表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の孤児園  作者: 宇佐美ときは
第一章 孤児園の日常
36/72

第三話 歓迎会

 ルミちゃん、ロイ君と別れてから一週間後。今日は園長先生が用事で朝から出かける日だった。ぼくは土曜日と言う事で八時頃までゆっくり寝ようと思ってたんだけど、一回から物音が聞こえて目を覚ましてしまった。時刻は七時前。こんな時間に誰だろ? 休みの日だから、まだみんな寝てるか、部屋にいると思うんだけど。

 ぼくは二度寝しようと思ったけど、何となく気になって洋服に着替えて階段を下りた。

 誰かが水でも飲みに来たのかな? そんな事を思いながら扉を開けたぼくは、リビングに――いや、キッチンにいた人物を見て固まった。

 長めの茶髪に緑色の瞳の女の人が、キッチンに立って料理をしていたんだ。女性にしては背が高めで、服の上からでもわかる胸のふくらみが印象的だった。

 しばらくぼーっとその女の人を見ていたぼくは、ハッと我に返った。え、あの人誰!? なんで孤児園にいて、キッチンで料理してるの!?

 先生の所に走っていきたかったけど、先生は昨日、朝の六時に家を出ると言ったから今は家にいない。みんなはまだ寝てると思うし……ぼくが声掛けるしかないか。ふ、不審者だったらどうしよぉ……。

 なんとなく気づかれるのが嫌で、ぼくはそっと扉を閉じてキッチンに向かった。女の人が持っているフライパンからの、卵やソーセージの良い匂いが鼻をつく。近くに来ると、ぼくは女の人を見上げた。わあ、美人……。こんな綺麗な人が不法侵入するとは思えないけど……。


「あ、あの……」


 恐る恐る声を掛けてみると、女の人はパッとこちらに顔を向けた。その緑色の瞳にぼくが映り込む。

 女の人はハッとしたようにコンロの火を止めると、もう一度ぼくに向き直った。そして、明るい声でぼくに問いかけてきた。


「君、この孤児園の子?」

「は、はい」

「そっか! 起きるの早いね!」

「あの、あなたは……?」

「あ、ごめんね! アタシはエミ。中学三年生! エミちゃんって呼んで良いよ! 今日からこの孤児園に住む事になりました! よろしく~」

「そうなんだ。ぼくは……」

「あ待って!」


 余って? あ、待ってって言ったのか。え、何を待つの? 名前言おうとしただけなんだけど。


「名前当てさせて! ここに住んでる子達の名前は覚えたから!」

「え、あ、うん」


 バッと手を前に出したままそう言うと、女の人……エミちゃんは今度は腕を組んでぼくの顔をじーっと見つめ始めた。なんか、テンション高い人だなぁ。っていうか、そんなに見られると緊張してきちゃうんだけど。


