第四話 お掃除
第三話、少し編集しました。
「みんな、今日は孤児園の掃除をしよう!」
そんな唐突な園長先生の一言から一日が始まった。
朝食を食べ終えたぼく達は、戸惑っている間に園長先生によって女子チームと男子チームにチーム分けされた。さらに女子チームは孤児園の中、男子チームは孤児園の庭と、掃除場所まで決められた。チームの中での役割分担はぼく達が決めないといけないらしい。
……え、何でいきなり掃除? という質問は意味がない。だって、園長先生が突然言い出すことには理由がないんだもん。「まあいいじゃないか!」とか、「気分気分」と返されるだけ。それに、やりたくないっていったらお小遣いがなくなっちゃうんだ。
だから、ぼく達は園長先生の指示に従うことにした。
スター達が外に出て行った後、ぼくはピンクちゃん、ハートちゃん、ルミちゃんに視線を向けた。
「じゃあ、誰が何をしようか?」
「アタシ窓拭きしたい!」
最初に手を挙げて窓拭きを立候補したのはルミちゃんだった。他に立候補者はいなかったから、ルミちゃんが窓拭き担当になる。
続いて、ピンクちゃんが口を開いた。
「あたしは叩きしたい」
「じゃあ、わたしは箒でもいい?」
「え、ぼくが床拭き!?」
一番大変、というか疲れる仕事じゃん! でも、二人とも叩きと箒持ってるし……まあいっか。
ぼくも雑巾を持って掃除に取りかかろうとしたとき、窓の外からスターの声が聞こえた。
「あれー? ソラって箒やりたいんじゃないの?」
「え、そうだけど……?」
「それなら箒やればいいじゃん」
「でも、ハートちゃんもやりたいみたいだし」
「じゃあふたりでやれば?」
「え、でもそしたら床拭きがいなくなっちゃうし」
「じゃあ、床拭きも一緒にやろうよ。どうせ、床拭きは箒終わった後だから」
ハートちゃんはそう口を挟むと、もう一本箒を持ってきた。なるほど、それならどっちも箒ができるね!
ぼくは受け取った箒で元々床に落ちていたゴミや、ピンクちゃんが棚の上とかを叩いて落ちたゴミを集め始めた。ハートちゃんはぼくと反対側を。角まで、丁寧に……。と、床を見ながら箒を動かしていたとき、顔に冷たい何かがベチッと当たった。
「いたっ!」
驚いて顔を上げると、そこにはぶんぶんと雑巾を振りながら窓の外に向かって声を上げるルミちゃんの姿が。この雑巾が当たったのか。えっと、窓の外にいるのは……ロイ君かな?
「ロイー! 窓綺麗になったでしょ?」
「ルミー! すごい綺麗だぞ!」
ルミちゃんは褒められると更に他の窓も綺麗にし始めた。
ぼくも頑張らないと。
再び箒を動かし、部屋の真ん中にゴミを移動させた。ハートちゃんが集めたゴミも合わせると、結構な量があった。こんなにゴミがたまってたんだ。
「叩きは終わったみたいだから、ゴミはこれで全部かな」
ハートちゃんがポニーテールの髪をいじりながらそう言った。ぼくは頷くと、ちりとりを取りに行こうと玄関に目を向ける。その目の前を、汚れた雑巾を持ったルミちゃんが走り抜けた……ってうわあ! あ、危ない。もう少しで当たるところだった。
「ソラちゃんっ大丈夫?」
「う、うん」
ハートちゃんに笑いかけた後、ぼくは集めたゴミを見て「あっ」と声を上げた。ルミちゃんが走り抜けた風でゴミが舞っちゃったみたい。ゴミは周りに散らばっていた。
「もうっ、せっかく集めたのに」
ハートちゃんがため息混じりに呟く。ぼくはルミちゃんが走っていった方向を見た後、微笑を浮かべた。
「もう一回集めよう。ルミちゃんも窓拭き頑張ってるし」
「そうね」
散らばったゴミを集めた後は、どっちがちりとりをやるか決めることになった。
「ぼくがちりとりやるね。ハートちゃんが箒やることになったのに、あとから箒やりたいって言ったのはぼくだから」
「ううん。ソラちゃんの気持ち考えないで最初に箒立候補したのはわたしだから、わたしがやるよ」
「いいよ! ぼく、ハートちゃんにはいろいろ助けてもらってばっかりだから」
「でも……」
「大丈夫!」
「……ありがとう」
ぼくは笑顔を見せると、ちりとりを取りに玄関に向かった。そこで、黒髪が目に入る。ルーク? 何してるんだろう?
