカちゃんは、温かいココアを飲みながらゆったりしていた。わあ、なんかお嬢様って感じ。


「モエカちゃん、ありがとうね。すごく美味しい」

「それはよかったわ。じゃあ、今度あたしにも何かおごってくれるかしら?」

「え、えぇ!? もしかしてこれ、モエカちゃんのお金!?」

「冗談。園長先生のお金よ」


 また意地悪な笑みを浮かべるモエカちゃん。ええ~、モエカちゃんのひどいぃ……。


「ソラちゃんはだまされやすいのね」

「うん……気をつけるよ」

「そうね。でも、面白いからいいんじゃないかしら?」

「え?」

「まあ、孤児園メンバー以外の人には気をつけた方がいいかしらね」


 モエカちゃんはにこっと笑うと、ココアを一口飲んだ。

 そうだね。孤児園メンバーはみんな悪い事はしないけど、この世界には悪い人はいっぱいいるんだよね。気をつけなくちゃ。

 ぼくは遅めの朝食を済ませると、モエカちゃんと一緒に飲食店を出た。

 孤児園に戻る途中、ピンクちゃんとピクちゃんに出会った。


「あ、ソラたん! おはよー!」

「ピクちゃん、おはよう。二人も買い物?」

「うん。そうだよ」


 頷くピンクちゃんと共に旅館に戻る。靴を脱いで上がり、廊下に向かうところでピクちゃんがモエカちゃんの買い物袋を持った。


「ピクとお姉ちゃんは、食堂にこれ持ってくね! モエたんとソラたんは休んでていいよー」


 そう言いながらピンクちゃんの手を掴み、ピクちゃんは食堂に走っていってしまった。どうしたんだろ? ぼく、そんなに疲れているように見えたのかな?

 ぼくがいきなりどうしたんだろうね? という目でモエカちゃんを見ると、モエカちゃんはぼくと目線合わせてから微笑した。


「じゃあ、お言葉に甘えて休ませてもらおうかしらね」


 右側に結わいたサイドテールを揺らしながら、モエカちゃんは女子部屋の方向に歩き出した。

 ぼく達は部屋に戻ると、布団を片付けてから座布団の上に座って足を休ませた。

 窓の外に積もっていた雪は溶けたのか昨日よりも少なくなっていて、男子部屋と反対側の部屋からは他のお客さんの楽しそうな話し声が聞こえてくる。

 ぼく達は二人で適当な話をしたり、お菓子を食べたりしてお昼まで楽しんでしまった。


「そろそろ食堂行かない? みんな準備してるのに、ぼく達だけサボってるのは申し訳ないよ」

「そう? 別にサボっているわけではないのだけれど……」

「え? そうなの?」

「ええ。ま、そんなに手伝いたかったら行ってみたらいいんじゃない? 多分、止められると思うわよ」

「止められる?」


 何で止められるんだろう? モエカちゃんの言う通り、食堂に行ってみたらわかるかな?

 ぼくはモエカちゃんを部屋に残し、朝のように食堂に向かった。

 食堂の前に行くと、閉められている扉にピクちゃんが寄りかかっていた。


「ピクちゃん、何してるの?」

「んー? パーティーの飾り付けを作ってるの……あ! ソラたん!?」


 ピクちゃんは手物に視線を落としながら口を動かし、ぼくだと気づくと突然驚いたような声を発した。


「ど、どうしたの?」

「な、何でもないよー。ソラたんは食堂に何か用なの?」

「うん、クリスマスパーティーの準備を手伝おうと思って」

「クリスマスパーティー?」


 ピクちゃんがきょとんとして聞き返してきた。え、ぼく変な事言ったかな?


「あれ? クリスマスパーティーの準備をしてるんじゃないの?」

「……あ! そ、そうだよ! クリスマスパーティーの準備をしてるの!」


 取り繕うかのようにそう言い、笑顔を見せるピクちゃん。どうしたんだろ? 何か、隠してる?


「ピクちゃん、様子がおかしいよ? どうしたの?」

「なんでもないよ!」

「何か隠してたりする?」

「え……!?」


 びくっと肩を震わせるピクちゃん。しばらくの間、ピクちゃんはわたわたと何か言おうとしては口を閉じるを繰り返していたが、ぼくと視線が合うと素早く食堂に入って言ってしまった。


「あ、ピクちゃん!」


 バタン、と扉が閉ざされる。

 ……ピクちゃん、何を隠してるんだろ。なんか、他のみんなとも会えないし……今日、ぼくの誕生日なんだけどなぁ。みんな、クリスマスに夢中なのかな? もしかして、ぼくに内緒で楽しもうとしてるとか……? いやいや、それはないよ! みんなはそんな酷い人じゃない……はず!