「ソラー、何してるの?」


 その声に振り返る。そこには、ぼくとエミちゃんを不思議そうに見つめているスターの姿があった。瞬間、エミちゃんがぱんっと手を叩いた。


「わかったよ。ソラちゃんだね!」

「スターが呼んだからわかったんでしょ……」


 呆れた声で言ってみると、エミちゃんは「あはは」と笑顔を向けてきた。ぼくも釣られて笑みを浮かべると、スターにエミちゃんを紹介した。


「スター。今日から孤児園に住む事になったエミちゃんだよ」

「スター君、よろしくね!」

「断る!」

「断られたぁ!? え、仲良くしてくれないの!? 何で!?」


 びっくりして慌てるエミちゃん。スターはそんなエミちゃんを見て面白そうに笑っていた。あ、あれは遊び相手を見つけたって顔だ。


「そういえば、エミちゃん今日ここに来たの?」

「そうだよ。それで、園長先生に朝ご飯作っておいてって頼まれてね」

「そうなんだ。びっくりしちゃったよ。起きたら知らない人がいたから、不法侵入されたのかと思っちゃった」

「違うよ~。ま、そう思っちゃうのも仕方ないよね。朝早くに来たから」

「え、エミちゃん不法侵入したの!?」

「違うって言ったばっかだよ!?」

「エミちゃん駄目だよ! 不法侵入は」

「だから違うって……!」


 何とか誤解? を解こうとしてるエミちゃんだけど……スター、面白がってボケてるだけだよ。まあ、スターが楽しそうだから止めないけど。

 それからぼく達は朝ご飯を作るのを手伝い、八時頃全員が揃ったところで朝食にした。そこで、エミちゃんの自己紹介を済ませる。


「それじゃあ、エミちゃんの歓迎会をしよう!」


 突然、スターがそんな事を言い出した。歓迎会? 今から用意するの?

 疑問に思っているとスターは二階に上がっていき、細く切られた紙みたいな物を持ってきた。何それ?

 スターはそれを前に突き出すと、満面の笑みを浮かべた。


「みんなで王様ゲームしようよ! 前からしてみたかったんだよね~」


 王様ゲームって、くじ引きみたいなので王様決めて、その王様の命令には絶対に従うっていう、あのゲーム? いつの間に用意したんだろ?


「いいから引いて引いて!」


 スター、楽しそうだね。ぼくは嫌な予感しかしないけど。

 仕方なく、紙を掴む。みんなも、紙を選んで指でつまんだ。


「じゃあ、行くよ! 王様だーれだ!」


 スターのかけ声と同時に紙を引き、目を向ける。えっと、ぼくは……五番? そっか、何番がこれをするって感じなんだね。


「王様誰!?」

「おれみたいだ」


 片手を上げるラギ君。ラギ君が王様か~。どんな罰ゲーム出してくるんだろ?

 ラギ君は少し考えるようなそぶりを見せた後、小さく首を傾げた。


「じゃあ、シンプルに。一番が六番をくすぐる、で」

「ピク一番だよ!」


 ピクちゃんがぴょんぴょんと跳びはねる。じゃあ、六番は……。


「カイ、だな」

「ルーク! 勝手に見るなよっ!」

「じゃあ、カー君、いくよー!」

「ちょ、待てっ……! うひゃあああ!」


 カイ君に飛びかかるピクちゃんと、変な声を出すカイ君。床を転げ回っている二人は、なんだか楽しそう。でも、くすぐられたくはないかな。

 一分ぐらいくすぐられたカイ君が、息を切らせて戻ってくると、二回目のくじを引いた。

 王様だーれだっと。ぼくは……また王様じゃない。七番だ。


「あ、王様来た!」


 エミちゃんが引いた紙を掲げ、右手を顎に当てた。


「じゃあね……七番が五番に、六番が一番に、二番が四番、王が三番にお菓子をあーんする!」


 そう言って、エミちゃんがキッチンからお菓子を持ってきた。


「アタシが作ったお菓子だよ! これをあーんしてね!」


 エミちゃんも、いつの間に作ったの……?

 まあいいや。えっと、ぼくは七番だから、五番にあーんするんだね。とりあえず、みんなの数字を確認しないと。

 みんなもそう思ったのか、数字が書いてある紙を見せ合い始めた。ぼくも机に身を乗り出してみんなの紙に視線を走らせる。ルークが四番で、カイ君が二番。スターは、三番。ラギ君が一番か。後はピクちゃんとピンクちゃん。えっと、ピンクちゃんが六番。ってことはピクちゃんが五番だから、ぼくはピクちゃんにあーんするんだね。それで、ピンクちゃんがラギ君に、カイ君がルークに、エミちゃんがスターにあーんするのか。男同士であーんするルークとカイ君とか、ピンクちゃんにあーんされるラギ君は恥ずかしそうだけど……ピクちゃんにとってはお菓子食べられてラッキーだよね。

 数字を確認し終わると、エミちゃんからお菓子を受け取った。その、ひし形をしたクッキーをピクちゃんの口に向ける。


「はい、ピクちゃん」

「やったぁ、お菓子ー! あーん! ……ん!?」


 口をもぐもぐ動かした後、ピクちゃんは急に眉を寄せ、ごほごほを咳き込んだ。


「どうしたの、大丈夫!?」

「このお菓子、辛いよー!」


 辛い?