その答えはすぐにわかった。ルークが雑草抜くときに使う鎌を手に持っていたから。
ぼくはルークに「雑草抜き頑張ってね」と声をかけ、ちりとりを手に持った。
ちりとりでゴミを取った後、ルークが庭に戻ったのか、カイ君の声が聞こえてきた。
「お前どこ行ってたんだよ。おれ一人でこの雑草全部抜くのかと思ったぜ」
「お前を斬るために鎌を持ってきたんだよ」
「ああ、なるほどー……っておれ!? 雑草じゃなくて!?」
「え、お前雑草じゃなかったのか!?」
「どう見たら雑草に見えるんだよっ!」
「髪の毛、ぴょんぴょんしてるし」
「いや、青だし! 緑じゃないし!」
「ボクが説明しよう! 青の草もあるんだよ?」
「お前入ってくんな!」
「そんなことより、さっさと斬っちまおうぜ! カイを!」
「ロイまで!? っていうか何でおれなんだぁー!」
「雑草だから」
「三人でハモるな!」
……騒がしい庭だなぁ。まあ、ぼくは好きだけどね。この四人の会話。あ、ハートちゃん、ため息付きながら半眼で四人を見てる。ピンクちゃんは……笑いこらえてる! 口押さえてプルプルしてるよ。てっきり、ハートちゃんと一緒に呆れていると思ってたのに。
四人の追いかけっこをずっと見ていたけど、今は掃除に戻ろう。
箒と叩きが終わった後は、ぼく達が床拭きをする……って思ってたんだけど……。
「あ、ソラちゃん、床拭きはわたしがやるから他のことしてていいよ」
「えっ、なんで?」
「ちりとりやってくれたでしょ?」
「でも、あれは……」
「大丈夫!」
さっきのぼくみたいに笑顔を浮かべるハートちゃん。……ありがとう!
ぼくはハートちゃんに床拭きを任せることにした。でも、何もしない訳にはいかないから、園長先生に何をすればいいか聞いて、ピンクちゃんと一緒に部屋の端っこに移動させた机や椅子の脚を拭くことになった。
椅子をひっくり返し、濡れた雑巾を手に持つ。
「わあ、結構ゴミ付いてるね」
「うん。あ、この椅子傷ついているところがある。誰の椅子……あ、カイ君のだ……」
あー、カイ君よく椅子蹴っ飛ばしてたしね~。他のは……うん、傷ついてない。
「園長先生、この椅子傷ついてますよ。っていうか、掃除して下さい」
ピンクちゃんは足を拭き終えると、部屋の端にいた園長先生に声をかけた。途中から呆れ声になっているけど園長先生は気にしている様子はなく、笑いながら答えた。
「傷だけだから、まだ使えるんじゃないかな。それと、私はサボっている訳じゃないよ」
「サボっているんですよね?」
「みんなが怪我しないように見守るという、大事な仕事をしているんだ」
「サボっているんですよね?」
「だから、サボっている訳じゃな……」
「サボっているんですよね」
「……はい」
園長先生は笑顔のまま青ざめると、駆け足で二階に上がっていき、みんなの布団を担ぎながら外に出て行った。布団を干しに行ったのかな。園長先生を動かしちゃうなんて、ピンクちゃんすごい……!
「じゃあ、続きやろうか。ソラちゃん」
「う、うん!」
ぼくはピンクちゃんを刺激しないように、慎重に椅子のゴミを取っていった。
机の脚のゴミも取り終わると、同時にハートちゃんが洗面所に向かっていった。床拭き、終わったみたいだね。
ハートちゃんが雑巾を洗いに行っている間に、ぼくとピンクちゃんはいつの間にか戻ってきていた園長先生と一緒に移動した家具を元の位置に戻した。
わあ……綺麗になった! やってよかったよ、うん!
「みんな、掃除お疲れ様!」
庭から男子チームが戻ってくると、園長先生は満面の笑顔でそう言った。それから、冷蔵庫から白い大きな箱を持ってきて机の上に置いた。
なんだろう? 何が入っているのかな?
ぼく達は机に近づき、箱の中を覗いた。
わあ! 美味しそう!
そこには、いろんな種類のケーキとかお菓子が入っていた。ショートケーキにチョコケーキ、チーズケーキ、モンブラン――。どれも美味しそう!
「これは、頑張ったみんなにご褒美だよ。さあ、好きなの選んで!」
「ボクショートケーキ取った! 早い者勝ち~」
「あ、ずるいぞ! おれがそれ食べたかったのに!」
「オレは抹茶ケーキだな」
「え、抹茶うまいのか? まあいいや。じゃあ、おれは……仕方ねぇ、タルトにしよ」
「アタシはマフィン!」
「俺はモンブラン」
次々と決めていくスター、ルーク、カイ君、ルミちゃん、ロイ君の五人。ぼくも早く決めないとなくなっちゃう! えっと、じゃあ……。
「ぼくはチョコケーキにしようっと」
「ピンクちゃん何がいい?」
「あたしは、ティラミスかな」
「じゃあ、わたしはチーズケーキ」
「全員決まったね。じゃあ、召し上がれ」
いただきまーす!
園長先生から受け取ったフォークでケーキの端を切り、口に運ぶ。チョコの甘さが口に広がってすごく美味しい! みんなも、幸せそうな顔でケーキを食べていた。こんな風に毎回ご褒美を用意しているなんて、先生優しい!
そんな先生はアイスケーキを食べていた。多分、箱の中に入ってなかったから、先生が自分用に買ってきたものだね。
綺麗になった部屋で、ぼく達は楽しい正午を過ごしたのだった。
おまけ
「あれー? ソラって箒やりたいんじゃないの?」
「え、そうだけど……?」
「それなら箒やればいいじゃん」
「でも、ハートちゃんもやりたいみたいだし」
「じゃあ二人で箒やって、床拭きは園長先生だね!」
「えっ!?」(園長先生)