 違う違う、とぶんぶんと首を振っていた時、食堂の扉がゆっくりと開いた。はっとして顔を上げると、そこにはピンクちゃんの姿があった。


「あ、ピンクちゃん。ピクちゃん、怒ってた?」

「ううん。怒ってないよ。ごめんね。今食堂はばたばたしてて。ソラちゃん、何か手伝いたいんだっけ?」

「うん。ぼくだけ休んでいるのは申し訳ないなぁって」

「そんなことないんだけど……じゃあ、ストーブの石油を一緒に運んでもらっても良い?」

「もちろん!」


 この旅館のストーブは石油で動いているから、その石油を各部屋に運ぶみたい。

 旅館を出て裏に回ると、石油が置いてある倉庫があった。ピンクちゃんが鍵を開け、中に入る。中には白い棚が置いてあり、その上には同じく白い入れ物に入った石油が置いてあった。

 ぼくはその入れ物を両手で持ち上げてみた。


「うっ……お、重い……!」


 石油ってこんなに重いんだ……!

 数歩歩くだけで手が痛くなってしまう。

 これを全部の部屋に運ぶ……うわあ、絶対手と腰と足が痛くなるよぉ。


「ソラちゃん、ソラちゃん」


 ぼくがどうやったら楽に運べるかを考えていると、とんとんと肩を叩かれた。振り向くと、ピンクちゃんの手には台車が。


「これで運ぶんだよ」

「あっ、そんなものがあったんだ」


 ふぅ、一安心。そうだよね。これを小学生の二人が運ぶなんて無理だよね。

 ぼく達は台車にとりあえず二つ石油を乗せると、まずはエントランスに向かうことにした。

 次は受け付け、その次は一人部屋へ……ぼく達は夕方まで石油をストーブに入れる作業を行った。行ったり来たりを繰り返したから大変だったし、寒くて手がかじかみ、つま先の感覚がなくなっちゃったけど、途中で園長先生からおやつをもらったり、旅館に泊まっている人からお礼の言葉をもらったから最後まで頑張ることが出来た。

 空になった石油の入れ物を倉庫に戻し、鍵を閉めた後、ぼく達は食堂に向かった。そろそろ夕食の時間らしい。

 手を洗ってから食堂の扉を開けた。その時。


 パーン! パーン!


「え!?」


 クラッカーの音が鳴ったかと思うと、小さくちぎった色とりどりの紙がはらはらと落ちてきた。そして――。


「ソラ! 誕生日おめでとー!」

「ソラちゃん、誕生日おめでとう!」


 みんながぼくに向かってそう言ってきた。

 ぼくは呆然と食堂にいるスター達、孤児園メンバー全員を見渡し、ふっと笑った。

 なんだ、みんな僕の誕生日、忘れてなかったんだ……。クリスマスパーティーじゃなくて、ぼくの誕生日パーティーの準備をしてたんだ。ぼくを驚かそうとして、隠してたんだ。

 やっと心の中のもやもやがなくなり、嬉さでいっぱいになり、ぼくは笑いながら少しだけ涙を浮かべた。


「ソラー! 何してるの~。早く食べないと料理冷めちゃうよ~」

「ほら! こっちこいよ!」

「うん!」


 ぼくは誰にもに気付かれないようにそっと涙を拭き、みんなの元に走った。先生に促され、いすに座ると、ぼく達の前に大きなチキンが置かれた。それからジュースが注がれ、パーティーが始まる。

 おいしい料理を口に運びながら会話に花を咲かせ、食べながらゲームをした。デザートには大きなケーキが用意され、ぼくはみんなの前で十二本のろうそくの火を吹き消した。楽しくて、みんなが笑顔でこの部屋が、ここにいるみんながきらきらしているように見えた。

 ケーキを食べ終えると、プレゼント交換を行うことになった。

 ぼくは泊まっている部屋にプレゼントを取りに行こうとし、びっくりして足を止めた。園長先生が、寝てる!

 先生は壁際のソファに座り、腕を組んだまま眠っていた。みんなの前で寝ることなんてめったにないのに! 先生の寝顔。一、二回見たことあるけど、結構レアだ。

 ぼくが近くに行ってまじまじ見ても、先生は微動だにしなかった。すごい、ぐっすり眠ってる。パーティーの準備、そんなに疲れたのかな? まあ、こんなに豪華な料理に大きなクリスマスツリー、壁や天井にかけてある飾り。全部用意したとなると結構疲れるよね。先生とみんなに感謝しないと。

 ぼくはプレゼントを持ってくるついでに毛布も運び、先生にかけてあげた。


「先生、ありがとうございます」


 みんなにも、後でお礼言わなきゃ。

 ぼくはそう心の中でつぶやき、孤児園メンバーの暖かい輪の中に入ったのだった。

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