 他のメンバーに視線を移動させると、お菓子を食べたルーク、ラギ君、スターも青ざめたり水を飲んだりと、不味そうな顔をしていた。なるほど、ただお菓子を食べさせるだけの罰ゲームじゃなかったんだ。


「これはね、色んな材料を混ぜて作った、罰ゲーム用のお菓子だよ!」

「エミちゃん……料理下手だったんだね……」

「わざと作ったんだよ!? 普段はこんな不味い物作らないからね!?」

「大丈夫、わかってるから……」

「何が!?」


 またエミちゃん、スターに遊ばれてる。

 エミちゃんをスルーし、次行こうとぼく達はまたくじを引いた。今度こそ、王様になれるかなっと……四番。また王様じゃないや。


「ボク王様~!」


 スターが手を挙げる。うわあ、スターか。変な罰ゲーム出してこなければいいな。

 スターはたっぷり時間を掛けて考えると、パッと顔を上げた。


「じゃあ、三番が園長先生の部屋を荒らす! 三番誰~?」


 楽しそうな声音で周りを見渡した。そして、心を読んだのかピンクちゃんに歩み寄った。


「三番はピンクちゃんだね。じゃあ……」


 そこまで言ったところで、ピンクちゃんがスターを見てにっこりを微笑んだ。無言で微笑しているだけなのに、なんだか背中に悪寒が走った。スターも何か感じ取ったのか、ピンクちゃんの前でくるりと身体の向きを変えた。


「あー、うん。ピンクちゃんはやめて、カイ君にしよう!」

「は!? 何でおれなんだ!? ずるくねえか!?」

「王様の命令は絶対だよ!」

「うぇー……」


 項垂れ、仕方なく立ち上がったカイ君は、スターに急かされて階段に足をかけた。そこで、こちらを振り返る。


「でも、鍵掛かってんじゃねーのか?」

「よし、この針金で」


 どこから取り出したのその針金!?

 針金を持ったまま、スターはカイ君の肩を押して二階に向かってしまった。心配だな。ぼくも着いて行こう。

 先生の部屋の前に行くと、スターは鍵が掛かっているのを確認し、針金を鍵穴に突っ込んだ。これ、先生の部屋だから良いけど、人の家でやったら犯罪だからね……?

 カチッ。

 そんな音が聞こえ、顔を上げると、スターがふぅと息をついていた。え、そんな簡単に開いて良いの? 先生、部屋には絶対誰も入れないのに……。

 スターはそんなこと気にしてないらしく、針金をポケットにしまってカイ君に首を巡らせた。


「開いたよ。じゃ、カイ君。後はよろしく~」

「本当に開いちまった……」

「早く早く~」

「わかったよ!」


 緊張した面持ちで、カイ君は先生の部屋に入っていった。

 ぼくがそわそわ、スターがわくわくしながら部屋の前で待っていると、五分ぐらいして扉がゆっくりと開いた。カイ君が出てきたと同時に、スターが口を開く。


「どうだった? めちゃくちゃにしてきた?」

「先生の部屋って、どんな感じだったの?」


 スターに続いてぼくも声を掛けたけど、カイ君はぼーっと宙を見つめたまま何も答えない。なんか、様子おかしくない?

 ぼくはカイ君の顔を覗き込み、肩を揺らしてみた。


「カイ君、大丈夫?」

「あ……ソラ? スター?」

「カイ君、どうしたの? なんか変な物でも見た?」

「変な物……あれ、おれ、何してたんだっけ……?」


 思わず、スターと顔を見合わす。カイ君、先生の部屋に入った時の記憶失ってるみたいだけど……どうする?


「あー、先生の部屋を散らかすの無理みたいだね。やめよっか」

「う、うん」


 先生の部屋には何があるのか、カイ君に何が起きたのか気になるけど……部屋に入る勇気はない。スターがすぐ諦めるくらいだもん。なんか、怖い。先生がぼく達に危害を与えるとは思えないけどね。

 一階に戻ると、突如スターがパンと手を打った。目がキラキラしてる。うわあ、何か思いついちゃったみたい。


「ねえ、みんなで園長先生で遊ばない?」

「えんちょーせんせーで遊ぶ?」

「うん! 眼鏡を無理矢理取るとか、みんなで家出するとか!」


 それって、嫌がらせ何じゃ……。

 ぼくが微妙な顔でスターを見つめると、スターは本当に楽しそうに言った。


「だって、先生の困った顔見てみたいじゃん! ってことで、ピンクちゃん先生に抱きついてみてよ! 先生の困った顔見れるかもしれないよ!」

「それは見てみたいかも」


 わあ、ピンクちゃんを動かしちゃったよ。

 ぼく達はスターのテンションに流され、抱きつくほかに家出をする事になった。でも、家出作戦にはピンクちゃん、ルーク、ラギ君は参加したくないらしく、ぼく、カイ君、ピクちゃん、エミちゃんが家出する事になった。スターは先生の観察をするから家出しないらしい。


「じゃ、行ってくるね!」


 エミちゃんがスターに声を掛け、外に出た。ぼくたち三人もそれに続き、少し歩こうと木のトンネルまで行った。そこでこれからどこに行こうか話し合う。結果、とりあえず学校まで行くという事になった。だけど……なんと、途中で帰ってくる先生と遭遇してしまった。


「ソラちゃん。四人でどこかに行くのかい?」

「えーっと……」


 返答に困っていると、先生が持っていたビニール袋を持ち上げた。


「メロン買ってきたんだけど、みんなで食べないかい?」

「食べるー!」

「おれも食べたい!」


 ピクちゃんとカイ君が飛び跳ねる。エミちゃんまでもが、目を輝かせていた。このままじゃ、家出作戦失敗しちゃうよ……?

 そんな事考えていると、先生と目があった。先生が、ぼくを見たまま首を傾げる。どうする? って聞かれているように感じて、ぼくは思わず「帰ります!」と答えてしまった。ほら、ぼくもメロン食べたいし、一人では家出したくないし、ね?


「ただいまー!」


 ピクちゃんが元気よく孤児園にはいると、案の定突っ込みの声が飛んできた。


「何で戻ってきてんの!?」

「せんせーがメロン買ってきたんだよー!」

「みんなでメロン食おうぜ!」

「メロンなんて、なかなか食べられないよ!」

「あはは……」


 みんな、メロン釣られて帰ってきましたー……。先生遊びはまた今度やろうね。

 王様ゲームと先生遊びを終了し、お昼ご飯を食べた後、デザートにメロンを食べた。みんな、美味しそうに口をもぐもぐ動かしてる。

 みんなより先に食べ終わったぼくは、お皿を持ってキッチンに向かった。その途中で、思わず固まる。だって、ピンクちゃんが、先生を後ろから抱きしめてるんだもん。ちょうど抱きしめたところだったらしく、先生がびくりと肩を揺らした。


「ピンクちゃん、どうしたんだい?」

「…………あ、いえ」


 感動したように先生を見上げていたピンクちゃんは、声を掛けられて我に返ると、急いで先生から離れて二階に上がっていった。珍しく、不思議そうなぽかんとした表情をしている先生。わあ、良いもの見られたかも。でも――


 ――ピンクちゃん、先生に抱き付くこと忘れてなかったんだねぇ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